第33話 クラン会議と新たな仕事
クラン『暁の刃』での修行も終わり、マクナルへ帰還した。
といっても、修行中も度々マクナルへは帰還していた。
魔班病治療師たちの面倒を見る必要があったからだ。
今回治療師として採用された7人は、全員が魔班病治療ができるようになった。
最初のうちは、7人だけで分担して治療を行うことになるが、既に教会のお偉いさんに話をしているらしく、魔力視の魔道具及び治療方法の提供をすることになっている。
問題は、白と黒の魔力を正確に見極められるのが、俺だけという点だった。
しかし、白と黒の魔力制御がある程度できれば、治療は可能である。
治療時間は多少伸びるが、許容できる範囲なので、問題ないとのこと。
順調に技術提供が進めば、魔班病の治療は誰でも気軽に受けられるようになるだろう。
『暁の刃』とは、また再会を約束した。
メアリが当たり前のように、俺について来ようとしたのには参ったが、みんなに突っ込みを食らっておとなしくなった。
オーガスが本気で移籍を考えようかとか言ってたが、それは申し訳ないので断った。
メアリは貴重な戦力なので、簡単に引き抜くわけにはいかない。
……あのメアリの表情を見ると、ちょっと可哀そうだったけど。
今度はお土産でも持って遊びにこよう。
スキル修得が一区切りついたので、次の方針を決めるためにクラン会議を行うことになった。
出席者は、エドモンダ伯爵様、俺、ヴェロニア、ミリアン、ジェロビン、レフレオンだ。
いつの間にかレフレオンがクラン入りすることが決まっていた。
まあ、レフレオンなら断る理由はないけどね。
「それでは第5回クラン会議を始める」
「あれ?また1回飛んでますけど」
「あんたがいない間にやったに決まってるじゃない。前回で学んだでしょ?」
「うん、わかってても、こう……割り切れない気分で、一応聞いておこうとね」
「じゃ納得したわね。ちなみに前回でレフレオンは加入が決まったから。さあ続けましょ」
ヴェロニアのいつもの物言いに、俺の割り切れない気分はあっさり流された。
「おう、相変わらずおもしれえなお前ら。ガッハッハ!」
レフレオンは何でクランに入ったんだろ。
何かクランでやりたいことでもあったのかな?
誘うには酒と食い物で釣れば入れ食い間違いないしな。
「最初の議題は、クラン『暁の刃』の修行結果だ。ミリアンくん報告を頼む」
「はい、スキル修得結果は上々です。チェスリーさんは【察知】初級、【嗅覚】初級、【剣術】上級、【短剣術】中級、【槍術】中級、【格闘】初級を修得されています。私は【火魔法】上級、【闇魔法】中級、【風魔法】初級、【短剣術】初級、【弓術】初級を修得できました」
ミリアンは最初風魔法が使えなかったのだが、闇魔法を覚えた後、風魔法も使えるようになった。
属性の魔法って学ぶ順番によっても修得しやすさが違うのだろうか。
もし機会があれば試してみよう。
「結構、よい結果だ。チェスリーくんはともかく、ミリアンくんの才能も素晴らしい。これほどの成果があがるとは想定外だな」
ともかくって……。
まあ【百錬自得】があるから、スキル修得の才能が認められていると考えよう。
「次はクランの新メンバーの話だ。わしから候補を発表する。候補は――」
エドモンダ伯爵様の挙げた候補者は以下の通り。
ブラハード子爵の娘 アリステラ
プリエルサ公爵の娘 マーガレット
マルコット男爵の娘 スーザン
トバイルズ子爵の娘 アメリア
リンノル侯爵の息子 ライオット
ええええ?公爵様や侯爵様のお子様も入ってるんですが!
そりゃ子爵様や男爵様でも十分に平民の俺からしてみたら身分違いだけど。
しかもアリステラが入ってるし、マーガレット様はどちらかと言えば、拒否されてたような。
マーティン、アメリア、ライオットは、王都周辺の町で魔班病を治療した人たちだ。
ミリアンの調査資料を元に話し合った結果で候補が絞られたらしい。
これから交渉なので、本当にクランに加入するかどうかはわからない。
しかし……もし参加が決まったら、こんな貴族だらけの豪華なクラン聞いたことないぞ。
女性率が高いので、ライオット様には加入してほしい……いやいや、侯爵様の息子だから、余計に気を使うことになるかも。
「次はジェロビンくんの話だな。正式にクランに加入する」
「おお、ジェロビン正式加入か」
「へっへ、場が整いやしたからね。あっしもここで頑張らせてもらいやす」
「ふうん?何か状況に変化があったのかい?」
「また話す機会もありやしょう。簡単に言えば、ちょいとやっかいな所と縁切りができたってことでやす」
「なにそれ、ちょっと怖い」
「ごほんっ、その話はここでは遠慮してもらおう。では次の議題は、新たなスキルについてだ。ジェロビンくん頼む」
「へい、チェスリーの旦那がお待ちかねのレアスキル持ちが見つかりやしたぜ」
「おお!見つかったのか!」
「ただし……レアスキルをまだ使えていないでやす。旦那の時もそうでやしたが、長年使えないレアスキルはハズレ扱いで、情報も入手しやすかったでやす」
「あぁ……痛いほどよくわかる」
「旦那のように、長年諦めない人はそれほど多くないでやす。今レアスキルを使いこなしている人のところへの潜入は、まだ準備不足でやすね。そこで旦那のお力でレアスキルを解明していただけやせんか?」
「えぇ……自分のレアスキルでも手一杯というか、完全に解明できたわけじゃないんだけど」
「へっへ、それでも旦那は大したことをしてるじゃないでやすか。ま、旦那なら話を聞けばやってくれると思いやすがね」
「おいおい、ジェロビン。俺はレアスキルを修得したいのであって、手助けしたいわけじゃないぞ」
「……スキル名は【暗中飛躍】。意味は”人に気づかれないように、ひそかに活動すること”らしいでやす。士爵の息子さんでやすが、親は爵位からわかるように騎士でやす。酷い頑固者のようで、騎士の家にありながら、諜報のようなスキルが気に入らず、虐待されていやした」
「……ほう」
「先日息子が士爵に逆らったことで、ついに勘当されやした。情報を掴んだあっしは、途方にくれていた息子さんを連れてきて、伯爵様に頼んで保護してもらってやす。いかがでやすか?」
「やるに決まってるじゃないか。早く紹介してくれ」
「へっへっ、では会議の後にでもすぐに」
俺は周りのサポートもあって、長年諦めずにやってこれたんだ。
せっかくレアスキルを持っているのに、そんな最悪な環境と知ったからには……。
以前の俺ならともかく、今はクランの仲間や伯爵様もいるんだ。
手助けできる環境があるなら、放っておけるわけがない。
「ではその件はチェスリーくんに任せる。次も頼みたいことだ。レフレオンくん、話したまえ」
「おう、チェスリー。お前変わったスキルを覚えたんだってな。そいつを俺に教えてくれや」
「ん?どのスキルだい?」
「【嗅覚】だな。そいつを俺に教えろ。そのためにクランに入ってやったんだからな」
「え?そのために入ったのか」
「まあ、お前さんの秘密を知ってるからってものあるがな。おれは魔法がてんでダメだからよ。新しい技能が増えるチャンスなら、やってみてえのよ」
「うーん、教えるのはいいけど、俺も見て覚えただけだから、ちゃんと教えられるかはわからないぞ?」
「ああ、やって無理ならあきらめるぜ。だが、やれそうな気もするんでな」
「士爵の息子はグレイスくん16歳だ。チェスリーくんは目途がつくまでグレイスくんのレアスキル解明と、レフレオンくんのスキル指導を行ってくれ」
「わかりました」
「次はヴェロニアくん、魔道具の開発状況を報告してくれ」
「魔力視の頭巾に変わる、チェスリー用に軽量化した魔道具の設計は終わったわ。ただイビルアイの瞳の代替になる素材が見つからないので保留中よ。治療用のほうは、ジェラリーにお任せしているわ。そこで新たに魔力視防止の魔道具を作成中よ」
「魔力視防止?何に使うんだそれ?」
「主に誰かさんの覗き防止用ね」
「おい、それ俺の事限定にしか聞こえないのだが」
「いやいや、あくまでも、魔力視の魔道具が広まった時の対策だから」
「ふーん。本音は?」
「これから人も増えるんだし、あんたに誰彼かまわず覗かれたら嫌でしょうが」
「やっぱりそうじゃねーか!」
「まあまあ、チェスリーくん。これは私からも依頼したことだ。決してローズリーの体をじっくり見られたことを恨みに思っているわけじゃないからな」
伯爵様の目がかなりマジでした。
これは引き下がらざるを得ない。
「以上で議題は終わりだが、何か意見のあるものはいるか?」
「あ、私から一つ。聖魔法の上級を見てみたいのですが、教会に依頼することはできないでしょうか?」
「チェスリーくんは、既に上級相当の回復魔法を使えるのではないかね?」
「中級のハイヒールを視たときに、私の治療の魔法とは少し違っていたので、本当の上級を見てみたいのです」
「ふ~む、そうか。教会には魔班病治療で伝手があるので、話をしておこう」
「よろしくお願いします」
やった、これで正式な治療の魔法が視られる。
治療関連で綱渡りはもうやりたくないんだよな……。
「あっしからもお願いでやす。しばらく王都で情報収集しやすので、送ってほしいでやす」
「わかった、シルビアに依頼しておこう」
ほう、ジェロビンは王都にいくのか。
俺が王都に行って何か調べようと思っていても、全然できなかったからな。
ジェロビンが行ってくれるなら任せた方がいい。
グレイスが今どんな心境かも気になる。
レアスキルを解明することができればいいのだが、やってみないとわからないな。
次回は「グレイスの決意」でお会いしましょう。




