8月11日-(3)-
「雄生、ちょっといいか?」
朝の集会が終わってから、何か悩んでるというか考えてるようだった大翔が、意を決したように声を掛けてきた。
「なんだ?」
「さっき食堂にいるときに思ったんだ」
「何を?」
「食堂にいる間は、前田と安齊が鈴木を挟むみたいにして座ってたんだが、」
「そうだったか?」
どうだったか俺は覚えてない。
「おととい、妹の鈴木だけになっただろ?」
「そう・・・だろうな」
「もしかして、あの部屋って、今は前田と鈴木の二人きりなんじゃないか?」
「安齊と一緒に世話してたっていうなら、安齊と同じ部屋に移ったんだろ」
「いや、集会の前に俺が健蔵に訊いてみたら、安齊は健蔵と英基の3人で部屋を使ってるみたいだぞ」
「まさか・・・」
サーッと頭の中に闇が差していくような気がして、集会室の中を見回した。
「・・・・・」
ここにはもう俺と大翔しかいない。
「雄生も分かってるだろうが、ちょっと鈴木はまともな感じじゃなくなってるから、放っておけないと思った前田が連れて歩いてるらしい」
「それも健蔵から聞いたのか?」
「健蔵じゃなくて安齊だけどな」
「そうか」
鈴木は確かに目に見えておかしくなってしまってて、俺もそれは判っていたが、もう一人の鈴木みたいにさせないことまで頭が回っていなかった。
「このままずっと前田にだけ鈴木を任せておいたら、前田までどうにかなってしまうだろ?」
「・・・・・」
「その辺は安齊も分かってくれてて、どうせ健蔵と英基と3人部屋なんだし、鈴木を連れて自分達のところに来るよう誘ったっていうんだ」
「なんだ、じゃあ今日とかからは大丈夫だろ」
(そっか、安齊達が・・・)
スゴくホッとした気持ちで大翔に返したが
「それがそうでもなくてな」
大翔は首を振った。
「なんで?」
「安齊が食堂に行く前に前田達を誘ったら、そのときは前田も安齊達の部屋に行くって言ってたらしいんだが」
「ああ」
「一旦、前田達と別行動してから集会室に来たら、前田の方から安齊達の部屋に行くのを断ってきたんだとさ」
「そうなのか?」
当然俺の語気は強くなった。
「だから、雄生に言っとこうと思ったんだよ」
「・・・」
「食堂から集会室に来る間に何が、っていうか誰が前田の考えを変えさせたのか、雄生だって思い当たるだろ?」
「・・・」
「雄生、俺達があの部屋に戻るのが一番いいと思わないか?」
「・・・」
大翔の言うことはもっともだ。
あいつを見ていられないから大翔を誘って部屋を出たが、いよいよ本当にあいつが危なくなってきたのに、俺の感じ方とかを押し通したって意味がない。
でも、俺は前田と鈴木に何も言わないで出て行ったんだから、何て言えばまた戻れるんだ?