第66話 今後のための茶番
『黄金の翼』に戻り、これから不正をすることに憂鬱になりながら、眠りにつく。
俺に残された期間は、マックリンか他のクランメンバーに不正がバレるまでだから、いつ追放されるかわからない。
しかし、帳簿は俺一人が管理しているので、ある程度の期間はあるだろう。
ん?……よく考えればこれもおかしい話だよな。
今更か。
もう会うことさえできなくなるメンバー達に、せめてもの詫びとして残された期間を頑張ろうと思う。
教育時に意識しないようにしていたが、いつもより熱心に丁寧に教えていく。
教えられる側もそんな意思が伝わるのか、真剣に答えてくれた。
教育の一番人気は、やはり魔法だ。
その中で最も需要があるのは、治療のヒールである。
生傷が絶えない冒険者は、軽い怪我でもしっかり治療すべきだが、消毒や止血の最低限で済ませることも多い。
お金の都合で毎回ポーションを使うわけにもいかない。
初級のヒールが使えれば、軽い怪我は魔力があれば治療ができる。
治療の魔法は教会が独占しているため、教わることすらできない場合が多い。
それが『黄金の翼』に加入すれば、使えるかどうかは素養次第とはいえ、学ぶことができる。
あまりやりすぎると、教会に睨まれる恐れはあるが、もうすぐ老齢チェスリーは消えるから……まあいいかなと。
そして攻撃用の魔法は、複数属性を使った混合魔法を教えている。
魔力制御さえしっかりすれば、攻略の役に立つだろう。
さらにリオノーラとシンディの協力もあり、3つの属性を混合させた魔法が開発された。
火、風、水を混合させ稲妻という現象を引き起こす魔法は雷と呼ばれ、威力と速度に優れる素晴らしいものだった。
使いこなせるものは少ないが、練習することで魔力制御は上達する。
次の人気は特殊スキルだ。
武術の方が人気があると思っていたが、武術は実践で鍛えたほうが効果的のため、軽く魔力補助を教えた後は、模擬戦やダンジョン攻略の実践訓練に任せている。
特殊スキルの講師は俺以外に、【察知】はレンタント、【嗅覚】と【俊足】はニコラハムが講師を務める。
ニコラハムは俺の逃亡を阻止したことで、クラン内での人気が急上昇した。
自慢げに俺を捕まえたときの話をするのだが、逆に縛り上げられたところは省略しているようだ。
いや、その部分も省略しないで全部話せよと言いたい。
複数の特殊スキルを修得するものが増えたので、【察知】、【俊足】、【暗視】を組み合わせた高速索敵が使われるようになった。
高速で移動するため、【察知】は上級、【暗視】は中級まで上達しないと、罠や敵、壁などに激突する恐れがあるが、上手く使えば後続メンバーの危険が減り、攻略速度の短縮につながる。
今後も組み合わせるスキルにより、様々な工夫がされていくだろう。
もう『黄金の翼』は俺の教育などなくても大丈夫な組織になっているはずだ。
特級クランの中でも評判は上々で、今後の活躍も期待できる。
俺が目標に向かう過程で、ひょっとすると敵対することがあるかもしれない。
そのときは全力を尽くさなければ痛い目を見るのはこちらだろう。
◆リオノーラ視点◆
ついにこの時が来てしまいましたわ。
私は今マックリンの部屋にある衝立の裏に隠れています。
今日の夜、マックリンはチェスリーさんを呼び出すことなっています……。
そしてそれからの一部始終を、隠れたまま見せられることになるのです。
本当は嫌でしたけれど……。
憂鬱な気分で待っていると、部屋のドアをノックする音が聞こえました。
「マックリン何か用事かの?もう眠いんじゃが……」
チェスリーさんが部屋に入ってきましたわ。
いつもと変わらない様子です。
思えばチェスリーさんには、いろいろな事を教えてもらいましたわ。
魔力を流された時に感じる暖かさは、癖になりそうなほど気持ち良いものでした。
「寝るならどこか宿でも探してくれ。今日でクランから追放させてもらう」
「え!?」
「そんなに驚くことか?身に覚えはあるだろう」
マックリンがチェスリーに冷たい声で告げ、チェスリーは驚いた声をあげる。
茶番が始まるのですわね……。
「何故じゃ!クランの発展にも十分貢献してきたはずじゃ。冒険者は引退したが、クランの教育や経営に、わしは十分な働きをしておるはずじゃ!」
「ああ、その通りだ!冒険でもチェスリーの力に助けられたことは何度もある。冒険者を引退しても、おまえの教育のおかげでクランは充実した戦力を確保できている!だが……そんなお前に裏切られた俺の気持ちはどうしてくれる!!」
「だから何のことじゃ?わしは裏切ったりなどしておらん」
「とぼける気か……?これを見ても同じセリフが吐けるか!」
マックリンがクランの帳簿を叩きつけましたわ。
なかなか真に迫ってますわね。
「キャメリアから帳簿におかしところがあると言われた。今まで気づかなかったが、確かにおかしいところ……おまえならわかるよな?」
「い……いや。わしには何のことやらさっぱりわからん」
「このスリーチェ商会ってのは何の商会か知っていないか?」
チェスリーさんの表情は……あまり変わっていないようですわね。
どちらかと言うと、すっきりしたような表情……。
「特級クランともなれば、取引する商会も多い。チェスリーだけに押し付けるのはどうかと、キャメリアにも経理を手伝ってもらうことにした。だが......まさか....こんな不正をしていたとは......」
あらまあ、チェスリーさんが冷や汗をかいていますわ。
チェスリーさんの思惑通りではなかったのかしら。
誰も見ていないのに……あ、私とマックリンが観客と言えますわね。
「既にチェスリーがごまかした金は差し押さえた。クランに貢献した実績は認めてやるが、裏切りは許せねえ。すぐに出ていけ!」
「ああ……わかった」
チェスリーさんが部屋を退出したのを見届け、私は衝立の裏から出てマックリンに話しかけました。
「茶番は終わりでしょうか?」
「ああ、だが必要な茶番だ。これでチェスリーは『黄金の翼』からの追放者であり、何の関係もないことになる」
「知っていたとはいえ、気分が良いものではありませんわ。それにしても、随分演技に熱がはいっていましたわね?」
「……演技じゃないからな。マジで怒ってたんだよ」
「え?」
「いや、だってさ。何だよこのスリーチェ商会ってのはよ!いくら帳簿のごまかしがわかるようにするためでも、自分の名前を組み替えただけとか露骨すぎだろ!!」
「ま、まあ確かに……」
「こうまでしないと気付かないと侮られている気がしてな。だんだんムカついてきたんだ。それに俺があいつ一人に経理を任せたんだぞ。何かこう、おかしいとは思わないのか?」
「う、薄々ぐらいは思ってたのではないでしょうか?深くは考えていないと思いますけど……」
「さらにだぞ、この不正流用した金がどこにあったと思う?クランの金庫にあったんだぜ?ご丁寧にスリーチェ商会って名前付きの袋の中にな。おかしいだろ!没収する前に回収されてるって!!」
「は、はは……」
「あいつ本当に人を騙したことないんじゃないのか!?穴だらけ過ぎて、思わず手助けしてしまいそうになったぐらいだ」
「チェスリーさんらしくてよろしいじゃありませんか」
「……まあな。あいつはどこか抜けてるぐらいが、ちょうどいいのかもしれん」
そうつぶやいたマックリンは少し笑っているようでした。
チェスリーさんと『黄金の翼』との関係は一旦終わりになりますが、まだ私は諦めたわけではありませんことよ。
お人よしのチェスリーさんの事ですもの。
もし対立することがあるとしたら、利益に関する事ぐらいしか思いつきません。
利益を捨てることで協力関係になれるのであれば、対立することはないかもしれませんのよ。
でも……大所帯になってしまった特級クランでは、難しいかもしれません。
しかし、それさえも解決策があるのであれば……私たちは再びいっしょに活動できますわ。
今回の事、急に追放だとクラン内で混乱がおきる可能性があったので、攻略パーティーの主要メンバーには事実を伝えています。
そうしないと、カリスリンやシンディあたりは、本当にチェスリーさんを追いかけてしまうかもしれなかったからです。
多少の混乱はありましたが、何とか落ち着いてくれてよかったですわ。
そしてクランを去るのは、チェスリーさんだけではありません。
本来ありえない事なのですが……。
「リオノーラ、今度は俺の番だ。3日後にクラン会議を開く。お前には嫌な役を押し付けることになるが、よろしく頼むぞ」
「ええ、覚悟しています。主要なメンバーが知っているだけ、まだマシですわ。私一人だけだと、とても抑えられる気がしません」
チェスリーさんの事だけでも大騒ぎになるのに、さらにやっかいなことを……とても私一人では背負いきれませんわ。
この埋め合わせは必ずしてもらいますからね!
3日後、予定通りクラン会議が始まりました。
チェスリーさん追放の騒動が、少しだけ落ち着いてきたところでしょうか。
教育目当てで加入したメンバーはクランを辞める人もいましたわ。
でもそのような人はこちらからお断りです!
例えチェスリーさんがいなくても、『黄金の翼』の教育の質はとても高いのですから。
そういうことですから、本来はクランとしての活動に大きな支障はないのですが……。
「クラン会議を始めるぞ。今日はリオノーラから、チェスリー追放について話したい事があるとのことだ。リオノーラ、どういうことか話してくれ」
はあ……今度は私が茶番の主役ですのね。
「チェスリーさんを追放したことについて、リーダーに異議がありますわ。クランに多大な功績のあるチェスリーさんに対し、追放は適切ではありませんでした。資金の不正流用であれば、金銭的な罰だけにすべきでしたわ」
「……俺が不正を許せないことぐらい知っているだろ。チェスリーを信頼していたからこそ、あんな不正をすることは許せん。追放が適切だ」
「いいえ、やはり問題です。チェスリーさん追放により、クランに与えた影響も大きく、辞める人も出てきています。資金流用はチェスリーさんへの報酬が適切でなかったせいもあるでしょう。これらはリーダーの責任と言わざるをえないですわ」
「は?俺が悪いと言うのか?」
「その通りです。リーダーの判断が不適切であれば、今後の『黄金の翼』にも支障があります。上級クランならまだしも、特級クランのリーダーとして相応しくありません」
「なんだと?ならどうすると言うんだ」
「この場で多数決をとらせていただきますわ。マックリンのリーダー退任に賛成の人は挙手願います」
参加者の半数以上が挙手する。
当然ですわ、既に根回し済みですもの。
事情を知らない人だけが呆気にとられた顔をしていますわ。
「続けて、私がリーダーになることに賛成の人は挙手願いますわ」
これも当然のように同じ結果ですわ。
「ふざけるな!!俺がリーダーじゃないクランなど、いる意味さえない!こんなクランやめさせてもらうぞ!!」
そう捨て台詞を残して、マックリンが退室していきます。
これで茶番は終わり。
……結局、以前予告された通り、特級クランのリーダーを押し付けられることになりましたわ。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
4章は次回で終わりになります。
やっと……1話と繋がるお話が書けました。
60話以上も間があるので、お忘れの方もいるかもしれませんね(笑)
次回は「ストレス解消」でお会いしましょう。




