8月11日-(1)-
何をしても何もしなくても
前に進み続けるだけの時間
(・・・・・)
すっかり明るくなったので、端末を取り出して眺める。
だけど、端末に何が表示されてるかなんて、とっくに知ってた。
だって、昨日の夜から知ってることでしかないから。
@8月10日
~裁きに因る死亡者 曽根嶋茉莉亜~
~裁きに因らない死亡者 なし~
~国家の人口 19人~
「曽根嶋さん・・・」
別に隣の鈴木さんに聞こえたっていいのに、でも、唇から外に出さないよう、口の中でだけつぶやく。
罪悪感という言葉なんかじゃ生易しいだろう。
(・・・・・)
液晶に表示されてる無機質な情報という意味で、新聞、テレビ、ネットで見るニュースと目に映る感じでは変わりない。
ただ、昨日自分のごく身近でクラスメイトに起きたことなんだから、新聞とかに載った記事と違って、わたしとも関係があるってより、いや、わたしは当事者だ。
隣の鈴木さんなんかは、おとといのことがあったせいで、もう普通じゃなくなってる。
この部屋には最初7人いた。
内海くんと星くんが裁かれた後、何でか分からないけど長谷田くんと中岡くんは出て行ってしまったから、わたしと鈴木さん姉妹の3人になった。
お姉さんの鈴木さんも裁かれて、おとといからは妹の鈴木さんと2人きりの部屋だ。
鈴木さんは、昨日だって、魂が抜けてしまったみたいにボーッとしたまま朝から一言もしゃべらないし、いつまでも部屋の隅で壁を見つめたままだから、わたしが手を引いて食堂や集会室を連れ回すしかなかった。
でも、わたしも一日中鈴木さんの手を握っているわけにもいかないのを見かねた曽根嶋さんが手を貸してくれたので、わたしもご飯を食べたり、トイレやシャワーを使えた。
曽根嶋さんは頭が良くてしっかりしてた。
わたしなんかとは全然違って、こんなヒドイ毎日の中でも気丈に落ち着いて振る舞ってた。
それどころか昨日みたく、わたしのお願いまで聞き入れたり、他の人を気遣うことまで、できてる人だった。
そういう人にでも、いや、そういう人を選ぶみたいにして、ここの生活が牙をむいてくるんだから、結局、ここじゃない、ここの外の世界で、いい人なんて呼ばれる人は、ここに向いてない人ってことだ。
「!」
ふと見たら、鈴木さんの目が開いている。
「あ、起きてたんだね」
「・・・・・」
うつろな目、半開きの唇。
「少し早いかもしれないけど、朝ご飯、行こうか?」
「・・・・・」
「うん、そうしようよ」
「・・・・・」
何の反応もない鈴木さんを相手に、まるで人形と一人芝居でもしてるみたく、わたしがだけがしゃべってる。
「じゃ、立って」
鈴木さんの手を引いて立たせて
「行くよー」
背中に腕を回して肩を抱きながら、部屋を出る。