8月1日-(11)-
「それにしても・・・」
ヒデくんが腕組みをする。
「なに?まだ何かあるの?」
あまりにも重たい恐さに潰れちゃいそうだ。
でも訊かずにいれない・・・
「誰が告発したんだろうと思ってな」
「え?」
私には全然、またヒデくんの言いたいことが解らない。
「ゴメン、解らないよ・・・」
「ああ、俺こそ、言葉が足んなかったな」
ヒデくんは腕組みを解いた。
「佐藤とか根津が、7時に集会室にいなければならないって法を守らなかったのは確かだけど、それを誰かが告発しなければ違反にはならないはずなんだ」
「え・・・」
「今端末で確かめてみてもそうなってる」
「うん・・・」
「佐藤と根津を探しに行くとき、俺達はグループで行動しただろ?」
「うん・・・」
「告発のとき端末に向かって話さなきゃいけないみたいなんだ」
「うん・・・」
「グループの誰にも聞かれないようにして告発するのは、多分無理だ」
「うん・・・」
「佐藤や根津を監禁した奴と告発した奴は同じかもしれないし、そうだったら、一人じゃなくてグループだってことだよ」
「うん・・・」
「どうしてだ、英基?」
気が抜けたみたいな返事しかできない私に代わって、健ちゃんが訊いてくれた。
「いいか、健蔵。誰にも聞こえないようにできないってことは、聞かれてもいいように告発したってことだ」
「だから?」
「だから、佐藤や根津を告発した奴等は、告発することで意見が一致したってことだ」
「そうなのか?」
「・・・」
健ちゃんは不思議そうにしていたけど、私にはやっとヒデくんの言いたいことが理解できた。
「もう足のすくい合いが始まったんだよ、健蔵」
「あ、ああ」
「こんなことはこれからいくらでも起きるぞ。俺達も絶対やられないようにしないと」
「・・・」
それまで何とか立っていれた私だったけど、ヒデくんの言葉が終わるとしゃがみ込んだ。
「美結、大丈夫か?」
「うん・・・大丈夫」
視線は床に向いたまま健ちゃんに答える。
ヒデくんの言うとおり、一人一人がお互いに誰かを、グループの違う人達を、それぞれ敵だと思い始めたら、どうなっちゃうだろう。
頭の中がぽっかり空洞か真っ白になり、涙も声も出ない。
(こんなの夢なんじゃないの?)
ホント一つだけ私にも分かった。
夢は夢でも、これは覚めない夢。
覚めないけど、終わりのある夢。
夢を終わらせられるのは、1人・・・
夢と一緒に終わるのが、29人・・・
裁きに因る死亡者
佐藤英昭
根津優香
裁きに因らない死亡者
なし
国家の人口
28人