第50話 上級クランのスキル調査
ダンジョン攻略は順調に進み、現在10層を踏破、11層に下る通路まで到達した。
7層から11層に到達するまでに、10日程しかかかっていない。
通常であれば、拠点の確保や兵站の輸送、攻略メンバー交代などで、約50~60日はかかるのだが、転移はその全てを短縮できる。
『黄金の翼』の実力は確かで、今のところ大きな危険もなかった。
かつて『暁の刃』を苦しめたハイオークの集団は8層で登場したが、ディアルフの索敵能力が高く、常に先制攻撃をしかけ、マックリンやバーナルドによりあっさり殲滅されていった。
リオノーラの火と風の混合魔法も、俺の予想を遥かに上回っていた。
敵の強さを見極めたうえで魔力制御を行い、周りに被害を与えることなく敵を殲滅した時は本当に驚いた。
混合魔法はダンジョン内では使いにくいという、認識を改めることになった。
魔力視の眼鏡で視たところ、魔法を発動するために集中した魔力に、さらに制御を重ねて威力を調整しているようだ。
俺も練習してみたがなかなか難しく、反復して熟練させる必要がありそうだ。
アメリンナは風魔法が得意だが、土との混合魔法が得意のようだ。
アメリンナは攻撃よりも防御に魔法を使い、風に土を混合させた竜巻を作り出し、遠距離からの攻撃を無効化していた。
俺は書物等で魔法の情報も集めていたが、独自に工夫した魔法は秘匿されている場合も多く、優秀な使い方を直接見られる機会がなかった。
百聞は一見に如かずとはこのことだろう。
今から11層の探索が始まる。
このダンジョンは全15層と想定されている。
層の深さは、各層の広さで判別する方法が知られている。
深い層ほど横の広がりが狭くなるという特徴があり、ダンジョン核のある層が最も狭い。
層毎の狭まり度合いで大よその層の深さが予想できるのだ。
そしてダンジョン核に近い層ほど、強力な魔物が出現するようになる。
魔物により特徴は異なるが、何れも突出した力を持っている。
10層まではそれほど強力な個体は現れなかった。
集団で現れる魔物はやっかいだが、広範囲魔法を上手く使えるなら、返って殲滅しやすい場合もある。
マックリンの経験から、そろそろ強力な魔物が現れそうな感じがするらしい。
探索メンバーは、前衛にマックリン(剣、格闘)、ディアルフ(索敵)、ライアリー(盾)。
中衛にバーナルド(槍)、クラレッド(槍)、俺(剣、転移)。
後衛にリオノーラ(火風魔法)、アメリンナ(風土魔法)、シンディ(水土魔法)。
9人の構成だ。
11層の探索を始めて5時間経過、ディアルフの索敵に反応があったようだ。
「こいつは……きましたよ~。でかいのが3匹、しかも速い!」
「全員警戒!アメリンナは防御展開!」
マックリンの号令で、アメリンナは風と土の混合魔法、サンドトルネードを展開する。
その直後、猛スピードで火を噴きながら迫る3匹の魔物が現れた。
魔物の名はケルベロス。
犬型の魔物で、体長は5メートルほどある。
俊敏な動きで、口から吐く火炎と、強靭な爪で攻撃してくる。
1匹でも強いのに3匹も出てくるのか……。
サンドトルネードとケルベロスの火炎が激突し打ち消し合う。
ケルベロスは散開しながら、3方から攻めてくる。
右側はマックリンが向かった。
正面はライアリーが盾で迎え撃つ。
左側はクラレッドと俺が向かう。
マックリンはケルベロスの攻撃に怯むことなく、順調に手傷を負わせていく。
ライアリーもケルベロスの攻撃にしっかり受け止め、バーナルドが後ろから槍を突き付ける。
俺の方はクラレッドと二人がかりでケルベロスにあたる。
ケルベロスは左右にステップして揺さぶりをかけてくるが、俺もクラレッドも十分対処できる速度だ。
火炎もまっすぐ撃ってくるだけなので、十分避けることができる。
しかし決定打がなかなか与えられない。
俺はケルベロスのステップに合わせ、ファイヤーウォールを縦に展開した。
リオノーラの魔力制御を覚えたおかげで、以前より広範囲に展開できるようになった。
動きが阻害されたケルベロスが一瞬躊躇したところに、クラレッドが溜を作り、回転を加えた一撃を叩き込んだ。
これで1匹撃破だ。
マックリンは既にケルベロスの頭を切り落としていた。
ライアリーが抑えていたケルベロスも、リオノーラの風魔法で止めを刺されていた。
「やはり出てきたな。ここからはちょっと厳しくなりそうだ」
「まだまだ余裕だろ。索敵がしっかりできていれば十分対処できる」
「へっ、俺の索敵におまかせよん」
俺も索敵はこっそりやっている。
ディアルフの索敵は相当優秀なようで、俺の方が一歩遅れる。
ディアルフの索敵を魔力視で視ると、膜の様に魔力が伸びていくのは同じだが、表面が波うっているのがわかった。
その魔力制御を真似してみると、索敵範囲が広がり魔物の大きさもわかるようになった。
索敵ってほんと大事だよな。
ここまで被害が少なく探索できているのは、ディアルフの索敵のよるところが大きい。
もちろん敵を殲滅できる個々の技量も必要だが、索敵が早ければ不意を打たれることもない。
不意を打たれると、武術に優れたものでも案外脆いところがあるのだ。
この後、ケルベロスが10匹まとめて現れたりしたが、索敵で先制しシンディの水と土の混合魔法、ウォータークラッシュで数を減らし、残りを前衛が始末した。
順調に攻略は進み、12層へ下る通路を発見した。
今日の探索はここまで。
新たに転移陣を埋め込み、地上のクラン拠点へ転移する。
明日は4日に1回のお休みだ。
結局言い訳に使えるいい病気は、ジュリーナさんに聞いても心当たりがないとのことで、素直に3日働いたら1日休みたいと言ってみたら、あっさり認められた。
みんなも休みたかったんじゃないかな。
いつもなら休みの前の日はすぐに帰るのだが、宴会に誘われて断れなかった。
せっかくなので、ご相伴に預かろう。
「12層到達お疲れさん!今後の成功を祈願して乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
参加人数30名。
攻略メンバー以外に、武器や消耗品の管理をしている裏方さん達もいる。
これでもクランメンバーの半数に満たないのだから、大所帯だよな。
酒場を借り切っているようで、俺は4席あるテーブルに座った。
すると、リオノーラ、シンディ、アメリンナと、攻略パーティーの女性陣が同じテーブルに集まってきた。
「おやおや、こんなくたびれたわしのところより、他にいい席があるじゃろ」
「いつもす~ぐ帰っちゃうからね。たまには私たちとじっくり話なさいよ」
リオノーラは火と風の混合魔法の制御が素晴らしいことを褒めたら、一気に馴れ馴れしくなった。
普段も魔力制御を教えてもらったり、魔法について話し合ったりしている。
「あの……私もチェスリーさんのお話……聞きたいなって」
シンディは水魔法が得意で、土との混合魔法を使いこなす。
内気な性格のようで、あまり積極的に話しかけてはこないのだが、探索中に料理の話をしたり、魔力制御をちょこっと教えたりしているうちに、仲良くなった。
「そうよ~、過去を詮索したいわけじゃないけど、気になるじゃない~。謎の転移使いさん」
アメリンナは風魔法が得意で、攻撃以外にも、風を使った罠探知という特殊な使い方をしている。
魔力制御で通路に沿った風の塊を作り、それを飛ばすことで、落とし穴や何かに触れると作動するような罠を、先に発動させてしまうのだ。
この使い方も参考になったので、普段は俺の方から根掘り葉掘り聞きまくっている。
しょっちゅう臨時パーティーに入っていた経験が生きて、周りに馴染むのは早いほうだと思う。
「チェスリーさん、休みの日はどうしてるのよ?」
リオノーラから定番な質問が来てしまったな。
俺は秘密防御力の低さに定評があるから、迂闊なことは言わないようにしないと。
間違っても『百錬自得』のメンバーに、ここで覚えた魔力制御を伝授してますなんて、言えないし。
「訓練じゃの。わしもまだまだ成長できることがわかったからの」
「真面目ね……。でもさ、いつも楽しそうに帰っていくじゃないの?いい人でもいるんでしょ~?」
むぅ、否定はできない。
自分の家に帰れるときは、迷わず『百錬自得』の拠点に帰っているからな。
ケイトさんの料理も捨てがたいし、『百錬自得』のメンバーとの会話も楽しいしな。
「ほっほっ、否定はせんの。わしにも好いた女がおるということじゃ」
「ど、どどど、どんな人ですか!?」
おおう、シンディらしからぬ大きい声だな。
「それは内緒じゃ。まあ料理の上手い人とでも言っておこうか」
その時、突然首の後ろをぐりっと抓られた感触がした。
後ろを振り向くと……あれ?誰もいない……。
「え?どうしたのチェスリーさん」
「い、いや何でもないのじゃ」
「ねえそれよりさ、その人いくつぐらいなの?綺麗?」
「そうじゃな。歳はわしより若いぞ。綺麗かどうかは人によるからの。わしから見ればみんなも綺麗じゃよ」
「まあお上手ね。シンディよかったわね。料理上手がいいらしいわよ」
「わ、わたしは別に……」
「ほっほっ、シンディは料理に興味があるのかの。今度いっしょに――」
再び首の後ろをぐりっとされる感触が!
後ろを振り向いて……誰もいない……ん?ひょっとして。
意識を集中して探ってみると……うわ、ミリアン何でここにいるの!?
「え?チェスリーさんどうしました?今度何でしょうか?」
「あ、いや。今度探索に行くときに、お弁当でも持っていこうかなと」
「いいですね。楽しみです!」
その後もおとなしめに会話は進み、途中ハーレム状態の俺をマックリンがからかいにきたりするなどあったが、宴会は終了した。
しかし、気配遮断のローブがあるとはいえ、ミリアンが宴会に忍び込んでくるとは。
何しに来たんだろ……。
次回は「ある日の休日」でお会いしましょう。




