8月12日-(8)-
夏だから午後6時でも日は高いし、暑い。
夜集会まで時間はまだまだあるが、大翔と二人で集会室に入った。
「今までと別な所に運んだけど、あっちに運んだ方が行きも帰りも楽だったな」
「鈴木のことか?」
「ああ」
「そうだな」
榮川が作った法のせいで建物の東側の海には行けなくなったしまったから、赤い線をたどるみたいにして進んだら、南側の海に出た。
最初の日に調べてて、そっちも海なんだと知ってはいたが、東側だとすぐ海に出れるから人間を運ぶのには楽だと思って、そっちにばかり行ってた。
ところが、今日から仕方なく南の方角に運んだところ、距離が倍はあったが、途中デコボコがほとんどないし、海までずっと平らだ。
東側は近い代わり、途中デコボコが多くて、海の手前は下りだからリヤカーごと海に落ちないよう注意が必要だった。
「榮川にどんな狙いがあるのか分からねぇけど、あっちの方が良かったって知れたのは拾いものだな」
「・・・・・」
まさか裁かれた後始末を楽にするためのはずなんてないから、大翔の言うとおり、榮川が何を考えてあんな線を引いたのかは分からない。
裁かれた人を落とす以外に崖に近付くような用はないから、むしろ南に行った方が都合いいなら、あの線があるからって別に不便はなさそうだ。
「英基達もそろそろかな」
「そうだな」
食堂で声を掛けておいたから、もう少しすれば英基や健蔵も来るだろう。
(・・・・・)
英基と健蔵は安齊も連れてくるだろう。
同じ部屋の中でならともかく、安齊を傍から離して見えない所にいさせられないっていうのは、こんな状況になったから当然だと分かる。
安齊は他人を疑わないし、他人を悪く言うこともない。
こんな生活が続いてるっていうのに、いつまでたってもいい人間だし、人がいいんだと強く感じる。
だからこそ健蔵も英基も安齊を動揺させないため、残酷な話とか胸くそ悪い話、誰かをひどく批判するような話から遠ざけてるようだし、できることなら俺もそうしてやるのには賛成だ。
でも、もうそんな場合なんかじゃないんだし、俺は、いろいろと英基なんかと話しておきたいことがあるから、それがもれなく近くにいる安齊に聞こえてしまい、安齊を不安がらせるかもしれなくったって、仕方がない。
英基が柚島の救い方を間違えたっていうことについては、言い争ってしまった次の日に英基自身から話を聞いてる。
俺もついキレてしまったが、柚島の死に直接絡むからって安齊の前で問い詰めるのをためらったりしないで、キレることもなくちゃんと英基に話をさせておけば、あんな口論しなくても良かった。
まあ、全然手遅れにならなかったし、結果オーライなわけだけど・・・