第88話 戦争の状況と衝撃の事実
ジェロビンから戦争について調査した情報を説明してもらった。
戦争はシペル帝国の皇帝とミクトラの領主との間で交渉が決裂したのが発端だ。
ミクトラはアルパスカ王都と同様に、ダンジョン攻略でクランが集まり発展してきた町だ。
ミクトラの領主はクラレッドという元冒険者で、ダンジョン攻略の実績を認められ、領主を務めることになった。
その後ダンジョン攻略が進み魔物の脅威が減少すると、肥沃な土地と気候に恵まれていることもあり、豊かで暮らしやすい町になっていった。
シペル帝国は初代皇帝デルバートが周辺の小さな町や村を統合して作った国だ。
デルバート皇帝は知力に優れ、各地の内政や法律を整備することで名が知れわたり、皇帝に推されたということだ。
現在の皇帝はデルバートの孫にあたる3代目でジルバート=シペルという人物だ。
それほど悪い評判はないが、初代に比べて劣ると言われているらしい。
元々ミクトラの冒険者はシペル帝国の支援をうけて、ダンジョン攻略を行っていたこともあり、位置づけとしては領地である。
領地としてシペル帝国に税を納めていたのだが、税率の改定で争いになったようだ。
シペル帝国としては、豊かで余裕のあるミクトラから、余裕分の税を得たいと思ったのだろう。
しかし、ミクトラの人達から見れば、自らが努力して増やした財産を奪われる思いだった。
「なるほど。利益絡みの争いだな」
「へい。よくある話でやすね」
「これ単純に見るとシペル帝国のほうが悪そうだけど、実際どうなんだい?」
「そうでやすねえ。税率を上げる目的は、シペル帝国の庶民のためだったらしいでやす」
「え、そうなのかい」
「シペル帝国の土地はミクトラより痩せていて、作物の出来が悪いでやす。人口はシペル帝国のほうが多いでやすし、食料を安定供給するためだったようでやすね」
「あれ、それじゃ悪いのはミクトラのほう?」
「そうもいえないでやすよ。シペル帝国の庶民のためとは言え、自分たちの税率を上げられるのは嫌でやしょ」
「ミクトラのほうが土地が肥沃だから、余剰の食料を納めるぐらいかまわないんじゃないかな」
「そういう折り合いがつけば戦争にならなかったでやしょうねぇ」
うーん、ジェロビンの言う通りだな。
とはいえ、庶民のための交渉で庶民が犠牲になる戦争をするのはおかしい。
過去の戦争でも権力者が欲を満たすためや宗教の違いなど、庶民からすればどうでもいい理由は多いけど……
「ジェロビンは戦争の原因を調べたのかい?」
「へい。ミクトラのほうは調べ終わりやしたが、いまの領主はいただけないでやすねえ」
「え、どういうことだ」
「頭が固すぎるでやす。元冒険者で気性が荒いのもありやすが、あれは交渉にならないでやしょうね」
「おいおい、よくそんなので今までやってこれたな」
「ダンジョン攻略してれば金回りはいいでやすからね。肥沃な土地で食料も問題ないので少々無能でもやってけるでやす。それに側近に優秀なのがいやしたね」
「その優秀な側近が領主をやればいいんじゃないのか」
「旦那、そう単純にいかないのが人間関係ってやつでやしょう」
「まあ、そうだけど……帝国のほうはどうなんだ?」
「帝国のほうも3代目皇帝がイマイチのようでやす。国で決定したことに従うのが当然として交渉してやすね」
「困ったものだなあ。帝国には優秀な人がいないのか?」
「それはまだ調べられてないんでさ。現地で調査したいんで旦那に帝国まで送ってもらおうと思ってやす」
「それはかまわないが……あっ、庶民が酷い状況と聞いている。そこはどうなんだ?」
「徴兵で働き手を失ったり、怪我が酷いものは大勢いやす。膠着状態なのは疲弊が激しいのもありやすね」
「チェスリーさん!何とか助けてあげられないでしょうか。俺の力じゃ何もしてやれなくて……」
「グレイス……」
俺の治療の魔法で怪我したものを治すことはできるだろう。
困っている人を助けたいとは思うが、治療したものがまた戦争に駆り出されるようでは本末転倒だ。
同じ理由で食料などを提供したとしても、戦争に利用されてはたまらない。
やはり戦争そのものが終わらないと解決しないだろう。
だが、それを待っていては助からない人がいるのも確かだ。
何かいい方法はないだろうか。
「グレイス、全て救うことは無理だが、単に見捨てることもしたくない。お前の力で助けるべき情報を集めてくれないか」
「助けるべき……情報ですか。私にそんな選択ができるでしょうか」
「困ったら俺やジェロビンを頼ってくれ。クランメンバーも力を貸してくれる」
実際俺が同じことを言われても困ると思う。
俺も知れば放っておくことなんてできないだろうからな……
しかし、やれることに限りがある以上は選択するしかないだろう。
「ジェロビン、あと一つ疑問があるんだ」
「なんでやしょ」
「魔物対策だけでも大変なはずなのに、何故こんな長期の戦争ができるんだ?」
「……ヴェロニアの姐さん、話していいでやすか」
「ええ、いいわ」
「旦那、シペル帝国の近辺は魔物がほとんどいないでやす。ミクトラのダンジョンも王都の周辺に比べれば規模も数も大したことないでやす」
「……え」
「今回の戦争もミクトラのダンジョンが全て攻略か管理された状態になってからのことでやす。魔物対策が必要なくなった分の戦力が使われているともいえやす」
「なっ!?」
魔物対策だった戦力が戦争に使われているだと……
人類にとって魔物は倒すべき敵だ。
戦う力をもたない人にとって、魔物に出会うことは死と出会うのと同義なのだ。
そのため魔物に対抗できる優秀なスキルを持つものは冒険者になることが多い。
そして武力を鍛え、スキルを熟練させ、より脅威度の高い魔物に対処する。
そうしなければ、人類は魔物に蹂躙されるからだ。
しかし、その魔物の脅威がなくなり、魔物に対する戦力が必要なくなったとすれば……
その一例が戦争の戦力ということだろう。
「チェスリー、これだけは言っておくわ。魔物とダンジョンを全て殲滅する目標は間違っているわけじゃない。ただ戦力がこういう事態に使われることもある、ということは覚えておいてほしいの」
「あ、ああ」
ヴェロニアが今回同行したのは、戦争のことを知るためだけではなかったのだろうな。
この話を俺が聞いて動揺することをわかっていたのだろう。
まあ、その通り動揺しているわけだが。
「あんたがやりすぎたり間違えたりしたときは、あたしやクランメンバーが止めるわ。今はやるべきことをやりましょう」
「……そうだな。ここで止まっている場合じゃないしな」
「それでも間違えちゃったら、一緒に責任の取り方でも考えましょ。取り返しのつかないことがあるかもしれないけどね」
「おおい!安心していいのかどうかわかんないじゃないか!」
「へっへっ、相変わらず面白いでやすね」
「ジェロビン、笑い事じゃないぞ」
「へっへっ、こいつぁ失礼。どんな人間だって間違えるもんでやすよ。この戦争だって間違いだらけでやしょう。力がある奴が間違えりゃ大事になるってことでやす」
「ああ、そうだな」
「逆に言えば、力をもつ奴が間違えなけりゃあ上手くいくでやす。あっしはそのための情報をかき集めますんで、旦那の力を貸してほしいでやすよ」
「……俺の力で何とかできると思うのか?」
「へっへっ。何とかできるかどうかは旦那の課題にしときやしょう」
「いや、俺は帝国の戦争に介入する気なんて――」
「おっと、旦那の嘘はあっしには通じやせんぜ。情報を集めるのにもう少し時間をいただきやす。その間に介入する方法を考えといてくだせえ」
「ちぇっ、またジェロビンに見透かされているのか」
「旦那はわかりやすいでやすから。後はあっしの要望も聞いてくれやすか」
「え、ジェロビンからの要望なんて珍しいな」
「旦那にはいい人材が集まるようでやすからね。アメリアって子が【慧眼無双】のレアスキル持ちでやしょ」
「そうだな」
「なるべく早く効果を発揮する方法を見つけてくださいやせ。なんならあっしにあずけてみるのはどうでやすか?」
「えっ、おいおい。アメリアは16才で貴族の女の子だぞ。ジェロビンが面倒をみられるのかい」
「あの……性別以外は私と一緒なんですけど」
「グレイスは大丈夫だ。問題ない」
「えぇ……」
グレイスには悪いが男性と女性で区別は必要だよね。
「アメリアのことは私に任せてくれないかな。やっぱりわかりやすいところから徐々に慣れたほうがいいと思うの」
「姐さんにですかい……へっへっへっ、何となくわかりやした。お任せしやす」
「おい、2人とも。俺にもわかるように説明してくれ」
「いいから任せておきなさい。あんたもちゃんと関係あるから」
「いや、それならなおさら知りたいんだが」
「わたしが話さないときは、そのほうが上手くいくときって知ってるでしょ」
「知ってるのと納得がいくのは別の問題だ」
「へえ、それじゃ話してあげてもいいけど、アメリアの成長を邪魔することになってもいいの?」
「う……はい、話さなくていいです」
「へっへっ、話もついたところで、帝国へ行く前にちょいと人助けをやっていきやしょうか」
「お、そんな情報があるのか」
「今回は特別でやす。ちょいとグレイスが気になってる子がいやしてね」
「じぇ、ジェロビンさん!彼女はそういうことではないですから!」
「語るに落ちるとはこういうことでやすねえ。旦那とそっくりでやす」
「あっ!!」
俺がグレイスを信頼できるのは、自分に似てるからなのかなあ。
ジェロビンにあずけるときも気は合いそうだったし、特に不安もなかった。
ふふ、それにしてもグレイスが気になる女性とは面白そうじゃないか。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
次回は「仮面の治療師再臨」でお会いしましょう。




