第76話 空を飛ぶ魔法の練習
空を飛ぶ魔法を開発するための一歩として、ミリアンに重さ軽減の魔力制御を教えてもらう。
ミリアンに魔力を流してもらうのって初めてじゃないかな。
収納魔法のときは、『暁の刃』のキャシーに教えてもらったからな。
「で、では、いきますね」
「あ、ああ」
ミリアンから魔力が流れ込んでくる。
やはり魔力を直接流してもらった方がよくわかる。
なるほど、【転移魔法】の場合は転移範囲に放出するが、重さ軽減は体の表面に纏わせるように展開するんだな。
「どうでしょうか?」
「うん、これは他の属性にも応用できるかもしれない。【建城鉄壁】の魔力制御によく似ているんだ」
「あ、【建城鉄壁】も体に纏わせるような制御なんですね」
「ああ、そっちで慣れているから魔力色を合わせれば修得できると思う。ミリアンは重さ軽減でどのぐらい自分を軽くできるんだ?」
「注意しないと浮いてしまいそうなぐらい軽くできます。ほとんど重さを感じないですね」
「ほお、さすがミリアンだ」
「い、いえ。私なんてまだまだで……」
少し照れたような感じで謙遜しているが、ミリアンの才能は大したものだ。
魔班病治療で出会ったときのことを思うと、こうして一緒に魔法の開発をするなんて奇跡だよな。
ここまで使いこなせているなら、重さの方向が制御できるか試してもらいたい。
だが、失敗すると落下する危険がある。
安全に練習することはできないだろうか。
「……チェスリーさん、何かありました?」
「あ、いや。ミリアンに試してほしいことがあるんだが、安全なやり方はないかなと思ってね」
「チェスリーさんがいるなら問題ないですよ?お手伝いしていただきたいのは空を飛ぶ練習のことですし」
「え?俺が試してほしいことがわかってるの?」
「えっと、そこまでお見通しではないです……。でも安全を考えているのは、空から落ちるのが危険だから、ですよね」
「そ、そうだな」
「ふふっ、チェスリーさんは他人の安全が関わると慎重になりすぎです。いくつかお考えはあるのでしょう?」
「……風魔法を制御して落下を和らげるか、俺も一緒に飛んで【建城鉄壁】で衝撃を吸収する。だがどちらも少し危ないんだ。【建城鉄壁】を使うなら、俺自身がやったほうがいいしな」
「やっぱりあるのですね。私は……一緒に飛ぶのを希望ですね」
は~、ミリアンかわいい。
どんな事態になっても守ろうじゃないか。
「うん。練習に行こうか」
「あっ……着替えてきますね」
ミリアンはぱたぱたと自分の部屋に行ってしまった。
スカートで空を飛ぶ練習はまずいよね。
ミリアンが着替えて戻ってきたので、俺の転移で練習場所へ移動しよう。
どこがいいかなぁ……あ、未発見ダンジョンの捜索のときに仮置きした転移陣があった。
あそこなら広々しているし、人里からも離れているからちょうどいい。
「ダンジョン捜索で見つけた場所で練習しよう」
「はい、転移お願いします」
そう言うとミリアンはぴったりくっついてきた。
「ミリアンって転移のときいつもこうだけど、少しぐらい離れても大丈夫だよ?」
「これは私の決めごとです。チェスリーさんと転移するときは、こうしようって」
「ぐっ、そうなんだ……。うん、決めごとならしょうがないね」
「ええ、しょうがないです」
久しぶりに二人きりのせいか、ミリアンが積極的な気がする。
思わず気が緩んでしまいそうだ……。
練習とはいえ危険があるかもしれないから、ちゃんと集中しないとな。
「さてと、ここなら思う存分練習できるぞ」
「わあ、周りに何もないですね。これ遠くから見られてたりしませんよね?」
「うーん、【一望千里】はレアスキルだし滅多に使える人はいないから、大丈夫じゃないかな。この近くは人の住んでいるところもないし」
「そうですか。では試してみたいことを教えてください」
「先ず体の重さを空気より軽くすることで浮きあがる。浮いたところで部分的に魔力を薄くしたら、どうなるかと思ってね」
「そうですね……それだと薄くしたところが重くなって、重いところが下になるだけでは?」
「そう……なのかもな。試しにやってみよう」
「はい」
ミリアンが魔力を展開するとやがて体が上昇し始めた。
幸い今日は風がほとんどない。
しかし風があると、この状態は流されてしまいそうだな……。
ミリアンが腰の高さぐらいまで上昇したところで、魔力を加減して浮いたまま止まった状態にしてもらう。
「その状態で左側の魔力を弱めるように制御して」
俺はミリアンの左側、少し離れたところで待機する。
もし俺の考えが正しければ、ミリアンはこちらへ来るはずだが……。
「む、難しいですね……左側だけ魔力を弱めるのって……」
ミリアンは魔力制御に苦労しているようだ。
さすがにミリアンでもいきなりは無理か。
「一度降りてきて、魔力制御がわかりやすいように教えるよ」
ミリアンが地上に戻り、遠慮がちに話しかけてきた。
「あの……流すのはレアスキルの魔力でしょうか?」
「いや、魔力を留める制御を教えるだけだから、闇魔法の魔力だね」
「なら安全かな。お願いします」
俺のレアスキルの魔力が危険物のような扱いになってる……。
ま、まあ気にしないでおこう。
教えるのは【建城鉄壁】を応用する際に、俺が考案した魔力制御だ。
グレアートが使っていたのは全身に纏うようにする制御で、重さ軽減の制御と同じ方法だ。
俺は他人が危ないときにも防御できるように、全身に纏った魔力を部分的に体内に留め直して、透明の魔力色と合わせて放出する技を開発した。
【建城鉄壁】を離れたところにいる仲間の前面に放出すれば、防御することができるのだ。
重さ軽減の魔力は放出する必要がないので、その前段階の留め直すところができれば、体表の魔力の一部を薄くすることと同じになるはず。
制御だけなら【建城鉄壁】の魔力色にする必要はない。
……やってみたらどうなるか気になるが、やめておこう。
ミリアンに魔力を留め直す制御を、魔力を流して教える。
さて、反応はどうかな。
「……これなら……んっ、大丈夫」
あれえ、レアスキルほどではないけど、闇の魔力でも何かに耐えてる感じだな。
「どうかな?」
「はい。制御の方法はわかりました。実際にやるには練習しないといけませんね」
「俺も練習するとしよう。落ちても大丈夫なように、高さはちょっと浮く程度にしようか」
「そうですね」
俺は重さ軽減ができるようにならないとな。
魔力視で色を合わせれば、微調整で使えるようになるはず。
魔力色を作り、全身に魔力を纏わせていく。
うーん、確かにすぐできたが、相変わらずの魔力不足。
魔力量が増えたといっても、ミリアンに比べれば半分にも満たないだろうからな。
空気より軽くするには、魔力制御をより精密にして、使う魔力を減らすしかない。
より効率的な魔力色と制御を調整して試行してを繰り返す……。
どれほどの時間練習しただろうか。
やっと体を浮かせることに成功した。
「――チェスリーさん!」
「え、ああ。ミリアンどうかしたかい?」
「……凄い集中力ですね。先ほどから呼びかけていたのに全く気づかないなんて」
「あ、すまない。魔力制御に没頭していたようだ」
「もう重さ軽減ができるようになったのですね。私がそこまでできるのに、かなりかかりました……」
「【建城鉄壁】の制御で下地があったからだよ。俺は魔力量が少ないから、魔力色の微調整もしないといけないしな」
「こんな短時間に調整まで!?……その調整した魔力を流していただけませんか」
「あ、ああ」
微調整した魔力をミリアンに流してみる。
すると……。
「ちぇ、チェスリーさん……す、少しだけでいいので……このまま」
ミリアンに抱き着かれた状態だ。
レアスキルの魔力じゃなくてもこうなることはあるんだな……。
『黄金の翼』では、ここまで顕著な反応がでたことはない。
何が違うのだろうか。
しばらくすると、ミリアンが落ち着いてきた。
顔は真っ赤だけど。
「ありがとうございました。しかし……凄いです。こんなにも感情が揺さぶられるなんて」
「メアリに聞いても教えてくれなかったのだが……どんな感じになるんだ?」
「えっと……私も説明するのは難しいです。ヴェロニアさんのお話しでは、人によって異なるらしく、チェスリーさんへの印象で大きく変わるようですね」
「そうか……ミリアン俺は……」
「……今はこの関係で十分満足してます。毎日の修行も楽しんでやっていますしね。チェスリーさんの目標を邪魔するほうが私は嫌ですから」
「……ありがとう」
「チェスリーさんの……その目標や状況が許せるようになったら……またお気持ちを聞かせてください」
「うん……わかったよ」
「あっ、それで私のほうの練習ですけど、移動できるようになりました!」
「おお!できたかい」
「ええ、不思議ですね。何故魔力を薄めた方向に進むんでしょうか?」
「俺の想定だけど、この魔法は重さ軽減ではなく空間に作用しているようなんだ」
「空間……ですか?」
「ああ、全身に纏わせることで、重さを軽減するのではなく、空間に作用して周りの空間とは別になっているのではないか、とね。だから魔力を薄めると元の空間との繋がりが生じて、その方向に引っ張られるように進むと思ったんだ」
「……む、難しいですね。でも実際できたのだから、そうなのでしょう」
「この魔法は空間魔法と呼ぶことにしよう。思った以上に方向転換や上昇下降も自由にできそうだ」
「はい、私も練習しておきます」
空間に作用するなら、突風などの影響もなさそうだ。
【建城鉄壁】の防御力も空間が異なるという性質を利用していると思われる。
高く上昇すると、山頂のように寒さ対策も必要と思っていたが、空間が異なるなら……。
やはり実際に試して疑問点を潰していくしかないよな。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
次回は「ミリアンのおねだり」でお会いしましょう。




