第91話 クランメンバー達との再会
アメリアによる人形襲撃の衝撃がようやくおさまったころ、メアリとミリアンがクランに戻ってきた。
ミリアンが駆け寄ってこようとしたが、途中で止まってしまった。
ああ、そういえばアメリアの人形持ってたんだ。
やっと少し見た程度では驚かなくなったよ。
人形を収納すると、今度こそミリアンが近くにきた。
「チェスリーさん、お帰りなさい。お怪我などされていませんか」
「ああ、平気だ。ミリアンも元気そうで何よりだ」
「ふふっ、重力魔法も好調ですし、ダンジョン捜索であちこちにいいくのは楽しいです。日替わりでいろんな旅行をしている気分ですね」
「やってることはあまり楽しいことではないかもしれないが……」
「いえいえ。いいところも見つけましたから、落ち着いたらみんなで行きましょう」
「ほお、それは楽しみだな」
いろんな場所を見て知ることは楽しいことのはずなんだがな。
俺が見たのは戦争の跡が生々しくうんざりするような場所ばかりだったからな。
「師匠、お帰りなさいませ。お顔の色が優れないようですが、帝国で嫌なことでもございましたか?」
「あ、いや。これは帝国のことじゃなくて――」
ミリアンがそっと近づいてきて小声で話しかけてきた。
「アメリアさんのお人形を見たのですね?」
「そうなんだよ……やっと落ち着いてきたところでね」
「私はまだ慣れなくて困ってます」
「あ、えっと……ミリアンに収納してもらおうと思ってたんだけど」
「す、すみません。ご容赦ください」
「わ、わかった。俺の方にしまっておくよ」
アメリアに悪い気はするが、あの人形は受け入れられていないようだ。
「チェスリーさあああん、お帰りなさ~~い」
――ぼふっ
アリステラが俺に飛び込んできた。
この出迎えられ方は久しぶりだな。
「アリステラただいま。特に変わりないかい」
「はい!えっと、一部を除いて平和でした」
一部が何のことかは身をもって体験した。
「そっか。まあ詳しいことはクラン会議で話そう」
「そうですね」
ヴェロニアとマーガレットもこちらに来たようだ。
クラン会議を始めよう。
出席者は俺、ヴェロニア、ミリアン、マーガレット、アリステラ、メアリ、スーザン、アメリアの8人だ。
と思っていたら、しばらく様子がわからなかったレフレオンとマックリンも屋敷の中で待機していた。
マックリン……雰囲気が変わったような気がする。
いったいどんな修行をしてきたのだろうか。
「第15回クラン会議を始めるわ。議題は盛り沢山だからちゃっちゃとやるわよ」
「そんなに議題あったかな」
「あるわよ~。最初はスーザンとアメリアにクランの秘密を教えるわ。マックリンも初耳のことがあるかもしれないから聞いておいてね」
ヴェロニアがクランの本当の目的と現在の活動などを説明した。
クランの目的は俺のスキル修得であり、目標はダンジョンと魔物の殲滅であることだ。
秘密は俺がレアスキルの修得及び教育ができること。
現在の活動はダンジョン捜索及びダンジョン核の回収だ。
話を聞いたスーザンとアメリアは呆気にとられたような顔をしていた。
俺たちにとっては徐々に積み上げてきたことだけど、現状を一気に話すとこうなるよなあ。
「いきなりで驚いたでしょう。もしクランを抜けたいと思うなら、秘密さえ守ってくれるならかまわないわ」
うわ、ここでそれを聞くのか。
辞めたいと思っても、ここで言うのはかなり勇気いるんじゃないの。
「え?いえ、クランを辞めたいつもりなんて全くないですわ」
「はい。私もです」
あれえ、呆気に取られていたのに、クランを辞める気は全くないのか。
「あ、1つだけ質問です。私たちも魔物と戦ったりするのでしょうか?」
「希望があれば戦ってもいいけど、多分チェスリーが許可しないわよ」
「はい。十分なお答えをいただきました」
「え?どういうことなの」
「スーザンとアメリアもあんたのこと信頼してるってことよ」
「そ、そうなのか」
「「はい!」」
ま、まあいいか。
信頼してくれているなら問題ない。
「次はミリアンから説明よろしく」
「はい、ダンジョン捜索の状況です。最初は王都周辺から捜索を行っていましたが、発見されているものしかありませんでした。魔物が溢れたことがあるダンジョンの近くには反応がないので、現在は人の生活圏の外側に絞って捜索しています」
「そうか、近い距離にダンジョンが隣り合うことはないんだな」
「そのようです。ただしメアリさんに捜索感度をあげてもらうと欠片のような反応はあちこちにあるようです。恐らくですが、より大きいダンジョン核が魔力を吸収してしまい、他のダンジョン核が魔力を吸収しにくいせいではと予想しています」
「なるほど、それで見つかったダンジョン核はどれぐらいあるんだい?」
「はい、現在見つかっているのは12個です。その内1つが大規模ダンジョンと思われる大きなものです」
「なんだって!?大規模なのに魔物が溢れず存在しているダンジョンがあるのか!」
「私たちも驚きましたが、魔物が溢れていないのではないです。アリステラさんの分析によると、ダンジョン核は王都西側の人里に近い場所にありますが、地上に繋がる空洞は魔物の森ほうへ伸びているようです」
「そうか……たまたま出口が魔物の森だから、王都のほうに来なかったのか」
「はい。まだ全ての捜索は終わっていませんが、王都の西側にダンジョン核の反応が多くあります。東に行くほど少なくなる傾向がありますね」
「……帝国に魔物がほとんどいないのもそのせいかもしれないな」
「えっ、本当ですか?」
「そうらしいんだ。山脈を超えた近くにあるミクトラにはダンジョンがあり魔物が存在するが、シペル帝国周辺にはいないということだ」
「そうでしたか。……そうすると魔物の森の奥が怪しいですね」
「まあ、いかにも怪しかったけどな。森が不自然なほど急激に育ったし」
「はい。しかし今は王都西側のダンジョン核の対応を先にしないといけないですね」
「その通りだ。優先度の高いところから攻略していく。調査はあとどれぐらいで終わりそうだ?」
「後7日ほどあれば、終わると思います」
「俺が手伝えば短縮できるかな?」
「はい、チェスリーさんもいるなら3日で終わるでしょう」
「わかった。他の議題も聞いて俺がいけるようなら捜索に加わる」
攻略対象が全てわかった状態で始めないと、見落として被害が出てからでは遅い。
複数危ないところがあれば、アリステラの土魔法で地上への空洞をふさいで時間を稼げばいい。
「未発見ダンジョン捜索の報告は以上ね。次はミクトラとシペル帝国の話をするわ」
ヴェロニアが語ったのは、自身が見聞きしたことそのままだった。
人間同士の争いによる戦いの痕跡は魔物による被害と変わらない。
戦いの舞台となった場所の砦は崩れ、家は壊され、人は殺される。
被害にあうのは直接戦いに参加したものだけではない。
戦争に使う物資の調達や徴兵により働き手を失ったことで貧困にあえぐ人たちがいた。
「愚かなことだな」
レフレオンがぽつりとつぶやいた。
「そうね。でも他人事ではないわ。今の相手は魔物だけど、襲ってくるから戦っている。もしそれが人間に置き換わったとしても無抵抗ってわけにはいかないでしょ」
「俺だってやりたかあねえが、家族や知り合いに危険があるとなりゃあ叩き潰すだろうぜ」
「まあ、この話は今のところ現状の報告だけね。介入するかどうかはチェスリーが決めるわ」
「お、おい。俺なのかよ」
「ええ、ジェロビンからの課題にどう答えるか考えてね。相談はいつでもしてちょうだい」
「……了解だ」
「ちょっといいか?確認したいことがある」
「ん、マックリンいいわよ」
「チェスリー、俺たちの目標は全ての魔物とダンジョンの殲滅だ。さっきの話じゃ余った戦力が戦争に使われていたというじゃないか。目標は変わってねえのか?」
「……いや、今のところ変わっていない。だが、無計画に進めていいものじゃないことはわかったからな。帝国の情報も含めて変更するかもしれない」
「……そうか。いや、俺も考えさせられてな。王都では魔物が最大の脅威だ。単純に殲滅すりゃあいいと思ってた。だからよ、目標を見直すなら協力させてくれ」
「ああ、こちらこそお願いする。一緒に考えよう」
「おう!せっかく鍛えたこの力を人相手に使いたくないんでな。よし、確認したいことは終わったぜ」
王都の事情だけ考えたら、魔物のことで手一杯の今は人同士で戦争してる場合じゃないからな。
しかし、エセルマー侯爵が不正をして蓄財していたように犯罪はある。
戦争はなくとも、喧嘩や強盗など人同士の争いもある。
魔物が戦争の抑止力になっている面があるのも事実として受け止めなければならない。
そのうえで目標をどうするか検討すべきだろう。
「次はアメリアのことね。しばらく私と一緒に行動してもらうわ」
「え、ヴェロニアさんとですか。いいかもですが、何をするのでしょう」
「あなたのレアスキルの効果を調べるわ。やることは後で教えるわね」
「は、はい!わかりました」
どんなことをやるつもりなんだろうな。
ジェロビンは何かわかったような口ぶりだったが、俺にはさっぱりだ。
「えっと次はレフレオンとマックリンね。どちらが説明する?」
「俺たちは実践で説明だ。会議でちまちま語ることじゃねえ」
「あ、そう。まあチェスリーに見てもらえばいいか」
「さわりぐらい教えてくれよ。戦術が組めないじゃないか」
「当面の相手は未発見ダンジョンの雑魚だろ?戦術なんぞ必要ねえ」
「う、わ、わかったよ。実践で見せてもらう」
レフレオンは凄い自信だな。
マックリンの雰囲気といい、何を見せてくれるのか想像ができないや。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
次回は「スキルの可能性」でお会いしましょう。




