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第5話 未発見ダンジョンからの帰還

 ロープを繋ぎ合わせて穴の下に降ろし、ジェロビンが器用にロープを伝って降りていく。

 ダンジョン核を掘り起こし、布に包んでロープで引っ張り上げる。

 ダンジョン核を外せば、ダンジョンの成長も止まり、新たな魔物は発生しない。


 「ふふ……ここでジェロビンを埋めちまえば、分け前が増えるぜ」


 「レフレオンの旦那ーー!洒落にならないんでやめてもらえやすか!!」


 全員(ジェロビンを除く)が軽く笑った後、ロープをジェロビンに投げて渡す。


 「全く……旦那の冗談はマジで笑えねえでやす。チェスリーの旦那がいなきゃ降りる役は引き受けなかったでやすよ」


 ジェロビンは少々あきれ顔だ。

 何だかんだでレフレオンとジェロビンとは腐れ縁だ。

 俺はスキルの試行錯誤中心の活動をしていたせいもあり、特定のパーティーを組むことはなかったが、この二人となら組んでもいいかもしれないな。


 ダンジョン核を確保し一息ついたところで、今後のことを相談することにした。


 「穴の周辺で宝石の原石が見えやした。道具を揃えて採掘といきやしょう」


 ジェロビンの報告に頬が緩む。

 ダンジョンの美味しいところの二つ目である。

 ダンジョンが成長することで、地下資源の採掘が容易になるのだ。

 宝石や鉱石が多いところにダンジョン核ができるのではないか、とも言われている。


 「その前に魔物の掃除をしよう。マッピングできてない分岐を再調査して、生き残りがいないか確認しよう」


 俺は安全優先なので、敵の殲滅を提案する。


 「人手はなるべく増やしたくねえな。みすみすお宝の山をわけてやるこたあねえ」


 レフレオンは早くも分け前の心配か。

 まあ気持ちはよくわかる。

 大手クランに所属していない冒険者の稼ぎは、農民などに比べれば多いが、武器・防具や消耗品なども自己負担となるので出費も多く、常に怪我や死の危険が伴う。

 稼げるときに少しでも多くの報酬を求めるのは当然だろう。

 少人数であるほど分け前も多くなるので、しばらく遊んで暮らせるかもしれない。


 「リンジャックはどうだい?」


 「まさか踏破できるとは思わなかったので……。正直困惑しています。しかし、なるべく他に譲りたくはないですね」


 「わかってると思うが、でけえ金になることは間違いねえ。裏切りは殺し合いになるってことを忘れんなよ」


 ある程度信頼関係はできたが、所詮は出会って数日のパーティーだ。

 まして大金が絡むと、数十年の友情ですら一瞬で終わることもある。


 「まあまあ、ここは確実なやり方にしないか?ダンジョン核と直ぐに掘りだせそうな原石だけ持ち帰り、ギルドに報告しよう。採掘をこの人数だけでするのは大変だし管理もできない」


 「そうでやすねえ。あっしはチェスリーの旦那に賛成しやす」


 「俺も採掘作業なんてごめんだぜ」


 リンジャック、ニコライドとアントマスは異論ないとのこと。

 マルコラスだけは、原石をもっと掘りだしたいと、やや渋り気味だった。

 しかし、ダンジョン核のことを報告をすればすぐ周りに知れることになる。

 自分たちだけの採掘作業はできないだろう。


 ダンジョン核を持ったまま採掘するのは、大金を抱えた状態で作業するようなものだ。

 誰かの裏切りを警戒しながらの作業など、やる気になれないし、事故に繋がる恐れがある。


 このように話し合った結果、マルコラスも俺の案に承諾してくれた。

 


 採掘は5個ほど大きめの原石を掘りだす程度に留め、マクナルのギルドへ帰ることにした。

 帰路は順調で、魔物と遭遇することもなくマクナルへ到着した。


 御者には色を付けて日数分以上の手当てを渡し、冒険者ギルドに直行する。

 みんな大金を抱えた緊張から、さっさと解放されたいのだ。


 「アリサちゃん、ちょいとギルマスに話があるから呼んでくれやすかい」


 「お約束はありますか?」


 「約束はしてないでやす。ジェロビンが来たと言えばわかるでやす」


 「わかりました、確認してきます」


 受付嬢のアリサが階段を上り、ギルドマスターを呼びに行く。

 するとすぐにギルドマスターが降りてきた。


 「ジェロビン!全員連れて2階へ上がってきな」


 「はいでやす」


 「ん?何か話が早すぎるような。ジェロビンひょっとして……」


 「へへ、保険ってやつは必要でやす」


 いつの間にギルドマスターに話を通していたんだろう。

 こういう抜け目のないところが、ジェロビンを信頼できる点でもある。


 7人揃ってギルドマスターの部屋に入室する。

 ギルドマスター部屋はわりと広いのだが、書類が乱雑に積み上げられているせいで、足の踏み場に困る状態だ。

 左側に扉があり、話をするための会議室があるようだ。

 中央に円卓があり、10人ぐらいは余裕で座れそうだ。


 全員が席に着くと、ギルドマスターとの話し合いが始まる。


 「ジェロビンからは結構な儲け話があって、一か月経っても自分が戻らなければ、調査してほしいと依頼を受けていた」


 「へへ、以前騙されたことがありやしてね。何とか生還したものの、裏切り者は見つからず泣き寝入りしたでやす。腕っぷしが弱い奴はいざって時に切り捨てられやしてねえ」


 「それで、リンジャックくんだったか。今回のリーダーは君だな?どういうことか説明を頼む」


 「わかりました。結果からお話ししますと、私たちは未発見ダンジョンを踏破しました」


 「なん、だと!まさか……」


 ギルドマスターの顔が驚愕に変わる。

 それほど未発見ダンジョンを踏破した価値は大きいのだ。

 多少の当たり外れはあるが、ダンジョン踏破後は魔物も溢れないため、冒険者でなくとも原石や鉱石の採掘ができる。

 安全に作業できるので人手も集まりやすく、ギルドにもかなりの収益が期待できるだろう。


 さらに金になるのが……。


 「これがダンジョン核だぜ」


 「ほおおお」


 レフレオンがギルドマスターにダンジョン核を見せる。

 通常の魔石が黒色なのに対し、ダンジョン核は透明に近く、薄っすらと黒が混在したような色だ。


 「わしも実物に触れるのは初めてだ。以前見たものよりかなり小さいが、間違いなさそうだな」


 ギルドマスターとの話し合いは概ね順調に終わった。

 ダンジョン核は、商業ギルドのオークションにかけられることになる。

 少なくとも金貨300枚にはなるとのこと。

 原石は鑑定後、買い取り額を提示される。

 大きいダンジョンは国の管理になるが、今回のような小さいものは、ギルドの管理に任せられるそうだ。


 貨幣の種類は以下の通りである。

  金貨1枚=銀貨100枚

  銀貨1枚=大銅貨10枚

  大銅貨1枚=銅貨10枚

  銅貨1枚=鉄貨10枚


 俺の稼ぎは30日で銀貨50枚ぐらい。

 今回の稼ぎを等分したとして、ダンジョン核だけで約2500日分に相当するのか……。

 その他にコボルドの魔石が300個以上あり、全部換金するとおよそ銀貨15枚だ。

 上位種のものは少し高めになるが、数が少ないので誤差程度だな。

 コボルドは剥ぎ取れる素材がないから、魔石しか換金できない。

 コボルドのような素材がとれない魔物だと、どんなに大量に倒しても下手すると赤字なんだよな……。




 冒険者ギルドを後にした俺たちは、祝杯をあげに酒場へ繰り出すことにした。

 個室のある少しお高めの店を選ぶ。

 今回の稼ぎなら、このぐらいの贅沢は許されるだろう。


 「無事生還と仕事の成功に乾杯!」


 全員でエールを一斉にあける。


 「くあ~~うめえ。稼いだ後のエールは格別だぜ」


 「今回の成功は皆さんに力を貸していただいたおかげです。本当にありがとうございました」


 「いいってことよ。こちとらも滅多にねえ、うまい話だったぜ。未発見ダンジョンなんて一生お目にかかることはねえと思ってたぜ」


 「そうでやす。発見自体が奇跡的でやすからね」


 もう大金が入ることは確定している。

 宴が盛り上がらないわけがない。

 大いに飲み、大いに食べ、大いに笑おう。


 ……宴が落ち着いたころ、俺は気にかかっていたことを聞いてみることにした。

 マルコラスだけ、原石を採掘することに拘っていた。

 もしかすると、お金が稼がなければならない事情があるのかもしれない。


 「マルコラスさん、もしかして……お金に困っていることがあるのではないですか?」


 「え、いえ……。実はそうでしたが、もう解決することになりそうです」


 「そうでしたか。……差し支えなければ理由を聞いてもいいですか?」


 「お恥ずかしい話ですが……妹が病気で、症状を抑えるために高価な薬が必要です。いまは借金をして薬を買っていることもあり、できるだけお金を稼ぎたかったのです。しかし、ダンジョン核があれほど高額のものとは思いませんでした。ダンジョン核を売ったお金があれば、借金を返す目途がつきますので……」


 「そんな理由が……。しかし、症状を抑えるだけでは、これからもお金が必要になるのでは?」


 「ええ、何人か聖魔法使いの方に治療していただきましたが、一時的に回復したように見えても、元の症状に戻ってしまいます……。しかし、まとまったお金があれば、何でも治療できるという、有名な治療師に依頼できそうです」


 「有名な治療師……。ひょっとしてその人、ジュリーナって名前の人ではないですか?」


 「ご存じなんですか!?」


 「あ、ああ。期待させてすまないが、直接知ってるわけではないんだ。でもジュリーナさんが高額な治療費で依頼を受けるなんて聞いたことないな」


 その話を聞いたリンジャックが、こちらの話に参加してきた。


 「そうなんですか?私が聞いた話でもジュリーナさんへ依頼するには高額な報酬が必要と聞きました。最低でも金貨20枚は用意してほしいとか」


 金貨20枚!?

 ……確かに今回のダンジョン核の売却で用意できるかもしれないが、通常の冒険者の稼ぎで支払えるような額じゃないぞ。


 「う~ん。実はジュリーナさんの親戚でヴェロニアという人がマクナルにいて、話を聞いたことがあるんですよ。ジュリーナさんは聖魔法で高度な治療をしてるのに、お金を受け取らなくて、そんなことばかりされるとポーションでお金稼ぎしてる私たちは困っちゃうんだけど!とか愚痴を聞かされてましてね。恐らくジュリーナさんは忙しい方でしょうし、遠方へ行けないという話ならわかりますが」


 「チェスリーの旦那の言う通りでやすよ。ヴェロニアはあっしも仕事で話したことがありやして、似たようなこと言ってやした」


 マルコラスの顔色が変わり、机をドンと叩く。


 「あのやろう、騙しやがったな!」


 「いや……しかし商業ギルドからの確かな情報だったはず……」


 「まあまあ、落ち着きなさいやせ。そちらさんも安易に嘘情報を掴まされたとは思えやせん。特に金が絡んだ嘘を冒険者に流しちまえば、自分の首が飛ぶことになりやす。あっしには裏の匂いがぷんぷんするでやすねえ」


 ジェロビンは不敵に哂う。


 冒険者ギルドは依頼の斡旋や管理、素材の買取が主な業務だが、犯罪関連も取り扱っている。

 人が集まればどうしても様々な犯罪が発生する。

 大都市であれば、国が組織した騎士団が警備や取り締まりを行うが、冒険者ギルドしかない町では、冒険者ギルドが取り締まりを代行する。

 それ以外の町や村では自衛するしかないのが現状である。


 法は定められているが、厳密なものではない。

 冒険者を騙すということは、冒険者の裁量で解決されても文句は言えないのだ。

 当然、冒険者があまりにも無法な事をすれば、信用をなくし狩られる側に回るわけだが……。


 「ヴェロニアに会ってみないか?オークションまで日数もあるし、調査する時間もあるだろう。ヴェロニアはポーション作成もしているから、病気について何かわかるかもしれない」


 「……取り乱してすみません。ご厚意感謝します」


 次の日の予定は決まった。

 ヴェロニアのところにも、そろそろ顔出さないと五月蠅からちょうどいいな。


金貨1枚を現在の貨幣価値に換算すると100万円としています


次回は「ヴェロニアを訪ねて」でお会いしましょう。

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