第64話 逃亡者の末路
王都周辺の地図作りの団体を尾行するため、クランにも帰らずにレアスキル観察をのんびり続けているが……。
いやあ、周りが騒がしくなってきたなあと、他人事の様に考えていた。
さすがに自分の事だし気になって手配書の内容を見てみると、金貨5枚の報酬とあった。
……マジかよ。
治療報酬で金貨20枚とかもらっていたので金銭感覚がおかしくなっているが、俺の冒険者時代の年収は金貨1枚程度だ。
上級クラン以上の冒険者でも金貨5枚の報酬なら参加してそうだな……。
以前の俺なら間違いなく参加してるね。
しょぼくれた冒険者を捕まえるだけで、金貨5枚なんて美味しすぎる。
俺を捕まえることに、こんな大金を投じてくれる『黄金の翼』に申し訳ないな……。
やっぱり自首すべきなんだろうか……。
でも戻ったら絶対抜けられなくなるよな……。
ヴェロニアは何て言うだろう。
……怒られる未来しか見えないが、クランに戻るのだから案外褒めてくれるかもしれない。
よしよし、前向きに行こうじゃないか。
既に逃亡から3日ほど経過し、レアスキルの観察も順調だ。
まだ完全ではないが、【一望千里】の魔力制御もできるようになってきた。
この遠くを見渡せる魔法は俺にも使いやすく、慣れてくると距離はどこまでも伸ばせそうだ。
魔力量が関係するのは、一度に見える範囲である。
恐らく【一望千里】のスキル持ちが一度に見える範囲は、俺よりかなり広い。
だが見える範囲が狭くとも、視点を少しづつ移動させて見ればいいので問題ない。
十分に満足する観察もできたし、そろそろ『百錬自得』に帰ろうかな。
……え!?
俺の索敵にまっすぐ突っ込んでくる何かが検知された。
何だこの速さ……多分【俊足】なのだろうが、かなり使いこなしているようだ。
それに俺の索敵範囲ギリギリから、猛ダッシュしたと思われる。
俺は【俊足】のスキルを使い、その場から逃げ出した。
転移して逃げようかと思ったが、あの速度では転移発動前に捕まる恐れがあった。
ふっ、俺の【俊足】スキルを舐めてもらっては困る。
転移する間がない敵への予防策として、ヴェロニアに特訓させられたからな。
長い時間は魔力量のせいで無理だが、短距離なら100メートル5秒で走破できる。
俺の【俊足】により、相手はこちらを見失ったようだ。
索敵は別のものが行い、俊足で捕まえにきたといったところだな。
……ということは……ひょっとすると、ディアルフの索敵とニコラハムの俊足か!?
ディアルフの索敵なら、俺と同等以上の索敵範囲があるので、先に発見されるのも納得だ。
だがニコラハムの俊足は素質があり上達もしているが、まだまだ俺には及ばないはずだ。
少々厄介だが、この二人相手ならまだ逃げ切れる。
時間さえ稼げれば、転移で移動すればいいのだ。
そう思ってた時期が俺にもありました……。
さっきから索敵範囲外に出て見失っていたはずの俺を、すぐにニコラハムが追いかけてくるようになった。
マズイ、【俊足】に魔力を使いすぎると、気配遮断のローブに使う魔力が足りなくなる。
ニコラハムは索敵が使えないはずだから、例えもう一人索敵役がいたとしても、情報連携する手段がないはずだ。
あ……まさか【嗅覚】か!?
嗅覚だと一度臭いを捉えられてしまうと、転移以外で逃げる手段がないぞ。
ニコラハムにはつい先日教えたばかりで、それほど熟練度は高くないはずなのにな……。
こうなると距離を離して時間を稼ぐしかない。
気配遮断のローブへの魔力供給をやめ、【俊足】に全てつぎ込んで逃げてやる。
そしてこれが悪手だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
ニコラハムとの距離は順調に離れたが、気配遮断がなくなったため、街中を猛スピードで暴走するおかしな冒険者として目立ちまくっていたのだ。
すると、報酬金目当ての冒険者が徐々に気づき、俺の後を追跡してきた。
やばい……このままでは数の暴力に負けてしまう。
素早く建物の角を曲がったところで気配遮断のローブへの魔力供給を再開する。
しかし、これで魔力不足により【俊足】スキルはもう使えない。
一先ず追ってくる冒険者たちを躱しただけだ。
やっと時間が作れたか……くっ、もうニコラハムが索敵にかかったが、この距離ならまだ間に合うはずだ。
残された手段は転移しかない。
転移の魔力色を作り、魔力制御で胸に集中、転移範囲に放出し転移を発――。
「捕まえたっスーーーー!!!」
「どわあああ!」
間に合うと思われた転移は、ニコラハムが突然スピードを上げたことで阻止されてしまった。
こいつ……いつの間にあんなスピードを身につけたんだ。
俺より速いんじゃないのか。
「チェスリーさん確保っす!大人しくクランに帰るっす!」
「ぐう」
こうなったら実力行使で振りほどいてやろう。
俺の【格闘】を見せてやる。
俺を掴んでいるニコラハムの腕をとり、テコの原理でひねり上げる。
「痛いっす!痛いっす!チェスリーさん酷いっす!」
「大人しくするのじゃ。そう簡単に捕まるわけにはいかんのでな」
「嫌っす!俺っちと一緒にクランに戻るっす!チェスリーさんが必要っす!」
「う……」
涙ながらに訴えられると、良心がズキズキ痛む。
と、とりあえず収納からロープを取り出して縛っておこう。
「うわーーん!!チェスリーさん戻るっす!置いていかないでほしいっす!」
うわ~、こっちの精神的に限界だ。
これを振り切って去るのは、良心が耐えられない。
「わかった……。クランに戻るとしようかの……」
「チェスリーさん……よかったっす!」
ニコラハムの本当にやっかいなところは、【俊足】や【嗅覚】じゃないな……。
普段から妙に懐かれていたのもあって、置いてきぼりにすることができかった。
俺の逃亡は終わりとなり、『黄金の翼』に連れ戻されてしまった。
後は何を言い渡されるか待つだけか……。
『黄金の翼』の会議室にダンジョン攻略パーティーの主要メンバーが集結し、俺の処遇を決めることになった。
「チェスリー、随分と手間をかけさせてくれたものだな」
「おう……手間をかけさせてすまんかったの。どうしてもクランを抜けてやりたいことがあってのう」
「事情は大よそ聞いている。その話はいいとして、今後どうするかの話をしよう」
「え?いいの?」
「ああ、ここにいるメンバーには軽く説明してある。だが、罰は受けてもらうぞ」
「……了解じゃ」
「チェスリーさんがいなくなって、本当に心配しましたわ……。私たちの事が嫌になったのかと思いまして……」
カリスリンが涙目で訴えかけてくる。
「いや、決してそのような事はないぞ。みなに教育するのは楽しかったからの」
「事情を聞いていなければ納得しないところですが、しょうがありませんね」
みんなの反応がかわいそうな人を見るような感じになっているのだが……。
「えっと……どういう風に事情を聞いておるのかの?」
「……言い辛いのですが、発作のようなものと伺っています」
「はあ?」
「ガルビナ商会の方が説明してくれたのですが、チェスリーさんは心の病気であると……。その…レアスキルと聞くと発作の様に行動を起こしてしまうって……」
「な、何のことかの……た、確かにレアスキルに興味はあるが発作などと」
「みなまで言う必要はありません!思い当たる節もありますし……リーダーにやけに熱心にスキルを見せてほしいと頼んだり……。ご自身に自覚がないことも聞いていますので……どうか心を落ち着けてください」
何ということか。
俺のレアスキルへの執着が病気扱いされているとは……。
……そうか、これがヴェロニアからの罰ってことか。
俺がきっかけで始まった騒動とはいえ、後でじっくりお話をしなければいけないようだ。
……むむっ?
マックリンの表情だけが明らかにおかしいぞ。
他の人は同情の目で見ているが、マックリンだけ笑いを押し殺しているような顔だ。
いや、同情の目も決して向けられたいわけではないのだが。
ひょっとして奴め……何か知ってるんじゃないだろうな。
試しにマックリンを睨んでみたら、顔を背けてしまった。
そして小刻みに震える肩。
明らかに哂ってやがる……。
もうこの場はおとなしく引き下がって、後で話をつけよう。
「そ、それでわしへの罰は特になしでいいのかの?」
「おいおい、そんなわけないだろう。罰としてチェスリーはしばらく外出禁止だ。クラン宿舎に軟禁して、教育をいつも以上にやってもらうぞ。3日ほどサボってるからその分も上乗せな」
くっ、宿舎に閉じ込めた上で教育を上乗せされたら……。
そうか、転移封じも兼ねているな。
教育で散々魔力を使わせて、転移の魔力すら搾り取る気か!?
「ちなみに次に逃亡したら、ヴェネツィアさんから特大の罰があると言っていたので、下手な事は考えないようにな」
ヴェネツィアって誰だよ!
まあ……ヴェロニアぐらいしか特大の罰を思いつくような奴はいないだろうな。
多分偽名を名乗ってマックリンに対応したのだろう。
これで逃げ場はもうないのと同じだな。
「……わかった。わしも覚悟を決めて、がっちり教育をやらせてもらうぞい」
「その言葉を待っていたぜ。みんな喜べ、チェスリーの教育が無制限になったぞ。教えてもらいたいことは遠慮なく言ってくれ」
「い、いやいや。無制限とは言っておらん――」
俺が言い終わる前に、みんなが一斉に教育の要望を挙げてきた。
治療の魔法、6属性魔法、武術全般、特殊スキル……。
おい!ほとんど全部じゃないか。
どさくさに紛れて転移魔法とか言ってるのもいるし、収拾がつかない。
わかったわかった。
全員まとめて教育してやろうじゃないか!
次回は「クラン追放指令」でお会いしましょう。




