第59話 冒険者引退…しかし
結局、メアリは戻ってこなかった。
シルビアの重い話は聞いてしまったが、しっかり復讐は済ませてたから問題ない……よな。
俺としては、今後も友人の関係を変えるつもりはない。
クラン拠点に転移で帰る。
そういえば、最近転移ばかりで移動しているな……。
便利なものを知ってしまうと、元に戻せないよね。
クラン拠点の屋敷にいくと、いつものようにケイトさんが出迎えてくれる。
メアリのことを聞いてみると、屋敷に戻っているようだ。
会って話してみようかな。
メアリの部屋に向かおうとしたら、もう夕食の時間なのでと、食堂の方へ案内されてしまう。
クランメンバーも集合しているようだ。
……メアリはいないなあ。
「ミリアン、メアリはどうしてるか知っておるか?」
「メアリさんはしばらく一人にしてほしいと、自室でお休みになってます。お食事も部屋の方へ運びますので、ご心配なく」
「いや、それ心配なんじゃが?転移の魔力を流した後、走り去ってしまっての」
「大丈夫です。体調が悪いわけではありませんから。落ち着くまでそっとしておいてあげてください」
「……そうか。本当に大丈夫なんじゃろうな?」
「はい。落ち着けば問題ない事ですから」
「わかった……任せるとしよう」
痛みに耐えかねてとはいえ、俺に抱き着いた事が恥ずかしかったのだろうな。
気の利いたことを言う自信もないので、大人しく引き下がる。
翌日。
俺はダンジョン攻略の再開に備え、休息を十分とったので体調は万全だ。
意気揚々と『黄金の翼』に出勤した。
「マックリン、今日は威力偵察からじゃろ?メンバーはどうするのかの」
「あ~、チェスリー。先日言い損ねていたんだが、ダンジョンは攻略済みだ」
「ええ?確か最下層が残っておったじゃろう」
「チェスリーにドラゴンを運搬する手配をしてもらう間に、ディアルフに調べてもらったんだ。すると下に降りる通路ではなく、ダンジョン核があると思われる穴を発見した」
「おお……そうじゃったのか。それなら今日はダンジョン核の掘り出し作業かの?」
「そういうことだ。転移をよろしく頼むぞ」
「了解じゃ」
ダンジョン核を見るのは、これで2度目だ。
前は未発見ダンジョンのもので小さめだったが、大規模ダンジョンのはどれぐらい大きいのか。
そして…一体いくらになるのかな。
ドラゴンの素材だけでも、かなりの金になる。
クランの運営や消耗品にお金が必要だから丸々利益になるわけではないが、ダンジョン攻略の成功は大金が入ることになる。
命を懸けているから、割に合うかどうかは人によるだろうけどな。
本日のパーティーは、マックリン、リオノーラ、カリスリン、アメリンナ、シンディ、レンタント、ゲイブラム、俺の8人だ。
……ダンジョン核を掘るにしては、変わった構成だな。
特にカリスリンは聖魔法使いだし魔物はすぐに復活しないから、治療の心配はいらないと思うんだけど。
まあ、マックリンが決めた事だしいいか。
俺は転移魔法を展開……んん?何故か女性陣がやけに近いぞ……。
俺の転移魔法の範囲は確かにしょぼいのだが、そんなに近寄らなくても平気ですよ……。
どことなく違和感を感じながら、転移が終了。
早速ダンジョン核を見つけた場所へ向かう。
道中でリオノーラが話しかけてきた。
「ねえ、チェスリーさん。このダンジョンの攻略はこれで終わりだけど、次の攻略はどこがよろしいかしら?」
むむ、もう次の攻略の話とは想定外だ。
ヴェロニアから冒険者引退指令が出ているし、どう答えようか。
「そ、そうじゃの……じ、実は先日のドラゴンの件で転移を使いすぎてしもうての。少し体調が優れんのじゃ。休養してから考えようかの」
「まあ、大変です。私の治療の魔法で癒して差し上げます」
「い、いやいや。探索中だし、ほんの少しだけじゃから。気を使わんでええよ」
カリスリンがすかさず近づいてきて、治療の魔法をかけようとするのを遠慮して断る。
すると次々にみんなが話しかけてくる。
「チェスリーさん……私は料理以外に……マッサージも……得意なので……戻ったら……してあげますね」
「チェスリーさん~お金も入りますし~私と一緒に買い物にいきませんこと」
「チェスリーさん!また今度俺の魔法を見てください。俺頑張りますから」
なんだなんだ、おかしいぞ。
こんなに探索中に話しかけてくるなんて。
恐らく魔物は出てこないと思うが、油断しすぎじゃないだろうか。
「マックリン、みんながやたら話しかけてくるんじゃが、問題ないのかの?」
マックリンに助けてもらうことにした。
「ん?まあ索敵ならレンタントがしているし、ドラゴンがいたから他の魔物が住み着いてることもないだろう。ほぼ安全だから、別に話しながらでもかまわんぞ」
マックリンまで……らしくないなあ。
そんな感じでみんなと雑談していたら、ダンジョン核の埋まっている穴まで辿り着いた。
ぽっかりと空いた大穴だ。
深さは……相当深そうだけど、どうやってダンジョン核を取り出すつもりだろ。
「シンディ、ゲイブラム、成形をやってくれ」
シンディとゲイブラムが土魔法を使い始めた。
穴の周りに梯子代わりになる突起を作るようだ。
「何故わざわざ足場を作るのじゃ?」
「ああ、こうしておいた方が、後で穴の周りの鉱石を掘り出しやすくなるからな。掘り進めると崩すことになるが、後から作業するやつが便利に使えるんだ」
「なるほどのう」
「今日はダンジョン核だけ回収したら終わりだ。続きはクランの後方支援パーティーが拠点を敷設した後だな」
「そうか、なら早く帰れそうじゃの」
「え……いや、この後会議するからチェスリーも出席してくれ」
「了解じゃ」
新しいダンジョン攻略に向けた話し合いでもするのかな。
時間が空くようなら、マックリンのレアスキルを練習をしたい。
どうせなら教えてくれと……いやいや、直接頼むのは駄目だって言われてたんだ。
無事ダンジョン核を掘り出せた。
未発見ダンジョンのダンジョン核と比べると、3倍は大きい。
人の頭ほどの大きさがある。
「よーし、拠点に戻るぞ。チェスリー転移を頼む」
転移魔法を発動し、『黄金の翼』のクラン拠点に戻る。
ダンジョン核は後方支援のメンバーが運んでいった。
少し休憩した後、早速会議が始まった。
「クラン会議を始める。議題は次のダンジョン攻略に向けての準備についてだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれんかの」
……言い辛いけど、ここではっきりしておかないと、ずるずる冒険者を続けてしまい、クランから抜けられなくなってしまう。
ヴぇ、ヴェロニアが怖いからじゃないんだから!
「チェスリーどうかしたか?」
「……わしは冒険者を引退しようと思っとる。大規模ダンジョンを制覇して、一旗揚げることはできたしのう。先ほど話したが、どうも体調が優れんのじゃ。体力も衰えておるし、みなに迷惑をかける前に、ここらが潮時かと思うての」
ざわっ……。
会議室内にざわめきが起こった後、静かになった。
突然こんなことを言われても困るよな。
散々便利な転移を見せつけておいて……。
「チェスリー、冒険者を引退した後、どうするつもりだ?」
「そうじゃのう……しばらくは王都でゆっくりするかの。その後はマクナルにでも帰って、ゆっくり余生を過ごすことになるかの……」
「……チェスリー頼む。クランに残ってもらえないだろうか」
「……しかし、冒険者を引退してしまうと、転移で運搬作業ぐらいしかなかろう。そんな仕事なら、商会に務めたほうがよいしの」
「違うんだチェスリー。転移は……まあ少しは使ってほしいが、頼みたい事は別にある。クランメンバーの教育を担当してもらえないだろうか?」
「へ?きょ、教育?」
「そうだ。今回の大規模ダンジョン探索中、何度もチェスリーのおかげで助かった場面があった。チェスリーに教えてもらった者の力量は順調に上達している。教育の依頼はメンバーの総意でもあるんだ。受けてもらえないだろうか?」
「い、いや……突然そんな……」
「お願いします!チェスリーさん!」「お願いします」「またチェスリーさんに教えていただきたいのですわ」「俺もチェスリーさんのおかげで上達できたんです!」
みなが口々に、わしにお願いしてくる。
今まで魔力制御を教えた人は数知れないが、こんなにも切望されたことは初めてだ。
魔力量が少ないゆえに工夫した小手先の技ばかりで、その場では感謝してもらっても、その後は離れてゆくばかりだった。
まさか上級クランのメンバーに認められるとは、夢にも思っていなかった……。
不意に目頭が熱くなり、涙がこぼれた。
「チェスリーさん……どうされましたの?無理なお願いでしたでしょうか?」
「……違うのじゃ……嬉しくての。わしが手ほどきしたもので、このような事を言われたことがないものでの……」
「あの……私たち……チェスリーさんに……感謝しています。まだ……チェスリーさんに教えて欲しいと心から……思っています」
「そうかそうか、シンディありがとうのう」
「もう一度確認させてくれ。チェスリー教育を担当してもらえないだろうか?」
「うむ、わしでよければ教育を担当させてもらおう」
「「「「やったあ!」」」」
一斉に拍手が沸き起こる。
みんないい奴らじゃの……冒険者を引退しても暖かく迎えてくれるなんて……。
……ん?あれ?これだとクラン抜けられないないじゃないか。
冒険者引退は指令通りにできたけど、目的はクランを抜ける事だったはず……。
つい教育担当を了承してしまったが……。
何故かその後は、ダンジョン攻略に向けた話題はなく、俺の教育担当を歓迎する会という名目で、宴会が開かれることとなった。
あれえ……どうしてこうなった。
次回は「”復讐”の最終目標」でお会いしましょう。




