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第90話 帝国への道のりと自主練習の成果

 ミクトラから帝国へ【一望千里】と視認転移を使って移動する。

 先に俺だけ帝国へ行き、転移陣で全員を移動する案はヴェロニアに却下された。

 ミクトラと帝国の戦争の様子を見ておきたいということだ。

 それでも馬車の旅なら40日ほどかかるところを、5日ほどで移動することができた。


 道中には戦いの傷痕が各所に残されていた。

 折れた剣や槍、壊れた盾や鎧、崩れた砦、焼け落ちた家、そして残された死体……

 この光景だけ見ると、魔物に襲撃されたものと何ら変わらない。

 だが、この光景を作り出したのは魔物ではなく人なのだ。



 俺の目標は全てのダンジョンと魔物の殲滅だ。

 ヴェロニアは俺の目標は間違っているわけではないと言ったが、本当にそうなのだろうか。

 少なくとも王都の魔物を今のまま放置することはできないし、魔物が溢れる恐れのある未発見ダンジョンの殲滅はやるべきだ。


 しかし……無計画に全てを殲滅することは避けるべきだろう。

 影響を無にすることはできないだろうが、せめて想定されることの対策をしてから行動するべきだ。


 帝国は王都に比べて魔物が少ないという。

 実際、帝国までの道のりを調査しながら旅してきたが、魔物に遭遇することはなかった。


 魔物の少ない帝国のことを調べれば、対策の参考になることがあるかもしれない。

 もし王都で魔物の脅威がなくなったとしたら、帝国と同じように持て余した戦力が戦争に使われるのだろうか。

 それとも王都ではそのようなことは起こらないのだろうか。


 大切なのは情報を収集し、どうすべきか考えることだろう。




 帝国の手前でジェロビンとグレイスとはお別れだ。

 ミクトラと同じように警備が厳重なようで、2人は帝国へ密かに潜入するとのことだ。


 「旦那、あっしの課題忘れないでくださいやせ」


 「ああ、そのためにも情報が必要だ。ジェロビンのほうも頼むな」


 「へい。ではあっしらはここで。グレイス」


 「はい。ではチェスリーさんお元気で!」


 「グレイスもな!」


 そして2人の姿は景色に溶け込むように見えなくなった。




 「ヴェロニア、俺たちはクラン拠点に戻ろうか」


 「そうね。いろいろ悲惨なものを見てきたけど、あんたは大丈夫?」


 「ああ、落ち込んでも何も変わらないからな。ジェロビンの課題ってやつも念押しされたしな」


 「それでよし!戻りましょ」



 ヴェロニアと一緒に転移でクラン拠点に戻る。

 クランを出発してから7日ほど経過している。

 みんなはどうしているだろうか。


 「チェスリーさん、ヴェロニアさんお帰りなさい。お茶にしましょうか?」


 いつものケイトさんのお出迎えだ。

 やっぱりこれがないとね。


 「みんなはどうしてるかな」


 「ミリアンさんとメアリさんはダンジョン捜索に行ってます。マーガレット様とアリステラさんは魔道具の試験をしているようですね」


 「そうか、スーザンとアメリアは?」


 「中庭で自主練習なさってますね。様子を見にいかれますか?」


 「そうするかな。お茶はみんな揃ってからにしよう」


 「かしこまりました」


 「それじゃ、ヴェロニアはマーガレットとアリステラの様子を見てきてよ」


 「そうするわ。それじゃ後でね」


 スーザンは火と風の魔法で形状変化の魔力制御を練習するように言ってある。

 アメリアは土属性魔法のモデリングストーンの練習だ。

 それぞれメアリとアリステラに様子見を頼んであるので、練習に困ることはなかっただろう。

 2人の魔法の素質なら、7日見なければ驚くような進歩を遂げているかもしれないな。


 そんなことを考えながら中庭へ移動していると、突然激しい音が聞こえてきた。


 ――ドン!ドドドドン!


 何事だと慌てて駆けつけると、スーザンとアメリアがいるだけだった。

 いや、何か標的らしきものがあって煙をあげている。

 さっきの音はこれだったのか。


 「スーザンとアメリア、これは何をやっているんだ?」


 「チェスリーさんお帰りなさい!魔法の練習をしていましたわ」


 「えーと、形状変化の魔力制御を練習するように言ってなかったかな」


 「これも形状変化の一つですわ。大きい火球を小さめの連続した火球に変化させてます」


 「おお……。基本の魔力制御はどうなの?」


 「はい、全てできるようになりましたわ。そこでメアリさんに相談したところ、この魔力制御を練習するようにと教えていただきました」


 「早いな。もう全部できるようになったのか」


 「今まで魔法に興味なかったのがもったいないです。こんなに楽しいなんて思いませんでしたわ!」


 「そ、それはよかったね」


 やる気があるのはいいことだし、成長も早いな。

 やりもせずに嫌に思っていたことでも、実際やってみると好きになることがあるからな。

 それにしても火属性の攻撃魔法をバンバン放つようになるとは思わなかったけど。


 「アメリアはどんな感じ?」


 「チェスリーさん聞いてくださいよ!スーザンったら酷いんですよ」


 「え、何があったの」


 「私が作ったお人形を中庭に置いていたら、魔法で壊しちゃうんですよ!」


 「ええ!?スーザン、何でそんなことしたんだ」


 「あ、あの……魔法の練習をしていたのですが、視界に入ってしまって……つい」


 「つい、でやっちゃまずいだろ。危なすぎる」


 何この子。

 視界に入ったら攻撃しちゃうような危ない性格してるの?

 そうだとしたらやばいな……被害が出る前に何か対策を考えないといけない。


 「酷いでしょう?た、確かに見た目はほんのちょっぴりだけ変わってるかもしれませんけどね」


 「え?変わってるってどんな」


 「こんな感じです」


 「うん……うわあああああああ!!」


 このクマ人形、目や口がでかい!!

 アリステラの人形も目や口が大きいのだが、かわいらしい感じが増すよう丸っこく大きくなっているのだ、

 アメリアのは恐怖が増すような感じで目は大きく鋭いし、口は凶悪にでかい。

 手と足の爪も太く伸びていて、いかにも攻撃力がありそうだ。

 これ魔物と比べても怖いんじゃないか。

 魔物と戦いなれている俺でさえ、思わず声を上げてしまったぞ。


 スーザンが視界に入ってしまって攻撃したと言ってたな。

 ……俺も攻撃態勢ぐらいはとるだろうな。



 「スーザン疑ってすまなかった。俺てっきり、きみが狂暴なのかと勘違いしてしまったんだ」


 「い、いえ。最初の言葉だけだとそう思われても不思議ではありませんし」


 「許してくれてありがとう。それにしても、魔法が上手になったね。火球の連弾は威力も高そうだったじゃないか」


 「ありがとうございます!あの……褒めていただけるなら、またチェスリーさんに魔力を流してほしいです」


 「そうだな。褒美と言われるとちょっと違うぞ。魔法の練習だからね」


 「あ、ええ、そうでしたわね。ホホホホホ」


 「全くスーザンってば、アハハハハハ」


 「あのーー、私の人形から目を逸らさないでください」


 目を逸らしたわけじゃないんだ。

 精神が落ち着くまで時間が欲しかっただけなんだ。


 「アメリア」


 「はい」


 「人形の置き場所に困ってるなら俺が預かる。部屋に入りきらない分は持ってきなさい」


 「はい!ありがとうございます」


 アメリアは人形を取りに屋敷に戻っていった、


 人形は一先ず封印する方針にしよう。

 あれは人目に触れるところにあってはいけないものだ。

 後でミリアンに収納してもらおう。


 「チェスリーさん助かります。私もなるべく見ないようにしていたのですけど」


 「アメリアは以前からああいう趣味なのかい?」


 「いえ、人形作りをしたことはなかったはずです。モデリングストーンの練習からですね」


 「そうか……何でああなったんだろうな」


 「アリステラさんの真似をしようとしたはずなのですけどね」


 「アメリアはあれを見て何とも思わないのかねえ」


 「ちょっと変わったと言ってましたし、多少おかしいと思っているようです」


 「多少で済むのか……」


 「アメリアには実用的なものを作るようお願いしてます。この練習用の標的なんて凄く硬くて使いやすいですわ」


 「ほう、それはいいね。さすがスーザンは前からのつきあいだな」


 「こんな一面があるとは知りませんでしたけどね……」


 「アメリアはしばらくヴェロニアにあずかってもらうことになるから、この事も伝えておかないとな」


 「あら、どうしてでしょうか」


 「アメリアのレアスキルを使いこなせるようにするためだ。ヴェロニアに何か考えがあるらしい」


 「レアスキルか……羨ましいですわ。あ、それはそれとして私に魔力をお願いします」


 「はいはい」


 えーと、もう基本の形状変化はできるようになっているから……どうしよう。

 次に教えるとしたらレアスキルの魔力になってしまうか。

 【演算】スキルを伸ばしたいところだが、俺の【演算】スキルはまだ修行不足だ。

 【演算】の魔力制御で魔力を高速に動かすには魔力量が関係していた。

 少ない魔力量で扱えるよう調整しているのだが、試しているうちに想定以上に応用できそうなことがわかってきた。

 教えるなら完成させてからのほうがいいだろう。


 「えっと、何か教えてほしい魔法の希望はあるかな?」


 「そうですね……あっ、治療の魔法に興味があります。でもメアリさんが素質のあるものを優先で教えてくれるので任せた方がいいと言われてますわ」


 スーザンは赤緑の魔力色だから、青系が基本の治療は難しいかもしれない。

 だが、黒と白の魔力色が使えれば、俺独自の治療の魔法が使えるようになる。


 「治療の魔法に興味があるなら、闇と光属性の魔法を教えるよ。応用すれば傷の治療ができるようになるからね」


 「まあ、素敵です。それでお願いしますわ」


 ミリアンとマーガレットも治療の魔法を希望していたな。

 やはり病気で苦しんだ経験があると治療の魔法に興味を持つのは自然なことなのだろう。


 スーザンの手をとり、黒の魔力色を作る。

 魔力制御は基本のダークミストでいいな。

 魔力を流そうとしたその瞬間――


 「チェスリーさん!これお願いします」


 「へ?どわあああああああ!!」


 アメリアに声をかけられて振り向くと、叫ばずにはいられない光景があった。

 凶悪な顔をした動物たちが一斉に襲い掛かってきたように見えたのだ。


 まさか全てがこんなに恐ろしい出来だったとは……

 どうすればいいかはクラン会議で考えることにしよう。


今回もお読みいただき、ありがとうございます。


次回は「クランメンバー達との再会」でお会いしましょう。


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