第58話 メアリの特訓とシルビアの過去
昨日、初の感想を頂きました。
なくても気にしないようにしていたのですが、いざ頂けると嬉しいものですね。
これからもエタることがないよう頑張ります!
俺は、エドモンダ侯爵様の別邸にある倉庫に転移した。
あれほど頻繁に利用してた倉庫なのに、最近は来てなかったな。
おっと、そんなことよりメアリだ。
周りを見渡すと、すぐにメアリは見つかった。
見つかったのはいいが、何かぐったりしているような。
それにシルビアもいるし。
まさか……。
「シルビアこれはどういう事かの?」
「やあ、しばらくぶり。メアリくんにどうしても転移魔法を教えてほしいと頼まれてさ。特訓していたところさ」
「うわあ……あの滅茶苦茶痛いやつか。メアリ大丈夫か?」
「…………」
「あれ?メアリどうかしたか?」
「……師匠……不出来な弟子をお許しください。全く進歩がないのです」
ぐったりしているというより、落ち込んでただけなのかな。
何となく呼びかけたときに、何かに気をとられて返事が遅れたように感じたが。
転移の魔力を流されると強烈に痛いけど、痛みが治まれば何でもないはずだけど……。
「いや、そんな落ち込むことはないぞ。わしは【百錬自得】があるから、覚えられた可能性が高いからのう」
「いえ、師匠の弟子となったからには、転移は必要なのです。移動を師匠に任せるなんて、弟子として耐え難いです」
「……いったいメアリの中で師匠と弟子の関係はどうなってるのかね」
「師匠はどっしり構えていただき、美味しいところで活躍頂ければいいのです。弟子はその他の雑事を引き受けねばならないのです」
「何かわしの師弟のイメージと違うぞい」
「そうですか……しかし弟子として師匠の使える魔法を覚えたいのです」
「それならわかる。重く考えなくていいからの?」
「はい、承知しました」
「きみたちは相変わらず面白いさ」
「失礼じゃな。面白いのはメアリであって、わしではないのじゃ」
「師匠、私は真面目にやっています。お笑いの弟子ではないのです」
「何なのじゃ、この会話は。では、転移はレアスキルだから、できないのはしょうがないってことでいいかの?」
「それはできません!」
うやむやにして終わろうと思ってたのに、そこは譲れないのか。
うーん、シルビアに特訓を任せてもいいけど、どうしよっかな。
「し、師匠!師匠に教えていただくわけにはいかないでしょうか?」
「え、でも明日は大規模ダンジョン攻略だし、ゆっくりしようと思ってたんだけどのう」
「そこを何とか。かわいい弟子のために!」
「自分で言うとはいい度胸じゃ、……かわいくないとは言わないがの」
メアリは照れたようで、体をくねくねしている。
「……まあいい。シルビア、今日何回メアリに魔力を流したのじゃ?その時の様子も教えてくれるかの」
「魔力を流したのは3回だね。痛みは10分ほど続いているから、以前他の人に試した時と同じさ」
「そうか……それで収納魔法が使えるようになった人がいたの。メアリはどうかの?」
「……いえ、収納は使えません」
転移魔法は俺以外に修得した例がないし、収納魔法を使えれば進歩と言えるから納得してくれるかな。
「それなら収納魔法から始めてみるかの?」
「はい、お願いします」
魔力視の眼鏡で、メアリの魔力を視る。
素養はあるはずなんだよな……転移も収納も黒に近い魔力色で、メアリも素の魔力は黒っぽいし。
ふむ……身長が低めでロープを着こんでいるから目立たないけど、胸はなかなか……。
いや、そうじゃなくて……透明な魔力はわかりにくいから、しっかり視ないといけないのだ……これは必要な行為なのだ……。
「師匠なら構いませんよ?」
「なな、何を言っているのかね、メアリくん」
「女性は目線に敏感だから気付くのさ。構わないと言っているから遠慮する必要はないのでは?ちなみに私も構わないから視ていいさ」
「シルビアは触れるのはダメなのに視られるのはいいのか……」
「ふっ、そういうことさ」
「どういうことか、全く理解できておらんのだが」
「それよりメアリくんの状況はどうだい?転移の伝授は、きみ以外成功したことがないからさ。私も興味があるのさ」
「……やっぱりないのう。透明の魔力色が放出に必要だが、それが全く見つからないのう。転移が使えないのはそのせいだろうの」
「そうか、やはり私のやり方ではダメで、きみが特別だったということさ」
そうかもな……収納魔法を教えて満足すればいいが……一先ずやってみよう。
「メアリ、こっちへ手を出して。収納魔法の魔力制御を流すからの」
「はい。いつでもどうぞ」
収納の魔力色は、黒系に少しだけ青と白を混ぜる感じで上手く作れる。
そして収納の魔力制御を作り、メアリに流していく。
「……ふ、ふぉ……ぁぁ。師匠……」
「どうかな、魔力制御はわかったかの?」
「……はい、何となくですがわかったような。練習させてください」
それから何回か魔力を流して練習を繰り返す。
……お?
魔力視で視ると、できてそうな感じだぞ。
「師匠!できました!」
「よし!よくやったのじゃ!」
メアリの頭をよしよしと撫でてやる。
メアリはとても嬉しそうな顔をしている。
すんなり教育が上手くいったことで、俺も楽しくなってきた。
「なるほど……師弟になるべくしてなったように見えるさ」、とシルビアがボソリつぶやいた。
「よっし、このまま続けて転移もいってみるぞい!」
「はい!どんとこいです!」
転移で必要なのは、先にも述べた通り、透明の魔力色だ。
今のところ、この透明な魔力色だけが、魔力を流された時に強烈な痛みを感じる。
メアリの中に透明な魔力色は見つからなかったので、恐らく既に消えてしまったのだろう。
俺が魔力を流しても、同じ結果になると思われるが……。
転移の魔力制御を作り、メアリに流していく。
……どうだ!?
「え?……んんっ……う、く、あ……し、師匠!!すみません!!」
メアリが突然抱き着いてきた。
かなりの力で俺の腰にがっちり腕を回している。
「め、メアリ!?」
「……こ、この、このまま……しばらく……おね‥…がいし……ます」
体が小刻みに震えている。
顔が赤くなっており、呼吸も荒く、若干汗もかいているようだ。
目と口はぎゅっと閉じている。
……これは余程痛いのかもしれない。
俺はメアリの頭や背中を、なるべく優しく撫でて、少しでも落ち着けるようにした。
……背中を撫でると震えが大きくなってダメなようだ。
頭だけゆっくり撫でてやる事にする。
10分ほどそうしていると、メアリの震えが治まってきた。
「し、し、し、師匠」
「ん?」
「失礼しましたーーーーーーーーーー!」
メアリは走り去ってしまった。
え?転移は……というか、どうなってるの?
「か、かなり強烈な愛情表現だったさ。全くきみって人は私がいるというのに」
「いやいや、多分痛くて我慢できなかっただけだからの」
「ふむ、チェスリーくんはそう思うわけだ。まあいいさ、しかし戻ってこなさそうだね」
「……しばらく待ってみるかの。帰ってこなければ、わしがクラン拠点に戻ればいいだけじゃ」
「待ってる間に、いっしょにお茶でも飲むかい?」
「ああ、そうしようかの」
別邸の歓談室でくつろぐことにした。
ちょうどいい、シルビアに触れると何故あんなことになるのか、聞いてみよう。
「シルビア、聞きたいことがあるんだが、いいかの?」
「ん、何についてだい」
「触れられると過剰反応するのは何があったのかと思っての」
「……いつかは聞かれると思ってたさ。話してもいいけど、楽しい話じゃないさ」
「……聞かないほうがいいか」
「いや、聞いてもらう。そして責任をとってもらうさ」
「いやいやいや、やめて――」
「私は元借金奴隷さ」
「うわーー、やめてって言ったのに」
「ふふ、もう遅いさ。よくある話だけれど、家が貧乏でね。口減らしも兼ねて奴隷に落ちたのさ。ある商会に引き取られたが、扱いは酷いもので性的なことも強要されたのさ」
重かった!人の事情に簡単に首を突っ込むべきではないな……。
「転移魔法が使えることがわかってからは、扱いはまともになったけどね。心の方はそう簡単に割り切れない。隙を見て転移陣をあちこちに準備してから逃げたのさ。ついでに金目の物も頂いて」
「おい」
「その後も転移しながら、奪った金で生活していたのさ。でも商会がしつこく情報を探ってくるものだから、戻ってもう一度金目の物を盗んでやったのさ」
「うわあ」
「それが原因で商会は倒産したさ。復讐するつもりはなかったがね」
「それを復讐と言わず何と言うのじゃ」
「その頃かな、エドモンダ様に拾われたのは。偶然エドモンダ様が関係した依頼で日銭を稼いでいてね。目に止まったということさ」
「よくそんなことがあってエドモンダ様に仕えようと思ったのう」
「ひねくれていたからね。おかしな奴なら転移で逃げるつもりだったのさ。また大きく稼げるかもしれなかったしね」
「……おう」
「エドモンダ様のところは、居心地がよかったのさ。匿ってくれて住居も提供してくれたしね。そのおかげで精神的にも落ち着いてきたけど、触れられる事のトラウマがどうしても抜けなくてね」
「なるほどのう」
「軽蔑するかい?」
「……いや、別にわしは正義の味方でも当事者でもないしの。そりゃあ盗みはいけないことじゃが、裁くのはわしではないよ」
「フフフ、第三者で通すつもりかい。知ってしまった以上、とるべき選択肢はあるのではないかい?」
「そうじゃな、通報したりする者もおるじゃろう。しかし、わしにとってシルビアはもう身内のようなものじゃ。シルビアの方が悪いとしても、わしは味方に回るぞい」
――それに害されたものに復讐したいという気持ちもわかるしな。
「……ありがとう。私がエドモンダ侯爵様に居心地よさを感じたのもそういうところさ。もっともエドモンダ侯爵様は、相手の商会が非道な商売をしていたのも知った上でだったけどさ」
「わしはシルビアに恩もあるしの。これからも宜しくじゃ」
「こちらこそ……」
「さっそくトラウマ克服でもやってみるかの、ほれ握手」
俺はシルビアと握手しようとしてみた。
「しょ、しょれはまだだめだからー!」
シルビアのトラウマ克服はもうしばらく時間がかかりそうだな……。
次回は「冒険者引退……しかし」でお会いしましょう。




