第40話 クラン新拠点
エドモンダ伯爵様は、夕食が終わる頃にようやく戻ってきた。
エセルマー侯爵の件は、貴族の連名による証拠提示があったため、すぐに騎士団が動いてくれたようだ。
エセルマー侯爵は、自分の管理下である王都東の砦に逃げこんだ。
しかし、王都騎士団の姿を見た砦の兵士たちは、抵抗することもなく投降したそうだ。
捕縛されたエセルマー侯爵は、現在取り調べ中だ。
エドモンダ伯爵様は相当疲れているようで、簡単な報告だけで終わり、解散となった。
翌日の朝。
俺はエドモンダ伯爵様から、治療を頼まれた。
昨日は夜中から働きどおしで、さすがの伯爵様も疲れが残っているようだ。
「エドモンダ伯爵様、私の治療は傷や痛みは治すことができますが、疲労に試したことはありませんよ?」
「せっかくの機会だし、悪くなることもあるまい。効果がなくても文句は言わんよ」
「そうですか、わかりました」
念のため、魔力視の頭巾で確認してみる。
う~ん、やはり魔力でおかしなところは見つからないな。
それに伯爵様の方が、俺より魔力量が多いので少し落ち込んだ。
肩が凝りやすいというので、肩から魔力を流していくことにする。
「エドモンダ伯爵様、どうでしょうか?」
「……はっ!話には聞いていたが、素晴らしいな。気持ちよすぎて少々眠ってしまったようだ。……うむ、肩も軽くなっておるし調子が良いぞ」
上手くいったようだな。
この治療の魔法って疲労にも効果があるんだ。
思わぬところで臨床できてしまった。
治療の後は、クラン会議を開くためマクナルへ戻ることになった。
今回はエドモンダ伯爵様、セバスさん、ミリアン、ジェロビン、マーガレット、シルビア、俺の計7人で転移する。
ジェロビンは、グレイスを預けたいと話すと二つ返事で了承し、一緒にマクナルへ迎えにいくことにした。
マーガレットは、マクナルに行ってみたいというので、一緒に行くことになった。
俺の転移範囲の狭さでは、人数が増えると寄り集まらないといけない。
シルビアがいるんだから転移使ってよ、と頼んだら、夜中に使い過ぎて無理、と断られた。
はいはい、ゆっくり眠せてもらった俺がやりましょう。
ミリアンは転移の時だけは遠慮なくくっついてくる。
何故かマーガレットもくっついてくる。
そして伯爵様とジェロビンがニヤニヤしている。
無事マクナルへ転移した。
早速ヴェロニア、レフレオン、グレイスに声をかけよう……としたのだが、レフレオンは冒険者ギルドの依頼を受けて、どこかに出掛けているらしい。
ヴェロニアはクラン事務所で魔道具作り、グレイスは自主練習をしていたので、会議に参加できるな。
「それでは第6回クラン会議を始める」
おお!ついに連続で出席することができた。
……俺が出席できない時に会議が行われる理不尽さは目をつぶろう。
「新メンバーの紹介をしよう。マーガレットくんだ」
紹介されたマーガレットは優雅に立ち上がり、カーテシーで挨拶する。
公爵様の娘だけあって、様になってるな。
「マーガレットです。クランの一員に加えさせていただきます。敬語なども不要ですので、お気軽に話しかけてくださいな」
全員で拍手する。
何事もなくメンバーに迎えたわけだが、身分差は注意しないとね。
特に今いないレフレオンは……あいつ意外と子煩悩なところもあるから大丈夫か。
「次はエセルマー侯爵の話だな。ジェロビンくん説明を頼む」
「王都に先行して調査したところから説明を始めやす。当初の目的はチェスリーの旦那からもらった情報がきっかけでやす」
「え?俺の?」
「へい、ボルドの治療のことでやすね。エセルマー侯爵が何故あんなに焦っていたかも気になりやした。伯爵様も治療依頼の割り込みは変に感じてたでやす」
「それでエセルマー侯爵の調査が進んでいたのか……」
「そうでやすね。そこで犯罪奴隷の無法な扱い方や、禁止薬物に辿り着くことができやした。これも目立つことは隠せない例でやすね。少々金はばらまきましたが、情報はすぐに集まりやした」
「ここからはわしから話そう。チェスリーくんが証拠を確保してくれたおかげで、エセルマー侯爵は騎士団に捕縛された。悪事に加担していた商会や関係者の調査は残っているが、騎士団に引き継ぐことになっておる」
俺たちのクランの目的はスキル修得だ。
ずるずると事件に巻き込まれずに済んで安心した。
「次はクラン拠点の話だな。既にマーガレットくんから聞いているものもいるが、王都にクラン拠点を準備していただいた。提供はプリエルサ公爵様で、マーガレットくんの親御さんだ」
それでマーガレットは先に知っていたのか。
それにしても、どんな建物を提供してくれたのだろう。
見るのが楽しみだ。
「クランメンバーは王都に移住してもらうつもりだが、急にマクナルを離れる事ができぬ者もおるだろう。マクナルの事務所はそのまま使えるようにしておく。それぞれ希望を教えてくれ」
俺、ヴェロニア、ミリアン、グレイスは直ぐに移住を希望した。
マーガレットは元々王都住まいなので、当然王都だ。
ジェロビンは、まだマクナルで後片付けが残っているそうだ。
目途がついたら王都へ来るが、クラン拠点とは別の場所に住むことを希望している。
「次はチェスリーくんが希望しておった聖魔法見学のことだ。エセルマー侯爵に不当な扱いを受けていた犯罪奴隷は、わしが費用を負担して治療することになった。チェスリーくんはその立ち合いも兼ねて聖魔法を見学してもらおう」
「おお、ありがとうございます」
「ただし、チェスリーくんは治療に手を出さんようにな。どうしても必要な時は、わしに連絡するようにしてくれ」
「り、了解です」
「中にはかなり重症のものがおるので、ジュリーナという奇跡の聖魔法を使うという人物に治療を依頼した。薬物中毒も治療してくれるそうだ。滅多に見られるものではないから、しっかり勉強するようにな」
「じゅ、ジュリーナ姉!」とヴェロニアが驚いた顔だ。
「ほう、ヴェロニアくんは知り合いなのかね?」
「はい、以前はマクナルに住んでまして、わたしの親戚です」
「そうか、ならヴェロニアくんもいっしょに行くかね?」
「是非。よろしくお願いします」
ジュリーナさんと会えるのか……。
思えばジュリーナさんのことがきっかけでヴェロニアに会ってから、魔班病治療も始まったんだよな。
どんな人なのか、会うのが楽しみだ。
「次はグレイスくん、訓練は続けておるかね」
「はい!チェスリーさんに教えていただいた事を生かし、修行に励んでおります」
「よろしい。グレイスくんはジェロビンくんに諜報を学ぶとよい。一緒に行動してくれたまえ」
「了解しました。ジェロビンさん宜しくお願いします」
「へい。あっしは旦那のように甘くないんで覚悟はしといてくださいやせ」
「は、はい……」
ちょっとぐらいは助け舟をだしておいたほうがいいかな……。
「ジェロビンお手柔らかに頼むよ」
「へっへっ、魔物より人間相手の方が危ないことも多いでやすよ。厳しくしないと命に係わりやすぜ」
「……ということだ、グレイス頑張ってな」
「チェスリーさん……」
ジェロビンを相手に、俺が助け舟をだそうなんて所詮無理な話だったようだ。
グレイスの検討を祈る。
「後は……『暁の刃』の件についてだ。エセルマー侯爵があんなことになったからな。わしが支援を引き継ぐことにした」
「そうなんですか!それはよかった」
「『百錬自得』として関わることはないかもしれんが、魔道具の素材集めに彼らの力が欲しくてな。何か共同で行うことなどは、今後の課題としておる」
『暁の刃』と兄弟みたいな関係になるのかな。
そういえば王都に住むことになるし、メアリが王都限定弟子から、普通に弟子になってしまうな。
こうなったら腹を括って、師匠として……何すればいいんだろ?
「マーガレットくん、きみはクランでの活動で何か希望はあるかね?」
「チェスリーさんとご一緒にスキル研究をしたいですわ!」
「うむ、わかった。そうしたまえ」
「了解ですわ」
「次にミリアンくん、引き続きクランメンバーの選定を頼む。クラン拠点で家事を担当するものを紹介するので、そちらも面接してもらうことになる」
「了解しました」
「以上だ。クラン会議を終了する」
ふう……クランメンバーも増えてきたし、議題もいろいろ増えてるな。
今回の議題では、ジュリーナさんに会えることになったのが朗報だ。
ジュリーナさんが話のきっかけにならなければ、今の状況はなかったかもしれない、いわば恩人だからな。
会議後、クラン事務所でお茶していると、ヴェロニアが声をかけてきた。
「チェスリーちょっといい?」
「ああ、ヴェロニアか。なんだい?」
「これちょっと試してもらえるかな」
そう言ってヴェロニアが差し出してきたのは、1枚の透明な四角い膜のようなものの上左右に、曲がった棒のようなものがついている。
上の棒は先に行くほど太くなっている。
「これどうやって使うの?」
「その左右曲がった棒を耳のところにかけて、上のやつは頭にのせてね。それで透明な膜を目の前に固定するの。それで魔力を流してみて」
「ふむ、これで魔力を流すっと」
魔力を流すと見慣れつつある光景に切り替わる。
おおお、魔力視の頭巾と同じじゃないか。
「ヴェロニア!魔力が視えるよ!」
「わーーー、こっち見るんじゃない!まだ覗き防止できてないんだから!」
「ああ、すまん。そうか軽量化に成功したんだな」
「まあね。ジェラリーが手伝ってくれたおかげもあってだけど。彼女の効率化はやっぱ凄いわ。名前は魔力視の眼鏡っていうの」
「あれ?安価な魔力視の道具も同じ名前じゃなかったか?」
「そうよ。同じにしておけば、気軽に道具の名前言えるでしょ」
「なるほど……安価なほうと効果が違うのは俺だけ知ってればいい話だものな」
「そういうことね」
「これなら邪魔にならないから、ずっとつけててもいいかもしれないな」
「……ダメに決まってるでしょう。あんたにいつ覗かれてるかわからないでしょうが」
「いやあ、魔力を流さなきゃ普通にしか見えないし」
「とにかく、ずっとつけるのは禁止!わかったわね」
「りょーかい」
この新魔道具、魔力視の眼鏡はいい相棒になりそうだ。
ちゃんと磨いておこうっと。
次回は「引っ越しと悩み事」でお会いしましょう。




