第81話 未発見ダンジョンの捜索
空を飛ぶ練習をした場所に戻ってきた。
見晴らしのいい平原だし、ここに隠れ拠点を作のもいいかもしれない。
何もないところなのに、何度も来ていると愛着がわくものなんだな。
忘れられない出来事もあったから余計にそう思うのかも……。
都市や町から離れた土地は、持ち主が決まっていないことが多い。
無理に自分の土地にしてしまおうとしても、魔物対策ができなければ潰されるだけだ。
今の町や村も魔物が偶然いなかったり対策がしっかりできたところが発展していった。
王都はまさに魔物対策が成功した例の町だしな。
将来はここに家を建てるのもいいか。
お嫁さんをもらって、子供を育てて――
「師匠、黙ってどうされたのですか?」
「おおう、メアリ。いやちょっと考えごとをしていてな」
「はあ、そうでしたか。それで捜索はどういう方針で進めましょうか?」
「そうだな。人里に近いところからと言いたいところだけど……メアリの捜索はダンジョン核の大小を判別できるのか?」
「はい。感度をあげすぎると、ダンジョン核の欠片まで感知できたほどです。感度の調整をしながら感知を行えば、大よその大きさは判断できると思います」
「頼もしいな。最初はなるべく若いダンジョンから始めたいんだ。戦術に問題がないか確認したいからね」
「わかりました。早速この近辺から捜し始めましょう」
「あ、その前にメアリに話しておくことがあるんだ」
「はい、何でしょう」
……どう伝えればいいかな。
いきなりキスの話なんかして軽蔑されたらどうしよう。
上手い言い回しなんて思いつかないし、自分の言いたいように伝えてみよう。
「えっとな、ミリアンとキスをしたんだ」
「はい」
「……え?それだけ?」
「奥さまとキスなさるのは当然かと」
「いや、奥さまじゃないから」
「婚姻されてないことは知っています。でも恋人でいらっしゃいますよね?」
「ん、う~ん。ちゃんと恋人だと宣言したことはなかったかも……」
「前のクランでもそういうことはありましたから。お互い合意なら何も問題ないです」
「そ、そうか。それでだな、メアリともキスしようと思うんだ」
「はい?」
「チェスリーさん、それだとわからないと思いますよ」
「あ、すまない。ええと、そうあれだ感情を抑制するために――」
話している途中で、メアリの顔が真っ赤に染まっていった。
「師匠。ミリアンさんだけでは物足りないと。私ごときでよろしければ全てを――」
「いやいやいや、違うから。そうじゃなくてだな」
「ああもう。私から話しますので、チェスリーさんは少しお待ちください」
ミリアンがメアリを連れて少し離れた場所に移動した。
二人で話しているようだ。
緊張して話す順序も何もあったもんじゃない。
自分で話した内容を思い出してみると、何を言いたいのかさっぱりわからないよな。
ミリアンとメアリの話が終わり、こちらに戻ってきた。
でもメアリの顔はまだ真っ赤なままだ。
「師匠……私は既に返しきれないほどの恩を受け、生き甲斐を感じています。その上……ご寵愛をいただいてもよいのでしょうか」
「い、いやあ。そんなに重く考えなくても。俺もその……メアリとキスするのは嫌じゃないし」
――ボフッ
メアリの頭から煙でも出た様な効果音が聞こえた。
メアリが倒れそうになったので、慌てて支える。
「師匠、私嬉しいです」
「そうか、こちらこそありがとうな。こんな俺の弟子になってくれて」
「師匠……」
「ごほんっ。私もいますので、そろそろご遠慮ください」
「あ、ああ」
メアリのこと女性として意識してしまえば、すごく可愛いんだよな。
もうここまできたら後戻りはできないから、欲望に負けないように気をつけよう。
「そ、それじゃあダンジョン捜索を始めよう!」
「はい、師匠。では空を飛ぶのはお任せしますね」
そう言ってメアリがしっかり抱きついてきた。
「めめめ、メアリ?」
「こうしないと私が一緒に飛べません。お手数かけますがお願いします」
「……はい」
二人分の体表に魔力を纏わせることできるかな……。
重力魔法を発動し、展開範囲を魔力制御で調整……おっと、案外簡単にできた。
「メアリ、飛ぶよ」
「いつでもどうぞ」
メアリと二人で上昇していく。
ミリアンも追うように上昇してきた。
視認転移は上空から地上への移動に限定した。
空から空への転移は、空以外の何らかの物が視線に含まれないと転移先がイメージしにくかったのだ。
それに目的は未発見ダンジョンを探すことなので、地下にあるダンジョン核を捜索魔法で探すには地上で行う必要がある。
空を飛んでからの視認転移とメアリの捜索魔法のおかげで、どんどん調査が進んでいく。
5回目の移動の後、ついにダンジョン核が感知にかかった。
「師匠、かなり小さめだと思いますが感知にかかりました」
「メアリ、よくやった。これは運がいいぞ、最初の攻略はここで決定だ」
「お褒めいただき恐縮です」
「もう少し軽い口調でもいいんだよ?」
「い、いえっ。口調までくだけてしまうと、落ち着きませんので……」
「そっか。ダンジョンが近くに固まっていることはないと思うが、念のため全て調査していこう」
「了解です」
ここからは役割を分けて探索することにした。
俺は視認転移、メアリは捜索魔法、ミリアンは重力魔法の担当だ。
分担により効率がよくなり、捜索が先ほどより早く進んでいく。
ミリアンが全員を空に運び、俺が目標を決めて地上へ転移、メアリが捜索するというのを繰り返していく。
自分がやるべきことが一つに絞られるたほうが迷いがなくていいね。
やはり最初に見つけたダンジョンのすぐ近くにはダンジョン核の反応はなかった。
その後10回ほど転移したところで2個目のダンジョン核の感知に成功した。
「よし、これでヴェロニアに言われた最低限の捜索はできたな。後は切りのいいところまで調べたら引き上げよう」
「「はい」」
日が沈みかけたころ、予定より広範囲の調査が終わったところでクラン拠点に戻る。
その後2つも追加でダンジョン核を見つけることができた。
……広範囲を調べたとはいえ、当たり前のように未発見ダンジョンは存在していたんだな。
魔法を使い続けたので、俺は魔力が枯渇気味だったが、ミリアンだけ余裕そうだな。
いや、メアリもまだ余裕があるようだから、俺だけ枯渇気味か……。
メアリの魔力量も増えているようだが、どうやったら魔力量が増えるんだろうな。
しかし、未発見ダンジョンが想定以上に存在することがわかってしまった。
人里に近い魔物が溢れる恐れがあるダンジョンは、なるべく早く見つけなければならない。
魔力量のことは後回しだな。
クラン拠点に戻った俺たちは、軽く調査結果を報告した後、先に食事をとることになった。
捜索した俺たちも発見した数に驚いたが、待機していたヴェロニア達はもっと驚いただろう。
落ち着いてから話し合いをしたほうがいい。
食事の間は、ダンジョンの話題がでることはなかった。
別の話で盛り上がったからである。
俺がメアリにキスのことを伝えたように、ヴェロニアからアリステラにも伝えられていた。
マーガレットは既に知っていたらしい。
ヴェロニアめ、仕込みを伝えるのにマーガレットの【以心伝心】を使ったな。
食事後はクラン会議を開くことにした。
出席者は俺、ヴェロニア、ミリアン、マーガレット、アリステラ、メアリの6人だ。
クラン会議も回数を重ねてきたが、今回は俺にとって特別な思いがある。
ついにクラン『百錬自得』でダンジョン攻略に挑むことになるからだ。
長年止まっていた時が動き出すような、高揚感のようなものを感じていた。
「第13回クラン会議を始めるわ。チェスリーが進行してちょうだい」
「わかった。既に伝えたが、未発見ダンジョンを4つ発見することに成功した。いや、正確にはダンジョン核4個だな」
「え?ダンジョン発見でいいのではないですか?」
アリステラの意見はもっともだ。
ダンジョン核があれば、ダンジョンが作られるのだからな。
「いや、俺は一度未発見ダンジョンを攻略したことがあるが、ダンジョン核は拳ぐらいの大きさだった。その大きさでダンジョンは1層しかなかったんだ。メアリの捜索魔法で調べた結果では、もっと小さいものが見つかったらしい」
「それだとまだダンジョンになっていないかもしれないということですか?」
「そうだ。まだ確認できていないけど、その可能性もあるなと思ってね」
「へえ。そういうものなのですね。……もしかして私のスキルで調べられますか?」
「その通りだ。アリステラに【分析】を教育したのは、ダンジョンの構造を確認してもらうためだからな」
「そうでしたか。はい!頑張ります」
「あの、それでは私の【察知】も使われるのですか?」
「そのつもりだ。俺も【察知】を使えるから、マーガレットは別の役割も頼みたい」
「はい、何でしょうか」
「マーガレットの【以心伝心】で常に連絡がとれるようにしたいんだ。俺の【以心伝心】だけでは、もし戦闘になった場合や不測の事態があった時に困る。司令塔の役割を担当してもらえないだろうか」
「はい!お任せくださいませ」
細かい指示は後でまとめてするとして、今回の目標を決めないとな。
「先ずはダンジョン核を2個入手すればいいんだな?」
「ええ、でも拳大より小さいのだけではちょっと困るかも」
「攻略が順調にいけば4個持って帰るよ。それなら足りるだろ?」
「そうね。あ、さすがに何に使うかバレてるわよね」
「そりゃあジェラリーさんに会いにいって、ダンジョン核の話がでたからわかるさ」
「……ごめんね。偉そうなこと言っておいて、ダンジョン核はやっぱり確保しろだなんて」
「いや、いいんだ。経理を経験したことで、ダンジョン攻略に経費が必要なこともわかってるしな。ダンジョン核の確保で賄えるなら、戦術の邪魔にはならない」
「そっか~よかったわ。ちょっと変化の腕輪で使いすぎた分は返さないと悪いなと思ってたの」
「は?……ちなみにおいくら?」
「金貨70枚」
「ええええええ!何でそんな高いんだよ」
「そりゃああらゆる魔力に阻害されないように、高級な素材を使いまくったからに決まってるじゃない」
「おま……まあ、あの腕輪には感謝しているが……」
「あ、それと認識阻害のローブなんてね――」
「いやああああ、聞きたくないーー」
真面目に進行してたのに、雰囲気丸潰れだよ。
ヴェロニアは元々金に無頓着だったが、ここまで歯止めが利かなくなっていたのか。
これはもう本格的にダンジョン核を集めるしかない。
さあ、気を取り直して攻略の話を進めよう。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
次回は「未発見ダンジョンの攻略」でお会いしましょう。




