表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/137

第38話 侯爵包囲網

 ジェロビンは夜遅くに伯爵別邸に現れた。

 ……何やらいいことがあったようだ。

 背筋がぞくぞくするような哂い顔を浮かべている。

 これはやばい、先にトイレに行っておこう。


 すぐに話をしたいとのことで、伯爵別邸の一室に集合した。

 エドモンダ伯爵様、執事のセバスさん、俺、ミリアン、ジェロビン、メアリの6人だ。


 ……何でメアリがいるの!?

 一体いつの間に来たんだ。

 いや、来るまではいいとして、会議に平然と混ざってるんですけど。



 「エセルマー侯爵の弾劾について会議を始める」


 「ちょっとお待ちを!」


 「チェスリーくん、どうしたのかね?」


 「あの……1つだけ確認を」


 「よかろう、話したまえ」


 「メアリがここにいるのは何故でしょう?」


 「弟子が師匠の元に馳せ参じるのは当たり前のことです」


 「いや、メアリに聞いてないからね」


 「メアリくんの所属する『暁の刃』は、エセルマー侯爵の支援を受けていた。その関連で情報提供をしてもらった協力者である」


 「なるほど……」


 「確認が終わったところで進めよう。ジェロビンくん、調査報告を頼む」


 「へい、悪評になってる犯罪奴隷の取り扱いの件でやす。ダンジョンの探索に人柱として使ってるのは本当でやした。その中には死罪以外の満足に働けないものも含まれてやすね。禁止薬物を使って無理矢理探索に同行させていやす」


 「何だって!」


 俺は思わず叫んでしまった。

 奴隷自体は、認められている制度である。

 犯罪を犯した者は、ただ拘留されるだけというわけにはいかず、きつい環境での労働や、女性なら娼館で働かされる場合もある。

 罪に応じた金額を、働いて返せば釈放されるので、最低限の人権は保障されている。

 殺人や集団反逆などで最も重い罪は死罪となり、この場合は人権すらなくなる。


 扱いに困るのが、怪我や病気などで、満足に働くことができない犯罪者だ。

 強制労働もさせられず、かといって死罪にするほどの罪ではない。

 この場合は最低限生きられるだけの治療が施され、少量の食事で、罪に応じた期間の勾留後に釈放される。

 ……拘留中の死亡率は当然高い。


 とはいえ、薬漬けにしてダンジョンの人柱はあまりに非道だ。

 禁止薬物とは、いわゆる麻薬であり、快楽を高める効果とともに痛みを感じなくなり、怪我人や病人も一時的に動けるようになるのだ。

 しかし、麻薬で体が治るわけではないので、薬が切れた後は強烈な苦痛に見舞われる。

 中毒性もあり、薬なしでは生きられない体になってしまう。


 ほぼ死罪と同義になる上に、どうあがいても悲惨な結末しか見えない。



 「今までは侯爵の権限で見て見ぬふりをされていたようでやすね。だが立て続けの失敗に加え、誤算があったようでやす」


 失敗……『暁の刃』のダンジョン攻略失敗のことかな。

 オーガス達が巻き込まれるのは、歓迎できないが。


 「へへっ、『暁の刃』のことなら心配いりやせん。失敗ってのは、侯爵とボルドのせいでやすからね」


 「そうか……少し安心したよ」


 「師匠……なんとお優しい。このメアリ感動いたしました」


 「い、いやあ。せっかく立ち直れるかもしれないところだしね」


 「へへっ、旦那は相変わらずでやす。ここで侯爵を追い詰められたのは、旦那のおかげでやすからね」


 「え?俺はボルドを治療しただけで、返って助けたんじゃないのか?」


 「ボルドの誘拐事件覚えてやすよね。事件の動機はエセルマー侯爵への恨みでやす。捕縛した盗賊から情報が入りやした。護衛で裏切った冒険者の身内に、人柱の犠牲になった人がいたみたいでやす。その他にも、まあ全部侯爵の方が悪いとは言えないのもありやすが、大小恨みがあったみたいでやすね」


 「奴は金貸しもやっていたからな。取り立ては強引だったらしいぞ」、と伯爵様が補足する。


 「ボルドの治療を焦っていたのも、貴族のパーティーやらで縁談を増やし、揉み消しの算段をしていたらしいでやすね。特に旦那に治療の話が来た時は、王族主催のパーティーがあったそうでやす。結局あの事件のせいで間に合いやせんでしたがね」


 「それでアリステラとの結婚も復活させようとしたのか」


 「身内を増やして揉み消したかったのでやしょうね」


 ここで伯爵様が説明を交代した。


 「さらに決め手となったのが、チェスリーくんの治療だ」


 「えっと...ボルドの治療でしょうか?」


 「いや、先日王都で飛び回ってもらった治療の事だ。あのおかげで有力な貴族が、こちらの味方についた。ジェロビンくんの調査結果と合わせれば、もう一歩でエセルマー侯爵を追い詰められる」


 「おお……」


 「それにまだ調査はできていないが、冤罪による犯罪奴隷も相当いるようだ。ボルドが増長しているのも、そういった事が関連してるかもしれんな」


 「ああ……明らかに平民を見下していましたからね」


 救出されるのも治療されるのも、当たり前の様な態度だったからな。

 盗賊に捕まっている間は、ほとんど寝込んでいたようで、暴力は振るわれなかったようだが、起きていたら、酷い目にあっていたかもしれない。

 あの事件がなければ、一緒に居た執事さんやメイドさん、護衛の冒険者たちも死ぬことはなかっただろうに……。


 「他にも余罪はあるだろうが、今はこれで十分だ。確たる証拠を押さえた後、協力してくれる貴族との連名で、国王様に騎士団による捜査を要請する。そこでだ、証拠を押さえる役割を、チェスリーくんにやってもらいたい。禁止薬物の取引を証明するものを押収してほしい」


 「ええ!?」


 「へへっ、事前調査はバッチリ済ませてやす。後は旦那のお力がありゃあ問題ないでやしょう」


 「師匠、不肖このメアリもお供させていただきます」


 「チェスリーさん、私も……」


 ジェロビンとメアリとミリアンか。

 というか、メアリが自然にこの場に溶け込んでいて違和感がなくなってきた。


 「いや、ミリアンは留守番だ」


 「はい……」


 ミリアンは冒険者ではない。

 さすがにこの場面で同行は許可できない。


 「では早速行動を開始してもらう。くれぐれも気を付けてくれたまえ」




 目的は禁止薬物の取引書類、潜入場所は侯爵の屋敷である。

 侯爵邸もかなり大きい建物で、事前調査なしで証拠を探すのは難しかっただろう。

 警備も屋敷の内外合わせると、10人は常時いるとのことだ。



 取引に関わっていた商会は、盗賊団の捕虜から聞き出しており、既に商会関係者の身柄は確保済みだ。

 そこに証拠となるものがあれば、事は簡単だったのだが、さすがに外に残すものは侯爵を示すことがないようにされていた。

 しかし、その商会関係者から侯爵の書類の隠し場所を聞き出すことに成功した。

 取引の際に、書類を保管するところを見ていたようだ。


 侯爵にその事実が知らされる前に証拠を押さえるため、急遽の決行となった。



 「それじゃあ、こいつに着替えてくださいやせ」


 ジェロビンに渡されたのは、上下とも黒色の服と、黒い頭巾だった。

 服を着替えると、目の部分を除いて全身まっくろだ。

 メアリも着替えて戻ってきたが、同じようにまっくろだ。


 「よし、さっさと済ませるぞ。作戦はこんな感じでいけるよな?」


 「へい、メアリさんもお願いしやす」


 「お任せください。あと呼び捨てで結構です」


 「了解でやす」



 書類を隠している金庫は、地下にあるらしい。

 屋敷の地図を入手してあるので、経路はわかっている。

 屋敷への潜入は、俺の転移を使うと簡単だ。


 地下への隠し扉に近い部屋が最初の潜入場所だ。

 その部屋の付近が見える場所に移動する。

 転移陣を書いた紙を、部屋付近にジェロビンが矢で飛ばす。

 そこへ転移で移動し、矢は一応回収した後、ジェロビンが窓を開け中へ入る。


 俺の【察知】で経路上に誰もいないことを確認したら、地下への扉に直行する。

 地下への隠し扉を開けたところで、メアリにダークミストを充満させてもらい、敵の目を暗まし、援軍を足止めしておく。


 地下にいる見張りは1人だけだ。

 俺の【短剣術】は中級レベル、そしてメアリとのコンビなら――。


 「侵入者か!!」


 敵が叫ぶ一呼吸の間に、俺が低い姿勢で駆け込み、同時にメアリがダークカバーの魔法を発動する。

 敵が俺に目を奪われる隙をついて、ダークカバーが着弾する。

 ダークカバーで視界を奪われた敵を、俺が短剣で気絶させて、戦闘は終了だ。


 ここからは時間勝負、ジェロビンが書類の入った金庫を開ける時間を、メアリのダークミストで稼ぐ。

 室内に充満させたダークミストは、視界50センチあるかないかの相当な濃さで、思うように行動できないだろう。

 ダークミストのやっかいな所は、風で吹き飛ばすなどの干渉を受けにくい点にもある。


 ジェロビンが、金庫を開けて書類を見つけたようだ。

 通常なら、ここからの脱出が最も困難だが、伯爵別邸に転移陣を置いてあるので、書類を確保した時点で俺たちの勝ちだ。


 転移で伯爵別邸に戻る。



 伯爵別邸に戻ると、ミリアンを始め、待機していた皆が出迎えてくれた。


 「チェスリーさん!」


 ミリアンが飛び込んで抱きしめてくる。

 恥ずかしいのでやめて~。


 「み、ミリアン落ち着いて。大丈夫だから」


 「……はい。ご無事で何よりです」


 「へっへっ、エドモンダ伯爵様、書類は持ってきやしたぜ」


 「ご苦労。セバス、関係各所への通達を頼む」


 「はっ!お任せください」


 おお、シルビアに連れられて転移していく人もいる。

 これなら、連絡が回るのもすぐだな。


 俺は久々の冒険に疲れを感じていた。

 もう真夜中だが、ゆっくり休ませてもらおう。


次回は「一夜明けて」でお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読み終わりに↓ををクリック!いただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ