第86話 新メンバー加入
6章のテーマが決まったので投稿再開です。
第14回クラン会議から数日経過した。
クランメンバーは与えられた役割をこなす毎日を送っている。
ダンジョン捜索の元となる町や村の資料が、冒険者ギルドやエドモンダ侯爵様の商会を通じて集まってきた。
町や村はアルパスカ王都周辺に集まっており、マクナルやヘスポカといった俺にとって馴染みのある町が距離として端に近いようだ。
マクナルは王都の南方向へ馬車だと2か月ぐらいかかる距離になる。
ヘスポカは王都の南東方向へ馬車で40日といったところだ。
王都の西には広大な魔物の森があるので、西側には王都近辺にしか町がない。
王都の北も気温が低く痩せた土地が多いので、あまり町がないようだ。
こうして整理してみると、人の暮らす地は思った以上に狭いことがわかる。
前回行ったダンジョン捜索の方法を使えば、優先度の高い人里近くの調査は1~2か月程で終わりそうだ。
まだ大陸全容の地図は作られておらず、全体の広さはわかっていない。
収集した情報の中に帝国へ旅をした記録があったので、参考になるかもしれないと読んでみた。
帝国へ旅をするのに、王都からまっすぐ東に進む山脈越えは最難関とされていた。
それでも過去に山脈越えを果たした冒険者がいるらしい。
ひょっとして俺たちが2番目なのかな。
……あの転移での山越えを旅と言うと、まともに旅した人に怒られそうだが。
山脈を避ける場合、北回りと南回りの2通りあるが、どちらへ行っても帝国へ辿りつくまで約1年かかるらしい。
北も南も途中から人里がなくなるので、食糧などを持ち運ぶのに大容量の収納魔法は必須だろう。
収納魔法がないとどうするんだろ。
まさかの全部現地調達か!?
いやあ、ある程度の現地調達はするかもしれないけど……
俺にはミリアンがいるから、考えないことにしよう。
北回りの記録によると、北上するほど気温は低下する。
比較的暖かい時期もあるので、旅をする時期に注意するようにとのこと。
北上する途中で山脈が比較的低いところから東を目指し山を抜けたようだ。
北上に180日、山のふもとを抜けるので10日、帝国まで140日の距離らしい。
北に180日の距離では大陸はまだ続いていたってことだな。
南回りの記録によると、南下するほど気温は暖かくなる。
こちらの方が旅しやすいように思うが、魔物が多いのでお奨めできないとのこと。
旅したパーティーは戦闘の得意なものを集めたようだ。
南下に120日、山のふもとを抜けるので10日、帝国まで200日の距離らしい。
南に120日の距離では大陸はまだ続いていると。
ただ記録の中に、南に向かうほど嗅いだことのない匂いが強くなってきたとも書いてある。
毒ではなさそうなので、未知の何かがいるか、大陸の終点が近いのかもしれない。
旅に要した日数しか記録されていないので、実際の距離に単純に置き換えられない。
パーティーにより進む速度も違うだろうしな。
とはいえ他に資料もないので、同じ距離進んだと仮定すると、帝国の位置は王都から見て北東方面にあたるようだ。
以前帝国をさがしたときは王都からまっすぐ東に進んでから探したので、少しずれていたんだな。
こんな記録があるなんて知らなかったし……
そんな状態で無計画に探しにいくほうが悪いんだけどね。
クランの新メンバー候補との面接も無事に終わった。
候補としてあげていたマルコット男爵の娘スーザン、トバイルズ子爵の娘アメリア、リンノル侯爵の息子ライオットの3人全員と面接することができた。
クランに加入したのはスーザンとアメリアの2人だ。
ライオットは治療後に魔法の修得に励み、冒険者になったということだ。
魔法の素質は抜群だったようで、すぐにクランから誘いがあり、既に加入済みだったのだ。
俺が誘うの遅かったんだよなあ。
ライオットに俺が治療したことを伝えると、改めてお礼をと接待してくれることになった。
食事をご馳走になるまではよかったのだが、その後綺麗な女性数人に夜の接待までされそうになった。
まあ、ミリアンが丁重に追い出していたけどね。
スーザンとアメリアもすっかり元気になっていた。
2人は知り合いだったようで、回復後にスーザンがアメリアを訪ねたそうだ。
治療のことをお互いに話していると、どうも同一人物に治療されたとわかった。
そこから俺を探したいという話になり、親を問い詰めて王都にいることを聞き出したらしい。
2人はすぐに王都へきて、俺を探し続けていたということだ。
どうも王都で遊ぶことの方が忙しかったようだが……
こちらも俺が誘うのが遅かったから、親御さんに迷惑かけちゃったなあ。
王都の宿に泊まっていた2人に会い、クランに誘うと二つ返事で加入が決まった。
年齢はスーザンが20才でマーガレットと同じだ。
アメリアが16才でクランの最年少になる。
ちなみに今までの最年少はメアリとアリステラの17才だ。
……あっグレイスが16才だった。
い、いや忘れてたわけじゃなく、近くにいないから比較対象から外れてただけだから。
と、とにかくクラン『百錬自得』は2人のメンバーを迎えることになった。
ミリアンとメアリは、予定通りダンジョンの捜索を行っている。
さっそくいくつかダンジョン核の反応を見つけたようだ。
魔物が地上に溢れる心配がないか、アリステラと一緒に調査にいくことになるだろう。
ヴェロニアとマーガレットは【以心伝心】の呼びかけ専用魔道具を開発している。
また高価な魔物素材を使いまくらなければいいんだが……
そして俺はスーザンとアメリアの教育だ。
スーザンの素の魔力色は赤緑。
これなら火と風の魔法に素質があるだろう。
スキルは【演算】だ。
【演算】スキルがあると、計算が速く、正確に答えを出すことができる。
経理のお金や建築物の設計など、計算が必要な職業で重宝されている。
アメリアの素の魔力色は濃いめの茶だ。
これなら土の魔法に素質があるだろう。
スキルは不明だ。
15才になる前から病で苦しんでいたので、【能力鑑定】を受けていなかったのだ。
俺は【能力鑑定】に近いことができるのだが、アメリアのスキルはよくわからなかった。
ひょっとすると……
ちょうどヴェロニアのところにジュリーナさんが訪ねてきていた。
ジュリーナさんが【能力鑑定】を使えるというので、アメリアを鑑定してもらった。
結果、【慧眼無双】というレアスキルであることが判明。
言葉の意味は、物事の真意や善悪を見抜く眼力がとても優れている、ということだ。
ジェロビンの情報収集にかからなかったのは、本人も含め誰も知らなかったからか。
こっそりジュリーナさんの【能力鑑定】を魔力視で視ていたのは内緒だ。
アメリアはレアスキル持ちなので、スキルの効果を発揮する方法を探さねばならない。
使いこなせれば便利そうだけど、意味からは人に対して効果を発揮するように思える。
今のところダンジョンと魔物が相手だし、他にやりたいことがあれば、レアスキルにこだわらずやりたいことを伸ばすのもいいだろう。
スーザンは【演算】を熟練する方針でよさそうだが、やりたいことがあるか希望を聞いてみよう。
「スーザン、何かやってみたいことはあるかい?」
「やってみたいことと言われましても……長く病気のせいで何もできませんでしたから。チェスリーさんに会えば何か変わると思ってましたけど、急には無理なようです」
「うーむ、それなら例をあげてみよう。スーザンは火と風の属性に素質があるようなんだ。魔法を使ってみたいと思わないかい?」
「まあ、私に魔法の素質なんてありましたの。でも……魔法には興味ありませんわね」
「うーん、なら【演算】スキルを熟練させていくというのはどうかな?」
「【演算】スキルのおかげで計算は得意ですが、その……【演算】を使ってできることに興味がもてません」
【演算】は実用的なスキルだし、先に挙げた経理や建築など選べる職は多い。
どんなことがやりたいのだろうか?
今までのメンバーはやりたいことがはっきりしていたから話が早かった。
せっかく教育で”適材適所”を育てるという方針に決めたのに、目指すところがわからないと何を教育すべきかわからないな……。
「すぐ結論をだす必要はないし、後でもう一度話そう。アメリアはどうかな?」
「えっと、私はレアスキルを使ってみたいです。効果がわかれば凄いことができるかもですよね」
「そ、そうだな。【慧眼無双】は他人の真意や悪意を見抜くのが優れているようだが、何か心当たりはあるかな?」
「あっ、私の病気の治療でお父様に話していた人がいて、怪しいなって思ったかも」
おお、既にレアスキルの効果を発揮していたのか!
「その人、多分私のところにも来た人ですわ。あまりにも高額な治療費を吹っかけてきたので、すぐ追い払いましたわよ」
……どうやら違ったようだ。
というか、その人スーザンのところにも行ってたのかよ。
気を取り直してっと。
「レアスキルはどうすれば効果を発揮するか自覚しなければいけないんだ。もし他にやりたいことがあれば、そちらをやりながらのほうがいいね」
「やりたいことですか……。私に魔法の素質はないようでしょうか?」
「いや、土の属性に素質があるようだ。アリステラも得意なんだ」
「あ!アリステラさんのお人形さん大好きです!私もお人形を作りたいです」
「お、そうか。それじゃ土属性の魔法を覚えてみるかい?」
「はい、やります!」
「うん、これで決まりだな」
ヴェロニアからレアスキルの教育は秘密と言われている。
レアスキルが教育できることを聞けば、必ず教えてほしくなるだろうからと。
2人を信頼していないわけではなく、いきなり最初からレアスキルの魔力を流すと危ないと。
最初から危ない反応はないと思うんだけどなあ。
「モデリングストーンの魔力を流すよ」
「はい!」
土属性のモデリングストーンの魔力制御をアメリアに流していく。
「え、あっ、暖かくて気持ちいいかも……です」
え?
いや、アメリアのことじゃなく、何か鋭い視線のようなものを感じる。
どこから……あ、スーザンからだ。
「チェスリーさん!それですわ!!」
「え?何が?」
「病気で絶望していたあのとき、とても心地良い暖かさが伝わってきたのです。やはりチェスリーさんだったのですね」
「あ、ああ。魔班病の治療のことか」
スーザンはかなり重症だったので、意識がない間に治療したはずだ。
暖かさを感じたのが、俺の治療のときとは知らなかったんだろうな。
「私もチェスリーさんに魔法を教えていただけば、気持ちよくなるのでしょうか?」
「いや、そういう目的じゃないから」
俺の教育を怪しいものにしないでほしい。
あ、サンディに魔班病治療を教えたときも暖房代わりに使われたことがあったような。
でもサンディは治療師になるために魔力を流して教えたのであって、単に気持ちよくなりたいという不純な動機ではなかった……よな?
しかし、やりたいこともはっきりしないのに、気持ちいいからってのは困るなあ。
これはスキルを教える前に、別の教育が必要なようだな。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
次回は「スーザンの教育」でお会いしましょう。




