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第6話 ヴェロニアを訪ねて

 マクナルは人口約1万人の中規模都市である。

 温暖な気温と適度な雨に恵まれ、農業が盛んで、農業従事者が多い。

 町並みはそれほど整理されておらず、入り組んだ道だが、これはこれで味がある。

 店などが集まる中心地は、しっかり石畳で舗装されており、お金がある人は中心に集まる。

 家は木造の平屋が多いが、貴族やギルド、商会などの建物は、敷地も広く複数階ある大きな建物を持っている。


 ヴェロニアは、中心地から多少離れた平民街に住んでいる。

 リンジャック、マルコラスを連れて、ヴェロニアの家に案内した。

 未発見ダンジョンの件で、しばらく訪ねてなかったから、どうしてるだろうかな。


 「ヴェロニア~、いきてるか~?」


 扉を叩きながら呼び掛けてみると、中からどたどたと音がして、ヴェロニアが現れた。


 「ちょっとチェスリー!どこいってたのよ。薬草がもうなくなっちゃうんですけど!」


 「緊急の依頼があって遠出してたんだよ。というか、薬草ぐらい自分で仕入れろと言ってるだろうが」


 「あのね、薬草だって無料じゃないの?わかる?チェスリーが持ってきてくれないと私が困るの」


 「おま……俺の薬草だって無料じゃないぞ。代金を受け取ってない分払ってほしいんだけど」


 「その先立つものがないから言ってんでしょーが!わかれ!」


 「こいつ……あ、すみません。お騒がせしちゃって」


 時すでに遅しだが、場を取り繕いつつ、リンジャックとマルコラスを紹介し、ジュリーナさんの話を聞きに来たことを伝える。

 リンジャックとマルコラスは苦笑するしかない。


 ヴェロニアは【錬金】スキル持ちで、普段はポーション作成で生計をたてている。

 ポーション作成の腕前はなかなかで、俺は普段から採取依頼よく請けるので、直接納品したりしているうちに、付き合いが長くなっていった。


 本人はポーション作成は本業ではなく、魔道具作成こそが本業と宣う。

 しかし実情は……魔道具は微妙な効果のものが多数で、いくつか売れるものは作ったものの、その金も研究で浪費し、常に金欠に陥る始末である。


 「ふう~ん。それでジュリーナさんのことだっけ。あたしが知ってるの5年前ぐらいまでのことだよ?それでいいの?」


 「ああ、俺も愚痴でしか話を聞いてないからな。ちゃんと知ってることを教えてくれ。できればマルコラスさんの妹さんを治療してもらいたいんだ」


 「ん~そうかぁ。でも今どこにいるかは、あたしも知らないの。聖魔法の上級が使える人って、やっぱ貴重でしょ。マクナルに住んでる頃は、お金のない人でも治療したりしてたけど、目立っちゃってね……。半ば強制で王都に連れてかれちゃったのよ。案外、その高額な治療報酬ってのも、その時に絡んだ貴族が原因かもしれないわね」


 ここにもスキルで目を付けられた例があったのか……。

 連れていかれた先でどうしているか不明だが、権力によって自由を奪われたことに変わりないよな……。


 「そうか……情報屋の話も嘘じゃないのかもしれないな」


 「ところでさ、妹さんの病気ってなんなの?」


 マルコラスは、話を聞いて落ち込んでいたが、何とか気を取り直し、妹の病状を話し始めた。


 「病名はわかりません……。ジルシス草で一時的に症状は改善するのですが、2~3日ですぐに熱がでて寝込むことを、もう1年以上も繰り返しています。薬を飲まないと体に赤い斑点がでて、強い痛みがあるようです」


 ジルシス草は、煎じて飲むと強い解熱作用があり、冒険者の間でも使用されている。

 しかし、強い魔物が存在する森の奥でしか採取ができず、値段もそれなりに高い。


 「む~、その症状は魔斑病っぽいね」


 「え!?病名がわかるんですか!」


 「うん、ジルシス草を煎じた薬って、解熱効果以外に、どうも魔力を弱める効果があるみたいなの。魔斑病が一時的によくなるのも、魔力が抑えられるためって言われてる」


 「へえ、さすが薬師。よくそんなこと知ってたな」


 「あたしは魔道具師だっての!」


 「へいへい。それじゃ魔道具師様、何か打つ手はないのかい?」


 「む~~ムカつくわね。まあいいわ、手がないわけではないんだけど……先立つものがいるのよね」


 「お、お金ですか!それならもう少しすれば手に入りますので!」


 マルコラスが必死な顔で訴えかけてきた。

 病名さえわからなかった状況から、何らかの手があるという話まで飛び出してきたのだ。

 興奮するのもしょうがないな。


 「えっと、多分金貨50枚ぐらいかかっちゃうよ。あたしの魔道具を完成させるために、必要な素材がめっちゃ高いの」


 俺は頭を抱えた。またこいつおかしなものを作ろうとしてる……。

 しかも金貨50枚って何だよ!

 薬草買う金も残ってないやつが言っていい金額じゃねえよ。


 「あ~ヴェロニアさんや。落ち着きたまえ。きみは金欠で精神をやられているようだ。しっかり現状を認識した上で反省したまえ」


 「なによその扱い。いい?ちゃんと正気で話してるから。魔道具が完成したら、魔力が視えるようになるの。魔斑病の原因は、恐らくだけど魔力の流れがおかしくなって暴走してるのが原因なの」


 「その魔道具本当にそんなことできるのか?それに見えるだけじゃ何も解決してないじゃないか」


 「そこであんたの出番でしょうが。あんた他人の魔力に干渉できるでしょ?」


 「いや、あれは自分の知ってる魔力の流れを相手にも流して、コツを掴んでもらうだけだぞ。あれを干渉って言うのか?」


 「認識の違いだけじゃないかな。その体験的に魔力を流すってことで、結果相手の魔力の流れも変わってる、つまり干渉してるはずなのよね」


 「ふーむ、自分の事だけに納得いくようないかないような……。それで結局どういうことなんだ」


 「あんたができる事は、”自分の知ってる魔力の流れ”を干渉によって覚えさせることでしょ。だから、ジルシス草を飲んだ後の魔力の流れと、症状がある時の流れがちゃんと視えれば、そこに干渉できるんじゃないかってこと」


 「ほお……。いやしかしそんな考えだけで大丈夫なのか?いきなり試して上手くいくかどうかも……。あとお前の魔道具も心配だし……」


 「あんたねえ!あたしの魔道具に失敗作なんてないのよ!」


 「おいおいおい、いっぱいあるじゃん。水魔法が使える人しか扱えない、水を出す魔道具とか、風魔法より魔力を使う、そよ風魔道具とか、誰でも使える種火だけ出す魔道具・・・あ、これだけは成功品だった」


 「ほら~、ちゃんと成功してるじゃん。それに水魔道具の霧吹きちゃんと風魔道具の冷風くんも少しは売れたんだからね。元は取れてないけど!」


 微妙な効果なものは確かに多いが、需要がちょっぴりあったのはそのとおりだ。

 水魔法で霧のような噴射を自力で制御することは難しく、冷風も風と水を混合させたものを風魔法しか使えない人が使えるのだ。

 ただし、使用できる場面が限定的で、必須でもないので需要が増えることはないだろう。

 魔道具に使う素材も高価なので、お値段も高めだ。


 「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」


 リンジャックがおずおずと手を挙げながら、いつまでも続きそうな雑談に割り込む。


 「その……魔斑病というのは聞いたことがありません。治療の方法も特殊なようですし、知られている病気なのでしょうか?」


 「症状が軽いものは、自然に治っちゃうから、単に風邪だと思っちゃうみたい。病気になる人自体は珍しくないから症例は多いのよ。症状が重いのはあたしも1例しか知らなくて、その人の症状とそっくりなの。魔力の素質が抜群だったのを覚えてるわ。妹さんはどうかしら?」


 「ええ……妹は魔法が得意で、魔力量も多かったと思います。あの……その病気の方はどうなったのでしょう?」


 「……残念ながら亡くなってしまったわ。ジルシス草も高価な上に、今より入手も難しかったの。

高熱と衰弱で体がもたなかった……。でもね、今ならあたしの魔道具とチェスリーで助けられるかもしれないの。あたしにとっても、この病気の克服は何とかしたいことの一つなのよ」


 マルコラスはしばらく沈黙し、何か考えているようだ。

 そして意を決した表情で、こちらを見すえる。

 どうやら考えが決まったようだ。


 「ヴェロニアさん、チェスリーさん、妹の病気を治すため、力をお貸しください。費用は全てお払いします」


 「え、いや~そうしたいんだけど……先立つものが」


 「ああ、実は金は何とかなるんだ。ダンジョン核をオークションにかけるから」


 「へ?ちょっとちょっと!何それ!!」


 ヴェロニアは目を真ん丸にして詰め寄ってくる。

 驚くのはわかる。

 滅多なことである出来事じゃないからな。

 そこで未発見ダンジョンの話を簡単に説明した。


 「ふわぁ、上手くやったわねぇ。それならお金は何とかなりそうね。素材はお金があれば、直ぐ揃うはず。魔道具の設計はできてるから、いつでも組み立てられるわよ」


 「その魔道具大丈夫なのか?いつも期待通りの効果より、ずっと弱いものしかできないじゃないか。それに今回たまたま使えそうだけど、何のために作ってたんだ?」


 「む……。まあ……その……。ちゃんと魔力ってものを深く研究したかったのもあるし、魔斑病にも応用できるかな~って。魔道具作りの補助に使えるかもしれないしさ」


 「ん?」


 ヴェロニアにしては歯切れの悪い言い方だ。

 本心は別にありそうだが、ここで聞き出すことでもないか。


 「まあわかった。勝算があるなら、やってみるしかないよな。ただし、命がかかってるから慎重にやるぞ」


 「もちろんよ。今度こそ助けるんだから」


 今度こそ……か。

 どうやら以前に魔斑病にかかった人は知り合いなのかも。

 そうすると、ここにきたのも偶然じゃなく、必然だった……とか。

 そう思えるほど、未発見ダンジョンで金の問題が解決し、ジュリーナさんの話からヴェロニアに繋がり、治療法が見つかってと、話が出来すぎている。


 まあ、問題は解決していくしかないし、できる事からやっていこう。

 上手くいくかどうかは、やってみないとわからない。

 【百錬自得】のように、諦めることになっとしてもだ……。


次回は「イビルアイの瞳を探せ」でお会いしましょう。

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