第85話 教育による適材適所
アリステラと小屋を出ると、次はマーガレットの番だと告げられた。
マーガレットには最初嫌われていると思ってたんだよな。
病気で苦しんでいるのに、治療を拒否されたときはどうしようかと思ったものだ。
しかし、触れずに治療する課題を何とかしようとして、シルビアに転移魔法を教えてもらうきっかけになった。
そしてレアスキルが修得できることを知ったのだ。
転移魔法を修得しなければ、ジェロビンにクランに入りたいなどと相談することもなかっただろう。
「チェスリーさん、どうされましたの?」
「ああ、マーガレットと初めて会ったときのことを思い出してたんだ」
「あ、あのときのことは……申し訳ありませんでしたわ」
「いや、気になったのはその後どうして治療を受け入れてくれたのかなとね」
「……そうですね。父に説得されたのはご存知ですわね」
「ああ」
「私の病気が治れば好きにしていいと言われたのですわ。公爵の娘ですから、自由は幼いころから諦めていたのです。病気で苦しい以上に、例え治っても知らない誰かに嫁ぐだけの将来に希望がもてませんでしたの」
「結婚する人がいい人かも知れないじゃないか。それにマーガレットにはレアスキルがある」
「公爵家といえど5女ですし病気で寝たきりだったのです。偶然にいい人に嫁げるとは思えませんでしたわ。私の【以心伝心】は気持ちを伝えるもの、という意味が含まれています。表面は取り繕えてもスキルで気持ちが伝わってしまえば……そう思うと怖かったのですわ」
「……そうだったのか」
マーガレットと悩みごとの内容は違うが、俺も悪い方にばかり考えがいってしまう。
事実そうなることもあるだろうが、実際はやってみないとわからない。
だが、その考えから抜け出すには何かきっかけが必要なことがある。
俺がとあるパーティーとの出会いがきっかけで前に進めたように、マーガレットが俺との出会いで前に進めたのなら、嬉しいことである。
「私は【以心伝心】をさらに応用させたいですわ。離れていても会話できることは、便利なだけでなく素敵なことだと思いますの。私や特別な方だけしか使えないのはもったいないですわ」
気持ちが前向きになったことで、考え方も変わったんだろうな。
病気のときの後ろ向きな考えと全く違い、他の人のことまで思えるようになっている。
「そ、そ、それでですね。やはり【以心伝心】を応用するには、チェスリーさんの教育が必要だと、その、思いますわ」
「よし、わかった」
「えっ。り、理解が早くて助かりますわ」
マーガレットの希望通り、【以心伝心】を教育しよう。
【以心伝心】で相手の位置がわかると聞いてから、俺も練習していたのだ。
残念ながらまだ成功していないが、伝えられる文字数をさらに増やすことに成功した。
この調整済みの魔力制御を、俺の思いを込めて流してみる。
「え、え……何ですのこれ……ああっもうダメですわ!!」
あーやばい、やりすぎたかも。
マーガレットが急に飛びついてきて強引にキスしてきた。
こっこれは強烈だ。
「ふっふっふうう~」
「ま、マーガレット?大丈夫?」
「もうっチェスリーさん、さっきのは何ですの!」
「えーと、マーガレットの言葉が嬉しくてさ。思いを込めて魔力を流してみました」
「おっ思いを!?ま、まあそれならしょうがありませんね」
よかった、案外ちょろ……いや、これ以上はいけない。
「それじゃもう1回する?」
「えっ!え、え。恥ずかしいですわ~~~!」
マーガレットは小屋を飛び出して行ってしまった。
……後で謝っておこう。
しばしぼーぜんとしていると、メアリが小屋に入ってきた。
「師匠、マーガレットさんを虐めてはいけないと思います」
「いやいや……あ、ちょっと意地悪だったかも」
「……はあ。何か嬉しいことでもあったのですね」
「え、よくわかったな」
「師匠が意地悪なんて、浮かれているときぐらいしかないと思いました」
「う、まあ。マーガレットの前向きな考え方が聞けて嬉しくてな」
「……そうでしたか。では次は私の番ですね」
「あ、ああ。メアリは何の教育を希望するんだ?」
「はい?お話しさせていただくだけです」
「あれ?そうなのか」
メアリもよくわからないことがあるんだよな。
ミリアンから教育の感情抑制の話を聞いた後は、寵愛がどうとか言ってたような。
てっきり他の2人と同じように教育とキスのおねだりかと思ってしまった。
「私は『暁の刃』であまり活躍することはありませんでした。闇魔法しか使えず、魔法使いとして使いどころが難しいと言われてました」
「ああ、攻撃ができる火や風の方が冒険者に向いていると言われてるな」
「そんな認識を変えてくれたのが師匠です。ダークミストを応用した使い方は、既存の考え方にとらわれていた私には衝撃だったのです」
「ギルドの支援のおかげでいろんな魔法の講義を受けられたからな。講師をしてくれた魔法使いに、いろんな魔力制御を流してもらった経験が役に立ったんだ」
「正直に言いますと、最初は弟子にしてもらおうとは思っていませんでした」
「え?そうなんだ」
まあ、そのほうが当たり前か。
魔力制御をちょこっと教えただけで弟子入りを頼むなら、俺なんて何人弟子入りをお願いしなきゃならないんだか。
「王都に帰る途中でもう一度魔力制御を教えていただきましたよね。そのとき、何か特別な感じがしたのです」
……あ、思い出した。
キャシーに煽られたのもあるが、メアリに魔力制御を教えてほしいと頼まれたのだ。
その時は魔力視の頭巾を使って、メアリの魔力色に合わせて魔力を流したんだよな。
「それ以来、魔力制御がイメージに合うように操れるようになりました。ダークカバーや捜索魔法を開発できたのもそのおかげです。たった2日で、何年もできなかったことができたのです」
「うんうん」
「でも弟子入りを決心したのは教育していただいたことではありません」
「え?」
いや、流れてきに教育がよかったから弟子入りを決めたような。
「師匠がお人よしだったからです」
「はい?」
「師匠の教えは素晴らしいですが、お人が良すぎて心配だったのです。もちろん教えをいただくことも期待していましたが、それ以上に師匠のお傍で支えたいと思ったのです」
「……」
マジかよ!?
俺が頼りなさそうだから弟子になったってことなの?
エドモンダ様に、全て知ってました~って明かされたとき以来の衝撃だ。
「クラン加入後にヴェロニアさんをはじめ既に頼りになる方がいらしたのを知り、空回りしてしまいましたけどね……。転移魔法にこだわり移動は私が引き受けていたのも、常に師匠と共に行動したかったからです」
「それで師匠の雑事は引き受けるとか言ってたのか……」
「あははっ、今思うと自分でもどうかしていたかもしれませんね」
「お、いいねそれ」
「え?」
「メアリの笑顔。救出作戦が終わった後に見ただけだったかな。あれ以来見ることがなかったからさ」
メアリの顔がみるみる内に真っ赤になっていった。
うん、ちゃんとかわいいね。
「師匠は女性に甘いですからね。失礼します」
メアリがすっと俺の懐に飛び込んできてキスをした……。
おおう、完全に不意打ちだったぞ。
「弟子として他のメンバーに後れをとったままではいられません」
「教育なしでキスしたのは初めてなんだけど」
「こほんっ、弟子だからいいのです」
結局全員とキスしてしまった。
もうこの平原は特別な場所に決定だ。
いっそ村のようなものでも作って、孤児たちのお世話をするのもいいかもしれない。
「師匠?」
「あ、いや。ここはいい場所だから、子供の世話をするのもいいかもと思ってね」
「し、師匠、私は、その、まだ修行が足りていませんので――」
「いやいやいや、そういうことじゃないから」
まだ目標に向かい始めたばかりで、何も成していない。
こんな状況で無責任なことできないよ。
3人の話が終わり、それぞれ話してくれたことを思い出していた。
アリステラはもっといろんな物を作りたいと言っていた。
自分のためにも協力してくれると言ってくれたが、俺のやろうとしてることは”復讐”なんだよな……。
もっと物作りに専念できるところのほうがいいのではないか?
マーガレットは【以心伝心】をもっと便利にしたいと言っていた。
ダンジョン攻略では【察知】を担当してもらったが、探索が必要な場面では司令塔としての役割を期待している。
しかし、マーガレットのやりたいことを邪魔しているのではないか?
メアリは……うん、ちょっと置いておこう。
アリステラとマーガレットはダンジョン攻略に駆り出されることがある『百錬自得』より、もっと適切な場所があるのではないだろうか?
「なあメアリ、俺はやりたいようにやってるけど、クランメンバーのみんなはやりたいことができてるのかな」
「はい。こんなにみんなが楽しそうに活動しているクランを他に知りません」
「でもさ、俺たちは元からダンジョン攻略をする仕事をしてるからいいけど、他のメンバーは他の仕事をしたいんじゃないかな」
「……あははっ」
「え?メアリ?」
「師匠はメンバーのことも心配が過剰なようですね」
「い、いやあそうかな。今回の攻略でみんなのスキルが桁外れに凄いことがわかったからかも」
「……先ずやりたいことで言えば問題ありません。みんなチェスリーさんを手伝いたいと思っています。それがやりたいことなのです」
「そ、そうか」
「仕事についても強制はしていませんし、”適材適所”と言えるでしょう」
「”適材適所”……能力や特性に相応しい地位や仕事、ということだったかな」
「私は能力がなく、やりたいことができませんでした。今回行ったダンジョン攻略など想像したこともありません。師匠の教育や『百錬自得』のおかげで、みんなはよりやりたいことができるようになったのです」
「……うん、ありがとう。おかげですっきりしたよ」
「師匠これからもよろしくお願いします」
そう言ってメアリは華やかな笑顔を見せてくれた。
心配が過剰か、確かにそうかもしれない。
でも大切なメンバーのことを心配するのはしょうがないよね。
そして俺の教育でやりたいことができるようになった……か。
今後も俺の教育で”適材適所”が生まれるなら喜ばしいことだ。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
5章はこのお話しで完結です。
次回は「新メンバー加入」でお会いしましょう。




