8月12日-(6)-
「鈴木ってどこにいるんだ?」
「いや、それはこれから探すんだ」
「そうか」
「・・・・・」
わたしは昨日の夜見せられてるから、鈴木さんがどこにいるか知ってる。
でも、端から見てわたしに分かるはずないことを言うわけにはいかない。
だから、鹿生くんと長谷田くんの会話を暗い気持ちで黙って聞くだけだ。
「一番奥からしらみつぶしに見るしかないな」
中岡くんが言うと
「一番奥っていうと、俺達が最初いた部屋ってことか?」
長谷田くんが訊く。
(ホントに?)
中岡くんは、鈴木さんがいるはずの、まさにその部屋から探そうとしてるようなので、ちょっとびっくりする。
「ああ」
「どん詰まりから始めないと行ったり戻ったりだからな」
(そっか)
長谷田くんの言うとおり、何かを探すための手順からすれば、端から始めるのは当たり前だ。
そして同時に、ほんの少しだけホッとしてしまう。
愛麗沙は、わたしをあの部屋に戻らせないようにするため、わざわざあそこで鈴木さんを裁いたんだって察しがついてた。
でも、たまたまあの部屋が行き止まりだったおかげで、鈴木さんは早く見付けてもらえることになりそうだ。
自分が知ってることを言わないでいるわたしにとって、他の人達が無駄なことをしてるのを見続けるのは耐えれないことだったけど、そんな思いもしないで済みそうだ。
「前田さん」
「・・・」
「前田さん」
「え?」
安齊さんに軽く腕をつつかれてハッとする。
「これ、使って」
「?」
安齊さんがビニール袋みたいな物とヘアゴムを渡してきた。
「これは?」
「ポリ袋だよ」
「うん」
「いろいろ使い道あるし、私200枚入りの箱を持ってきてたんだ」
「うん」
「1枚ずつ両手にかぶせて使ってよ」
「・・・」
何のためにポリ袋をくれたのか見当も付かないので
「っと、これで、どう・・・するの?」
訊くと
「っ!」
安齊さんは、急に短く息を吸い込んだような音を立てて、私から目をそらした。
その時、後ろを歩きながら私達を見てたんだろう仁藤くんが
「前田は見送りはしてたようだが,袋に入れるのは初めてみたいだから言っておくけど」
と声を掛けてきた。
「鈴木を見付けて、袋に入れるときに、血とか体の中のものが直に手に付かないよう手袋の代わりに使うんだ」
「ぁ・・・」
仁藤くんの説明は分かり易くて、私にもすぐポリ袋の使い方が理解できた。
そして、安齊さんは今日まで何回もそういうことをしてきたせいで、わたしにも当たり前みたいな感じで渡してしまったから、安齊さん自身がショックを受けたことにも気付いた。
「安齊さん、このポリ袋、ありがたく使わせてもらうね」
慌てて両手で安齊さんの左手を握る。
「うん」
軽く浮かんだ安齊さんの笑顔。
スゴくホッとした。