8月13日-(4)-
どっちが当たりかなんて、私には分からない。
(大事だってことは分かるけど・・・)
朝、食堂で料理が出てくるのを待ってたら、私の後ろを栞那ちゃんが通り過ぎていった。
「おはよう」
「あ、おはよう、栞那ちゃん」
私の後ろに並んだ栞那ちゃんとあいさつをする。
「栞那ちゃん、話があるの」
「・・・」
「一緒に食べてもいい?」
「・・・」
ほんの少し顔が縦に動いたから、いいよ、なんだろう。
「あっち座って待ってるね」
食堂に来たのに、ヒデくんと健ちゃん、長谷田くんと中岡くんは、ご飯も食べずにさっきからずっと話をしてる。
ヒデくん達の話のジャマになるとは思わないけど、食堂で私が一人になるわけでもないので、4人から少し離れた席に座った。
「・・・・・」
そうするとすぐ、栞那ちゃんが声も音もなく私の隣の席に。
「どうぞ」
「あ、うん・・・っと、あのね、んー・・・」
いきなり本題を話しづらいので、ご飯のメニューのこととか話しながら少しずつのつもりだったのに、栞那ちゃんらしいといえばそうだけど、こうやって切り込まれちゃったら、よけいうまくしゃべれなくなってしまう。
「っとぉ、さっき、来る前ね、栞那ちゃんが・・・」
「・・・まあ、分からないけど、どっちがいいかね」
つっかえつっかえしながら、やっと話し終わっても
「・・・・・」
栞那ちゃんの表情は変わらない。
それに栞那ちゃんは、話を聞いてる間、ほとんど私を見ることもなく黙ったまま食べてたので、食べてる間だからかと思ってたけど、食べ終わってからも全然左手を口に当てない。
あれは絶対栞那ちゃんの癖だと思ってるし、考え事するときの癖が出ないんだから、考え事しなかったし、考え事の必要もなかったってことかな。
(私の話が終わるより前に、答えが出てた?)
「麻薬の話を覚えている?」
「え?」
「希望が人を救い、人を滅ぼす」
「ああ、うん」
一瞬栞那ちゃんから目をそらした。
(そういえば、そんなこと言われたような・・・)
「希望が逆」
「え?」
視線を戻したとき、もう栞那ちゃんは空いた食器を持って行ってしまってた。
「逆・・・」
栞那ちゃんの言葉は、いつだって短くて、いろんなものがくっついてないから、きっと全部、本当に大事なことだけでできてる。
「希望が・・・」
私が尋ねたから、栞那ちゃんは答えをくれた。
栞那ちゃんの話がスッと頭に入ってくることは少ないのに、さっきのは分かりやすくて、栞那ちゃんは希望という言葉を使ってたけど、願いとか望みと同じ意味でいいかな、って思う。
私が今、何を願い、望むか、栞那ちゃんには分かってるはずだ。
だったら私は、よけいなこと考えないで素直に、自分が望まない方を選べばいい。