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第51話 ある日の休日

 クラン『百錬自得』の拠点に戻ってきた。

 今日は休日だが、来るべきダンジョン攻略に向け、スキルの練習をするつもりだ。

 ……朝食の後、訓練場に行こうとしたら、呼び止められてしまった。

 ヴェロニア、ミリアン、マーガレット、アリステラの4人に……。


 「チェスリー、ミーティングするわよ」


 「いや、わしこれからスキル練習するから」


 「却下、すぐきなさい」


 「ハイ……」


 屋敷の歓談室には、お茶の用意がされていた。

 ミーティング?お茶会?どっちなんだ。

 まあケイトさんお手製のお茶菓子が食べられるならどっちでもいいか。


 「さて、それじゃ始めるわよ。先ずは最近のチェスリーの状況についてね。ミリアンよろしく」


 「はい。少し慣れてきたこともあって、気が緩んでる感じですね。引き締めが必要かと思います」


 「ほう、具体的にはどんな感じ?」


 「『黄金の翼』の特に女性メンバーに甘い傾向がありますね。昨日の宴会でも、緩み切ってました」


 「なるほど。危ない発言はあった?」


 「シンディさんという方をお誘いしそうになっていました。私がとめましたので事無きを得ましたが、注意が必要です」


 えええ、まあ……確かに評判の美味しい店に行ってみたいから、誘ってみようかと思っていたけど。


 「それは危険ね……。チェスリー、何であんたを老齢化させたか、わかってないようね」


 「そりゃ、姿を変えて変装を完璧にするためじゃろ?」


 「それだと正解の半分以下ね。あんた女に甘いのは昔っからだから、その予防を兼ねてるのよ。事前調査で女性の綺麗どころがいるのわかってたからね」


 「別に口説いたりしてるわけじゃないじゃろ……」


 「あの~、私も口説かれたりしたわけじゃないんですよ」


 「アリステラの場合は、命を救ったというのがあるじゃろ……」


 「私も直接言われたわけではありませんわ」


 「マーガレットには、むしろ嫌われていたじゃろ……」


 「あの最初の態度は謝りますわ……。でも私は男の方に触れられたことなんてありませんでしたのよ!それを治療のためとはいえ……その……あんなところや……こんなところに触れられるなんて」


 「マーガレットや、その言い方は誤解を招くからやめなされ」


 「私は覚えていませんわ!なんてもったいない……」


 「いやいや、アリステラは命が危なかったからの?そんな余裕なかったと思うのじゃよ」


 「あっ、もう一度再現してもらえばいいのですわ!」


 「何じゃ、そのいい考えみたいな言い方。もう滞留ないからの?必要ないのじゃよ?」


 「ふふっ、私は何時間もずっと触れられていましたけどね」


 「はい、ミリアン。そこで対抗しないで欲しいのじゃ。話が脱線していく」


 「まあまあ、この手の話題でチェスリーさんを責めても進展はありません。どのように対策するか、考えましょう」


 ……ミリアンにまとめられてしまったが、どこか納得いかない。

 おかしいなあ、身バレしなければとりあえず自由でいいんじゃなかったっけ。


 「やっぱりあれがダメだと思うのよ。ほら、魔力流すやつ」


 「あーそうですわ。ちょっと癖になるというか、またやってほしいというか」


 「おいおい、ちゃんと休みの日には、みんなにも魔力制御を流して教えてるじゃろ」


 「だから言っているのですわ。あの暖かな感じはチェスリーさんに教えてもらっている時にしか感じないのですから」


 「えぇ……」


 「ねえ、チェスリー。試しにあたしにもやってみてよ」


 「ああ、いいぞい」


 魔力視の眼鏡を掛けようとすると、ヴェロニアに止められてしまった。

 別に視なくてもできるでしょ、とのこと。

 解せん、別にヴェロニアの胸を見ようとしてるわけじゃないのに。


 ヴェロニアの魔力色って何だったかなあ……。

 あ、そうそう。

 確か薄い桜色と言いかけたところて、殴られたことあったよな。

 痛みと共に覚えたことは忘れにくいって本当かも。


 そうすると、火や光あたりに適性があるかもしれないな。

 光が便利そうだから、ライトの魔力でも流してみるか。


 ライトの魔力制御をヴェロニアの手に触れ流していく。


 「ん……これは……ふうう……はあ。結構効くじゃない。これはいいわ」


 「しゃべりが温泉にでも入ったみたいなんだけど」


 「ほら!しゃべり方戻ってるわよ。気を付けなさい」


 「お、おう了解じゃ。ところでライトの魔法が使える感じするかのう?」


 「ん~、あたし魔法使った事ないんだよね。今のも肩こりに効きそうな感じだったし」


 「治療の魔法じゃないからの。そんな効能はないのじゃ」


 「わ、私もライトの魔法をお願いします!」


 「アリステラも?まあ別にかまわないのじゃが」


 アリステラにもライトの魔力を流していく。

 アリステラの魔力色は茶系だから、どちらかと言うと向いてないかもしれないが。


 「「私たちもお願いします」」


 ミリアンとマーガレットもか……。

 俺の対策をする話題はどこいったんだ。

 よしせっかくだし、二人同時に流せるか試させてもらおう。


 ミリアンとマーガレットの手を片方づつ握り、同時に魔力を流していく。



 結果発表~。

 ヴェロニアを除いて、全員ライトが使えるようになりました。


 「あたしだけ使えないのも悔しいけど、まあいいわ。また今度教えて」


 「それはかまわんが、わしの対策はどうなったのじゃ」


 「うん、口説いてないならいいかな。これは恋愛というより、友人の感覚に近いわ」


 「ヴェロニアさん、ほんとですか?私はそうは思えなかったのですわ」


 「そう?ミリアンとアリステラはどう?」


 「私は……その……大変結構でした」


 「私はお兄さまって感じでしたわ!」


 「そういうことね。結局は人それぞれの感情によるところが大きいってこと」


 マーガレットとミリアンは顔を赤くする。

 アリステラは不満そうだが、納得はしているみたいだ。


 「それで対策はいいのかの?」


 「ええ、自然にいきましょ。でも女の子連れ込んだりしちゃ駄目だからね」


 「そんなことせんわい。冒険者同士で話があっとるだけじゃ」


 「ならいいわ。それでダンジョンもそろそろ危ないんでしょ?大丈夫そう?」


 「ああ、『黄金の翼』のパーティーなら、今のところ危なげないのう。さすが上級クランじゃ」


 「危なくなったら、ちゃんと転移で逃げてくださいね」


 「ミリアン、わかっとるよ。死んだらお終いじゃからの」


 「あ、それとですね。新しいスキルの情報をジェロビンさんが掴んだらしいですよ?」


 「何!?それは何のスキルじゃ?!」


 「お、落ち着いてください。まだ確定ではありませんが、ダンジョンの地図を作ることができる能力と、【電光石火】というレアスキルみたいです」


 「ほほう……どっちも欲しいのう。地図があれば戦略も立てやすい。電光石火というと、攻撃が速いとか、敏捷が凄くあがりそうなイメージじゃ」


 「とにかく、まだ『黄金の翼』でのスキル修得は終わっていませんからね。ダンジョンでの危険もありますし、集中してくださいね」


 「わかっとるよ」


 『黄金の翼』は大規模ダンジョン攻略の実績を持っているが、前のダンジョンは最下層が14層だったそうだ。

 1層深くなるだけでも何が出てくるかわからないので油断は禁物だな。



 「ああ、そうじゃった。ミリアン、気配遮断のローブも万能じゃないから気を付けるんじゃぞ」


 「はい、わかってます。でもさすがに宴会で察知を使いながら、お酒飲む人もいないでしょう?」


 「まあ、そんな奴はおらんだろうが、万が一見つかったら言い訳できんからの」


 気配遮断のローブは、通常では全く見つからないほど、気配を消すことができるが、察知のスキルでは見破ることができる。

 特にディアルフを参考にした膜が波打っている察知を使うと、気配遮断が断たれてしまうのだ。


 「その時は……私も『黄金の翼』に入っちゃいましょうか」


 「いやいや、ミリアンは冒険者じゃないじゃろ」


 「あら?事務の仕事ならできますし、収納で運搬もできますよ」


 「だーめーじゃ。わしだけでもクランから抜けにくいかもしれんのに、ミリアンまでいたら面倒になるわい」


 「チェスリーさんって案外独占したがるのですね」


 「そのようですわね。私も『黄金の翼』に遊びに行こうかしら」


 「アリステラとマーガレットもやめなされ。そういうのではないのじゃ」


 ただでさえ転移を使ったダンジョン攻略で、俺を手放し難い状況を作りつつある。

 スキル修得という目的を達成した後に、素直にクランを抜けられるかどうかわからない状況で、ミリアンまで来たら余計に抜けられないでしょうが。


 「はい、それじゃミーティング終了。後は好きにしていいわよ」


 「よっし、わしはスキル練習に――」


 「チェスリーさん、孤児院に新しい遊具を作りたいので、ご一緒に作りましょう!」


 「チェスリーさん、治療の魔法のおさらいに付き合って頂けないかしら」


 「チェスリーさん、新しいクランメンバーをそろそろ迎え入れたいと思っていまして」


 うわ~。

 スキル練習どころじゃないぞこれ。

 しょうがない、ここは順番にやりますか。


 こうして俺の休みは慌ただしく過ぎていく……。


次回は「ダンジョン下層へ」でお会いしましょう。


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