第52話 ダンジョン下層へ
いよいよダンジョン12層か。
中規模ダンジョンでは、最下層に該当するところである。
大規模ダンジョンの12層は、中規模ダンジョンより難易度が高いと言われているが、魔物の種類にもよるため、実際に確かめるしかない。
攻略パーティーの人数を増やすことも検討されたが、転移での撤退を考慮し、人数は増やさないほうがよいと判断した。
前衛にマックリン(剣、格闘)、ディアルフ(索敵)、レンタント(索敵)、ライアリー(盾)。
中衛にバーナルド(槍)、俺(剣、転移)。
後衛にリオノーラ(火風魔法)、アメリンナ(風土魔法)。
8人のパーティー構成だ。
今日の目的は、ダンジョンのマッピングと敵の確認である。
攻略できそうなら、そのまま進むかもしれないが、偵察後に撤退の方針である。
そのために、索敵担当を二人に増やしたパーティー構成にしている。
レンタントは、元レギュラーの索敵担当だったが、ディアルフの方が優秀だったため、攻略後のダンジョン内拠点を守る役割になることが多くなったらしい。
魔力視の眼鏡で見ると、索敵で伸びる魔力の膜が平坦で、ディアルフのように膜が波のようになっていないものだった。
ここで索敵の質に差がついているのだろう。
魔力制御を教えてあげれば、活躍できそうなんだけど……ヴェロニアに「余計な事すんじゃないわよ!」と言われているので、手出しはしていない。
しばらく進むと、ディアルフの索敵に敵がかかったようだ。
「こいつ……飛んでるな?でかさは10メートルほどで1匹だ。くるぜ!」
「全員警戒!リオノーラは魔法準備!チェスりーも転移準備!」
現れたのは、鷲のような体躯をしているグリフォンだった。
グリフォンのやっかいさは、空を飛べることだ。
射程の短い攻撃は、相手が迫ってくるまで当たらない。
自在に軌道を変えながら迫ってくる巨体は迫力満点で、防御力も高いため、並みの冒険者では傷つけることもできないだろう。
唯一安心できるのは、遠距離攻撃がないことぐらいだ。
マックリンの判断はどっちだ?
撤退か、交戦か。
「やるぞ!リオノーラは進路妨害!ライアリーは予測進路上に!」
交戦だ。
続けてマックリンからの指示が飛ぶ。
「ディアルフ、レンタントは回避に専念。バーナルド、チェスリーはライアリーの後方だ」
陣形を整え、リオノーラがファイヤーボールを連続で放つ。
当てるためではなく、進路を限定させるためだ。
グリフォンが突進してくるが、ライアリーはしっかりその進路上に盾を構える。
グリフォンと盾が激突し、激しい音が鳴り響くが、ライアリーは多少後退しつつも受け切った。
そこへアリアンナが風魔法のトルネードをぶつけようとしたが、旋回して躱される。
やはり空へ逃げられるのはやっかいだ。
魔法で牽制しても、なかなか当たらない。
魔法が切れたのを見届けた後で、グリフォンがまた突進してきた。
今度はライアリーの盾が間に合わない。
しかし、マックリンがこの機会を待っていたようだ。
戦闘中だというのに、思わずマックリンを注視してしまった。
魔力補助を足と右拳に集中させている。
グリフォンに合わせ、マックリンが猛スピードで迫り、拳を叩きつけた。
――ドッゴォォオオォン
重く沈み込むような衝撃音の後、グリフォンの首があらぬ方に曲がっていた。
視たぞ……【一騎当千】の片鱗を。
足と右拳に集中させた魔力は光沢のある黄色、いやこれは黄金といっていい色だ。
猛スピードの突進に対し、拳を振るう時、黄金の光が可視化され輝いた。
それがあの圧倒的な力を生み出したのだろう。
「ふぅ、こいつはいい金になる。一旦転移で持ち帰りたいところだな」
「了解じゃと言いたいが、大きすぎてわしの転移では運べんぞい」
「あー、そうか。まいったな。いつもならダンジョン内拠点の運搬役に運ばせるんだが」
「私が風魔法で刻みましょうかしら?」
「そうするか、切断箇所はレンタントに聞いてくれ。ディアルフは索敵よろしく」
レンタントの指示で、アメリンナがウィンドカッターを放つ。
しかし、防御の硬いグリフォンは、なかなか切断できないようだ。
余計な事はするなと言われてるが、これぐらいなら手伝ってもいいよな。
「ほっほっ、手間取っておるようじゃの。わしが手伝ってやろう」
オークにとってバニス草の粉が猛毒になることが判明した時に、気になって調べたことが役に立ちそうだ。
オークにとって猛毒になる原因は、バニス草に含まれる魔力が関係していた。
バニス草の魔力色は黄緑、オークの魔力色は紫だった。
黄緑と紫の魔力をぶつけるとお互いの色を塗りつぶすように壊れてしまうのだ。
それに気づいてから色の反対色を調べていったのだ。
残念ながら敵の弱点である魔力色を放出できるのは、転移の範囲と同じ半径2メートルぐらいだが、接近できる状況であれば、切り札になるかもしれない。
そこでグリフォンの解体のために、硬さの要因である魔力を壊すわけだが、既に死んでいるなら直接手で魔力を流せる。
グリフォンの皮の魔力色は青緑のようだ。
反対色は赤、これを切断箇所だけに魔力を集中させて流していく。
魔力を流した部分は、素材として使い物にならなくなるが、切断部分なので問題ない。
「よし、もういいぞい」
アメリンナが再度ウィンドカッターで切断を試みると、スパスパ切れていった。
「まあ、これは気持ちいいですわあ」
「ほう、ベテランの技ですか。やりますね」
切断は終わったのだが、全長10メートルもある巨体を2メートル半径に納めるためには……。
俺の周りに積み重ねる必要がある……。
おかげで一人、グリフォンの断片に囲まれながら転移で往復する羽目になった。
ミリアンがいれば、こんな面倒なことしなくて済むのに……。
グリフォンは強敵だが、群れる習性がない。
このパーティーなら対処可能と判断し、探索を続行することになった。
その後3回魔物に遭遇したが、全てグリフォンで、問題なく討伐できた。
ふふ……マックリンのスキルが段々わかってきたぞ。
もう素材を抱えての往復は嫌だったので、後で回収することにしてもらう。
無事13層への下り通路を発見したので、転移陣を設置し、本日の探索は終了。
層の広さがかなり狭まってきたので、移動だけなら3時間ぐらいで可能な広さになってきた。
おっと、素材回収しなきゃ……。
今度は『黄金の翼』の収納魔法を使える人が手伝ってくれたので、素材に囲まれた移動はせずに済んだ。
いや、最初からそうしてくれよ……とマックリンに言ったら、すっかりその考えが抜けていたとのこと。
そういえば、12層に来るまで魔物丸ごと運ぶことなんてなかったな。
必要な素材だけ剥ぎ取り、探索が終われば転移で帰るから、収納を使うことなく十分運搬できた。
元は収納が使える人を素材の運搬に使っていたはずだが、転移を使った探索に慣れてきて、元のやり方や考え方が薄れてきているかもしれない。
人って便利な事に慣れてしまうと、元に戻せないよね。
翌日。
13層の探索も同じ8人パーティーの構成で挑むことになった。
少し進むと、早速ディアルフの索敵に反応があった。
「ちっ……3メートル級のやつが10匹。動きは遅めだが……」
「チェスリー撤退準備だ。敵を確認したら一旦引くぞ」
「了解じゃ。やっかいな奴なのかの?」
「ああ、恐らくサイクロプスだ。知恵がある上に身体能力も高い。あとやっかいなのが――」
そう言いかけたところで、予告通りサイクロプスが現れた。
単眼の巨人で体調は3メートルぐらい。
がっしりした筋肉に覆われた、いかにも攻撃力がありそうな体で、手には棒状の岩を持っている。
「よし、転移してくれ」
マックリンの指示で転移を使い、ダンジョンから地上に戻る。
「パーティーを対サイクロプス用に組みなおす。ゲイブラムとホレスを呼んでくれ」
ゲイブラムは【土魔法】、ホレスは【盾術】を使う控えの攻略メンバーだ。
恐らくサイクロプスの攻撃を防御する手段を増やすのだろう。
「リオノーラとバーナルドは待機、代わりにカリスリンとシンディをいれる」
サイクロプスは防御力が高く、魔法も効きにくい。
それでもリオノーラの魔法なら、ある程度の効果は期待できるはずだが……。
カリスリンは【聖魔法】、シンディは【水魔法】だが土の魔法も使える。
こちらも防御主体に思えるが、攻撃はどうするのだろう。
再編成したパーティーはこのようになった。
前衛にマックリン(剣、格闘)、ディアルフ(索敵)、ライアリー(盾)、ゲイブラム(盾)。
中衛に俺(剣→槍、転移)。
後衛にアメリンナ(風土魔法)、カリスリン(治療魔法)、シンディ(水土魔法)。
マックリンの指示で、俺は剣から槍に武器を変更した。
あれ?本当に攻撃どうするんだこれ。
マックリンしか前衛の攻撃いないんだけど。
マックリンが戦術の概略を説明する。
「前衛はサイクロプスの攻撃が後衛にいかないよう防いでくれ。ディアルフは索敵だけでいい。チェスリーは身を守ることを優先。アメリンナ、シンディは土魔法で敵を分断すること。カリスリンはチェスリーの隣で、すぐに前衛を治療できるようにしておいてくれ」
やはり防御主体の作戦のようだ。
ということは、攻撃はマックリン一人でやるのか?
「サイクロプスが集団でいたから、高確率でギガントがいるはずだ。先にサイクロプスを殲滅して、総攻撃をかける体制を整えるぞ」
「「「「「了解」」」」」
……全員攻撃はマックリンに任せて大丈夫と確信しているようだな。
ついにマックリンの本気を見ることができるのか?
グリフォン戦で見せた黄金の輝きに驚いたが、まだ力を隠しているのではと感じていた。
その考えは間違っていなかったようだ。
次回は「マックリンの奥の手」でお会いしましょう。




