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第60話 ”復讐”の最終目標

 昼間から宴会を始めて、夜も遅くなってからようやくお開きとなった。

 『黄金の翼』の女性メンバーにちやほやされて、すっかりいい気分になってしまった。


 寝るのは『百錬自得』に帰ってからにするか。

 転移で戻り、屋敷でケイトさんのお出迎えしてもらう。

 ここまではよかったが……ヴェロニアとミリアンの顔を見たら、思い出してしまった。

 『黄金の翼』に残ると言ってしまったことを……。

 一瞬で酔いが醒めるとは、こういう時のことを言うのだろう。


 「た、ただいま。ヴェロニア」


 「お帰り。随分楽しそうじゃない」


 「う、うむ。えーと、ほら。ダンジョン攻略成功のお祝いがあってのう」


 「ふーん。最下層が残ってたんじゃないの?」


 「いやあ、ドラゴンが最後だったらしくての。無事にダンジョン核を掘り出してきたわい」


 「へええ、それでお祝いね。で?」


 「うん?それだけじゃよ」


 「……それだけ?」


 「うん」


 ヤバい、ヴェロニアの目がちょっと怖い感じになってきた。

 とにかく、達成したことだけは先に伝えておこう。


 「ぼ、冒険者は引退すると宣言してきたぞい」


 「ほう、なかなか言えないんじゃないかと心配してたけど、ちゃんと伝えたのね。で?」


 「……教育担当を引き受けてしもうての」


 .…………無言こえええ。


 「はあ、わかったわ。お疲れさん。今日はもう休んでいいわよ」


 「お、おう。……そうさせてもらおうかの」


 俺はおとなしく自室へ行き、酔いもあったのですぐ眠りについた。




 ◆三人称視点◆


 チェスリーが自室へ向かった後、ミリアンは一つため息をついて、ヴェロニアと話し始めた。


 「やはり気付かれていましたね」


 「まあ、女性は特に気付くでしょうね。あいつの魔力制御が他と違うってことに」


 「メアリさん……凄い勢いで帰ってきましたからね。よく耐えたものです。ヴェロニアさん、これからどうしましょうか」


 「そうねえ。ダンジョン核を目前にして休日にするとは……恐らく相手に勘のいい人がいるわ。初戦はこちらの完敗ってところね」


 「このままだと、チェスリーさんのレアスキルの秘密が知られるのも時間の問題でしょうか?」


 「教育担当になれば、もう隠せないでしょうね。チェスリーもすぐに辞めるとは言えないでしょうし……。一先ず現状を確認しましょうか」


 「そうですね」



 ヴェロニアとミリアンは、他のクランメンバーを呼んだ。

 マーガレット、アリステラ、メアリがやってきて、話し合いをするようだ。


 「メアリ、もう大丈夫?」


 「はい……何とか落ち着きました。師匠の転移魔法の魔力は強烈すぎました……」


 「そ、そんなに……」


 「シルビアさんに教えていただいてる時は、痛いだけだったのです。師匠から転移の魔力が流れてきたら、尊敬の念というか、思いが溢れる様な感じで……思わず抱きついてしまいました」


 「……わかる気がしますわ。私も治療の時、気分が高揚しましたもの」


 「下手すると媚薬になりかねないわね……。レアスキルは特に強烈なようだし」


 チェスリーの魔力制御を流されたものは、暖かさを感じる。

 これはチェスリーが転移魔法を覚えた頃から発生するようになった現象である。

 その暖かさが、女性の特別な感情に訴えかけてくる。

 人によって感じ方は異なるが、チェスリーへの思いが深いほど感情が昂る傾向があるようだ。


 「レアスキルの魔力制御は絶対教えちゃダメってのも言っておかないとね。それでメアリ、転移魔法のほうはどうなの?」


 「……使えるようになりました」


 「そっか、メアリも凄いと思うけど、さすがチェスリーね。ついに国が放っておけない程の成果をあげちゃったか」


 「あげちゃったかって……ヴェロニアさん軽いですね」


 「チェスリーの問題だしね。できるだけの協力はするつもりだけど、自分でやったことなんだから責任とってもらわないと。ミリアンだって薄々そうなると思ってたでしょ?」


 「ま、まあそうですね」


 「そうなると、プリエルザ公爵様とエドモンダ侯爵様を合わせた権力でも、対処できない場合があるかもしれないわね」


 「いっそ『黄金の翼』も仲間に引き入れますか?」


 「いやあ、さすがにそれは厳しいでしょ。特級クランになるかもしれない相手よ。少なくともチェスリーのレアスキル修得が満足するまでは、目立ちすぎるから距離をおきたいのよね」


 「あの……ジェロビンさんからの情報ですが、『黄金の翼』がチェスリーさんの事を調べ始めたらしいとの事です」


 ジェロビンとグレイスは、レアスキル調査の傍ら、王都の貴族や商会の動向も探っているのだ。

 入手した情報は、マーガレットの【以心伝心】を使って、情報連携を行っている。


 「ほほう、本格的にチェスリーを囲い込みたいと見えるわ。初戦は譲ったけど、情報戦でうちのジェロビンを侮らないでほしいわね」


 「……ヴェロニア姉さまが、悪い顔をしてらっしゃいます」


 「これは戦いなの。アリステラもチェスリーをとられたくなかったら、何か対策を考えなさい」

 

 「う……はい」


 「しかし、既に『百錬自得』があるわけですし、『黄金の翼』にとられるとは……」


 「マーガレットも甘いわよ。『百錬自得』はチェスリーに恩がある人が集まっているけど、『黄金の翼』はそうじゃないわ。あいつは他人に認められる事に飢えてた時期があるから、身内のような私たちから認められるより嬉しいはずなのよ。加えてあのお人よしな性格、踏ん切りをつけないと一生抜けられなくなるわよ」


 「そう言われると、思い当たる点がいろいろありますね……」


 「そういうことね。対策はジェロビンからの情報を合わせて考えるから、今は保留ね」


 「ヴェロニア姉さま……私、疑問に思うことがあります」


 「ん?アリステラなあに?」


 「チェスリーさんの目標はダンジョン攻略ですよね?レアスキルの秘密を知られて、自由を奪われるかもしれない、というのは私も理解しています。でも『黄金の翼』にいた方がダンジョン攻略は楽になると思うのです」


 「……そうね。そろそろ、みんなには知っておいてもらった方がよさそうね。チェスリーの”復讐”について」


 「「「「復讐!?」」」」


 大よそチェスリーに似つかわしくない言葉に、全員驚いたようだ。


 「チェスリーは私に話したこと、もう忘れちゃってるかもしれないわ。10年近く努力しても、レアスキルの効果がわからなかったし、諦めかけていたからね。私が魔道具を作り始めたきっかけでもあるし、レアスキルに異常にこだわるのは、その”復讐”が果たせるかもしれないからなの」



 ヴェロニアが語る、チェスリーの”復讐”とは。


 チェスリーはマクナル出身ではなく、元は王都のずっと西側にあるクヴァリッグという町で生まれた。

 クヴァリッグは麦の生産が盛んで、農家の家に生まれたチェスリーは、特に不自由することなく、8歳まで成長した。


 しかし、クヴァリッグという町は、もう存在しない。

 ある日ダンジョンから溢れた魔物に襲撃され、一夜にして滅んだのだ。

 チェスリーの両親は、その事件で命を落としている。

 チェスリーは両親に守られ、避難する馬車に詰め込まれたおかげで逃げることができた。

 その後はマクナルの孤児院で15歳になるまで過ごすことになる。


 15歳で【能力鑑定】を受けたチェスリーは、自分にレアスキルが与えられたことを知り、恐怖を感じながらも、”復讐”する力を与えられたと思った。

 だからこそ、修行に明け暮れる日々に耐えることができたのだ。


 ダンジョンから魔物が溢れる事件は珍しい事ではなく、未発見ダンジョンがまだ数多く存在する中、現在もいつ同じことが起きるかわからない状況である。

 チェスリーは両親を殺した未発見ダンジョンを憎み、ダンジョンという存在や魔物全てを憎んでいる。

 魔物という存在全てに”復讐”して、殲滅することがチェスリーの最終目標だ。


 人類にとって魔物の脅威がなくなることは、本来歓迎されることのはずだが、全てがそう考えるわけではない。

 既にダンジョンと魔物は経済活動の一端を担うものでもある。

 ダンジョンが成長することによって、魔物が強くなる代わりに希少な素材は増え、採掘できる鉱物や宝石も多くなる。

 クランによって管理されているダンジョンは、わざとダンジョン核をそのままに、牧場のように使っているところもあるのだ。

 これらを収入源とする貴族や商会も多く、国もその恩恵にあずかっている。

 そのような行為により、新たな悲劇が生まれることがあるにも関わらずだ。



 もしチェスリーが全てのダンジョンを攻略できるような力を手に入れても、反対する勢力が必ず現れる。

 そう考えたチェスリーは、無謀にも一人で全てを成し遂げる力を手に入れようとしていた。

 そしてレアスキルの効果もわからないまま、闇雲に努力を続けていたが、力のない自分に落胆して諦めかけていたのだ。


 レアスキルを修得できるようになり、かつての情熱を取り戻した今、チェスリーは最終目標を目指すだろう。

 本来はヴェロニアを始め、エドモンダ侯爵様や他のクランメンバーにも知られたくなかったはずだ。

 しかし、ジェロビンに誘導されたこときっかけに一人で出来ることの限界を知ったチェスリーは、『百錬自得』を受け入れることにした。


 既に上級クランである『黄金の翼』では、恐らくチェスリーの味方になることはできない。

 しがらみが多すぎて、敵になる可能性の方が大きいだろう。



 「そ、想像以上に大きな目標でしたわ……」


 「そうね。そして万人が認めることはできない目標だから、”復讐”という個人的な表現にしてるみたいね。反対する人の言うことを聞いてたら、絶対達成できないから」


 「なるほど……ヴェロニアさんが魔道具を作り始めたのって、チェスリーさんのレアスキルのためだと思ってましたが、それだけじゃないですね」


 「……魔道具が進化すれば、ダンジョンに頼る必要はなくなるかも、とは考えたけどついでみたいなものよ。あたしは魔物に直接被害を受けたわけじゃないから、チェスリーほど思い入れもないしね」


 「ふふっ、ヴェロニアさんも素直じゃありませんね」


 「私、チェスリーさんのことをもっと応援したくなりましたわ」


 「いいの?多くの人が敵になるかもしれないわ。場合によっては、プリエルザ公爵様やエドモンダ侯爵様でさえ、敵に回ってもおかしくないのよ?」


 「私のお父様はそのような人ではありませんわ。それに話しても大丈夫と思ったから、私たちに伝えたのですよね?」


 「うん……意地悪な事言ってごめん。私もクランメンバーは信頼してるから」


 チェスリーの最終目標を共有した『百錬自得』の面々は、改めて結束を固めた。


 「あ、一つ言い忘れてたけど、目標に夢中なうちはチェスリーが手を出すことないと思うから。行き遅れにならないように頑張りましょうね」


 全員がガクッとなり、なんとも言えない表情になる。

 締めた途端に緩む、この雰囲気が『百錬自得』の持ち味である。


次回は「教育は師も育てる」でお会いしましょう。


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