表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/137

第89話 仮面の治療師再臨

 帝国へ行く前の人助けか。

 何となくだけど、この件も俺が衝撃を受けたことを和らげるために準備されていたのでは。

 そう思えるほど既に気持ちは人助けのことに切り替わっていた。


 ミクトラの中心から北西にある屋敷に、俺とグレイスの2人で訪問した。

 また貴族なのかな、と思っていたが冒険者の住まいらしい。

 冒険者の名前はゴードリクで年齢は42才。

 元クランリーダーとしてダンジョン攻略を行っており、現在はミクトラの内政官だそうだ。

 グレイスが気になると言ってたのは娘さんのほうかな。

 名前はカミラで年齢は18才らしい。


 グレイスは魔道具の行商人として、ゴードリク以外の役人とも面識があるそうだ。

 目的はミクトラ内部の事情を調べるためだ。

 グレイスお得意の気配遮断も併用し、表と裏の両面で調べている。

 ……味方だから頼もしいが調べられる側からするとたまらないな。


 ジェロビンが言っていた優秀な人とは、ゴードリクのことのようだ。

 人助けという名目だが、恩を売ろうとしてるんじゃないだろうな……


 グレイスの顔を見た使用人はすぐに応接室へ案内してくれたし、既に馴染みになりつつあるんだな。


 「グレイスくん、今日は何の用かね。まあ、用がなくとも来てくれてかまわんがな」


 「は、はあ。本日は治療師をご紹介しようと思いまして」


 「……そこの怪しげな仮面の人かね?」


 「え、ええ」


 俺は以前に身元を隠すときに使用した仮面をつけていた。

 今回も身元を隠しておいたほうがいいというので、久々に怪しげな仮面治療師の復活である。


 「わしが治療師を毛嫌いしていることを知っていてのことかね?今まで何人の治療師に期待を裏切られたことか」


 「ゴードリクさん、私は自身の目で確かめた信頼がおける商品のみを取り扱っております。商品だけに限らず、紹介する人物にも十分な確信をもってまいりました」


 おお、グレイスが強気だ。

 ほんと逞しくなったなあ。


 「そ、そうかね。……では本当に娘の病気を治せるのかね」


 「はい。この方なら必ずカミラさんの病を治せるでしょう」


 きつく睨んでいたゴードリクさんの表情がみるみる緩み、懇願する態度に変化した。


 「治療師殿、どうか頼む。娘の病気を治してやってくれないだろうか」


 俺は黙ったままうなずいて返事とする。

 しゃべるのも禁止にされてしまったのだ……なんで?


 グレイスが確信できたのは、娘さんの病気が魔班病だとわかったからだ。

 王都では魔班病の治療体制が整い、庶民でも治療可能な状況になりつつあるが、帝国では未だに治療方法不明の病気だった。

 王都に比べると魔班病患者自体も少ないようだけどね。

 ダンジョンや魔物が少ないこともそうだが、一山超えただけでいろいろ事情が違うようだな。



 「グレイスさん!お見舞いありがとうございます」


 カミラさんの部屋にグレイスと一緒に入ると、カミラさんが嬉しそうにグレイスの名を呼んだ。

 ほうほう、まんざらでもなさそうじゃないか。

 病気による衰弱は見られるものの、おとなしそうなかわいい感じの娘さんだ。

 ジルシス草で症状を抑えているようだな。


 「カミラさん、お体の調子はいかがですか」


 「はい、グレイスさんのお薬のおかげで症状が治まっています。今朝もしっかり食事をとれました」


 「それはよかった。食べないと体力がもちませんからね。今日は治療師をご紹介にきました」


 「え……治療師ですか?」


 「そうです。薬では症状を抑えることしかできないのです。治すには治療が必要です」


 「お、お父さんは何と言ってましたか?」


 「私が信頼できる方だと紹介すると、病気を治してと頼まれました」


 「グレイスさんが……わかりました。私も信頼しますのでお願いします」


 「ではチェ、あ、いや治療のほうをお願いします」


 名前しゃべりそうになってるし。

 グレイスもあまり演技は上手くないだろうから早くすませてしまおう。


 魔力視の眼鏡で滞留を探していく。

 おおお、素晴らしい魔力の素質だ。

 滞留はやはり下腹部にあり、他に3か所もあるのか。

 首の後ろとお尻の上と背中か、体の後ろ側に滞留が集中しているようだな。


 さてとしっかり治療しておきますか。

 白と黒の魔力色を作り、滞留に押し付けるように魔力を流していく。

 日ごろからスキルの熟練を高めているおかげか、自分でも驚くほど治療が速く終わる。


 グレイスに視線とうなずきで治療が終了したことを伝える。


 「カミラさん、治療が終わったそうです」


 「え!?まだ始めたばかり……あれ、体が軽い。ずっと気だるかった感じがない……自分の体と信じられないぐらいです」


 少しおまけして完全回復もかけておいた。

 これなら体力が戻るのも早いだろう。


 「あ、カミラさん。まだ無理しないほうが――」


 「大丈夫です。寝てるのがもったいないほど調子いいです」


 カミラさんはベッドから抜け出ようとしていた。

 多少のふらつきはあるものの、自分の足で立つことができた。

 あら、ひょっとして俺やりすぎちゃったかな。


 そこへゴードリクさんが様子を見にやってきた。


 「娘の病気はどうか――」


 「お父さん!私治ったよ!」


 「カミラ!」


 ゴードリクさんがカミラさんの元に駆け寄り抱きしめた。

 治療後の心暖まる光景は何度見てもいいものだ。


 「治療師殿、ありがとう。それにしても素晴らしい治療だ。まだ始めたばかりと思っていたが」


 「ゴードリクさん、カミラさんの病気は魔班病という病名で王都では既に治療可能な病気なのです」


 「そうなのかね。しかし娘は体力まで回復しているような……」


 「そ、それは腕の良い治療師をお連れしましたので、はい」


 やっぱりやりすぎだったようだ。


 「いずれにせよ感謝する。さぞ高名な治療師なのであろう。報酬はいかほど渡せばよろしいか」


 「いえ、報酬は結構です。今後ともお付き合いさせていただければ嬉しいですね」


 その言葉を聞いて、カミラさんの顔が赤くなっていく。

 ゴードリクさんは満足そうな顔をしてるな。


 ふむ、客観的に見るとよくわかるな。

 自然と話していることで、自分の意図しないことに繋がっていくこの感じ。

 ……俺もそうだということだろうか。

 そして当のグレイスは特に自覚なしと。


 「本日はこれで失礼します。カミラさんは治ったとはいえ、無理せず体力を回復させたほうがいいですからね」


 「お、おおそうだな。今度はゆっくり来てくれるかね」


 「ええ、また伺います。カミラさんそれでは失礼します」


 「はい。グレイスさん、治療師様、ありがとうございました」



 屋敷を出てグレイスと2人で馬車に乗ると、グレイスのほうから話しかけてきた。


 「チェスリーさん、お見事です。治せるのはわかってましたが、こんなにも短時間で治療できるとは思いませんでした」


 「自分でも驚くほど速かったからな。完全回復の練習を欠かさずやっているのが役に立ったようだ」


 「カミラさんが急に起き上がって驚きましたよ。半年以上寝込んでいたはずなのに」


 「あー、ちょっとやりすぎたとは思った」


 「ヴェロニアさんに少々のことで動じないよう言われてましたが、こういうことでしたか……」


 「い、いや、それよりグレイス、カミラさんのことが気になっているのか?」


 「それはジェロビンさんが勝手に言ってるだけです。ゴードリクさんに話を聞くついでにお見舞いはしてますけど、恋愛感情なんてありませんから」


 「そうかい?ゴードリクさんとカミラさんは”お付き合いさせていただければ”のところで随分嬉しそうにしてたぞ」


 「商売のお付き合いのつもり……え?ひょっとしてカミラさんとのお付き合いに誤解されてます?」


 「うん、2人の表情はそれっぽかったけど。それに最初ゴードリクさんが用がなくても来てくれなんて言ってたじゃないか」


 「いやいや、それは私が気に入られていて、取引以外のときもいろいろ教えてくれるからですよ」


 「おいおい、それが気に入られているってことだろ。治療だってグレイスが信頼してるというから、話が早かったわけだし」


 「そ、それはジェロビンさんに情報を聞き出すなら相手の懐に飛び込んでいけと教わったからですけど……」


 「懐に入りすぎちゃった?」


 「……最近は議会のことや戦争の状況もすぐに教えてくれるし、やりやすいな~とは思ってましたが」


 「それさ、グレイスを後継者として育てようとしてないか?」


 「ま、まさか」


 「まさかね」


 「「はははははは」」


 いやあ、懐に飛び込むって距離感難しいよね。

 ジェロビンのやつめ、多分全部わかってやってるな。


 「チェスリーさん、どうしましょうか!?」


 「え、それ俺に聞いちゃう?」


 「えっと……ちなみにどのような回答が返ってくるでしょうか」


 「なるようになる」


 「ええええ。いやちょっと待ってください。カミラさんの顔が赤くなったのは治療の後ですよね?チェスリーさんに惚れちゃったんじゃないですか?」


 「いやいや、仮面で顔を隠しているし無言だったし、そんなわけないだろ」


 「過去のことを考えるとありえますよね」


 アリステラとマーガレットは仮面なしで治療したからわかるけど、仮面をつけた状態でそんなことはない……あっ、スーザンとアメリアのときは仮面してたな。

 うーん、ないと思うが自信なくなってきた。


 「……とりあえずジェロビンに話をしてみるか」


 「……そうですね」


 俺たちは一先ず考えるのをやめて、おとなしく帰ることにした。

 ヴェロニアとジェロビンにカミラさんの治療が上手くいったことを報告する。


 「へっへっ、あっしとしちゃどちらが相手でもかまわないでやすよ」


 「そういうのいいから。俺に治療させてジェロビンは何を狙ってるんだ?」


 「つれないでやすねえ。縁を繋いだだけでやすよ。ゴードリクの旦那に気落ちされるとミクトラ側の状況がややこしくなりやすしね」


 「そうか、ゴードリクさんはミクトラの要なんだな」


 「へい。これでミクトラがすぐ崩れることはないでやしょう。次は帝国の情報を集めたいでやすね」


 「わかった。帝国へ行こう」


 カミラさんのことも気になるけど、まだ何かしたわけじゃないしな。

 あの魔法の素質は見逃せないものがあるけど……。

 もしグレイスがその気になったら、転移魔法を叩き込んであげることしよう。


今回もお読みいただき、ありがとうございます。


次回は「帝国への道のりと自主練習の成果」でお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読み終わりに↓ををクリック!いただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ