表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/137

第66話 今後のための茶番

 『黄金の翼』に戻り、これから不正をすることに憂鬱になりながら、眠りにつく。

 俺に残された期間は、マックリンか他のクランメンバーに不正がバレるまでだから、いつ追放されるかわからない。

 しかし、帳簿は俺一人が管理しているので、ある程度の期間はあるだろう。

 ん?……よく考えればこれもおかしい話だよな。

 今更か。


 もう会うことさえできなくなるメンバー達に、せめてもの詫びとして残された期間を頑張ろうと思う。



 教育時に意識しないようにしていたが、いつもより熱心に丁寧に教えていく。

 教えられる側もそんな意思が伝わるのか、真剣に答えてくれた。


 教育の一番人気は、やはり魔法だ。

 その中で最も需要があるのは、治療のヒールである。

 生傷が絶えない冒険者は、軽い怪我でもしっかり治療すべきだが、消毒や止血の最低限で済ませることも多い。

 お金の都合で毎回ポーションを使うわけにもいかない。


 初級のヒールが使えれば、軽い怪我は魔力があれば治療ができる。

 治療の魔法は教会が独占しているため、教わることすらできない場合が多い。

 それが『黄金の翼』に加入すれば、使えるかどうかは素養次第とはいえ、学ぶことができる。

 あまりやりすぎると、教会に睨まれる恐れはあるが、もうすぐ老齢チェスリーは消えるから……まあいいかなと。


 そして攻撃用の魔法は、複数属性を使った混合魔法を教えている。

 魔力制御さえしっかりすれば、攻略の役に立つだろう。

 さらにリオノーラとシンディの協力もあり、3つの属性を混合させた魔法が開発された。

 火、風、水を混合させ稲妻という現象を引き起こす魔法は雷と呼ばれ、威力と速度に優れる素晴らしいものだった。

 使いこなせるものは少ないが、練習することで魔力制御は上達する。



 次の人気は特殊スキルだ。

 武術の方が人気があると思っていたが、武術は実践で鍛えたほうが効果的のため、軽く魔力補助を教えた後は、模擬戦やダンジョン攻略の実践訓練に任せている。

 特殊スキルの講師は俺以外に、【察知】はレンタント、【嗅覚】と【俊足】はニコラハムが講師を務める。

 ニコラハムは俺の逃亡を阻止したことで、クラン内での人気が急上昇した。

 自慢げに俺を捕まえたときの話をするのだが、逆に縛り上げられたところは省略しているようだ。

 いや、その部分も省略しないで全部話せよと言いたい。


 複数の特殊スキルを修得するものが増えたので、【察知】、【俊足】、【暗視】を組み合わせた高速索敵が使われるようになった。

 高速で移動するため、【察知】は上級、【暗視】は中級まで上達しないと、罠や敵、壁などに激突する恐れがあるが、上手く使えば後続メンバーの危険が減り、攻略速度の短縮につながる。

 今後も組み合わせるスキルにより、様々な工夫がされていくだろう。



 もう『黄金の翼』は俺の教育などなくても大丈夫な組織になっているはずだ。

 特級クランの中でも評判は上々で、今後の活躍も期待できる。


 俺が目標に向かう過程で、ひょっとすると敵対することがあるかもしれない。

 そのときは全力を尽くさなければ痛い目を見るのはこちらだろう。




◆リオノーラ視点◆


 ついにこの時が来てしまいましたわ。

 私は今マックリンの部屋にある衝立の裏に隠れています。


 今日の夜、マックリンはチェスリーさんを呼び出すことなっています……。

 そしてそれからの一部始終を、隠れたまま見せられることになるのです。

 本当は嫌でしたけれど……。


 憂鬱な気分で待っていると、部屋のドアをノックする音が聞こえました。


 「マックリン何か用事かの?もう眠いんじゃが……」


 チェスリーさんが部屋に入ってきましたわ。

 いつもと変わらない様子です。

 思えばチェスリーさんには、いろいろな事を教えてもらいましたわ。

 魔力を流された時に感じる暖かさは、癖になりそうなほど気持ち良いものでした。



 「寝るならどこか宿でも探してくれ。今日でクランから追放させてもらう」


 「え!?」


 「そんなに驚くことか?身に覚えはあるだろう」


 マックリンがチェスリーに冷たい声で告げ、チェスリーは驚いた声をあげる。

 茶番が始まるのですわね……。


 「何故じゃ!クランの発展にも十分貢献してきたはずじゃ。冒険者は引退したが、クランの教育や経営に、わしは十分な働きをしておるはずじゃ!」


 「ああ、その通りだ!冒険でもチェスリーの力に助けられたことは何度もある。冒険者を引退しても、おまえの教育のおかげでクランは充実した戦力を確保できている!だが……そんなお前に裏切られた俺の気持ちはどうしてくれる!!」


 「だから何のことじゃ?わしは裏切ったりなどしておらん」


 「とぼける気か……?これを見ても同じセリフが吐けるか!」


 マックリンがクランの帳簿を叩きつけましたわ。

 なかなか真に迫ってますわね。


 「キャメリアから帳簿におかしところがあると言われた。今まで気づかなかったが、確かにおかしいところ……おまえならわかるよな?」


 「い……いや。わしには何のことやらさっぱりわからん」


 「このスリーチェ商会ってのは何の商会か知っていないか?」


 チェスリーさんの表情は……あまり変わっていないようですわね。

 どちらかと言うと、すっきりしたような表情……。


 「特級クランともなれば、取引する商会も多い。チェスリーだけに押し付けるのはどうかと、キャメリアにも経理を手伝ってもらうことにした。だが......まさか....こんな不正をしていたとは......」


 あらまあ、チェスリーさんが冷や汗をかいていますわ。

 チェスリーさんの思惑通りではなかったのかしら。

 誰も見ていないのに……あ、私とマックリンが観客と言えますわね。

 

 「既にチェスリーがごまかした金は差し押さえた。クランに貢献した実績は認めてやるが、裏切りは許せねえ。すぐに出ていけ!」


 「ああ……わかった」



 チェスリーさんが部屋を退出したのを見届け、私は衝立の裏から出てマックリンに話しかけました。


 「茶番は終わりでしょうか?」


 「ああ、だが必要な茶番だ。これでチェスリーは『黄金の翼』からの追放者であり、何の関係もないことになる」


 「知っていたとはいえ、気分が良いものではありませんわ。それにしても、随分演技に熱がはいっていましたわね?」


 「……演技じゃないからな。マジで怒ってたんだよ」


 「え?」


 「いや、だってさ。何だよこのスリーチェ商会ってのはよ!いくら帳簿のごまかしがわかるようにするためでも、自分の名前を組み替えただけとか露骨すぎだろ!!」


 「ま、まあ確かに……」


 「こうまでしないと気付かないと侮られている気がしてな。だんだんムカついてきたんだ。それに俺があいつ一人に経理を任せたんだぞ。何かこう、おかしいとは思わないのか?」


 「う、薄々ぐらいは思ってたのではないでしょうか?深くは考えていないと思いますけど……」


 「さらにだぞ、この不正流用した金がどこにあったと思う?クランの金庫にあったんだぜ?ご丁寧にスリーチェ商会って名前付きの袋の中にな。おかしいだろ!没収する前に回収されてるって!!」


 「は、はは……」


 「あいつ本当に人を騙したことないんじゃないのか!?穴だらけ過ぎて、思わず手助けしてしまいそうになったぐらいだ」


 「チェスリーさんらしくてよろしいじゃありませんか」


 「……まあな。あいつはどこか抜けてるぐらいが、ちょうどいいのかもしれん」


 そうつぶやいたマックリンは少し笑っているようでした。


 チェスリーさんと『黄金の翼』との関係は一旦終わりになりますが、まだ私は諦めたわけではありませんことよ。

 お人よしのチェスリーさんの事ですもの。

 もし対立することがあるとしたら、利益に関する事ぐらいしか思いつきません。

 利益を捨てることで協力関係になれるのであれば、対立することはないかもしれませんのよ。

 でも……大所帯になってしまった特級クランでは、難しいかもしれません。

 しかし、それさえも解決策があるのであれば……私たちは再びいっしょに活動できますわ。


 今回の事、急に追放だとクラン内で混乱がおきる可能性があったので、攻略パーティーの主要メンバーには事実を伝えています。

 そうしないと、カリスリンやシンディあたりは、本当にチェスリーさんを追いかけてしまうかもしれなかったからです。

 多少の混乱はありましたが、何とか落ち着いてくれてよかったですわ。



 そしてクランを去るのは、チェスリーさんだけではありません。

 本来ありえない事なのですが……。


 「リオノーラ、今度は俺の番だ。3日後にクラン会議を開く。お前には嫌な役を押し付けることになるが、よろしく頼むぞ」


 「ええ、覚悟しています。主要なメンバーが知っているだけ、まだマシですわ。私一人だけだと、とても抑えられる気がしません」


 チェスリーさんの事だけでも大騒ぎになるのに、さらにやっかいなことを……とても私一人では背負いきれませんわ。

 この埋め合わせは必ずしてもらいますからね!




 3日後、予定通りクラン会議が始まりました。

 チェスリーさん追放の騒動が、少しだけ落ち着いてきたところでしょうか。

 教育目当てで加入したメンバーはクランを辞める人もいましたわ。

 でもそのような人はこちらからお断りです!

 例えチェスリーさんがいなくても、『黄金の翼』の教育の質はとても高いのですから。


 そういうことですから、本来はクランとしての活動に大きな支障はないのですが……。



 「クラン会議を始めるぞ。今日はリオノーラから、チェスリー追放について話したい事があるとのことだ。リオノーラ、どういうことか話してくれ」


 はあ……今度は私が茶番の主役ですのね。


 「チェスリーさんを追放したことについて、リーダーに異議がありますわ。クランに多大な功績のあるチェスリーさんに対し、追放は適切ではありませんでした。資金の不正流用であれば、金銭的な罰だけにすべきでしたわ」


 「……俺が不正を許せないことぐらい知っているだろ。チェスリーを信頼していたからこそ、あんな不正をすることは許せん。追放が適切だ」


 「いいえ、やはり問題です。チェスリーさん追放により、クランに与えた影響も大きく、辞める人も出てきています。資金流用はチェスリーさんへの報酬が適切でなかったせいもあるでしょう。これらはリーダーの責任と言わざるをえないですわ」


 「は?俺が悪いと言うのか?」


 「その通りです。リーダーの判断が不適切であれば、今後の『黄金の翼』にも支障があります。上級クランならまだしも、特級クランのリーダーとして相応しくありません」


 「なんだと?ならどうすると言うんだ」


 「この場で多数決をとらせていただきますわ。マックリンのリーダー退任に賛成の人は挙手願います」


 参加者の半数以上が挙手する。

 当然ですわ、既に根回し済みですもの。

 事情を知らない人だけが呆気にとられた顔をしていますわ。


 「続けて、私がリーダーになることに賛成の人は挙手願いますわ」


 これも当然のように同じ結果ですわ。


 「ふざけるな!!俺がリーダーじゃないクランなど、いる意味さえない!こんなクランやめさせてもらうぞ!!」


 そう捨て台詞を残して、マックリンが退室していきます。

 これで茶番は終わり。

 ……結局、以前予告された通り、特級クランのリーダーを押し付けられることになりましたわ。


今回もお読みいただき、ありがとうございます。


4章は次回で終わりになります。

やっと……1話と繋がるお話が書けました。

60話以上も間があるので、お忘れの方もいるかもしれませんね(笑)


次回は「ストレス解消」でお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読み終わりに↓ををクリック!いただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ