第72話 男は拳で語る
今日こそ視認転移の練習をしようと、メアリを誘いに行った。
……その途中でヴェロニアに捕まった。
都合よく忘れていたのだが、都合よく逃げることはできなかったようだ。
見学にマックリンとメアリも着いてきた。
「ヴェロニア、実験ってどんなことするんだ?」
「あたしが開発した鉄壁くんを試してほしいのよ」
「何だよ鉄壁くんって。何でもくん付けすればいいってもんじゃないぞ」
「性能がしっかりしてれば問題ないの!」
「そこが一番心配なんだが……、まあいい。名前からして【建城鉄壁】の魔道具版か?」
「その通りね。それじゃレフレオン!よろしく」
「お、レフレオンこっちに来ていたのか」
「よお!チェスリー久しぶりだな。てめえ逃亡とかやらかしたらしいな。そういう楽しいイベントの時は俺を呼べよ」
「楽しくねえよ。俺は必死に逃げてただけだ」
「追っかける方は楽しいんだ。だが、てめえの俊足に追いつくのは骨が折れそうだがな」
こやつめ、もし追いかけられる状況になったとしたら、圧倒的に逃げ切ってやる。
それよりレフレオンがここに来たということは……攻撃する役なんだろうな。
「チェスリーはこれ持って構えてから、魔力を流して待機ね。レフレオンは思いっきり殴ってちょうだい」
「おう、グレアートの防御スキルの感触は覚えてるからな。殴れば強度がどの程度かわかるはずだぜ」
お前は拳で強度が鑑定できるのか。
ヴェロニアの目で語る能力といい、スキルに現れない特殊能力はいったい何なんだ。
ヴェロニアに渡されたのは、小型の盾のようなものだった。
素材が鉄ではなく、何かの革を張っただけのようで、手で簡単に折り曲げられる。
この持ち手から魔力を流すようになっているんだな。
「ヴェロニア、この盾小さいし柔らかいんだけど、これで本当に防御できるの?」
「魔力を流すと硬くなるわ。盾の形は試作品だからで、上手くいったらローブのように全身に着るようなものにするつもりよ」
「なるほど……。しかしこれでレフレオンの打撃を受けたら腕が吹っ飛びそうなんだけど。そこんとこどう思ってるの」
「あんたなら、腕のところを【建城鉄壁】で防御しておけば大丈夫でしょ。魔道具が期待通りの性能なら、受け止められるはずだから」
「……魔道具に自信ある?」
「ん~、半々ってところかな」
「おっけー、全力で防御しとくわ」
腕の前面だけに【建城鉄壁】を展開するなら簡単だ。
ゆっくり準備する時間もあるから、戦闘の時より強度をあげられる。
「レフレオン!来い!」
「おっしゃあああ、いくぜええええええええ!!」
――ブオオオオォォン!
レフレオンの拳が風を切る音と共に、猛烈な勢いで迫ってくる。
手抜きは全くしていないようだ……、いやいや、ちょっとぐらい加減してくれよ。
それにグレアートに使った時の技と何か違うような。
――ドゥオオン!
鈍い音がして見事に盾がへこんでいる。
展開していた腕前面の【建城鉄壁】で辛うじて止まったようだ。
「がっはっは!ざっとこんなもんだぜ」
レフレオンは喜んでるけど、盾がへこんでるし実験は失敗だったんじゃないの?
「レフレオンどうだった?」
「ああ、盾の硬さはまあまあってところだな。グレアートの【建城鉄壁】には及ばねえが、並みの攻撃は弾けるだろ」
「……お前、改良した技を使ったな?」
「おっとわかったか。次はグレアートに弾かれないように、捻りを加えて威力を増しつつ、寸前で止め打ちする打撃にしたんだ。衝撃が反動にならないよう、全て相手にぶつける感じだぜ」
「新技いきなり試すなよ。俺の腕が危ないじゃねえか」
「これでも【建城鉄壁】は破れる気がしねえからな。魔道具の盾とチェスリーの防御で、2重なら問題ねえはずだぜ」
「結果は問題なかったけど、あくまで結果だからな?最初は弱めの技を使うとかの段階を踏んでくれよ」
「そんなことしたら、魔道具の強度が確かめられんだろうが。チェスリーの防御も同時に試せてちょうどいいじゃねえか」
ふむ……一理あるな。
気持ちよくやってくれるなら、それでもいいか。
「納得したよ。ヴェロニア、これで魔道具の試しは終わりか?」
「あと3つあるの。後になるほど強度が落ちるから注意してね」
「ああ……わかった」
魔道具の盾を構えて、【建城鉄壁】で防御する。
それを繰り返すこと3回、その度に響き渡る風切り音と鈍い打撃音。
結果をレフレオンとヴェロニアで話し合っている。
「最後のは全然駄目だ。この程度じゃ鎖帷子でも着込んでる方がマシだぜ。後の二つはまあまあだが、2枚重ねにするほうがいいと思うぜ」
「レフレオンありがと。これで魔道具化の目途が立ったわ」
「お安い御用だぜ。ところで探索はまだやんねえのか?」
「ん~、そこはチェスリー次第といったところね」
「おう、チェスリー。そろそろどこか攻略してみねえか?」
ダンジョン攻略するのは、もう少し先のことになりそうだ。
それに未発見ダンジョンを攻略する場合、レフレオンの出番はないかもしれない。
「レフレオンの出番はまだ先になりそうだ。帝国に行く用事もあるしな」
「そうか、別に急いでいるわけじゃねえが、お前と組む探索はおもしれえから待ち遠しくてよ。始める時は必ず声をかけろよ」
「了解だ。探索の時は真っ先に声をかけるからな」
「ところでよ、そこの二枚目は、新しい仲間か?」
「ああ、そうだ。マックリンを紹介しておくよ」
マックリンを呼び、レフレオンと対面させる。
「俺はマックリン、チェスリーの相棒としてクランで活動する予定だ。よろしく頼む」
「レフレオンだ。俺もチェスリーの相棒の座を狙ってるんだがな」
「ほう……」
むむ……急に辺りの温度が下がったような感じが……二人とも動かなくなったし。
おい、まさか男同士でも目で語るとかないよな。
しばらく見守っていると、まるで示し合わせたように二人同時に一歩下がる。
うわ、二人とも拳を構えたぞ。
そう思った瞬間――。
――ブブブオオオオォォン!ドドドゥオオン!!
風切り音と鈍い音が二重に響き渡った。
レフレオンとマックリンが拳をぶつけ合った体制で止まっている。
「てめえ、いい拳もってるじゃねえか」
「お前こそ、俺の拳を拳で受け止めたやつは初めてだ」
分かり合ってるし……男は拳で語るってのはこういうことなのか。
「なあマックリン、しばらく俺と一緒にマクナルで冒険者やらねえか?」
「な……いや、俺は【建城鉄壁】の防御スキルを覚えるように言われてるんだ」
「ははあ、言ったのはチェスリーだな……、おい!チェスリー、過保護も行き過ぎるとためにならねえぞ。攻撃が得意なやつは攻撃動作の中に防御も含まれてんだ。下手すると攻撃のほうが崩れちまうぞ」
「な!?そ、そうなのか」
「マックリン、てめえもこれだけの拳を持ってんだ。自覚あるだろ?」
「まあ……いや、防御スキルを身につけるのも間違いじゃないと思ったんだ。特にレアスキルなら学んでみたかったからな」
「ふん、気持ちはわからんでもないぜ。俺も【嗅覚】が欲しくてしょうがなかったからな」
「え?【嗅覚】??」
「おう、すげえ便利だぜ。今じゃ店先に並んでる酒を一嗅ぎするだけで、一番いい酒がわかるんだ」
「は、はあ」
「レフレオンの嗅覚に関しては気にしないでくれ。完全に趣味だから」
レフレオンは真面目だか不真面目だかよくわからない時がある。
酒に関しては真面目とも言える…いや、今話すことじゃないし、やっぱダメだな。
「それで返事はどうなんだ。マックリンよ」
「レフレオン待ってくれ。マックリンは元特級クランのリーダーだ。今更マクナルの冒険者なんて――」
「チェスリー、俺はレフレオンと行動しようと思う」
「マックリン!?それでいいのか?」
「ああ、レフレオンに言われて俺自身もう一度【一騎当千】を見直してみたくなった。今まで俺は攻撃を重点に鍛えてきたが、以前は防御も同時にやってたはずなんだ。パーティーを組んだ攻略では、防御を他人任せにしていたせいで、防御技を軽視していたようだ」
マックリンの言葉に、レフレオンは納得したのか笑顔を浮かべている。
「よく言った。マックリンはレアスキルを持っていやがったんだな。尚更鍛えがいがあるぜ」
「よろしく頼む。マクナルというのは初めて聞くが、ここから近いのか?」
「いいや、馬車だと2ヶ月はかかるぜ」
「え?ああ、チェスリーの転移があったか」
「チェスリーじゃねえ。シルビアって人の転移で移動するんだ。俺はいつも世話になっているぜ」
「……おい、チェスリー。お前のところ何人転移使いがいるんだ?」
「えっと、今のところ俺とシルビアとメアリの3人だな」
「レアスキルの転移使いが3人も!?……ひょっとして……」
「うん、俺はシルビアから教わって使えるようになって、メアリには俺が教えた」
「うおおい!俺にも転移!転移教えてくれよ!!」
「ちょ、落ち着け。俺は【百錬自得】のレアスキルがあるおかげで修得できたし、メアリは転移魔法の素養がある魔力を持ってたんだ。さすがに誰でも使いこなせるものではない……と思う」
「そ、そうか……でも試してみたいなあ。お前の転移が羨ましくてしょうがなかったんだ」
「そうだ……な、でも先約があるようだから、そっちが終わったらね」
レフレオンが、俺の獲物をとるなとばかりに睨んできていた。
いや、マックリンは獲物じゃないからね。
「マックリンはこっちだ。早速帰って探索といこうぜ」
「お、おう」
マックリンはレフレオンに連れていかれてしまった。
俺はマックリンのレアスキルを、既に十分使いこなしているものと、思いこんでいたかもしれないな。
【一騎当千】の言葉の意味は、一人で千人の敵に対抗できるほど強い、ということだ。
マックリンの黄金の魔力を使った攻撃は、ドラゴンさえ一発で倒せるほど強烈だ。
だがその一発には、溜めの隙と移動ができないという致命的な弱点があった。
この弱点を克服しなければ、千人の敵を相手にすることはできないだろう。
もし言葉の意味通りの可能性が【一騎当千】にあるとしたら……これは面白くなりそうだ。
是非真価を発揮して、俺に見せてほしい。
俺も使えるようになるかもしれないからね。
それにしても、マックリンといい、グレイスといい、俺の相棒候補は何故か連れていかれてしまうんだな。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
次回は「教育は適切に」でお会いしましょう。




