表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/137

第65話 クラン追放指令

 『黄金の翼』の宿舎を割り当てられ、とりあえず一人になることができた。

 捕まったからには、要望通り教育を行うことに文句はないが、『百錬自得』のほうはそれでいいのだろうか……。


 【以心伝心】スキルを使って、マーガレットに連絡してみる。


 {いまいいかい?}


 {あら、チェスリーさん。どうかされましたかしら?}


 {つなぎなおして}


 {はい、繋ぎ直しました。それで何かご用かしら?}


 {実は逃亡の罰としてクラン宿舎に閉じ込められることになって……。しばらく帰れないかもしれないんだ」


 {あ~、一応ヴェロニアさんから聞いてます。でも転移でこちらに来ることはできるのではないかしら?}


 {いや、今日はもう魔力が不足気味だし、転移陣を没収されたから、そっちに戻ったらここに戻れなくなるんだ。逃亡したらヴェロニアの罰があるようだし……}


 {……そうですか、もう3日も顔を見ていませんし、戻ってきて欲しかったのですが、しょうがありませんね}


 {ヴェロニアから何か伝言があれば聞こうと思ったが、何もないかい?}


 {ええ、まだ聞いていないですわ。ヴェロニアさんと話したら、またこちらから連絡いたしますわ}


 {よろしく頼む}



 特になし、か。

 それなら教育に専念することにしよう。



 『黄金の翼』での教育の日々が再開された。

 今までと違うのは、俺の要望によりゆったり目に組まれていたスケジュールが、ぎっちり組まれたことだろう。

 転移で『百錬自得』に戻ることもできないため、こっそりミリアンに供給してもらっていた変化の腕輪の魔力は、全部自己負担になった。

 そうなると教育のみに魔力を使うとしても、夕食の時間になる頃にはすっからかんだ。

 転移することはもちろん、【以心伝心】を使うことすら気軽にできない。

 おかげで夕食から寝るまでの時間で、暇を持て余すようになった。


 マックリンは何か知ってる風な感じだったが、特に何も言ってこない。

 話をしようとしたら、暇な時間を有効利用してこれも頼むよ、と経理の仕事まで押し付けられてしまった。

 今まで冒険者として個人の財産を管理する、家計簿みたいな事はしていたが、クランの帳簿は整理する項目も多く、最初は大変だった。

 しかし、意外と経理という仕事もやってみると面白い。


 整理する項目は、商会との消耗品や装備の取引、ダンジョンからの魔物素材や鉱物の取引が主なものになる。

 整理に慣れてくると、どのような素材が求められているかもわかるし、相場に詳しくなってくる。


 今まで薬草採取などで小銭を稼いできたのが、どれほど効率の悪い事なのかもわかってしまった……。

 効率よく換金できる素材を集めると、一冒険者の稼ぎとは比べ物にならないな。


 俺はダンジョン攻略ができればいいと単純に考えていたが、資金面の事は全く考えていなかった。

 図らずもダンジョン攻略に必要な経費を知ることができて、いい経験をさせてもらった。




 宿舎での軟禁状態は10日で許してもらえ、転移することも解禁された。

 しかし、解禁されても魔力不足が解消されてないんだよな……。


 『百錬自得』との連絡は、マーガレットからの【以心伝心】で伝えられているが、しばらくは『黄金の翼』での活動に専念するようにとのことだ。

 余計な事はしないように、と念押しまでされて……。



 『黄金の翼』の教育が進み、実力が底上げされたことで、体制の見直しが行われた。

 今まで攻略パーティーのレギュラーは15人ほどだったが、一気に40人に増えた。

 控えメンバーがレギュラーになり、複数のパーティーで並行してダンジョン攻略をすることも可能になったのだ。

 それを後ろで支える支援メンバーも実力が底上げされ、交代要員や支援も今まで以上に充実した。


 さらに『黄金の翼』で急成長した冒険者から噂が広がり、クラン加入希望者が急増した。

 人数は制限していたが、無給どころか金を払ってもいいから教育を受けたい人や、実力がある冒険者も参加を希望してきたりで、予定を大幅に上回る人数が加入した。

 結果、所属メンバーは300人を超えた。

 未だに加入希望者は後を絶たないという……。


 この急成長と、増員した攻略パーティーが実績をあげたことで、『黄金の翼』はついに特級クランに認定された。

 特級クラン昇格の記念と、増員による宿舎不足解消を兼ねて、現在新しいクランハウスを建造中だ。

 魔法で建造を行うので、30日ほどで完成するらしい。

 部屋の設備に最新の魔道具を取り揃え、快適な生活環境が整うということだ。

 ……最新の魔道具って何だろう。



 このように慌ただしくも充実した『黄金の翼』での生活を続けていたが、クランハウスが完成したころ、ヴェロニアから呼び出しを受けた。

 最近放置されてたからな……。

 経理の仕事を終える頃には既に夜中だが、『百錬自得』に転移で戻る。


 「ヴェロニア~、いきてるか~?」


 「その挨拶久しぶりすぎて、逆に新鮮だわね」


 「ほとんどこちらに帰れなかったからのう。『黄金の翼』の教育も慣れてきたところだし、経理の仕事もそれなりに忙しいからの。それで話とはなんじゃ?」


 「すっかり染まっちゃってまあ。そろそろ『黄金の翼』を本当に抜ける計画を始めるわよ」


 「……いよいよか。しかしお声がかかるまで随分長かったのう。てっきり忘れておるのかと思ったぞ」


 「こっちもいろいろあったのよ。あんたが逃亡しなきゃもっと早く抜けられてたのに」


 「うっ、それを言われると弱いのじゃ」


 「まあ、そのおかげで悪い事ばかりじゃなかったけどね。今度は確実にやるのよ」


 「うむ、ではやる事を教えてもらえるかの」


 「経理で不正をしなさい」


 「へ!?い、いや、それはまずいじゃろ」


 「まずいからやるの。この不正でクランを追放されたら、無事こっちに戻ってこられるってことよ」


 「えぇ……。わしそれなりに『黄金の翼』に愛着もあるし、追放されるなんて嫌なんじゃが」


 「ほう。クラン『百錬自得』はどうするの?あんたの目標は?」


 「ぐうっ……他に……穏便な方法はないかのう?」


 「そうねえ、あっそうだ。リオノーラさんに告白して、ふられてクランを辞めるってのはどう?」


 「おいいい!リオノーラはマックリンと付き合っておるのじゃぞ。そんなことしたら、わしの身が危ないわい」


 マックリンは俺の逃亡事件があった後、何故か攻略パーティーから外れ、いっしょに教育に立ち会ったり、メンバーへの指導に力を入れていた。

 それでも攻略パーティーは大規模ダンジョンを順調に攻略しており、メンバーの層の厚さが証明されているのだが、マックリンがいた方が楽な場面も多いはずだ。

 同時にリオノーラも攻略に向かうことが少なくなり、マックリンと何か話していることが多い。

 真偽は不明だが、二人は付き合っていて、結婚するために攻略パーティーから外れたのではないかと噂されていた。


 「せっかく考えたのに。えっと、それじゃ他の女性に……万が一があるからダメね」


 「その発想から離れてくれんかのう」


 「それじゃ面倒だから、最初の案でいくわよ」


 「面倒ってそれはあんまりじゃろう。いい関係で終えることはできんのか?」


 「……それは無理ね。あんたの功績は既に大きすぎるの。いい関係で終えると、今後も『黄金の翼』が関連することになるわ。あんたの目標はそれで達成できるの?」


 「……そうじゃの。わしが『黄金の翼』に関わったのが長すぎたぐらいじゃ。わかった、無事に追放されてくるとしよう」


 「うん。嫌な事をさせるのはわかってるから。ちゃんと『百錬自得』に帰ってきたら、みんなで歓迎するからね」


 「ああ、わしには帰れる場所があるんじゃからの。ところで経理の不正程度で大丈夫なのかの?」


 「マックリンさんの性格はよく知ってるでしょ。正義バカというか、融通が利かないところがあるから、不正は許さないと思うわよ」


 「いやあ、確かにそうなんじゃが、前に一度窘めたことがあっての。金銭トラブルでメンバーが追放されそうになったのを止めたことがあるんじゃ」


 「でもそれは軽いトラブルだったんでしょ?」


 「ああ、メンバー間でのトラブルだし、追放はやりすぎだと思っての」


 「うん、今回はとても無視できない高額をごまかしてしまえば大丈夫ね」


 「……何が大丈夫かは大いに疑問だが、それなら相当怒るじゃろうな」


 「なら、決まりね。適当な商会でも作って、クラン資金を横流しするように帳簿を不正操作してちょうだい」


 「お、おう。……そういえばマックリンは何か知っておる感じなのだが、心当たりはあるかの?」


 「え?うん、その話はクランを無事抜けてからにしましょう」


 「……ふーん、やっぱり何かあるのじゃな。話さないという事は知らん方がいいのじゃろう?」


 「そうね、今知ると返って混乱するかも。だから、この情報は今のところ内緒」


 「了解じゃ」


 ヴェロニアがこういう風に匂わせる話し方をするのは珍しい。

 本当に教えたくない事なら、曖昧なことも言わないはずだ。

 多分、俺にとって良い事だと予想できるから、楽しみはとっておこう。



 まさかせっかく任された経理で不正を働くことになるとはなぁ。

 それでも冒険者として不正や手を抜くことに比べれば、生死に関わることがないだけマシと言えるかもしれない。

 不正流用に見せた資金も全部返してしまえば、遺恨は残らないだろう。


 俺の未練を断つ意味でも、この不正はやり遂げなければならない。


次回は「今後のための茶番」でお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読み終わりに↓ををクリック!いただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ