第55話 冒険者引退指令
ミリアンを連れて戻ると、みんなに大歓迎された。
そりゃそうだわな。
そして、ミリアンは見事にドラゴンを収納して見せた。
できると想定していたとはいえ、驚かないわけではない。
全員拍手してるよ……。
見世物みたいになってるな。
ほんと底なしの収納だな……はっ、パーティーとかの食べ放題にミリアンが行くと、料理丸ごと持って帰れるんじゃないか?
彼女大食いなんですよ~とか言えば、誤魔化せ――
ミリアンから何か不穏な眼差しを向けられたので、妄想はこの辺にしておこう。
ミリアンといっしょに転移で『黄金の翼』拠点へ行き、ドラゴンを渡した後、『百錬自得』に送り返す。
「チェスリーさん先ほどは何を考えていらしたのですか?」
「おう……すまんの。つい妄想が捗ってしまって……何でわかったのかの?」
「ヴェロニアさんに変な事を考えてる時の見分け方を教えてもらってます。何を想像したかまではわかりませんけど」
ヴェロニアめ……余計な事を教えやがって。
俺が変な事を考えてる時の見分け方って何なんだろ。
老齢化したこの状態でもわかるって、わかりやすい癖か何かがあるんだろうか……。
「いやなに、ぽんぽん収納する様を見て、つい大食いの事を連想してしまったのじゃ」
「う……わからなくはないですが、女性にとって大食いと思われるのは……」
「いやあ、すまんの。今度埋め合わせするからの」
「……きっとですよ」
そう言って微笑むミリアンは、変装で老齢化していても可愛かった。
『黄金の翼』に転移で戻る。
今日はこの後、どうするのだろうか?
「マックリン、この後どうするのじゃ?威力偵察はするのかの」
「そうだな……もう転移回数が限界じゃないのか?」
あれ?何回使ったっけ。
朝の『百錬自得』から『黄金の翼』の移動は、転移を使っていると知られてないとして、その後からか。
『黄金の翼』→ダンジョン14層→ドラゴンの頭→リオノーラの近辺→『百錬自得』→ダンジョン14層→『黄金の翼』→『百錬自得』→『黄金の翼』
あっ、確かに8回使ってる。
朝使ったのも含めると9回だけど……。
意外と細かいなマックリン。
……緊急退避の生命線だから、リーダーがしっかり管理するのは当然か。
「そ、そうじゃの。今日はここまでにしておくかの」
「ああ、ドラゴン素材の件で忙しいし、今日は終わりにしよう。収納の彼女にもよろしく言っておいてくれ」
「了解じゃ。探索はまた明日かの?」
「短時間の戦闘とはいえ、全員全力だったからな。明日の探索は休みにする」
「……威力偵察ぐらいしておきたいがのう」
「でかい仕事の後は休むことも必要だぜ。俺もあの技は体に負担が大きいんでな。予想なら次が最下層だから、万全にしておきたいんだ」
「了解じゃ。二日後にまた来るからの」
「あ、チェスリー!この後宴会でも――」
マックリンが何か言いかけていたが、既に転移を発動中だったので、そのまま『百錬自得』のクラン拠点へ帰ってしまった。
「……チェスリー、転移は限界じゃなかったのかよ」
転移が終わった後、マックリンに転移は限界と話していた事を思い出した。
……何か上手い言い訳を考えておこう。
明日の探索がなくなったので、自分のクランでゆっくりできる。
その日の夕食はドラゴンの話題で盛り上がった。
「まさかチェスリーがドラゴンスレイヤーになるとはね。世の中わからないもんだわ」
「ヴェロニア……まあその通りだの。でも倒したのはマックリンじゃからな」
「あんたの戦術がドラゴンに通用したってことでいいんじゃない?」
「戦術といっても、個人技能に頼っておるだけじゃからのう。とても他のパーティーでは真似できんわい」
「あんたいっつもそれね……。まあいいんだけど」
「チェスリーさんの戦術、とってもいいと思いますわ!私もチェスリーさんと一緒なら冒険者やってみたいです!」
「いやいや、アリステラに冒険者なんて、させられるわけないからの。ブラハード子爵様に申し開きができんわい」
「むー、残念です。魔物を見て創作意欲が湧きそうですのに」
「危ないからやめようの……あっそういえばドラゴンが丸ごとあるんじゃったの」
「えーー!ドラゴン!見たいです!」
「そうじゃろう。同じように見たい人も多そうじゃし、見世物になるかもしれんの」
「まあっ、ドラゴンなんて恐ろしいですわ。例え死んでいても近づきたくありません」
「マーガレット様はお嫌いですか……。でもでも、私ならきっと可愛く作れると思うんです!」
「あっ、あのクマさんの人形なら、とっても可愛かったですわ。ああいうのなら、私も好きですわよ」
「よかった~。チェスリーさん、もし見物できるようなら是非私を連れて行ってくださいね」
「ほっほっ、よかろう」
「私は怖かったですね……。収納できたとはいえ、生きた心地がしませんでした」
「ミリアンには負担をかけるのう。そのことも相談したかったのじゃ」
「私の事ですか?」
「そうじゃ。便利に連れまわしてしまっとるし、余計にクランを抜けられなくなりそうでな」
「多分大丈夫だと思いますよ。大容量の収納は便利ですが、ドラゴンのような規格外なものは滅多にないでしょうし、収納できなければ解体して運ぶ手段もありますから」
「考えすぎかのう」
「それよりあんたが迂闊な事するほうがよっぽど心配よ」
「う!実は……転移回数8回と言っておいたのに、つい9回目を見せてしまったのじゃ。ドラゴンが無事倒せて気が緩んでしもうての」
「はあ~、あんた流れるように迂闊な事するわね。……いや、逆に使えるかもしれないわね。明日休みなんでしょ?エドモンダ侯爵様もいらっしゃるはずだから、クラン会議するわよ」
「ハイ……」
翌日。
クラン会議が開催された。
出席者は、俺、ヴェロニア、ミリアン、マーガレット、アリステラ、エドモンダ侯爵様だ。
「第7回クラン会議を始めるわよ」
戸惑っていた割には、ヴェロニアのリーダー振りも板についてきたかな。
「チェスリーのスキル修得状況から聞いておこうかしら。どうかな?」
「昨日のドラゴン戦で、マックリンの奥の手は見せてもらったが、修得は時間がかかりそうじゃのう」
「そうなの?【建城鉄壁】は割と早く修得できたじゃない」
「うむ、【建城鉄壁】は魔力制御だけ修得すればよかったからの。【一騎当千】は魔力と武術の混合スキルなのじゃよ。魔力制御だけならともかく、武術も合わせるなぞ今までやったことがないのじゃ」
「なるほどね。どうやって修得するか手段は考えてるの?」
「そうじゃのう……【百錬自得】を信じて修練あるのみじゃな」
「うん、それでいいじゃない!それで行きましょう」
「おお、珍しく褒められたの」
「あたしを何だと思ってるの。ちゃんとしてれば褒めるわよ。マックリンさんに教えてもらおうなんて言おうものなら、ご飯抜きだったけどね」
「……危なかった」
「え?まさか本当に教えてもらおうと考えてたわけじゃ――」
「いやいやいや、滅相もないのじゃ」
やばい、本当に困ったら教えてもらおうと思っていた。
マックリンのレアスキル難しそうなんだもの……。
「レアスキルが修得できることを秘密にするのは絶対だからね?これは修得できるできないに関わらず最優先なのを忘れないように!」
「は、はい」
「それに【建城鉄壁】は見せちゃったのよね?」
「あ、ああ……使ったのう」
ギガントサイクロプスに、リオノーラが狙われた時に使った。
グレアートのレアスキルを視て、修得したものの応用技だ。
「グレアートの事を『黄金の翼』のメンバーが知らなければいいけど、危ないかもしれないわよ」
「グレアートとは違う使い方をしたから……大丈夫じゃないかのう」
「ギリギリってところね。転移以外のレアスキルがあるとわかるのはまずいわね」
「あの……秘密を気にしながらの探索は危険だと思います。【建城鉄壁】を使わなければ危なかったのですよね?」
「ミリアンの言う通りじゃの……。ためらいが命取りになることはありえる」
「私はこれ以上チェスリーさんが攻略パーティーに参加するのは反対です。十全に力を使えない状態での探索で危ない目にあったらと思うと……」
「あたしもそのつもりだったの。マックリンさんのレアスキルを視ることはできたから、これ以上の探索は許可できないわ」
二人が言うことも分かるが、次が大規模ダンジョン最下層のはずだ。
ここで探索中断は納得できない。
「二人とも待ってくれんかの。いくらなんでもここで中断は納得できないのじゃ。せめて最下層を攻略するまで待ってくれんかのう」
「いいわよ」 「いいですよ」
「へ?」
二人同時にあっさり了承してくれた……。
何これ。
もう許可できないとか言っておいて。
「言質はとったわよ。攻略パーティーに参加するのは、今回の大規模ダンジョン攻略までだからね」
「え~、まさかそのための警告なのか!?」
「そういうことね。あんたのことだから、区切りをつけないといつまでも攻略パーティーについていっちゃうでしょうが」
「ふふっ、チェスリーさん、約束ですよ」
「わ、わかったわい」
スキル修得はさっきの宣言通り、自分で修練してコツを掴むしかなさそうだな。
いや、最下層でもう一度視る機会があるかもしれないな。
「冒険者を引退する理由も考えたわよ。あんた転移の回数を伝えてる8回より多く使っちゃったでしょ」
「そうじゃな」
「限界を超えて魔法を酷使したことで体の調子が悪くなっていくことにしましょ。あちらさんが負い目でも感じてくれたらクランを抜けやすくなるしね。あと攻略パーティーを抜けたら、変化の腕輪の魔力は自分で供給することね」
「えええええ!これに魔力供給すると、探索に使う魔力が不足して危ないのじゃ!」
「探索しないんだから平気でしょ?」
「ぐぬぬ」
マジかー。
これはどう足掻いても探索は危険になるし、冒険者は引退するしかない……。
「チェスリーくん、わしから頼みがある」
「エドモンダ侯爵様なんでしょうか?」
「メアリくんの様子を見てやってくれんか。元使っていた別邸におるはずだ」
「メアリの姿を見ないと思ったら……何で別邸に行っておるのか」
「会議はお開きにしましょう。チェスリーはすぐ行ってあげて」
「了解じゃ、行ってくるぞい」
俺は即座に別邸の倉庫へ転移する。
何となくだが、無茶な事をしているような、そんな嫌な予感がした。
次回は「チェスリーのいないクラン会議 『百錬自得』編」でお会いしましょう。




