第67話 ストレス解消
俺はマックリンから追放を言い渡された。
自分で仕組んだ事とはいえ、誰かを裏切り糾弾されるというのは気分が悪い。
心が締め付けられるようで、汗までかいてしまった。
もし自分が糾弾する側の立場だったとしたら……むうう、そっちのがもっと嫌だな。
マックリンに嫌なことをさせてしまった……。
ヴェロニアから情報を聞いて、もしマックリンにまた会えることがあればちゃんと謝ろう。
とにかく終わったことを悔やんでも仕方ない。
しかし、こんな気分のままでクランに戻ることもできない……いっそ一暴れしてやろう!
因縁の場所へのご挨拶もするつもりだし、鈍った戦闘勘を鍛え直しだ。
そうと決まれば、荷物の整理っと。
このクランハウスの部屋は、本当に快適だったな。
まさか魔道具で、室温を調整できる冷暖房機や火力を調整できる調理器などが開発されているとは思わなかった。
いつの間にこんなに便利な魔道具が実用的になったのかなあ。
『百錬自得』のクランハウスにも、知らない間に設置されてたし。
まあいいや、荷物をちゃちゃっとまとめて出発だ。
誰にも会わないようクランハウスを抜け、王都の門が閉まる前に通過する。
これで変化の腕輪も外せるぞ。
いや~、ほんとこれ魔力食いすぎ。
ずっと魔道具で負荷をかけてたせいか、教育で魔力を枯渇寸前まで使い続けたせいか、以前より俺の魔力量は増えていた。
増えたと言っても、『百錬自得』のクランメンバーには及ばないが、収納魔法の容量が増えたし、魔法の威力が上がった。
それでも腕輪を維持するにはギリギリだったからな……。
久々に【俊足】スキルも本気で使える。
クラン逃亡した時の俺は手抜きで逃げていたようなものだ。
ニコラハムにはもっとスキルを極めてもらい、もう一度競争してみたいものだな。
一昼夜走り続け、王都の西にある魔物の森に入っていく。
10年前は森ではなく、奥のほうには俺の故郷があった場所がある。
ダンジョンの影響と想定されているが、たった10年で森に様変わりしてしまい、溢れた魔物が住み着くようになった。
ここにはまた来ることになるので、転移陣を置く場所を探さねば。
「お、グレートスパイダーがおるの。あいつの糸欲しいし、狩っとこう」
倒し方さえ知っていれば楽な相手だ。
水魔法で水球を作り、石鹸をいれて混ぜ合わせる。
これを当ててっと。
気門を塞がれたグレートスパイダーは激しく動いた後に死亡する。
グレートスパイダーの糸は服作りに便利なので、丁寧に剥ぎ取っておく。
うーん、こいつ殲滅するより飼い慣らせないかな。
……やっぱり殲滅するべきか、倒す倒さないの例外を作るとやり辛くなる。
それより転移陣を置く場所と……あいつを見つけないとな。
しばらく走ると、索敵に感あり……。
ついに見つけたぞ!
今までどうやっても倒せなかったあいつだ!!
あいつとはギガントサイクロプスのことで、大規模ダンジョンでマックリン頼りで倒した魔物だ。
今なら俺自身の力で倒せるはずだ。
俺を見つけると、ギガントサイクロプスの奴め、調子にのって襲い掛かってくる。
しかし、単独の攻撃なら怖くない。
魔力を煉りながら回避するぐらいの芸当はできるのだ……当たるとマズイので結構必死だけど。
何とか、足、体、腕に太い線を張るように魔力を巡らせる。
「準備は終わったぞ……ふぅうう!」
ギガントサイクロプスの拳を掠めながら躱し、一気に懐へ飛び込む。
左足を地面に踏み込み、その反動に体の捻りを加え、足と体に蓄えた魔力を腕に送る。
さらに腕の魔力と合わせて圧縮、指先に集中させて、ギガントサイクロプスを軽く突く。
指先に凝縮された魔力が皮膜を透過して吸い込まれる。
――ドボォォォオオオオンン
一瞬、時が止まったかのような静けさの後、ギガントサイクロプスの体内から強烈な破壊音が響いた。
ギガントサイクロプスがスローモーションで倒れ、地響きが起こる。
瞳孔が開き、完全に息の根が止まったようだ。
「よっしゃああ、やったわい!」
『黄金の翼』に入るきっかけになった、レアスキル【一騎当千】の技だ。
魔力を体術に合わせて繰り出し、敵に魔力を浸透させ内部を破壊する。
俺はこの技を極めるために、マックリンに頼み込んで見せてもらったのだ。
そのせいで怒られたのは忘れよう……。
再び走り出し、落ち着けそうな場所を探す。
できれば水があるところがいいな、と思っていたら小さな湖が見えた。
「ここがよさそうじゃの」
周りに敵がいないことを確認し、収納していたテントを取り出す。
テントを組み立て終わったら、周囲に結界を張る。
この結界の魔法は【建城鉄壁】のスキルを応用して開発した。
ただし、使った直後は鉄壁だが徐々に弱まるので定期的に結界を張り直す必要がある。
気分が高揚してずっと走って戦ってだったから、丸一日水しか飲んでなかった……。
スープとステーキを準備し、あっという間に食事を終える。
最後に秘蔵のワインをカップに注ぎ、ゆっくり飲み干す。
ふっと一際大きく息を吐き、こうつぶやいた。
「ふふ……計画通り」
ポコリッ!
せっかくいい気分だったのに、頭を叩かれたんですけど!
後ろを振り向いても、誰もいない。
あれ?結界も張ってあるし、誰もいないのが当たり前だよな。
不思議に思っていると、すーっと頭を叩いた不届き物が姿を現した。
……これはまずい。
「チェスリーさん!やっとクランを抜けられたからといって、急にはっちゃけないでください!追いかけるの大変なんですよ!」
ミリアンか!
……え?いつの間に結界を通り抜けたり、俺の【俊足】を使った移動に追いつけるようになったの?
事実、ここにいるんだよなあ……。
「いや……少しぐらい自由にしてもいいではないか。ただでさえ、最近は体がだるかったのじゃ」
「いけません!もう予定を大幅にオーバーしてますので、早く戻っていただいて、たまっている仕事を片付けましょう。それが終わったらゆっくりしていいですよ」
鬼か……!
長期の任務をようやく終えたというのに……すぐ働けとは。
「しかも、一人でおいしそうな物食べちゃって。私が追いかけてること気づいていましたよね?」
「いや、まったく気づいてない」
「はぁ……これだから目が離せないんです。さあ、戻りますよ!」
「……はい」
こう言われてはしょうがない。
しばらく『百錬自得』には、夜にちょこっと顔を出す程度しかしていなかったからな。
忘れないうちに転移陣だけ埋め込んでおこう。
「それじゃ転移するかの」
「はい!」
だからくっつかなくても転移はできるのに……。
「あ、チェスリーさん。変化の腕輪の効果が切れてきましたね」
「お、ほんとだの。でぶった腹が引っ込んできたわい」
「久しぶり……。でも姿が変わっていてもチェスリーさんはチェスリーさんですね」
「そうじゃの、見た目だけ変えても中身は変わらんということじゃ」
「ふふっ、そのしゃべり方も戻していいんですよ?」
「あ……すっかり慣れてしまってね。しばらくぎこちないかもしれない」
「すぐ戻りますよ。【以心伝心】では普段のしゃべり方でしたよね」
「スキルを使った会話は、声を出してないから実感ないんだよ。それでたまっている仕事って何だっけ?」
「それは帰ってからお話ししますね。私たちもしばらく自主練習していましたので、その成果を見ていただきたいですし」
「え~、やっと教育終わったのに」
「私たちの成果、興味ありませんか?」
上目使いでそう聞いてくるミリアン、これはあざとい……が実にいい。
「あるに決まってるじゃないか、さあ帰ろう」
「はい!」
転移の魔力制御を行い、クラン『百錬自得』へ転移する。
クラン拠点の屋敷で、ケイトさんが出迎えてくれる。
「みなさんがお待ちです。ささ、早く中へ」
連絡もせずに王都を飛び出したからな……。
ここは素直に謝って罰を受けるとしよう。
食堂に通されると……おお、いつになく豪華な食事が並んでいる。
さっきステーキ食べちゃったけど、これを見たらまたお腹減ってきた。
ヴェロニアは何か言ってくるかな……。
「チェスリーお帰りなさい。今日は細かいことは言わないわ。疲れをとるためにも、みんなで食事しましょう」
「そ、そうか。いや突然飛び出して行って悪かった」
「いいからいいから。そういうのは明日からにしましょ」
すぐに食事会が始まり楽しいひと時を過ごすことになった。
ヴェロニア、ミリアン、マーガレット、アリステラ、メアリに囲まれ、クランに戻った実感がしみじみ湧いてくる。
裏切り行為は、想定以上にストレスになっていたようだ。
戦闘勘を取り戻したかったのはあるが、それ以上に発散しないと耐えられなかった。
ギガントサイクロプスを倒すのに思い切りスキルを使ったことで、力を抜くことはできた。
もう二度と誰かを裏切る事はしたくない……しかし、”復讐”のためならそういうことも――。
「チェスリーさん、今は難しいことを考えるのはやめましょうよ。お食事は楽しんだ方がおいしいですわ」
「マーガレット、ありがとう。『黄金の翼』を裏切るようなことをしたから思うところがあってな」
「あら、それは『黄金の翼』の女性たちに、ちやほやされていたからでしょうか?」
「ん?いやいや、あれ?全くそうではないとも言えないのか」
「ふ~ん、女性に興味がないわけではございませんのね」
「そりゃそうだよ。まあ男にも、特にニコラハムにまとわりつかれてたが、女性のが気分的にいいしな」
「それならよろしいですわ」
何がよろしいんだ……。
その後も他愛のない話で盛り上がり、気分はすっかり落ち着いていた。
全ては明日からか。
暴れてすっきりしたのと、食事で癒されたから、ストレス解消は十分だ。
たまった仕事とやらを片付けることにしよう。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
これで4章完結です。
次回は「久しぶりのクラン会議」でお会いしましょう。




