8月11日-(2)-
廊下を曲がるまで誰とも会わなかったけど、そのまま少し歩いてたら、話し声が聞こえてきた。
(ここは確か・・・)
安齊さん達の部屋だ。
ちょっと覗いてみる。
(あ・・・)
安齊さんも、鹿生くんも仁藤くんもいる。
少し迷ったけど、声を掛けることにした。
「おはよう」
「?」
わたしには横顔を見せていた安齊さんがこっちを見てくれた。
「前田さん、おはよう」
いつもどおりの感じであいさつを返してくれてホッとする。
「中入んなよ」
「え?」
安齊さんじゃなく、仁藤くんと鹿生くんを見てしまったら、仁藤くんがわたしを見ながら手招きみたいな仕草をした。
「うん、じゃあ・・・」
鈴木さんの肩を抱いたまま、安齊さん達の部屋に入る。
「鈴木さんと二人なの?」
「うん・・・少し早いけど食堂に行こうかと思って」
先に鈴木さんを床に座らせて、わたしも座る。
「そうなんだ」
「うん」
「ちょっといい?」
「え?」
わたしの横に回り込んだ安齊さんが、とても小さな声で
「・・・鈴木さん、気持ち切れちゃったんでしょ?」
ささやいてきたから
「・・・・・」
無言で頷く。
「双子でいれたときは、なんにも問題なかったけどね・・・」
「うん」
(分かってたんだ・・・)
やっぱり安齊さんだけある。
わたしが柄にもなく昨日から鈴木さんを連れ回してるのは、みんな自分のことで精一杯になってしまい誰にも頼み事できる雰囲気じゃないのに、鈴木さんを見捨てないふりをして、いい子ぶってるからだ。
昨日曽根嶋さんは自分から言い出して手を貸してくれたけど、この流れだと黙ってるだけで、今日は安齊さんが助けてくれる気がする。
(・・・・・)
自分でもずるいと思う。
でも、わたしも自分のことしなくちゃいけないんだから、鈴木さんを助ける代わり、わたしも助けてもらいたい。
「健ちゃん、ヒデくん、私達も朝ご飯に行こうよ」
わたしの横から離れて立ち上がった安齊さんが二人に言うと
「ああ、まあ、いいか」
「そうだな」
すぐに二人とも立ってくれた。
「前田さん、鈴木さんを連れて、一緒に行こう」
「う、うん」
何も聞こえてないのかと思うくらい身体も感情も動かない鈴木さんの手を引き、立ってもらうと
「行くよー」
背中に腕を回して肩を抱きながら、歩き始める。
「前田の思いどおり歩くようだから、暴れたり言うこときかないよりはマシだろ?」
「うん、まあ・・・」
「それより、私と前田さんが両手を握って歩けばいいんじゃないかな」
「ああ、うん、そうかも」
「じゃ、そうしよう」
安齊さんが鈴木さんの右手を握ってくれたので、わたしは肩に回していた手で鈴木さんの左手を握った。
「ありがとう、安齊さん」
「いいよ、いいよ」
「ありがとう」