8月12日-(5)-
9時半を過ぎたので、鈴木を運び出すことにした。
昨日は村井、田月、藍川が曽根嶋のことを運んでくれたので、朝集会が終わってから今日は俺と雄生が鈴木を運ぶ役を買って出ることにしたら、英基が健蔵を誘って一緒に来てくれることになった。
そうしたら、前田が自分も行くと言ってきた。
「袋に入れて外まで連れて行くだけだから、前田にしてもらうことはないぞ」
「・・・・・」
前田は左右に首を振ってから
「・・・わたし、ずっと鈴木さんと同じ部屋だったし」
と言うので
「だからって」
付き合うことなんてない、と続けるつもりだっただろう雄生の言葉を遮るように
「まな恵ちゃんのときも、みな恵ちゃんと一緒に海まで見送ったの」
前田は両手を合わせた。
「そうなのか?」
雄生に訊かれ、無言で頷く前田。
「そうだな、確かに前田も鈴木の妹も一緒に来てた」
姉の鈴木を運んだ4人は、英基と健蔵、綿谷と野村だ。
その英基が前田と一緒だったと言うんだから、そうに違いない。
まだ見てないし、どんな姿か判らないが、今までだといろいろ飛び散ってて、腕や脚が千切れてることの方が多かったから、できる限り身体を拾い集めたりしなくちゃならないだろうし、一晩経つと、そこら中ひどい臭いが漂ってもいる。
だから、鈴木もそんな感じなんだろうとは予想してる。
それに、内海や星みたく体格のいい男を運ぶのは6人がかりでやっとだったし、女子だからって、人一人を運ぶのは本当に骨が折れる。
そんな作業は女子に無理だと思って今まで男だけでやってきたが、人手は多い方がいいだろう。
「分かった」
俺が前田に言うと
「おい、大翔」
すぐ雄生が口を出す。
「前田の言ってること、俺には否定できねぇよ」
「でも」
「あ、あのあの」
「?」
声の方を見ると、あっちで猪戸や舟山と話していたはずの安齊が、いつの間にか英基の横に来ていた。
「・・・あの、前田さんが鈴木さんを見送りに行くんなら・・・私も行っていい?」
「は?美結まで何言ってるんだ?」
安齊の申し出を跳ね返すみたいに英基が言う。
「だって、私、キレイにするのはしてたけど,見送りは美愛と千賀さんのときしかしなかったから、今後悔してるの」
安齊も英基の言葉を跳ね返す。
(そうか、安齊は柚島とかのときに・・・)
柚島が裁かれた日、俺や雄生は中庭の男3人を袋に入れて運んだけど、柚島と千賀は誰が運んだのか、いちいち確かめたりしなかった。
だから、柚島とか千賀を運んだのは健蔵や英基で、そのとき安齊が手伝ってたっておかしくない。
「・・・分かったよ」
溜め息をつきながら雄生が言うので
「じゃ、前田と安齊、よろしくな」
その後を俺が引き取る。
「うん」
「うん」