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第7話 イビルアイの瞳を探せ

 ヴェロニアに魔道具に必要な素材を揃えてもらうように頼んだ。

 代金はオークションが終わり次第渡すことにして、ツケ払いだ。

 マルコラス一人分の分け前で代金が不足する場合は、リンジャックから借りるそうだ。

 俺への治療費はヘスポカへの旅費だけでいいと伝えた。

 本業は冒険者だし、治療費は成功報酬でいいだろう。


 妹さんの病状も安心できるものではないし、なるべく早く治療したいだろう。

 その場で治療できるよう、俺もいっしょにヘスポカへ行くことにしている。

 ヘスポカまで馬車で14日ほどかかるので、旅の準備も必要だ。

 道中は街道が整備されていないところもあるので、急いだとしても、それほど時間短縮は望めないのだが……。


 しばらくのんびりしようとしていた矢先に忙しくなったものだ。


 リンジャックらと共に、他のメンバーが泊まっている宿屋まで戻り、これからの予定を伝える。

 ニコライドとアントマスには、冒険者ギルドで依頼の確認を頼んだ。

 長距離の旅だし、せっかくヘスポカまでいくのだ。

 ついでにこなせる依頼があれば、請けておきたい。



 そうして準備を進めていたのだが……早速問題が発生したようだ。

 突然ヴェロニアが俺の家に駆けこんできたのだ。


 「チェスリー!あのね、魔道具の素材だけど、ほとんど後払いで揃ったまでは、よかったんだけど……一つだけ足りないものがあるの」


 「……何?足りないものって」


 「えとね、イビルアイの瞳」


 「うお、あの目玉の魔物か。また特殊な素材だな……」


 「いやあ、ついこないだまで素材屋にあったの。あれだけで金貨5枚もするのよ。絶対残ってると思ったんだけど、誰が買ったのやら。素材屋も買ったお客さんのことは教えてくれないのよね」


 「売ってるぐらいだから、他に使い道があるんじゃないの?」


 「そうねえ、研究用以外で……防具にでも使うのかしら。見当がつかないわね」


 「何か他に代用できるものないの?」


 「うーん、試作品ではバジリスクの眼を使ってたの。でも上位の魔眼で耐えられるものじゃないと、素材の強度が低くて、ほんのちょっとしか使えないの。バジリスクだって銀貨30枚もする上に、使い捨てるほどの数があるわけじゃないし」


 「しかし困ったな。あと3日で出発したいんだけど」


 「どっかにイビルアイいない?ぱぱ~と退治できるような」


 「その辺にイビルアイがいたら、町が全滅しとるわ。いたとしても俺が勝てるわけないだろ」


 「いつもの卑劣な手段で、こうばさっとやってしまえば」


 「卑劣じゃねええ!戦術といえ戦術と」


 「いや~~~、やられるほうとしては同じじゃないかなあ」


 「はあ……そのことはもういい。とにかく素材の情報集めてみるから、魔道具のほう頼む」


 「うん、他のところは先に組み立てておくね」



 ヴェロニアが帰った後、冒険者ギルドに行き、情報を集めることにした。

 イビルアイはダンジョンの中層以下に現れる、目玉が本体のような魔物だ。

 防御力は低いが、魔眼をもっており、視線にとらわれると混乱状態を引き起こす。

 周りの味方が魔物に見えたりするらしく、最悪同士討ちが発生する。


 対処としては視線を合わせず、遠距離から攻撃することが考えられる。

 もし混乱状態に陥ったら、精神異常を治す魔法で対応することができるが……。

 それができない場合は、撤退するしかないな。


 俺がやるなら……やっぱ卑劣な、いやいや、ちゃんと戦術を使うしかなさそうだ。

 その前に先ずダンジョンの中層まで辿り着くことができないだろうけど……。



 冒険者ギルドで聞いてみたが情報はなかった。

 マクナルから馬車で2日ほどのところにあるダンジョンでイビルアイは現れるらしいが、ダンジョンの中層までいくだけでも10日ほどかかるらしい。

 都合よく誰かが素材を持ち込んでくれたらいいが、その期待は薄いだろう。


 やはり買った人を調べて、譲ってもらうなりの交渉をしたほうがよさそうだ。

 こういう時は……やっぱりジェロビンにの情報に頼りたいな。

 懐もあったかくなることだし、いつもの酒場で飲んでいるだろう。




 酒場の扉を開けると、予想通りジェロビンがいた。


 「ジェロビンちょっと頼みがある」


 「これはチェスリーの旦那、ここに来るとは珍しいでやすね。何でやすか?」


 エールを注文するが、冷やしていないので生温い。

 冷たい方が好きなので、自前の氷魔法で冷やして飲む。

 うまいっ。


 「イビルアイの瞳を探している。数日前に素材屋から買った人がいるが、情報を持ってないか?」


 「へへ、あっしのも冷やしてくれやすかい。それと大銅貨1枚いただきやしょ」


 「話が早くて助かる。しかしよく知ってるな」


 ジェロビンのカップを冷やしながら、大銅貨1枚を渡す。


 「滅多に買い手のいない物ってやつは、目につきやすいでやす。目的まで調べるのはちょいと手間でやすが、誰が買ったかぐらい普段根をはってりゃわかりやす。目的も知りたけりゃ、あと3枚いただきやしょ」


 追加の大銅貨3枚も素直に渡す。


 「まいど。購入者はエドモンダ伯爵の使いでやす。イビルアイの瞳は魔道具に使うみたいでやすね。しかも、伯爵の娘さんも魔斑病らしいでやす」


 「うわ……貴族が絡んでるのか。それにヴェロニアと同じ発想の人がいたのは驚いた」


 「そうでやすね、ジェラリーって方ご存じでやすか?ヴェロニアの姉貴は多分知ってると思いやす。同じ問題を抱えてるようでやすし、交渉できるんじゃないでやすかね」


 「むぅ、門前払いにはならなそうだけど、貴族とはあまり絡みたくないなあ。もしかしたら魔道具は、ジェラリーさんが協力してくれるかもしれないから、ちょっと期待したいところだな」


 「エドモンダ伯爵は貴族にしては気さくな方でやすよ。旦那なら大丈夫でさ」


 「わかった。……そういえば何で同じ問題とか知ってるんだ?」


 「言ったでやすよ、滅多に買い手のない物は目につくってね」


 恐れ入りました、とばかりに軽く手を振って応え、酒場を後にする。




 ジェラリーさんか……。

 元は王都の大商会で魔道具研究をしていたらしいが、何らかのトラブルがあって、親戚を頼りにマクナルへ来たということだったかな。

 伯爵様にいきなり会いに行くより、ジェラリーさんから先に話を聞いたほうがよさそうだな。


 ということで、再びヴェロニアのところへ行くことにした。


 「ヴェロニア~、いきてるか~?」


 扉を叩きながら呼び掛けてみると、中からどたどたと音がして、ヴェロニアが現れた。


 「ついさっき会ったばっかじゃん!!生存確認を挨拶にしないでよ!」


 「おー、いたいた。ジェラリーさんの家を教えてほしいんだけど」


 「え?何で?」


 ジェロビンから聞いた情報をざっと説明して、ジェラリーさんを訪ねたいこと、魔道具作成の協力ついて伝える。


 「う~~。彼女苦手なの。話すとす~ぐ意見がぶつかっちゃうのよね」


 「ん?ライバルだから張り合っちゃうとか?」


 「あたしは別にライバルと思ってないんだけどね。そもそも彼女と考え方というか、作りたいものの方向性とか、実現に向けての仕組みとか……とにかく意見が合わなくてね。たまたま欲しい素材は重なっちゃったけど、どう使うかは多分全然違うと思うのよ」


 「そうかあ。でも魔斑病の治療が目的なら、方向性は合いそうな気がしないか?」


 「そこもねえ。あたしの場合は、治療を担当するのはチェスリーになるでしょ?治療自体を魔道具にさせるなら、全く違うものになっちゃうわ」


 「なるほど。しかし、素材がそこにあるのは確実なんだし、やっぱり話はしてみようよ」


 「そうね。じゃあいっしょに行きましょ。実はすぐそこなの」


 「ご近所さんだったのかよ」




 徒歩5分ほどでジェラリーさん宅へ到着。知り合いのヴェロニアに呼び出してもらうことにする。


 「ジェラリー!いるんでしょ~~!でておいで」


 家の中で椅子を引く音がガタっとして、しばらくするとジェラリーさんが顔を出した。


 「なんですの!?そのペットでも呼ぶような呼び方は!」


 「まあまあ、落ち着いて。ちょっち話させて」


 「今忙しいんですの。あなたの相手をしてる暇はございませんのよ」


 やばいやばい、ちゃんと話しないと。


 「あ~~、すみません。チェスリーと申します。大事な用件がありまして、お話しを聞いていただけませんか?」


 「あら、ヴェロニアのお連れにしては丁寧ですのね。でも今本当に手が離せない仕事がございまして……」


 「魔斑病のことですよね?そのことについてご相談というか、状況によりお手伝いできるかもしれませんので」


 「ご存知でしたの!?……ではお入りになってください」


 しばらく考えていたようだが、部屋に通してもらえた。

 つい先ほどまで魔道具を作っていたのだろう、何らかの薬品の匂いが立ち込めている。


 「魔斑病のことは秘密でしたのに、どこからお聞きになったの?」


 「情報屋を使った。どうしてもイビルアイの瞳が欲しくてね」


 「……イビルアイの瞳は確かにありますわ。でも私の魔道具に必要なので、購入を依頼したものです。お譲りすることはできません」


 「そこで相談させてほしい。実はこちらも知り合いに重度の魔斑病患者がいるんだ。イビルアイの瞳はヴェロニアの魔道具にも必要でね。目的がいっしょなら協力できると思うんだ」


 「……それは無理ですわ。私の魔斑病用魔道具は常に身に着けなければならないのです。イビルアイの瞳は重要な部品で、お分けすることもできないの」


 ヴェロニアがう~んと頭を捻った。


 「やっぱり、あたしと違う方向の魔道具だったわ」


 「なんですの?私の魔道具に文句でもありますの?」


 「いや~、そうじゃないのよ。多分ジェラリーの魔道具は魔力を抑えるものを作ろうとしてるのよね?」


 「え、ええ……。ジルシス草の代わりに、魔道具で永続的に魔力を抑えるようにするつもりですわ。魔斑病自体は自然に治癒することも多い病気ですし」


 「もしさ、治療できる方法があるって言ったらどうする?」


 「それは……いえ、そちらのほうが優れていますが、そんな方法は聞いたことありませんわ」


 「チェスリーがいればできるの!」


 ヴェロニアが得意げに宣言した。

 いや、俺まだやったことないし、本当にできるか疑問なんだが……。


次回は「魔斑病の治療」でお会いしましょう。

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