第39話 一夜明けて
エセルマー侯爵邸潜入から一夜明けた。
俺は眠らせてもらったが、セバスさんやシルビアは夜通し働いていたようだ。
どことなくふらふらしていて、今にも崩れ落ちそうだ。
セバスさんはボルド誘拐事件が解決した後も、馬車で寝込んでたよな。
ちゃんと労わってあげないとね。
「セバスさん、お疲れ様です」
「いえいえ、チェスリーさん。あなたのおかげで随分助かりました。これで我が夢も叶うことでしょう」
「……え?夢ですか」
「ええ、まだ正式に発表されていないので、今は秘密にさせていただきます。発表の折には、改めてお礼申し上げさせていただきます」
何だろうな。
でも良い事みたいだから、聞く時を楽しみにしておこう。
「楽しみにしてます。それより痛いところなどありませんか?治療の魔法をお使いしますよ」
「ほお、それはありがたい。少々腰が痛みましてな」
「では失礼しますね」
セバスさんの腰に手を当て、もはやお馴染みになってきた白と黒の魔力を交互に流す。
「おおぉお……まるで温泉に入ったかのような心地よさ……これがチェスリーさんの治療ですか……。見るのと体感するのでは大違いですな」
「ははは、大げさですよ。これでどうでしょうか?」
「……ん?……あ?……おお!?」
「せ、セバスさん!大丈夫ですか?」
調子にのって、何かやらかしてしまったか!?
「軽い!ここ数年苦しめられた痛みが全く感じられない!」
「ほっ、よかったあ。驚かさないでください」
「いやはや、何度も見ていたはずなのに、これほど治療の効果が高いとは」
「これは『暁の刃』で治療した時にわかった方法なので、いつものとは少し違うかもしれませんね」
「そうでしたか。ありがとうございました」
次はシルビアかな。
かなり疲れているようだし。
「シルビア、きみも治療しておこうか?」
「い、い、いや......遠慮しておくさ」
「いいよいいよ、遠慮しなくて。それっ」
「きゅーーーーふしゅうううううぅぅぅぅ……」
「し、シルビア!」
触れちゃダメなのに、またやっちゃったなあ。
どうも最初に転移を教えてもらった激痛の印象が強すぎて忘れちゃう。
し、仕返しするつもりじゃ……ないはずだ。
自分から触れるのは平気なくせに、どうして触れられるとこんな風になるんだろう。
「もう、チェスリーさんったら駄目じゃないですか!」
「あ、ミリアン!?」
「シルビアさんは私が運びますから、チェスリーさんはお食事を済ませてください」
「あ、ああ。お願いする」
今度ちゃんとシルビアと話をしてみよう。
仕事と転移の話しかまともにしてないからな……。
エセルマー侯爵の件は、もう俺の出る幕はないだろう。
それより支援を受けていた『暁の刃』は少なからず影響がありそうだ。
ようやくダンジョン攻略を再開しようとしていたところだし、伯爵様に支援をお願いできるかな。
「そういえばメアリを見てないな。帰ったのかな」
「師匠、私めはこちらに控えております」
「おわっ!いたのか。戻らなくていいのか?」
「はい、『師匠の元に行きます。心配は無用です』と書置きしておきました」
「ああ、それなら……いやいやいや、それだけじゃ家出みたいじゃないか」
「弟子が師匠の元へ行くのは、至極当然の行動だと思います」
「いつの間にか違和感なくなってたが、別に弟子じゃなくてもいいんじゃないか?」
「そ、そんな……破門……ですか」
まずい、涙目になってる。
俺の弟子じゃないって、泣くほどのことなのかね……。
既に闇魔法はメアリのほうが上手いし、教えることもないしなあ。
あれ?何か様子が変わってきて、顔が赤くなってきた。
嫌な予感しかしない。
「そ、それは……恋人になれということでしょうか」
「そーじゃなくてだな。何故友達とかの段階をすっ飛ばそうとするの」
「普通の友達などという立場では、既に私の心が落ちつかないのです」
「……わかった。じゃ正式に弟子採用ってことにしとく」
「ありがたきお言葉、ありがとうございます」
「しかしなあ、もう教えることなんてないよ?」
「師匠はまだ成長段階であります。私はそんな師匠を尊敬し、弟子として仕えたいのです」
「……いいだろう。俺もここで止まる気はないしな」
「はい!師匠、これからもお願いします」
「ところで本当に『暁の刃』に戻らなくていいの?」
「え、いえ、まあ、今日はクランで会議をするというお話はありましたが……」
「すぐ戻りなさい」
「……はい師匠」
メアリはおとなしくクランへ戻っていった。
変わったところはあるけど、嫌なわけじゃないし、弟子にするぐらいならいいや。
王都にずっといるわけじゃないし、王都限定弟子としておこう。
エセルマー侯爵の件があるから、下手に王都を出歩く気もしないなあ。
そういえば、あの孤児院で治療した子、あれからどうなったかな。
アリステラに聞いておけばよかったけど、それどころじゃなかったし。
マクナルに帰ってグレイスの様子も見たいしと、やりたいことは結構あるな。
そんなことを考えていたら、ミリアンが戻ってきた。
「ミリアン、これからの予定って何かあるかな?」
「お食事はもう済まされましたか?」
「あ、忘れてた」
ミリアンは食事を済ませているというので、状況を聞きながら食事をとる。
「エドモンダ伯爵様は、国王様のところへ出かけています。貴族の連名は昨夜の内にまとめ終わっていますので、騎士団が動くことは間違いないと思います」
「これでエセルマー侯爵の件は解決するのかな」
「いえ……伯爵様がおっしゃるには、関わった商会や貴族などの事もありますし、解決には時間がかかるというとこです。昨夜の潜入は既に知られていますし、冒険者を雇って監視はさせているようですが、まだエセルマー侯爵を捕縛したわけでもありません」
「まあそうか。本格的に捜査するのは、これからだものな」
「私たちへの指示は特にございませんでした。ジェロビンさんは諜報で引き続き動くそうです」
「あ、それだ。できればグレイスをジェロビンに預けたいんだ」
「グレイスさんをですか?まだ危険ではないでしょうか」
「ジェロビンなら任せられる。グレイスも最低限の基礎はできているし、レアスキルを開花させるには、諜報を実践させたほうがいいだろうからな」
「わかりました。エドモンダ伯爵様とジェロビンさんに伝えておきます」
了承されたら、グレイスのことはジェロビンに任せられそうだな。
食事が終わり寛いでいると、来客があると伝えられた。
誰かと思えば、マーガレット様だった。
準備にしばらくかかるって言ってなかったっけ。
ミリアンが対応してくれるようだが、俺もいっしょについていく。
「マーガレット様、今日は何のご用事でしょうか?」
「クランに入る準備のお話しですわ。荷物をまとめていましたが、運びきれませんの。こちらに収納魔法が使える方がいると聞いてやってきましたわ」
「はい、私が収納魔法が使えますが……あの、お荷物をまとめられて、お引越しでしょうか?」
「何言ってますの?クランの拠点に住むから、当然お引越ししますわよ」
「ええ?!し、失礼しました。クランの拠点はマクナルにあるのですが……」
「あら、まだお伺いになっていませんのね。王都にクランの拠点を移すと聞いておりますわ」
初耳だ……。
セバスさんが言ってたの、このことだっ……いや違うか、夢が王都拠点ってことないよね。
「そ、そうなんですか。もう場所はどこかご存知ですか?」
「ええ、私共のメイドが掃除に行ってますので知っていますわ」
「チェスリーさん、私たちいってもよろしいのでしょうか?」
「どうかなあ、今王都を出歩くの控えてたし。伯爵様は外出中で、セバスさんは寝てるだろうしな」
「あら?何かございましたの?」
「ええ、ちょっとエセルマー侯爵様の事で、詳しくはお話ししていいかわからないのですが」
「まあっ、あのエセルマー侯爵ですか?……悪評は聞いていますわね」
「その件で、エドモンダ伯爵様が戻るまで待機していた方がいいかなと思いまして」
「もう私はクランの一員ですわ。様付けも敬語も不要ですわよ」
おお、本当に敬語不要って言ってきた。
ミリアンさすがだな。
「では私も一緒に待ちますので、クランのことを詳しく教えてほしいですわ」
「わかった。説明するね」
クランの目的は、今のうちに話しておこう。
もしマーガレットがそれで加入を拒んだとしても、秘密は守ってくれると思う。
俺はクランを新設した経緯や、目的であるレアスキル修得について説明した。
マーガレットはどのように思っただろうか?
「……これは……私の想像以上に楽しそうですわ!」
「え、そうなの?」
「スキル研究というだけでも、興味がありましたの。まさかチェスリーさんもレアスキルをお持ちとは……」
「え?それって……」
「私もレアスキルを持っていますの。スキル名は【以心伝心】ですわ」
「な……ほんとかい!」
「はい!同じレアスキル持ちとして、ますます楽しみが増えましたわ。これからもよろしくお願いしますわ」
マーガレットもレアスキルを持っていたとは……。
確かに魔力は素晴らしいと思っていた。
マーガレットはシアン系の濃密な魔力をもっていたはずだ。
これでクラン内だけでもレアスキル持ちが3人揃ったことになる。
大変だとは思うが、全て使いこなせれば.、俺の目標に大きく近づくことになるだろう。
次回は「クラン新拠点」でお会いしましょう。




