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第62話 嬉しい敗北

 ◆三人称視点◆


 チェスリーが『黄金の翼』で教育を堪能している間、『百錬自得』のメンバーは遊んでいたわけではない。

 ミリアン、マーガレット、アリステラ、メアリの4人は、チェスリーが修得したスキルを自らも習い、反復練習により熟練を積み重ねていた。


 メンバーを本気にさせたのは、ヴェロニアの発したあの一言。


 ――目標に夢中なうちはチェスリーが手を出すことないと思うから。行き遅れにならないように頑張りましょうね。



 チェスリーと恋仲になることが目的でクラン入りしたわけではなかった。

 しかし、チェスリーの魔力制御による”教え”効果もあり、気づけば心を奪われていたのだ。

 そんな彼女たちに突き付けられた一言は、看過できない事だった。


 しかも冒険者でもない身では、ダンジョン攻略の手伝いすらできない。

 弟子としてクラン入りしたメアリが、一番有利な立場にいることも他3人が焦る要因の一つである。


 そこで実行したのが、スキル修得と熟練度上げである。

 魔力量は多いので、ダンジョン攻略に必要なスキルを熟練させれば、並みの冒険者より強力な味方になることができる。

 チェスリーと一緒に行動したいがため、彼女らはやる気に満ちていた。


 ヴェロニアは、チェスリーが貴族のお嬢様たちを冒険に連れ出すことはない、と思っていたのだが、彼女たちの努力を見て考えを改め始めた。

 冒険に連れていかない理由は、危険だからである。

 では、危険がない、あるいは危険が少ない状況なら問題ないのではないかと。


 チェスリーの最終目標は、他人が聞けば不可能と答えるようなものだ。

 未だに新しいダンジョンが生まれ、未発見ダンジョンが多数ある状況で、全てのダンジョンと魔物を殲滅するなど、夢物語でしかない。

 どれだけの戦力があれば足りるのだろうか。

 どれだけのスキルが必要なのだろうか。

 どれだけの時間が必要なのだろうか。


 戦力もスキルも多いに越したことはないかもしれないが、信頼できるメンバーでなければ、チェスリーと行動させることはできない。

 今のところメンバーを増やすとしても、候補はマーガレットやアリステラと同じく貴族のお子様なのだ。

 そうなると今の彼女たち以上に頼れる存在はいないだろう。


 冒険者になる必要はない。

 ダンジョンを攻略する時に、安全に確実に手伝いができればいい。

 そう考えたヴェロニアは魔道具開発に、いっそう力を入れるようになった。

 今優先しているのは、【建城鉄壁】の魔道具化だ。

 撤退は転移魔法で可能だが、魔物に一撃でやられるような事態を避けるためである。




 こうして各自が忙しい日々を送り、60日程経過したある日、ジェロビンが情報を仕入れてきた。

 『黄金の翼』がチェスリーの背後を調査をしていた件で、進捗があったようだ。


 チェスリー争奪第二幕は情報戦である。

 どうやらジェロビンがダミーとして準備したガルビナ商会まで辿り着いたらしい。

 商会の伝手などで情報を得ていれば、このガルビナ商会がチェスリーの後ろ盾に該当するように仕組んでいたのだ。


 『黄金の翼』側は、マックリンとリオノーラが訪ねて来るらしい。

 『百錬自得』側は、ヴェロニアとミリアンが対応することにした。

 ヴェロニアとミリアンは変化の腕輪で変装している。


 ガルビナ商会に訪れたマックリンは、堂々とチェスリーのことで話し合いを行いたいと告げてきた。

 マックリンらしい正直さである。


 「『黄金の翼』クランリーダーのマックリンという。隣にいるのはリオノーラだ」


 「リオノーラです。よろしくお願いします」


 「ガルビナ商会のヴェネツィアと申します」


 「ガルビナ商会のミステリアです」


 ヴェネツィアはヴェロニアの、ミステリアはミリアンの偽名である。

 変化の腕輪で変装しているし、名前も伏せることにしたようだ。


 マックリンから話を切り出し、チェスリーについての要望を伝えてきた。


 「チェスリーのことで、単刀直入に言わせてもらう。『黄金の翼』での教育を継続させてもらえないだろうか?」


 「はて、何の事でしょうか。既にチェスリーは『黄金の翼』で働いています。問題なければそのまま務めると思いますけど?」


 「いや、それはないだろう。既にチェスリーはクランを抜けたがっているように見える。クランで準備した宿舎に高待遇で迎える話をしたが断られた。講師として専属になってほしいと言う話をすると、何か言い辛そうにして有耶無耶になった。どこかに専属になれない理由、つまり後ろ盾があるに違いないと調査した結果、ここに辿り着いたのだが?」


 「そうだとしても彼の自由ですよね。『黄金の翼』で働きたいと思われるよう努めればよろしいと思います」


 「……俺には金や住居ぐらいしか優遇することが思いつかない。チェスリーが何を望んでいるかわからないのだ」


 「なるほど。直接チェスリーに聞いてみましたか?」


 「ああ。田舎で隠居してゆっくりしたいとか、他のクランにも移籍してみたいとか、どうにも本心に思えない事しか話してくれなくてな」


 ヴェロニアは内心で余計な言い訳をしたチェスリーにお仕置きすることを誓った。

 下手に話すぐらいなら、単に秘密と答えたほうがいいと注意していたのに、守られていないからだ。

 既に穏便に終わる道がなさそうな予感だが……。


 「アノバカ……ごほんっチェスリーが望んでいることを私の口からお話しするわけにはいきません。と言ってもこのままお引き取り願う訳には――」


 「そうはいかない。俺にも目標があってな。そのためにチェスリーの力を借りたいんだ」


 「……その目標をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 「いいぞ。俺は全てのダンジョンをぶっ潰して魔物を殲滅したいんだ」


 「「「!?」」」」


 さすがのヴェロニアとミリアンも、ここでチェスリーと全く同じ目標が宣言されるとは思わなかった。

 しかも上級クランのリーダーという立場では、チェスリーが上級クランでは達成できないと考えている事情を抱えているはずだ。

 それを無視してダンジョンを攻略すれば、やっかいな争いになることもありえる。


 そして、ヴェロニアとミリアンだけでなく、リオノーラも驚いているようだ。


 「り、リーダー!そんなの初めて聞きますわよ。どういうことですの!?」


 「言ったことがないからな。このことを知ってるのは誰もいないはずだ」


 マックリンはチェスリーと共に探索したことで、薄々同じ志を持つ者ではないかと感じていた。

 加えてスキルを求める貪欲な姿勢や大胆な戦術に、パートナーとして惚れ込んでいった。

 クラン会議では、仲間からの提案でチェスリーを引き留めるという話をしていたが、マックリンこそがチェスリーと共にありたいと考えていたのだ。


 「そんな……何故ここでそのような話を……」


 「俺は人を見る目だけは自信があるんだ。チェスリーが信頼しているなら、ヴェネツィアさんとミステリアさんも同じように信頼する。もちろんリオノーラも信頼しているぞ?次のクランリーダーはお前だからな」


 「え!?」


 「ちょ、ちょっとすみません。話が急すぎてついていけません。順序だててお話しいただけませんか?」


 ミリアンが慌てて話を遮った。

 穏便に話すだけのつもりでいたので、少々混乱してきたようだ。


 「すまないな、要するに――」


 マックリンも上級クランに所属したままでは、目標は達成できないと考えている。

 ダンジョンは集団で攻略した方が安全を確保しながら進められるが、そのような攻略ペースではいつまでたっても、全てのダンジョンを攻略することなどできない。

 その間に新たなダンジョンが生まれ、魔物が溢れる悲劇が繰り返されるのだ。

 上級クランのような組織は大なり小なり、国や商会などとのしがらみもあるので、思うままに動くわけにはいかない。


 マックリンがクランを作り、リーダーとしてダンジョン攻略を行っていたのは、他に方法がなかったからだ。

 しかし、チェスリーによりダンジョン攻略の認識を改めることになる。

 強者のみの小集団で、効率のいいダンジョン攻略が可能な事を知ったのだ。


 マックリンはチェスリーと組んでダンジョン攻略を進めたい。

 だが、上級にまで認定された『黄金の翼』を放り出すこともできなかった。

 そのためにチェスリーの教育の資質を活かし、自分が抜けても問題ない体制を作りたい。

 マックリンの都合ではあるが、体制の目途が立つまで、チェスリーに抜けられては困るのだ。


 「……なるほど。しかしチェスリーは冒険者を引退しましたよ。何故冒険者として組むというお話になるのでしょうか?」


 「引退しようって奴が、あんなに必死に俺のスキルを見て学ぼうとしないだろ?実際に使って見せると、恐ろしいほど集中して俺のスキルを見ていたぞ」


 「……やっぱりそこでバレちゃったのね。あれほど言っておいたのに」


 「確信したのはそこだな。……まあ俺以外のスキルも積極的に学んでいたようだが」


 「はあ……わかったわ。マックリンさんの要望を請け入れましょう。但し、あくまで目途がつくまでです。期限も譲れないところは指定しますし、こちらから要求したいことも後日連絡します」


 「わかった。要望を聞いてくれて感謝する。それから後の事は改めて話をさせてくれ」


 ヴェロニアも予定と違いすぎる展開に内心まいっていたが、文句のつけようもない強者が仲間になってくれることに喜びを感じていた。


 「リーダー、この後じっくりお話聞かせてもらいますわよ。覚悟はできてらして?」


 「おう……わかった」


 そしてどことなくチェスリーと自分たちの関係に似ている、マックリンとリオノーラの雰囲気も微笑ましく感じていた。


 交渉が終わり、マックリンとリオノーラが立ち去った。

 チェスリー争奪第二幕は、本当の組織を隠すと言う点では『百錬自得』の勝利だが、マックリンの目標をぶつけられ、要求を受け入れたことで敗北と言えるだろう。

 しかし、『百錬自得』に心強いメンバーが加入する嬉しい誤算に、敗北した悔しさはないだろう。


次回は「クランからの逃亡」でお会いしましょう。


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