第65話 クラン追放指令
『黄金の翼』の宿舎を割り当てられ、とりあえず一人になることができた。
捕まったからには、要望通り教育を行うことに文句はないが、『百錬自得』のほうはそれでいいのだろうか……。
【以心伝心】スキルを使って、マーガレットに連絡してみる。
{いまいいかい?}
{あら、チェスリーさん。どうかされましたかしら?}
{つなぎなおして}
{はい、繋ぎ直しました。それで何かご用かしら?}
{実は逃亡の罰としてクラン宿舎に閉じ込められることになって……。しばらく帰れないかもしれないんだ」
{あ~、一応ヴェロニアさんから聞いてます。でも転移でこちらに来ることはできるのではないかしら?}
{いや、今日はもう魔力が不足気味だし、転移陣を没収されたから、そっちに戻ったらここに戻れなくなるんだ。逃亡したらヴェロニアの罰があるようだし……}
{……そうですか、もう3日も顔を見ていませんし、戻ってきて欲しかったのですが、しょうがありませんね}
{ヴェロニアから何か伝言があれば聞こうと思ったが、何もないかい?}
{ええ、まだ聞いていないですわ。ヴェロニアさんと話したら、またこちらから連絡いたしますわ}
{よろしく頼む}
特になし、か。
それなら教育に専念することにしよう。
『黄金の翼』での教育の日々が再開された。
今までと違うのは、俺の要望によりゆったり目に組まれていたスケジュールが、ぎっちり組まれたことだろう。
転移で『百錬自得』に戻ることもできないため、こっそりミリアンに供給してもらっていた変化の腕輪の魔力は、全部自己負担になった。
そうなると教育のみに魔力を使うとしても、夕食の時間になる頃にはすっからかんだ。
転移することはもちろん、【以心伝心】を使うことすら気軽にできない。
おかげで夕食から寝るまでの時間で、暇を持て余すようになった。
マックリンは何か知ってる風な感じだったが、特に何も言ってこない。
話をしようとしたら、暇な時間を有効利用してこれも頼むよ、と経理の仕事まで押し付けられてしまった。
今まで冒険者として個人の財産を管理する、家計簿みたいな事はしていたが、クランの帳簿は整理する項目も多く、最初は大変だった。
しかし、意外と経理という仕事もやってみると面白い。
整理する項目は、商会との消耗品や装備の取引、ダンジョンからの魔物素材や鉱物の取引が主なものになる。
整理に慣れてくると、どのような素材が求められているかもわかるし、相場に詳しくなってくる。
今まで薬草採取などで小銭を稼いできたのが、どれほど効率の悪い事なのかもわかってしまった……。
効率よく換金できる素材を集めると、一冒険者の稼ぎとは比べ物にならないな。
俺はダンジョン攻略ができればいいと単純に考えていたが、資金面の事は全く考えていなかった。
図らずもダンジョン攻略に必要な経費を知ることができて、いい経験をさせてもらった。
宿舎での軟禁状態は10日で許してもらえ、転移することも解禁された。
しかし、解禁されても魔力不足が解消されてないんだよな……。
『百錬自得』との連絡は、マーガレットからの【以心伝心】で伝えられているが、しばらくは『黄金の翼』での活動に専念するようにとのことだ。
余計な事はしないように、と念押しまでされて……。
『黄金の翼』の教育が進み、実力が底上げされたことで、体制の見直しが行われた。
今まで攻略パーティーのレギュラーは15人ほどだったが、一気に40人に増えた。
控えメンバーがレギュラーになり、複数のパーティーで並行してダンジョン攻略をすることも可能になったのだ。
それを後ろで支える支援メンバーも実力が底上げされ、交代要員や支援も今まで以上に充実した。
さらに『黄金の翼』で急成長した冒険者から噂が広がり、クラン加入希望者が急増した。
人数は制限していたが、無給どころか金を払ってもいいから教育を受けたい人や、実力がある冒険者も参加を希望してきたりで、予定を大幅に上回る人数が加入した。
結果、所属メンバーは300人を超えた。
未だに加入希望者は後を絶たないという……。
この急成長と、増員した攻略パーティーが実績をあげたことで、『黄金の翼』はついに特級クランに認定された。
特級クラン昇格の記念と、増員による宿舎不足解消を兼ねて、現在新しいクランハウスを建造中だ。
魔法で建造を行うので、30日ほどで完成するらしい。
部屋の設備に最新の魔道具を取り揃え、快適な生活環境が整うということだ。
……最新の魔道具って何だろう。
このように慌ただしくも充実した『黄金の翼』での生活を続けていたが、クランハウスが完成したころ、ヴェロニアから呼び出しを受けた。
最近放置されてたからな……。
経理の仕事を終える頃には既に夜中だが、『百錬自得』に転移で戻る。
「ヴェロニア~、いきてるか~?」
「その挨拶久しぶりすぎて、逆に新鮮だわね」
「ほとんどこちらに帰れなかったからのう。『黄金の翼』の教育も慣れてきたところだし、経理の仕事もそれなりに忙しいからの。それで話とはなんじゃ?」
「すっかり染まっちゃってまあ。そろそろ『黄金の翼』を本当に抜ける計画を始めるわよ」
「……いよいよか。しかしお声がかかるまで随分長かったのう。てっきり忘れておるのかと思ったぞ」
「こっちもいろいろあったのよ。あんたが逃亡しなきゃもっと早く抜けられてたのに」
「うっ、それを言われると弱いのじゃ」
「まあ、そのおかげで悪い事ばかりじゃなかったけどね。今度は確実にやるのよ」
「うむ、ではやる事を教えてもらえるかの」
「経理で不正をしなさい」
「へ!?い、いや、それはまずいじゃろ」
「まずいからやるの。この不正でクランを追放されたら、無事こっちに戻ってこられるってことよ」
「えぇ……。わしそれなりに『黄金の翼』に愛着もあるし、追放されるなんて嫌なんじゃが」
「ほう。クラン『百錬自得』はどうするの?あんたの目標は?」
「ぐうっ……他に……穏便な方法はないかのう?」
「そうねえ、あっそうだ。リオノーラさんに告白して、ふられてクランを辞めるってのはどう?」
「おいいい!リオノーラはマックリンと付き合っておるのじゃぞ。そんなことしたら、わしの身が危ないわい」
マックリンは俺の逃亡事件があった後、何故か攻略パーティーから外れ、いっしょに教育に立ち会ったり、メンバーへの指導に力を入れていた。
それでも攻略パーティーは大規模ダンジョンを順調に攻略しており、メンバーの層の厚さが証明されているのだが、マックリンがいた方が楽な場面も多いはずだ。
同時にリオノーラも攻略に向かうことが少なくなり、マックリンと何か話していることが多い。
真偽は不明だが、二人は付き合っていて、結婚するために攻略パーティーから外れたのではないかと噂されていた。
「せっかく考えたのに。えっと、それじゃ他の女性に……万が一があるからダメね」
「その発想から離れてくれんかのう」
「それじゃ面倒だから、最初の案でいくわよ」
「面倒ってそれはあんまりじゃろう。いい関係で終えることはできんのか?」
「……それは無理ね。あんたの功績は既に大きすぎるの。いい関係で終えると、今後も『黄金の翼』が関連することになるわ。あんたの目標はそれで達成できるの?」
「……そうじゃの。わしが『黄金の翼』に関わったのが長すぎたぐらいじゃ。わかった、無事に追放されてくるとしよう」
「うん。嫌な事をさせるのはわかってるから。ちゃんと『百錬自得』に帰ってきたら、みんなで歓迎するからね」
「ああ、わしには帰れる場所があるんじゃからの。ところで経理の不正程度で大丈夫なのかの?」
「マックリンさんの性格はよく知ってるでしょ。正義バカというか、融通が利かないところがあるから、不正は許さないと思うわよ」
「いやあ、確かにそうなんじゃが、前に一度窘めたことがあっての。金銭トラブルでメンバーが追放されそうになったのを止めたことがあるんじゃ」
「でもそれは軽いトラブルだったんでしょ?」
「ああ、メンバー間でのトラブルだし、追放はやりすぎだと思っての」
「うん、今回はとても無視できない高額をごまかしてしまえば大丈夫ね」
「……何が大丈夫かは大いに疑問だが、それなら相当怒るじゃろうな」
「なら、決まりね。適当な商会でも作って、クラン資金を横流しするように帳簿を不正操作してちょうだい」
「お、おう。……そういえばマックリンは何か知っておる感じなのだが、心当たりはあるかの?」
「え?うん、その話はクランを無事抜けてからにしましょう」
「……ふーん、やっぱり何かあるのじゃな。話さないという事は知らん方がいいのじゃろう?」
「そうね、今知ると返って混乱するかも。だから、この情報は今のところ内緒」
「了解じゃ」
ヴェロニアがこういう風に匂わせる話し方をするのは珍しい。
本当に教えたくない事なら、曖昧なことも言わないはずだ。
多分、俺にとって良い事だと予想できるから、楽しみはとっておこう。
まさかせっかく任された経理で不正を働くことになるとはなぁ。
それでも冒険者として不正や手を抜くことに比べれば、生死に関わることがないだけマシと言えるかもしれない。
不正流用に見せた資金も全部返してしまえば、遺恨は残らないだろう。
俺の未練を断つ意味でも、この不正はやり遂げなければならない。
次回は「今後のための茶番」でお会いしましょう。




