8月11日-(8)-
「え?」
栞那ちゃんが私に頼みごとなんて、何だろう・・・
「言ってみてよ」
「うん」
栞那ちゃんは、うなじの辺りで自分の金髪を両手に掴むと
「髪型を作って欲しい」
と言う。
「・・・っと、髪をセットしたいの?」
私が聞き返すと、栞那ちゃんは小さくうなずいて髪から手を放し
「私は髪を梳かしたりはするけれど、そのまま何もしないかゴムで束ねるかくらいしかできない」
そう言いながら私の頭を見て
「ここでもいろいろ工夫しているようだし、ここに来る前美結さんは、いつももっと凝った髪形をしていた。自分で作っていたのだろう?」
何度か向けられた刺さるような青い視線をまた向けるものだから、軽くうなずくくらいしかできなかった。
「私の髪型を美結さんに作って欲しい」
「うん、いいよ」
話の進め方が唐突で、栞那ちゃんが必要だと思っているだろうことだけ言葉にするのは、いつものことだ。
それに、どっちかっていえば私は他の人の髪をいじるのが好きな方だから、栞那ちゃんの金髪をセットできるんなら、栞那ちゃんの頼みを断る理由なんて全然ない。
「どういう髪型がいいの?」
「・・・」
首をかしげたりはしなかったけど、口に拳を当ててるから、考え込んでしまったみたいな栞那ちゃん。
「・・・」
「私にできるかどうか分かんないけど、言ってみてよ」
「・・・」
栞奈ちゃんは、唇に当てたままで拳をゆっくりと回し始めた。
(これは初めて・・・)
唇に拳を当てるのは栞那ちゃんが考えるときの癖なんだろうと分かってきてるから、ただ当てるだけじゃないっていうのは、いつもより深く考え込んでしまってるから出てる仕草なのかもしれないと思った。
なかなか思い浮かばない様子の栞那ちゃん。
(どう言えば、いいのかな・・・)
やってみると栞那ちゃんの気持ちになれるのかもしれないと思って、栞那ちゃんみたいに自分の拳を口に当てる。
(栞那ちゃんの髪型か・・・)
ここに来る前、栞那ちゃんがどんな髪型をしてたかとか、ここでもどんな髪型なのかとか、実は思い出せない。
でも、自分で言ってるとおり、栞那ちゃんがいつもは髪型にバリエーションをつけてないのなら、髪型のことをよく知らないのかな?
それとも単に、私にどう言えばいいか迷ってるだけ?
「あ!」
そのとき、瞬間的にハッとなった。
これだって私の単なる思い込みなのかもしれないけど、栞那ちゃんって、キレイとか可愛いとかって、そんな感覚的なこととか、見た目のカッコ良さなんてこととかは、気にしないし大事に思わない人なんでは?
だから、髪型にもそんなに興味がなくて、どんなふうにして欲しいのかも言えないでいるんでは?
そうなると、私の聞き方が悪かったのかもしれない。