第83話 役割分担と今後の課題
未発見ダンジョン攻略の戦術は確認できた。
俺が想定していたより、みんなのスキルは優秀だったようだ。
一番目のダンジョンが短時間で攻略できたので、続けて二番目のダンジョンへ向かうことにした。
俺の転移で移動した後、アリステラの【分析】でダンジョンの構造を調べてもらう。
最初の小さいダンジョン核に比べれば、ダンジョンは広く深くなっているだろう。
しかし、真上から直接ダンジョン核を目指すのであれば、横の広がりは関係ない。
問題があるとすれば、魔物との戦いが避けられるかどうかだ。
幸運にも二番目のダンジョンでは、2つの空間を経由したが魔物に出くわすことなく、ダンジョン核まで辿り着いた。
結果、わずか1時間でダンジョン核を回収することに成功した。
こうなると三番目のダンジョンも続けて攻略したくなる。
全員に疲れや魔力の状況を確認するが大丈夫なようだ。
そして三番目のダンジョン攻略を始めたのだが……。
「ここも何か魔物がいるよう……恐らく3匹ほどですわ」
問題が発生していた。
マーガレットの【察知】に反応があった場合、魔物を避けるために、ある程度離れた場所で空間を探し穴を掘るようにしていたが、運悪く2度目の穴の下にも敵がいたようだ。
「チェスリーさん、まだ魔力の余裕はありますが、何度も掘り直すようだときつくなるかもしれませんわ」
アリステラの魔力量は多いが、無尽蔵というわけではない。
魔力回復ポーションもあるが、アリステラの魔力を回復するほどの量を飲むのはきついだろうな。
「こういうときはレフレオンさんか、マックリンさんがいればいいのでしょうけど……」
「いや、今回は魔物と戦うつもりはなかったしな。偶然運が悪かったんだろう」
「師匠、偶然にしても気になります。アリステラさんの【分析】で地上に繋がるようなところがないか確認してもらったほうがいいでしょう」
「そうだな。これからも先に地上へ繋がる部分がないか確認するようにしよう。アリステラ頼む」
「はーい。…………繋がってはいないようですけど、あっちのほうに地上に繋がりそうな空間がありますね」
「わかった。アリステラはこっちへきて。視認転移で移動しよう」
アリステラを連れて、指示された方へ視認転移で移動する。
「さあて、埋めてしまいますわ」
アリステラが土魔法を使い、周囲から土を集めつつ薄くなっている部分に押し込んでいく。
「【分析】で確認っと……これで大丈夫ですわ。でも穴を掘るより魔力消費が大きいですね」
「アリステラじゃなければできないけどな……」
アリステラが穴を掘る速度や土の大量成型も魔力量が多いだけが理由とは思えない。
常に物作りをし、熟練を高めているからこそできる芸当だろう。
【分析】を使いこなすのも早かったが、様々な素材に触れたおかげなのだろうか。
魔道具クランでも凄い勢いでいろんな素材を加工してたからな……。
「これからどうしますか?四番目にいってみるのですか?」
「ま、まあ1日で全て攻略できると思ってなかったし、今日はここまでにしよう。四番目はダンジョン核が一番大きいし、また問題があるかもしれないからな」
「あのっ、それならなおさら調査したほうがいいと思いますわ!まだ【分析】も使えます!」
「あ、ああ。その通りだな」
俺が指示すべきことを、アリステラに教えられるとは……。
過保護にしすぎているのかもしれない。
余裕があるなら、調査ぐらいはしておくべきだろう。
四番目のダンジョンに転移し、アリステラに【分析】で調査してもらう。
「これは……やっぱり広いですね。でも地上のほうに近い空間はないようですわ」
「チェスリーさん、試しに行ってみますか?」
「そうだな……魔物の反応がなければ行ってみよう」
「了解ですわ!」
ダンジョン核まで3つの空間を経由したが、魔物の反応はなく順調にまっすぐ進んでいけた。
無事ダンジョン核も回収でき、攻略完了だ。
「あっさりいけましたわね」
「ああ、三番目のダンジョンは本当に運が悪かったようだな」
三番目のダンジョンは、ちゃんと中も調べたくなってきたな。
何か特別なことが起こっているのかもしれない。
「それじゃみんな帰ろうか」
「「「「はい!」」」」
戦術が概ね上手くいったことで、ダンジョン攻略の役割が決まった。
メアリの【捜索魔法】で、ダンジョン核の正確な位置を把握する。
アリステラの【能工巧匠】と【分析】で、ダンジョンの構造を確認しダンジョン核への道を作る。
マーガレットの【察知】で、穴の先に敵がいるかどうかを確認する。
俺とメアリは【転移魔法】で穴の先へ転移し、【察知】で周囲を索敵する。
問題なければメアリが【転移魔法】で待機メンバーを連れてくる。
最後はミリアンの【収納魔法】の応用で、ダンジョン核を離れた場所から収納する。
アリステラ、マーガレット、ミリアンの役割は魔力量が多いからこそできることだ。
俺とメアリは冒険者の経験とレアスキルを生かした役割になる。
魔物が溢れる前の若いダンジョンであれば、このメンバーだけで攻略できると思う。
確実に魔物との戦闘を避けて進めばいいからだ。
しかし、それ以上の規模のダンジョンでは、この戦術だけでは対処できない可能性がある。
どのような魔物が存在するかわからないからだ。
マーガレットの【察知】は優れているが、小さい穴を通じて索敵できる範囲はそれほど広くない。
索敵範囲外から遠距離攻撃してくる魔物がいるかもしれない。
恐ろしいほどの速度で移動してくる魔物がいるかもしれない。
特に知恵を持つ魔物は行動がよめない。
ダンジョンが発生してからの年月が経過するほど強い魔物が出現する。
魔物との戦闘を全て回避することは難しいだろう。
もちろん若いダンジョンでもどのような例外が発生するかわからない。
しかし、警戒が過剰になりすぎても攻略は進まない。
不測の事態に備えつつ、時には大胆な戦術も必要になるだろう。
保留になっている追加メンバーの話を進める必要を改めて感じた。
ダンジョン攻略の役割が決まり一見このメンバーだけでいいように思えるが、もし一人でも欠けた場合に代わりを務めるのが難しいのだ。
一人も欠けさせるつもりなどないが、何らかの都合で攻略に参加できないことがあるかもしれない。
個々の能力はどこにも劣らないと自負しているが、組織力としては脆弱と言わざるを得ない。
クラン会議で提案してみるかな。
『百錬自得』のクラン拠点に戻ると、ケイトさんが出迎えてくれた。
帰ってきた実感がわくし、ほっとするなあ。
「チェスリーさん、よい結果がでたようですね」
「ああ、何とかうまくいったよ。ヴェロニアは?」
「エドモンダ侯爵様とお話しされています。みなさんはご休憩なさってください」
「そうか、ありがとう」
エドモンダ侯爵様にも成果の報告をしたかったところだし、ちょうどよかったな。
みんなでお茶を楽しみながら待っていると、ヴェロニアとエドモンダ侯爵様の話が終わったようだ。
二人いっしょにお茶の席に加わった。
エドモンダ侯爵様から話しかけてきた。
「チェスリーくん、ダンジョン攻略は成功したかね?」
「ええ、想定していた戦術が上手くいきました。小さめですがダンジョン核を3個入手できました」
「ええ!?ヴぇ、ヴェロニアくんに今日から攻略開始と聞いていたのだが、何故3個も入手できたのかね!」
いやあ、これが当然の反応だよな。
いくら小さめのダンジョンといっても、通常の攻略なら丸1日かかる。
転移魔法を知っているエドモンダ侯爵様でさえこうだから、いかに常識外れのことかよくわかる。
俺はエドモンダ侯爵様に今回使った戦術を一通り説明することにした。
途中何度か質問されたが、返答するたびにエドモンダ侯爵様の顔が驚愕に歪んでいた。
なるほど、客観的に見るとこういう反応になるのか。
……うん、俺は外ではしゃべらないようにしよう。
「凄まじい攻略法があったものだ……きみらを知らなければとても信じられなかったろう」
「あたしもまさか3個も持って帰ってくるとは思わなかったわ。時間がかからなかったとしても魔力が尽きると思ってたの。アリステラの負担が大きいでしょ?」
「えっと、小さめの穴だったので大丈夫でしたね。深さも【分析】でわかるので、魔力を調整して数メートルづつ流すようにして節約しました」
「その数メートルってところが既に規格外なのよねえ」
「クマさんの成型に比べれば簡単ですわ!」
アリステラの感覚では、まっすぐ小さめの穴を掘るなど、成形しながら数メートルの人形を作ることに比べると簡単という……。
言ってることは理解できても、やってることが凄すぎて理解が追いつかないよな。
「今後のダンジョン捜索の方針について、わしの考えはヴェロニアくんに話しておいた。だがクランの方針は君たちが決定してほしい。わしの役割は支援で力を貸すことだからな」
「はい、支援感謝します。ヴェロニアが無駄遣いしてるようですが……」
「ん?何を言っておるのかね。金貨100や200枚――」
「ちょっと侯爵様!こちらへ」
ヴェロニアがエドモンダ侯爵様の言葉を遮り、何か耳打ちしている。
金貨100や200って言いかけてたけど、後に続く言葉が何だろうな。
二人の話が終わったようだ。
「ごほんっ、金のことは心配いらん。チェスリーくんは思う存分、目標に向かってくれたまえ」
「は、はあ。わかりました」
心配するなと言われても、既にエドモンダ侯爵様にかなり出資させているだろうしな。
クラン拠点である屋敷の維持や食費、メイドさんたちの給金・魔道具用魔物素材代・探索用備品代など、俺は管理していないからどれほど使っているのかわからない。
相当経費がかかってるんだろうな……。
それにメンバーの報酬ってどうなってるんだろ。
文句一つ言わず力を貸してくれるメンバーに感謝だな。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
次回は「クランメンバーのそれぞれ」でお会いしましょう。




