第57話 チェスリーのいないクラン会議 『黄金の翼』編
◆三人称視点◆
ここは上級クラン『黄金の翼』の会議室である。
攻略パーティーの面々が集まっており、普段であればダンジョン攻略についての事前説明が行われる。
チェスリーもダンジョン攻略に参加するときは出席している。
しかし、本日の議題はチェスリーについて。
奇しくも『百錬自得』と同日、同様にチェスリー不在の時に話し合いたいようだ。
「第46923回クラン会議を始める」
「リーダー寒いですわ。そのネタ飽きたのでやめてもらえませんこと?」
マックリンは渾身の持ちネタを否定され、寒さとは別の震えがきた。
これに懲りずメンバーを和ませるネタを考えて欲しいものだ。
「チッ……クラン会議を始める」
「議題は何ですの?ダンジョンの威力偵察が終わらないと、作戦も決まらないでしょうに」
「威力偵察なら既に終わっている。あのダンジョンはもう攻略済みだ」
「はいはい~。既にこのディアルフ様が確認済みですよ~。後はダンジョン核を掘り出すだけってね」
「「「ええ!?」」」
待機していたメンバーには知らないものもいたようだ。
「想定より1層少なかったようだ。恐らくだが、ドラゴンが生まれたせいで層を深くする魔力が吸収されたと考えている」
「なら昨日の内にさっさとダンジョン核を掘り出せばよかったじゃないの。低層に魔物が増えちゃうかもしれないでしょう」
魔物が再び現れるまでには、30~60日の時間を要する。
今回の転移を使った攻略の期間であれば、魔物が再出現する前に攻略が完了できる。
しかし、1~7層は従来の方法で時間をかけて攻略しているので、魔物は再出現し始めていた。
「ドラゴン素材の件もあったが、チェスリーの転移が聞いていた限度回数に達していてな。……その直後に転移で帰るとは思わなかったけど」
「それは~魔力量にもよるでしょ~。昨日は転移しか使ってないんだし、その分魔力が余っていたんじゃないの~?」
アメリンナの言うことも、もっともである。
冒険者であれば、限度回数=全く使えなくなる回数で伝えることはないだろう。
「あ、ああ。そう言われたらそうだな」
「リーダーは~正直過ぎるからね~」
「い、いや俺だって奥の手は隠してるし」
「チェスリーには~ほとんど見せちゃったでしょ~」
「俺の事はもういい!今はそのチェスリーのことで話があるんだ。おまえらチェスリーの事をどう思う?」
「割とステキなおじさまよね」
「優しいわ~」
「おとなしいよな」
「謙虚……」
「料理の話が面白いですわ」
「すまん、聞き方が悪かった。冒険者としてどう思うかだ。転移魔法以外でな」
「魔法の使い方が独特ですわ。魔力が少ないから工夫しているらしいですわね」
「おっさんは短剣の腕もすげえぜ。手合わせしたけど、俺様が負けちまったよ」
「スキルに凄く拘りがあるようですね」
「魔力制御を……教えてもらった……凄く……気持ちいいの」
「そうですね、私も魔力制御を教えていただきましたが、……その……凄くよかったですわ」
発言は尽きることなく続いていく。
まとめると、魔法の使い方が独特で工夫されていること、冒険者として技量が確かであること、スキルへの拘りが異常にあること、魔力制御を教えるのが上手いことの4点になるようだ。
「なるほどな。実はギガントサイクロプスを俺の奥の手で倒したときに、チェスリーがしばらく固まっていたのを覚えてるか?」
「ええ。かなり驚いていらしたわね」
「その時、チェスリーの斜め後ろに待機していたディアルフが、あの眼鏡だったかな?偶然それを通して俺が見えたらしいんだ」
「そこは俺様が話しましょうっと。リーダーに白い線のようなものが流れてるのが見えましたよ」
「白い線?チェスリーの眼鏡って視力を補助するのに使ってたよね?」
「そう聞いていたけどな。それで商会に調べてもらったら、魔力視の眼鏡というものがあるらしい」
「へええ、何に使う物なの?」
「魔班病という病気の治療時に診察する魔道具で、魔力の流れが視えるというものだ」
「何故魔力の流れなんて……えっもしかしてマックリンのスキルを視るため?」
「俺もそう考えた。しかし、俺のスキルは魔法じゃないし魔力を視てどうするのか、さっぱりわからない」
「リーダ~、スキルって~魔力が関係してるかもって~言われてますよ~」
「そうなのか!?そうだとすると、チェスリーの目的は俺のスキルを視るためだな!」
「え~視てどうするのかしら~」
「わからん!」
「はあ~?」
「全て理解する必要はない。今問題なのは、もしチェスリーが目的を達成したらクランを辞めるかもしれないということだ」
「「「「ええ!?」」」」
「俺はそんなこと思ってもいなかったんだがな。カリスリンとシンディからの助言だ。説明してくれるか?」
「はい。私はチェスリーさんに護衛されていたので、探索中よく見ていました。違和感というのでしょうか、たまに誰かと会話してるような仕草をすることがあります。サイクロプスを倒した後、収納の人を頼んだ時もそうで、まるで連絡を取っているように見えました」
「ここからは私が話す……ドラゴンの時も同じでした……。あれだけの収納……しかも遠距離で連絡をとれる……何か後ろ立てがあると考える方が自然……。それに宴会の時にも……チェスリーさんにおかしな挙動があった……。私たちに言えないのは………別に目的があるのではないかと……思った」
「ということで、あくまで推測だ。そういう伝手があるだけで、最初に聞いた動機の通り一旗あげたいだけなのかもしれない。遠距離で連絡できるとしたら、恐らく誰かのレアスキルで、秘密にしておきたいのはわかるしな」
『黄金の翼』のメンバーも確信をもって話しているわけではないようだ。
しかし、細かな違和感や観察の積み重ねで、チェスリーの目的をかなり正確に推測できたようだ。
「そこでだ。もしチェスリーが本当にクランを抜けたいと言ってきた時、俺たちはどうするかを決めたい。リオノーラはどう思う?」
「絶対反対ですわ!後ろ立てがあったとしても交渉すべきですわ!」
「お、おう。そんなにもか?転移が貴重なのはわかるが……」
「違います!転移は確かに便利ですわ。でも一番の欠点はチェスリーさん個人に頼り過ぎるところです」
「……そうだな。チェスリーに何かあれば、ダンジョン途中の拠点すら確保していない状態で撤退も危なくなる。一人のミスで全滅の恐れがある」
「それにダンジョンは攻略すれば終わりではありませんわ。地下資源の採掘などで、結局後から拠点を敷設する事は必要です。転移で攻略を急ぐほど、リスクが高まりますわ」
「今回の様に一気に攻略してダンジョン核を先に掘り出せれば、効率はいいんだがな」
「それも全て上手くいけばの話ですわ。それに転移範囲の関係で、人数が限定されるのも問題です。少人数クランならともかく、『黄金の翼』なら人数を揃えて攻略を進めたほうが、確実で安全ですわ」
「……ん?転移に頼らないなら、無理にチェスリーを引き留める必要はないんじゃないか?」
「チェスリーさんの本当の凄さは、魔力制御を教えるのが上手いことですわ。チェスリーさんに教わったことがある全員が実感してますのよ」
「マジか、実感してる人って誰?」
リオノーラ、カリスリン、アメリンナ、シンディ、ゲイブラムの5人が一斉に手を挙げた。
「ゲイブラムもか、お前何か教わってたか?」
「モデリングストーンの練習をしていたのですが、なかなか上手くいかなくて……。その様子をチェスリーさんが見かねて教えてくれたのです。それから……自分でも信じられないぐらい上達しました」
他の人もチェスリーに魔力制御を教わった後では、確実に上達が実感できたようだ。
リオノーラは、元からチェスリーも驚くほど魔力制御が上手く、最高の技術と自負していたが、それでもチェスリーに教わった後は、上達を実感できるほどだった。
「チェスリーさんに何か事情があるのかもしれませんが、これだけの成果があがっているのに、すぐお別れは納得できませんわ……」
「ずっと縛り付ける様な……そんな事をしたい訳ではありません……でも私はチェスリーさんと…もう少し一緒にいて……魔法を教わりたい……」
「私も~チェスリーさんに~いてほしいですわ~」
冒険者にとって、自らの技術向上は死活問題である。
あと一瞬速ければ、あと僅かに威力が高かったら、その差で生き残れるか死ぬかが決まることもありえるのだ。
チェスリーに教わることで、自分の技術向上ができるのなら、何物にも代えがたい価値がある。
「……よくわかった。レンタント!特別指令だ。チェスリーの裏を探ってくれ。相手がわからなきゃ交渉のしようもない。情報屋に使う金も惜しむなよ!」
「りょ、了解です」
「俺の方からも商会に話を通しておく。魔力視の眼鏡の件もあるし、他にも情報があるかもしれない。それからさっき手を挙げたおまえら」
「な、なんですの」
「チェスリーに残ってほしいなら、情に訴えるのもよさそうだ。あいつお人よしっぽいからな。チェスリーと仲良くしておけよ」
「言われるまでも……ない……。私はもっと……チェスリーさんと仲良くしたい……」
「他に意見のある者はいるか?」
特に意見が出ることはなかったが、男性陣はチェスリーに嫉妬の感情があったかもしれない。
加入したたばかりのチェスリーに対し、女性陣の人気の高さは見過ごせるものではない。
チェスリーの引き留めは『黄金の翼』にとって吉と出るか、凶と出るか、それは誰にもわからない。
「なければ、クラン会議は終了だ」
こうしてチェスリーのいないクラン会議は終了した。
次回は「メアリの特訓とシルビアの過去」でお会いしましょう。




