第61話 教育は師も育てる
『黄金の翼』教育担当として、働くことになった。
ついみんなに頼られたのが嬉しくて引き受けてしまったが、後悔はしていない。
マックリンのレアスキルはまだ修得できていないので、見る機会が増えるのはありがたい。
大規模ダンジョンを攻略したクランであれば、実力のある冒険者が加入してくる可能性が高く、新しいスキルに出会えるかもしれないしな。
ふむ……そう考えると、回り道のように見えて、案外いい展開の気がしてきた。
決して出かける前に散々注意されて、いじけているわけではない……。
『黄金の翼』への出勤は、攻略パーティーに参加していた時と同じで3日出勤で1日休みだ。
転移での運搬も無理のない範囲で手伝うことにした。
教育を担当することになったが、どのように進行すればいいのだろうか。
今までは戦術に合わせた魔法の工夫を教えるぐらいしかやったことがないのだが……。
いや……他にもあったか。
魔法を教えてほしいと頼まれた場合だ。
人によって使えない属性の魔法はあるが、素質のある魔法であれば使えるようになるだろう。
マックリンに教育の方針を伝えてみると、特に異論もなく了承された。
しばらくは攻略済みの大規模ダンジョンに拠点敷設などの作業があり、攻略パーティーの時間が空くようなので、顔なじみのメンバーを教えることになった。
本日の生徒は、リオノーラ、カリスリン、アメリンナの3人のようだな。
リオノーラは火と風の混合魔法が得意だ。
魔力視の眼鏡で視ると、赤系に緑が混ざったような魔力色で、素質に合っていると思われる。
カリスリンは聖魔法が得意だ。
魔力色は白系に少し青っぽいので、これも素質に合っていると思われる。
アメリンナは風魔法をいろいろ工夫した使い方をするのが特徴だ。
魔力色は緑系なので、これも素質にあっている。
ふーむ、さすがに自分に合ったものを伸ばして、実力をつけているようだ。
早くも素質に合ったものを教えるという、最初の方針が崩れそうなんだが。
ならば、白か黒の魔力色に該当する、光魔法か闇魔法を教えてみるのがいいかもしれない。
「リオノーラは光魔法と闇魔法は使えるかの?もし使えないなら、どちらを覚えてみたい?」
「どちらも使えないですわ。そうですわね……、私には光魔法のほうが似合いそうですわ」
「よし、それならライトの魔法を教えようかの。手をこちらに、魔力制御を流すからの」
「よろしくですわ」
リオノーラの手を取り、魔力を流していく。
「どうかの?」
「え、ええ。よろしくてよ」
リオノーラの魔力制御は素晴らしいからな。
魔力色が調整できれば、光魔法も上級まで使えるようになりそう。
「ふむ、では魔力制御を忘れんうちに練習をしてもらおうかの。次は誰かの?」
「はい!私でお願いします。治療の魔法を教えていただきたいです」
「え?カリスリンは治療の上級まで使えておったような……」
「あの私が知らなかった治療の魔法がありますよね?それを是非」
「ああ、あの魔法じゃな。カリスリンは自分で治療できるから、わしが使う必要がなかったからのう」
「そうです。しかも傷だけじゃなく疲労まで治っていたような……」
「ほっほっ、自分で体験してみればわかるじゃろ。肩のあたりから魔力を流すぞい」
カリスリンの両肩に手を置き、白と黒の魔力を流していく。
今まで使用した回数も多いので、もう手慣れたものだ。
「あ……むぅ……はぁ」
「どうかの?」
「はい……素晴らしいです。このような癒される感覚は初めてです」
「ふむ、今の魔力制御を忘れんうちに、反復練習をするのじゃ」
「はい!」
「私も~治療の魔法を~お願いできるかしら~」
「アメリンナもか?……まあいいがの」
アメリンナにも肩から白と黒の魔力を流していく。
「ふうう~これはいいわ~」
「しっかり魔力制御も覚えるんじゃぞ」
「は~い」
今回は既に上級まで魔法が使えるメンバーばかりが相手だからなあ。
俺が教えるまでもなく優秀だし、教育の効果はわかり辛いかも。
その後も数回魔力を流して教え、リオノーラは光魔法の初級が使えるようになった。
カリスリンとアメリンナは……単に癒しただけになりそうだ。
「なあ、お主たちじゃなく、控えのメンバーや新人に教えたほうがいいのではないかの?」
「「「ダメです」」」
「えぇ……」
「私たちの~時間が空いてる時は~優先してくださいね~」
「そうです。私が教えてほしくて教育担当を提案したのですから、当然です」
「私も早速上達したではありませんか。ほら、光魔法が使えるようになりましたわ!」
「ま、まあ雇われておる身じゃし、構わんのだが……」
「それより~その眼鏡ですけど~何か隠されてませんか~?」
――ギクッ
ヴェロニアにも注意されたが、やはり眼鏡のことに気付いている人がいたか……。
下手に隠しても不自然になるから、話しても構わないと言われたし正直に答えるか。
秘密を守る最もよい方法は、嘘を言わないことだと教わった。
話してもいい範囲まで嘘をついて誤魔化すと、返って秘密までばれてしまうということだ。
この場合、魔力の色が視えることだけはしゃべるなと言われた。
「ほっほっ、実はこれは魔力の流れが視える眼鏡なのじゃ。例の収納使いの彼女からの伝手で、譲ってもらっての」
「へえ、それで魔力を視て~どうするのかしら~?」
「……まあ隠しておったのはすまんが、わしは魔力量がないから魔法を工夫するしかなくての。これで魔力の流れをみると、どのような制御をしておるかわかるのじゃ。それでいろいろ工夫させてもらっておる」
「……視て覚えるか……言われてみれば、冒険者として当然の行為とも言えるわね」
「盗み見られておると感じるものもいるから隠しておった。冒険者は引退したから、これからは教育に有効利用しようと思っての」
「ふうん、私にも使わせてもらってよろしいかしら?」
「どうぞ。魔力を流せば、効果が発動するからの」
リオノーラに魔力視の眼鏡を渡す。
忘れてはいけないのが、変化の腕輪への魔力供給を断つことだ。
変化の効果はしばらくそのまま残るので、供給を断つのは問題ない。
供給したままだと、魔力視をした時に腕輪に魔力が流れているのがわかり、魔道具と見破られる恐れがある。
「んん……白い線のようなものが流れているように見えますわね。これが魔力ですの?」
「そうじゃ。アメリンナ、試しに風魔法を使ってみておくれ。それを視てみるとよい」
「は~い」
アメリンナが風の初級魔法、ウインドを発動する。
「あっ、わかりましたわ。魔力が腕から手に流れていますのね。なるほど……」
「リオノーラの素晴らしい魔力制御もこれで視てコツを掴んだのじゃ。感謝しておる」
「私の魔法は特別ですからね!……コツを掴むことも凄いと思いますわ(ボソッ)」
代わる代わる魔力視の眼鏡を試す3人だったが、満足したのか返してもらえた。
少し心配だったが、俺以外に魔力の色が視えたものはいないようだな。
「それじゃ今日はここまでにするかの。魔法以外でも教えてほしいものがおれば、希望を聞いておいてくれんかの」
「え?魔法以外も大丈夫ですの?」
「ああ、スキルというのは魔力が作用しておる。剣や槍も魔力で補助を使った上達法を教えられるからの」
「わあ、それは希望者が殺到しそうですわ。ほどほどにしておかないといけませんわね」
「ええ、私たちが教えてもらう時間が減りそうです。ある程度間引かないと……」
「ま、まあ時間を区切って、多少は人数を増やしてもいいからの?穏便に決めるようにしておくれ」
こうして始まった教育は、『黄金の翼』で大人気となった。
魔法を覚えたり、武術が上達したりと、練習の成果を発揮するまでの時間が従来の講義より格段に速く、俺自身も驚きを隠せない。
上級クランは素質の高い人が集まるので上達も早いし、魔力視の眼鏡は教育に非常に有用だとわかる。
相手の素質が見えることで、何を教えればいいか判別がつくのがこれほど大きいとは……。
戦力が底上げされたことで、攻略パーティーは次の大規模ダンジョンの攻略を開始し、攻略済みダンジョンからの資源回収も効率よく進んでいた。
実は俺の成果も上々だ。
多くの人を魔力視で視たおかげで、【能力鑑定】と似たようなことができるようになったのだ。
最初は魔法だけだったが、武術も魔力の流れに特徴があり向いている武術がわかるようになり、【察知】【探知】などの特殊スキルの特徴も判別可能になった。
新しいスキルも、新たに加入した新人から修得することができた。
【俊足】【剛力】【分析】の3つだ。
特に【分析】はダンジョン探索に大いに役立つだろう。
【分析】を使うことで、【索敵】同様に膜のような魔力が広がっていくのだが、生物ではなく無機物に反応するようだ。
これを応用することで、ダンジョンの未探索部分の構造を知ることができる。
調べられる範囲は魔力量によるため、俺の魔力量では足りないが、もっと魔力量を多く持つ者が使えば、かなりの範囲を調べられるだろう。
そして目玉はマックリンのレアスキルだ。
マックリンにも参考にスキルを見せてもらい、体の動作を再度確認することで、一部使いこなすことができるようになったのだ。
俺がスキルを使うところは見せてないから大丈夫……と思っていたが、ヴェロニアに説教された上、当面このレアスキルを使うことを禁じられてしまった……解せぬ。
そうして過ごしているうちに、瞬く間に60日ほど経過してしまった。
ヴェロニアに教育期間の目途と言われた日数を既に超えようとしている。
冒険者以外の職業で過ごしたこの期間は、思った以上に有意義で楽しかった。
しかし、俺の目標はここでは達成できないし、今は急ぎの用事ができてしまった。
最低限の恩返しは、教育の成果で返すことができたと思う。
『黄金の翼』のみんなには悪いが、強引に抜けさせてもらうとしよう。
そう決心した俺は、書置きを残しクラン『黄金の翼』から逃亡したのだった。
次回は「嬉しい敗北」でお会いしましょう。




