第31話 魔班病治療師の壁
魔班病治療の教育をする場が設けられた。
なんと患者も用意されている。
患者は目隠しと耳栓をされているようだが……。
無料で治療する代わり、口外しないことと、臨床試験を了承したらしい。
人体実験きちゃったこれ。
とはいえ、既に治療実績のある俺がいて、最終的には治せばいいから、それほど非道でもないのかな……。
教育するのは、闇魔法使い3人、光魔法使い3人、闇光両方使える魔法使いが1人だ。
安価で作成できる魔力視の眼鏡は、完成したものが2個だけある。
最初に俺が眼鏡を掛けてみる。
うむ、多少耳にかけるところが重いが、耐えられないほどではない。
肝心の魔力の流れは……ちゃんと見えるが、色は俺でも見えないようだ。
他の人はこういう風に見えていたのかと、今更わかった。
これなら体の線も見えないから、見えるのは俺だけ。
はっはっはっ、役得役得……とは決して口に出してはいけないだろう。
さて肝心の滞留は、この魔道具でも確認できるのだろうか……。
問題ないようだ、原因となる滞留個所はちゃんとわかる。
魔力の濃密さがわかりにくいから、魔力量が多いかどうかは判別しにくいな。
やはり高価な素材は、高価なりの価値があるってことだな。
魔力視の眼鏡を順番にかけてもらい、患者の滞留の見つけ方を教える。
魔力の流れが視えれば、それほど難しいことはない。
正常な魔力は循環しているので、循環から外れている箇所は意外と目立つのだ。
後は正しい魔力制御を覚えるのみだな。
俺は魔力視の頭巾を被り、正しい魔力色が作られているか確認する。
……あれ?
闇魔法使いでも、同じ黒色ではないんだな。
黒っぽい色だが、少し赤が混在していたり、薄い色だったりと原色の黒ではないようだ。
光魔法使いも同じだ。
白っぽいが、やはり他の色が多少混ざっていたりと原色とは異なる。
闇・光が両方使える魔法使いは……おお!他の人より原色に近い。
へえ、2属性使える人のほうが器用ってことなのかな。
俺が魔力色を調整するのは感覚的にやっていたけど、要は魔力制御なのだ。
魔法制御を教えるには、やはり教えたい魔力の流れを、教えたい人に流すのがわかりやすい。
効率よく教えるため、7人に1回づつ魔力を流して、それを何回か繰り返すことにした。
黒、黒、黒、白、白、白、白黒で1セットだ。
……30分経過。
イマイチ上手くいかない。
みんな元々自分の持つ色の魔力は流せるのだが、色を変えるというイメージが掴めないらしい。
……1時間経過。
光・闇を両方使える人が魔力色の調整をでき始めたようだ。
どちらか片方の人たちも少しだけ、魔力色が変化しているようなしていないような。
……2時間経過。
光・闇を両方使える人は魔力色の調整が完璧にできたようだ。
どちらか片方の人たちは、まだ上手くいっていない。
これ以上患者を待たせるのは、さすがに申し訳ない気がしたので、できた人から治療を試すことにした。
名前はサンディ、女性で17歳、エドモンダ伯爵様が経営する商会で働いていた。
ごく普通に売り子をしていたのだが、今回の件で適性を見込まれ、治療師見習いに抜擢された。
所持スキルは【光魔法】で、闇魔法は今回集まったメンバーに魔力を流して教えてもらうと、使えるようになったそうだ。
「サンディさんの魔力制御なら、問題ないようですね。実際に患者を治療してみましょう」
「はぁい。やってみますねぇ」
サンディが魔力視の眼鏡をかけ、滞留個所に手を触れ、修得した黒・白の魔力を押し付けるように流していく。
うーむ……まだ慣れていないせいか、なかなか滞留が治らない。
「サンディさん、魔力色を交互にするのはゆっくりでいいので、もっと黒と白の魔力色を意識して明確に分けましょう」
「は、はいぃ」
よしいいぞ、魔力色を明確に分けたほうが魔力の滞留を押す力が強い。
交互にするのがゆっくりなので、時間はかかりそうだが、俺の最初の治療方法よりは、速く終わるだろう。
……1時間経過。
「先生ぇ、これで治ったでしょうかぁ?」
「うん、大丈夫だ。治療できたね」
「……やったぁ!」
俺以外では、初の魔班病治療の成功だ。
この一歩は非常に大きい。
後はその他の人だが……最初は少し上手くいっているように見えたのだが、どうも贔屓目に見ていたようだ。
2時間練習した後も、ほとんど魔力色の制御ができていない。
う~ん……ちょっとやり方を変えよう。
1属性しか使えない人に、魔力制御だけ覚えさせようとしてもダメなのかもしれない。
光魔法使いの人には、初級黒魔法ダークミストの魔力を流す。
黒魔法使いの人には、初級光魔法ライトの魔力を流す。
各自で使えなかったほうの属性の魔法を練習してもらうことにし、俺は休憩することにした。
事務所に戻ると、ミリアンが出迎えてくれた。
「チェスリーさん、お疲れ様です」
「うん。ただいま」
「どうでしたか、治療の教育は?」
「1人だけ、サンディっていう人が治療できるようになった。しかし、他の人はまだできてないんだ」
「そうでしたか。サンディさんだけ何か違うのでしょうか?」
「彼女だけ光と闇両方の魔法が最初から使えたんだ。他の人は片方だけで、2時間練習しても変わらなかった。今は使えなかった方の魔法を、それぞれで練習してもらっている」
「なるほど……誰でも簡単にとはいかないですね」
「ああ、俺が意外にも器用だったんだな」
「ふふっ、でも2時間の練習で結論を出すのは早すぎではないですか?」
「少しでも上手くいっていれば続けるが、全く変化がないとね……」
「私の治療の時はどうだったのですか?6時間……その……私のお腹に触れてましたよね」
「ごほっ!い、いやあの時は……いい感触、じゃなくて!僅かだけど滞留が変化していってたんだ」
「ふふっ、いい感触でよかったです」
「いや、そっちじゃなくて」
「冗談です。そうでしたか、チェスリーさんは変化しているかどうかも細かく分かるのですね」
「ああ、魔班病治療の経験は、いろいろ役に立っている」
あ……待てよ。
俺がやっていた最初の治療法と新治療方法……。
無理に魔力色を変更できるようにする必要は本当にあるのかな?
これも思い込みになるのでは……。
俺は魔班病の治療について、もう一度整理しなおすことにした。
初期の治療は、患者の魔力色に合わせて、魔力の流れを教えて、自己で制御してもらっていた。
患者の意識がなく、自己で制御できない場合は、何とか魔力に干渉する方法を考えて、塗り潰すことをイメージした、白と黒の魔力を使うことで干渉することができた。
そうか……黒と白で上手くいったが、その他の色で干渉できないと決まったわけでなかったな……。
それなら、現在の闇魔法使い、光魔法使いの魔力色でも、治療することは可能かもしれない。
干渉できるかどうかを試してみればいいのだ。
上手くいくと、それだけが確定事項みたいに扱うのは、悪い癖だな……。
たまたま失敗せず治療ができていることで、真実を知った気になるのは早すぎた。
もし正解が一つだけしかなかったら、アリステラの時に上手くいったことは奇跡だろう。
「ミリアン、ありがとう。おかげで考えが整理できた」
「え?ええ」
一瞬唖然としたミリアンを残して、練習しているであろう魔法使い達のところへ戻る。
上手くいけば全員を治療師にすることができる。
すると想定外の事がおきていた。
なんと全員が今まで使えなかったほうの属性の魔法を使えるようになっていたのだ。
伯爵様の採用の基準が素晴らしかったのか、たまたま素質のあるものばかりが揃ったのか。
……できるようになったのであれば、今までの方法でいいな。
せっかくの気付きだったが、いい意味で無駄になった。
魔力色の制御は既に教えているので、引き続き練習してもらう。
教育した全員が魔力色の制御ができるようになった。
俺が最終確認をして問題なければ、全員が治療師として働けるようになる。
……ふふふ、これで俺は楽になる。
ヴェロニアシールドに続き、魔班病治療シールドも手に入るわけだな。
「先生が悪い顔してるぅ」
「何を言っているのかね、サンディさん。俺は魔班病になったとしても、誰もが治療できるようになるかもしれないと喜んでいるのだよ」
「ふう~ん。先生はぁ、とってもわかりやすいって聞いていたのでぇ、気づいたら指摘してあげないって言ってましたよぉ」
「……ちなみに誰に言われたのかね?」
「ヴェロニアさんですぅ。魔道具の説明の時に、いっしょに教えてもらいましたぁ」
あのやろう、何てことを初対面の人に教えてるんだ。
変な先入観があったら、そういう人だとしか思われないじゃないか。
お返しにヴェロニアが魔道具実験の失敗で、全身黒い煤まみれになった話でもばらして――。
「チェスリー、調子はどう?魔道具ちゃんと使えてる?」
「うわ!」
「なによ?またどうせおかしなことでも考えてたんでしょ」
「……いや別に。ま、魔道具ならちゃんと使えてるから」
「……ほう、なるほどね。それじゃ、サンディ後宜しくね」
「はーい」
ヴェロニアは部屋から出て行った。
いったい、いつの間に居たんだ……。
「あの~先生ぃ、もう一度指導してもらえないでしょうかぁ」
「ん?サンディはもう制御できるようになっているじゃないか」
「あまり自信が持てなくてぇ、先生に魔力流してもらってちゃんと確かめたいんですぅ」
「そうか、わかった」
サンディの手を取り、魔力を流していく。
「ん……んふぅ」
何で変な声出してるのこの子。
いけないことしてる気分になるんだけど。
「先生、ありがとうございましたぁ。暖かくて気持ち良かったですぅ」
「俺の魔力を暖房代わりに使わないで」
その後、他の魔法使い達からも、もう一度魔力を流してほしいと言われ、順番に流していった。
やはり仄かに暖かいらしい。
別に特別なことはしていないし、自分では温かみなんて感じた事ないんだけどな。
とにかく、これで魔班病の治療体制は整った。
俺は当初の目的である、スキル修得に向けての活動を本格的に開始することができる。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
2章はこれで終わり、次話から3章になります。
次回は「スキル修得開始」でお会いしましょう。




