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第63話 クランからの逃亡

 俺は『黄金の翼』から逃亡した。

 ヴェロニアから言われた教育の期限は既に過ぎていたのだ。

 クランを辞めることをどうしても言い出せなかった……。


 教育の日々は、俺の”復讐”を薄れさせるほど楽しい期間だった。

 教育した教え子が成長し、そして自分も成長するという好循環にすっかりはまっていた。


 それに加えて、ジェロビンが入手したレアスキルの情報が魅力的だった。

 レアスキルの名前は【一望千里】で、広大な眺めを一目で見渡せるという意味だ。

 このレアスキルの持ち主が、王都に来ているらしい。

 目的は、王都及び周辺の地図を作成するためだ。

 地図の作成が終われば、遠く離れた帝国に帰ってしまうし、いつまで滞在するかも不明である。

 この機会を逃せば、いつまた出会えるかわからない。

 レアスキルを修得できるまでの期間も、実際に見て修練するまでわからない。


 このレアスキルは、未発見ダンジョンを探すために、是が非でも手に入れておきたい。

 そう思った時には、書置きを残してレアスキルを見るために王城へ向かっていた。



 王城を監視すること2時間余り。

 恐らく地図作成を行うであろう10人ぐらいの集団が動き始めた。

 誰がレアスキル持ちなのかは知らないので、近くで観察させてもらうことにする。

 俺は認識阻害のローブを着こんでいるので、少し大胆な尾行をしても問題ないだろう。

 別に危害を加えようという訳でもないし、視るだけ、ちょっと視るだけだから!



 王都のほぼ中央にある広場にやってきた。

 普段見る事のない上質な紙を広げているところを見ると、これから地図作成を行うのだろう。

 俺は周りを見渡し始めた男を、魔力視の眼鏡で注視する。


 むむ……男の目の周りと、目の前に魔力が展開されている。

 色は……転移や収納の時の黒い色に似ている……そこに水色のような魔力が重なっているような……。


 原理はよくわからないが、今までのスキルにない新しいパターンのようだ。

 2色の魔力を混在させないよう、表裏一体にして目の前に展開している。


 これなら治療魔法で鍛えた魔力を交互にする方法が役に立つか……いやそれだけではだめだ。

 リオノーラから学んだ、一度制御したものを再度制御する方法も必要だ。


 これはしばらくついて回って、魔力の流れをさらに詳しく見せてもらうことになりそうだ。



◆三人称視点◆


 チェスリーがレアスキル修得に夢中になっているころ、当然のように『黄金の翼』では騒ぎになっていた。

 特にマックリンの驚きは大きかった。

 ガルビナ商会にチェスリーの教育継続を依頼したのは、つい昨日のこと。

 チェスリーが逃亡するとは夢にも思っていない。


 「カリスリン、チェスリーは何て書置きを残したんだ?」


 「はい……どうしてもやりたい事があって行かなければならない、クランにはもう戻らないつもりだと。いったい何が起こったのでしょうか?」


 他のメンバーも当惑した様子だ。

 確かに最近のチェスリーは何かを気にしていた風な様子だった。

 しかし、突然逃亡するほどの事とは誰も想定していなかったのだ。


 「……ふむ……よし、俺は独自の伝手を頼ってみる。カリスリンは冒険者ギルドにチェスリー捜索依頼を報酬金貨5枚でだしてくれ。ディアルフとレンタントは、ニコラハムを連れて捜索にあたれ。恐らく王都からは離れていないと思うからな」


 「でもチェスリーさん転移が使えますよね……捕まえられるでしょうか?」


 「そのためのニコラハムだ。ニコラハムの【俊足】は、チェスリーの教育でかなりの速度が出せるようになった。ディアルフとレンタントの索敵で先制すれば、転移する前に捕まえることができるはずだ」


 「了解しました」


 マックリンは事情を聞くため、直ぐにガルビナ商会を訪問することにした。



 そして同じころ、混乱は『百錬自得』でも起こっており、ヴェロニアがジェロビンに状況を聞いていた。


 「ジェロビンどういうこと?」


 「へい、あっしがチェスリーの旦那にレアスキルの情報を教えたのがきっかけで、逃亡したみたいでやす。『黄金の翼』のほうでも騒ぎになってやすね」


 「あーもう最悪のタイミングね。マックリンの事を話しちゃうと、すぐ調子にのりそうだし、対策を考えていたところなのに」


 「姐さん、マックリンさんがガルビナ商会に来るかもしれやせん。急いでお支度を」


 「わかったわ。メアリ!転移お願いね」


 「はい、いつでもどうぞ」


 メアリの転移でガルビナ商会に移動する。

 今日はヴェロニア一人で対応するようだ。


 転移して準備を整え終わったところで、ちょうどマックリンが店に飛び込んできた。


 「ヴェネツィアさん!いったいどういうことなんだ!?」


 「ちょ、ちょっと落ち着いて。今日はマックリンさん一人?」


 「ああ、俺一人だ。他のメンバーにはチェスリー捜索を指示してきた」


 「あ……ごめんなさいね。迷惑かけちゃって」


 「チェスリーが逃亡したのは、俺が昨日話したことが原因なのか?」


 「いえ、それは関係ないの。まだチェスリーに伝えてないから」


 「ならどうして……俺が話し合いに来たことは無駄だったのか……」


 「落ち着いて~、そうじゃないの。全て行き違いだから」


 ヴェロニアは以前からチェスリーに伝えていたことを説明していった。

 教育期間の目途として60日間という期限を設けていたこと。

 その前に話をして辞める日を決めるように言っていたこと。

 恐らくチェスリーが辞めたいという話を言えずにいたこと。


 そして今回の逃亡は有力なスキルの情報を聞いたことがきっかけであること。


 「なんともまあ。チェスリーはやっぱり面白いやつだな」


 「そうね……。あたしも指示しすぎて、逃げ道を塞いじゃったからね。まさか物理的に逃げるとは思わなかったけど」


 「どうしようか。チェスリーが戻ってきたら、俺にまた引き渡してくれるのか?」


 「……いえ、どうせならこの状況を利用して、あなたのクランの訓練をしたらどうかしら。チェスリーに逃げれば何とかなるっていう発想はなくさせたいの」


 「ほう、それはいいな。チェスリーの教育が中止になって手の空くメンバーもいるし、対人の実践相手としてチェスリーなら相応しいぜ」


 「決まりね。うちからもチェスリーの情報提供をしましょうか?」


 「……いや、今のメンバーだけでやらせて、俺がいなくても大丈夫か見てみたい」


 「わかったわ。このお詫びは何かでさせてもらうから、頑張って捕まえてね」


 「おう、楽しいことになってきたぜ。俺はクランに戻って指示しなおしてくる」


 マックリンはクランに帰っていった。

 それを見届けると、奥からメアリが出てきて、ヴェロニアに話しかけた。


 「師匠をどうするおつもりでしょうか?」


 「ん?別に何もしないわよ。捕まえて『黄金の翼』にもうしばらくいてもらうだけ」


 「……今回はお仕置きなしですか」


 「ええ、私もそうだけど、みんなも修行に明け暮れて、チェスリーがどうやってクランから抜けるか、考えがまとまってなかったからね。正直なところ後回しにしていたわ」


 「師匠の充実ぶりもありましたからね。食事の時も私たちや『黄金の翼』メンバーの成長を喜ぶお話ばかりしていましたし。私も今の生活が続くのを望んでいたのかもしれません」


 「そうね。そんなに今が楽しいのに、目標を見失っていないチェスリーを叱ることはできないわ。だからお仕置きはなし。マックリンも味方になることだし、辞め方も再検討しましょう」


 「はい。では私は師匠の逃げっぷりを見学しに行ってきます」


 「あ、その前にクラン拠点へ送ってね」


 「了解です」



 マックリンは『黄金の翼』に戻って再度チェスリー捜索の指示を行う。

 手の空いているものは全員投入することにした。

 既に冒険者ギルドへ金貨5枚で依頼済みのため、先にチェスリーを捕まえればその賞金を渡すことを付け加えると、メンバーのやる気は最高潮に盛り上がった。


 本命はディアルフ、レンタント、ニコラハムの索敵と俊足を生かしたトリオだが、新人にもチェスリーに教育された索敵や嗅覚のスキル持ちがいる。

 それぞれコンビやパーティーを組み、捜索にあたるようだ。


 このような騒ぎになっていることを知らないチェスリーは……。



◆チェスリー視点◆


 うーむ、困ったな。

 魔力制御の方は練習すれば何とかなりそうな感じだが、地図にするには絵心がないと困りそうだ。

 レアスキル持ちの男は、周りを見渡しながら紙に絵を書いている。

 こっそり近づいて描かれたものを見ると、実に細かい描写がされており、俺が知っている部分の地図も正確に描けている。


 俺は絵心がないので、もし見たとしてこのような地図は書けない……。

 描画する時に魔力視で視ても、魔力が働いている様子がないので、スキルとは関係なく熟練して上手くなったのだろう。


 自分が見てわかる絵ならいいかな……。

 それとも描写にするのはやめて、特徴だけを記号のようなもので書いた地図にするか。

 うん、それが現実的かもしれないな。

 目的は地図を作る事ではなく、未発見ダンジョンを探す際の資料になればいいのだから。


 ん?

 何か周りが騒がしいな。

 冒険者が街中を忙しそうに動き回っている。

 今の時間なら、ダンジョンに行くか依頼で町の外にいるのが通常なのにな。

 事件でも起こったのだろうか?

 手に持っているものは……えええ?

 俺の顔が書かれている手配書だと!?


 おいおい、確かに逃亡したけどそこまでして探すか?!

 ……まあ気配遮断のローブがあるから、そう簡単にバレないだろう。

 そんなことよりレアスキルだ。

 逃亡までして得た機会、まだまだ観察して魔力制御をしっかり覚えないとな。


次回は「逃亡者の末路」でお会いしましょう。


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