第69話 頼もしい相棒
メアリといっしょに視認転移を練習している。
メアリに視認転移の方法を教えてもらうと、なるほど、と感心させられた。
転移陣を使う方法は、魔石を混ぜた特性インクに自分の魔力を流し、そのインクで書いた模様をイメージして転移先を決めていた。
俺は転移陣に文字を書いてわかりやすくし、シルビアに笑われていたが……覚えやすい方がいいよね。
視認による転移の方法は、自分の眼に魔力をのせて、転移陣代わりに風景をイメージして転移先を決めるようだ。
転移魔法を修得したメアリは、何故転移先のイメージが転移陣の図や文字でなければならないのだろうと疑問に思ったらしい。
その後、目に魔力をのせることで見たものを転移先のイメージとする改良に至ったという。
素晴らしい感性だと思った。
風景が見えれば転移先としてイメージできるので、【一望千里】との組み合わせも問題なくできるようだ。
これで転移陣がなくても、遠くに転移できるようになるな。
そしてメアリにも【一望千里】を教えようと魔力を流してみたのだが……。
「ふ、ふぅ……うう……ふううう……」
俺はメアリに抱き着かれている状態だ。
転移魔法の魔力を流した時の症状よりも、酷い様に見えるんだけど…。
透明の魔力じゃなければ、痛みは感じないはずだよな…。
「メアリ……痛いのかい?」
「い、いえっ……全く……痛く……ないです。ただ……こうし……ないと……耐えられないいっ……のです」
「わ、わかった。抱き着くことで耐えられるなら、いくらでも抱き着くといい」
「す……すみ……ません……し、しょ……う」
…………やっと落ち着いてきたかな。
「師匠……失礼しましたーーーー!」
はあ、また前と同じように走り去ってしまった。
転移を教えた時の様に、スキル修得ができていれば問題ないが……。
さすがに鈍い俺でも、俺が魔力を流すことで、相手に何らかの耐え難い感覚が生まれていることがわかってきた。
どうりで女性に教育した後の反応がおかしいわけだよ。
メアリに抱き着かれるのは、役得ではあるのだが……。
生じる感覚によっては、よからぬ事故が起きる可能性がある。
……ちゃんとメアリに確認しておこう。
メアリが落ち着くのを待って休憩していると、ケイトさんが俺を呼びに来た。
俺に会いに来た人がいるらしい。
ひょっとしてオーガスかな、そろそろ会いに行こうと思っていたしちょうどいい。
案内された先にいたのは……うわああああ!
マックリンじゃないか!?
やばいやばい、早く逃げよう。
【俊足】で思いっきり逃げようとしたら、加速寸前で肩を掴まれてしまった。
「おい!!逃げようとするんじゃねえ!それに何で逃げるんだよ!」
「何でって、俺追放されたし。その追放を言い渡した当人がやってきたら逃げたくなるだろ」
「は?何か話が通じねえな」
「それに何で捕まえるんだよ。マックリンにこの姿を見せたことないだろ」
「あっ!そう言われるとそうだな。……やっぱ雰囲気が隠せてなかったからじゃねーかな」
「ふむ、口調以外に演技はしていなかったが……。それだと勘のいい奴には気づかれるのか」
「はははっ、俺は人を見る目には自信があるんだ」
「いや、俺を追放してるんだぞ?見る目なかったんじゃないの?」
「え?あれ……そうだな。追放するやつを雇った……間抜けな話だ」
「そうそう。自信は過剰になると危険だから。ちゃんと確認しないとダメだぞ」
「お、おう。ちゃんと確認するよう気を付けるぜ」
「じゃ、そういうことで」
俺は再び【俊足】スキルを発動させ――
ようとしたが、回り込まれてしまった。
さすが【一騎当千】のレアスキル持ち、素早さも並みじゃないな。
「だから逃げるんじゃねーよ。チェスリーが何も聞いてなさそうなことだけはわかった」
「ん……何か忘れてたような……あっヴェロニアがマックリンの情報があると言ってたのに聞いてなかった」
「それだ!何で忘れてんだよ。大事なことだろ?」
「……怒らないで聞いてほしい」
「あ、ああ」
「追放されたストレスを発散するのに、王都を飛び出したんだ」
「ほう」
「一暴れして、いい感じに力が抜けたところで連れ戻されてな」
「ふむ」
「豪華な食事でもてなされて、すっきりストレス解消したんだ」
「なるほど」
「で、忘れてました。ごめんなさい」
「おい!!……でもチェスリーが忘れてもヴェネツィアさんから話しがなかったのか?」
「そうだよなあ、何も聞いてないんだけど。あ、ヴェネツィアは偽名で、本当はヴェロニアね」
「偽名だったのか、……ヴェロニアね。覚えとくわ」
「あんたたち見てて飽きないわね。いいコンビだわ」
いつの間にかヴェロニアが来て、突っ込みを入れてきた。
「あっ、ヴェロニア!酷いじゃないか、教えてくれないなんて」
「ん~、ごめんね。でも元はと言えば、チェスリーが王都を飛び出しちゃったからでしょ。こっちも混乱してたんだから」
「ぐう。結局俺が悪いのか」
「……いきなり先行きが不安なんだが」
マックリンと話しているうちに、逃げなくていい事はわかった。
ケイトさんが、お茶を用意してくれるというので、マックリンを歓談室へ案内して一緒にお茶にする。
「うめえ……こんな美味いお茶初めてだ」
「ふふふ、ケイトさんのお茶は最高だろ。何度飲んでも美味いんだ。料理も凄いぞ」
「クラン宿舎に寄りつかなかったわけがわかったぜ。これは帰りたくなるわ」
お茶の美味しさで盛り上がっていると、ヴェロニアが口をはさんできた。
「はいはい、本題に入るわよ。マックリンさん、自分で説明する?」
「そうだな。報告もしておきたいし、俺から話すぜ。俺は『黄金の翼』を辞めてきた」
「はああ?何でそんなことになってんの」
「まあ聞けって。ヴェネツィア……じゃなかった、ヴェロニアさんと以前に話をしたんだ。ちょうどチェスリーが逃亡した時だったかな」
「え、あの俺が指名手配された時のか」
「ぷぷっ。ごほんっ、ヴェロニアさんにチェスリーの教育を続けさせてほしいとお願いしたんだ。『黄金の翼』を強靭な組織にするためにな」
おのれ笑いやがって。
冒険者集団に追い回される気持ちを今度教えてやろうか。
「それはわかる。けどマックリンが辞めたのと、どう繋がるんだ?」
「俺が抜けても問題ない組織にするってところで繋がるんだ」
「それこそわからないぞ。特級クランに昇格して、これからがリーダーとしても組織としても力の見せどころじゃないか」
「チェスリー、お前のせい……いや、お前のおかげで決心したんだ。俺の目標を追いかけることができるとな」
「……その目標を聞いてもいいかい?」
「俺の目標は全てのダンジョンをぶっ潰して魔物を殲滅することだ」
「……ヴェロニアさんや、どこかで聞いたことがある目標が聞こえたんだが?」
「そういうことよ。同じ目標を持つ人が見つかったの」
「えええ!俺の他にもいたのか!」
「別にいてもおかしくないでしょ。魔物に酷い目にあった人は大勢いるわけだし。現実にはできないって人がほとんどなだけじゃないかな」
「俺も自分にレアスキルがなければ、諦めていたかもな。どんなに吠えても力がなけりゃ何もできない。だが力があるなら、現実にしようとしてもおかしくないだろ」
俺と同じ……いや違う。
マックリンのほうが、俺より目標に向かって積極的に行動していたんだ。
レアスキルを鍛えクランを作って上級に認定されるほどに、しっかり目標のダンジョン攻略を進めていた。
「だが、今までのクランのやり方じゃ、いつまでたっても全ダンジョンの殲滅などできない。短時間攻略のやり方を教えてくれたのがチェスリーだった」
「……転移を使って時間短縮はできたが、確実な方法とは言えないぞ」
「それでも俺には衝撃なやり方だった。武力をいくら高めても、戦闘時間しか短くできないからな」
「……利益は度外視するつもりだが、それでもいいのか?」
「俺はクランを維持するのに金が必要だっただけだ。ダンジョン攻略に必要な資金がないのは困るが、それ以外は食えりゃいい」
この質問も今更だな……。
金儲けが目当てなら、特級クランを抜ける必要がない。
「マックリン、俺から改めて言わせてくれ。クラン『百錬自得』のメンバーになってほしい」
「おう!よろしく頼むぜ」
頼もしい相棒ができたものだ。
これでダンジョン攻略も楽に……えっと……攻撃力はあるよな。
でもマックリンの今までの戦い方は、防御を誰かに任せて、隙を付いて魔物を倒していた。
『百錬自得』で同じことをするのは難しい。
「ところでマックリンって、攻撃以外のスキルを何か持っているか?」
「攻撃こそ最大の防御だろ。やられる前にやるんだよ」
「おいおい、他の人に防御任せてたじゃないか」
「あ、あれはだなあ。確実に倒すためというか……痛いのいやじゃね?」
「よしわかった。マックリンは防御の特訓からな」
「ええっ!?俺の【一騎当千】は防御向けのスキルじゃねえだろ」
「【建城鉄壁】のスキルを教える。使えるかどうかはわからないが、修得すれば完璧な防御ができる」
「マジか、お前……それレアスキルじゃねえか。レアスキルが教えられるのか!?」
「まだ成功したのは1例だけどな。マックリンの黄金の魔力が、【建城鉄壁】に対応できるかどうかはやってみないとわからない」
「お、黄金??まだ俺が知らない事が多くあるようだ……。チェスリーのところにきてよかったぜ」
「他言無用な?クラン内だけの秘密にしてくれ」
「あんたがそれ言っても説得力に欠けるわね」
「違いねえ」
ヴェロニアとマックリンの二人して大笑いだ。
どうせ秘密防御力0ですよ~だ。
「あたしからマックリンに、昨日のクラン会議の説明やメンバーの紹介をしておくわ。今夜はマックリンさんの歓迎会にしましょう」
「任せた。俺はメアリが落ち着くのを待って、もう一度魔力制御を試したいからな」
「あんまりメアリを虐めないようにね。あと抱き着かれてもヘラヘラしないように」
「虐めてもヘラヘラしてもないぞ。失礼な」
「……はいはい。マックリンさんはこのままお話させてくださいね」
「おう、それと敬称なんていらんぞ。俺の口調もこうだしな」
「了解、それじゃ遠慮なく話すわよ」
俺はヴェロニアとマックリンを歓談室に残して、メアリの様子を見にいくことにした。
マックリンに教育することになるとは……追放されてもやる事はそんなに変わってないな。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
次回は「知らぬ間の魔道具革命」でお会いしましょう。




