第29話 治療の魔法を見極めろ
オーガスが所属するクランは、中級に認定されている。
クランは、それぞれの目的のために作るグループで、特に制限は設けられておらず、作るのは自由だ。
ただし、クランとして何らかの援助や支援金を得るには、功績をあげ認められる必要がある。
中級クラン以上は、既に功績をあげ、支援を得たクランということになる。
中級になることで、冒険者ギルドからも正式にクランとして認められる。
俺たちのクランは、伯爵の援助は受けているが、まだ功績は何もあげていないため、冒険者ギルドからはクランと認識されていないわけだ。
ちなみに冒険者に階級はない。
個人の能力を把握することの利便性はあるが、それを管理する能力は冒険者ギルドにない。
どこか一部のギルドで管理したとしても、他ギルドとの連携や情報の更新も大変すぎるので、今の仕組みでは無理があるのだ。。
情報の管理や伝達が、書類でしかできないためである。
オーガスのクラン『暁の刃』は、ダンジョン攻略を専門にしている。
構成メンバーは約70人。
中規模ダンジョン攻略の功績を認められ中級クランに昇格し、いくつかの貴族から支援を受けているらしい。
先日のエセルマー侯爵の捜索隊も、その縁で駆り出されたようだ。
王都近辺のダンジョンは既に攻略済みのものが多いが、それでも未攻略のダンジョンは残っている。
誘拐事件が解決した後に聞いた話では、中規模と思われるダンジョンを攻略中とのことだった。
クラン『暁の刃』の事務所に到着した。
さて、オーガスはいるだろうか。
事務所の扉を叩くと、男性が応対に出てきてくれた。
「私はチェスリーと申します。オーガスさんを訪ねてきましたが、いらっしゃいますか」
「ああっ、チェスリーさんじゃないですか!リーダーは今ダンジョンに出かけていまして、キャシーさんを呼んできますね」
捜索隊のメンバーだった……かな。
残念ながら、そこまで人覚えがいいほうではないので、彼の名前と顔は覚えていなかった。
しばらくすると、キャシーが姿を見せてくれた。
「チェスリーさん、また会えて嬉しいわ!メアリならいるわ……よ。……えっと、その後ろにいる女性はどなたかしら?」
「ミリアンと申します。チェスリーさんの助手をしています」
「キャシーです。……これは手強そうね。さあさ、お入りください。お茶をお入れします」
「あ、ああ」
「あの……メアリさんと言うのは?」
「会えばわかるよ。行こう」
事務所内の応接室に案内され待っていると、キャシーがメアリを連れて現れた。
「師匠、お久しぶりでございます」
「メアリさん、お久しぶり」
「ミリアンと申します、初めまして」
「メアリです。師匠にはお世話になりました」
そして楽しい会話が、はじ……え?またこのパターンきちゃうの?
「そうですか、これからよろしくお願いしますね」
ほっ、またあの展開にならなくてよかった。
安心していると、ミリアンがそっと耳打ちしてきた。
「彼女とは、まだ目で語るべきではございません」
「何なのその見切り。何の基準かさっぱりなんだけど」
ともかく、キャシーとメアリに、前回別れてからの話を聞くことにした。
「メアリはあれからも頑張ってるのよ~。闇魔法の使い方をいろいろ考えててね」
「師匠に教わった相手の視覚を奪うこと。有効に使える局面が多いです。ダークカバーという魔法を使えるようになりました」
「そう!あれ便利よね。相手の顔や目に貼り付いてなかなか取れないの。気配察知が敏感な魔物じゃなければ、大抵混乱しているうちにやっつけられるわ!」
「へえ、それは便利そうだな」
闇魔法の特性は、ダークミストをはじめ、相手の妨害に特化したものが多い。
相手の体力や魔力を奪う魔法もあるが、相手に触れる必要があるため、魔法使いの敏捷性や体力では、なかなか有効に使う場面がない。
火や水のように、球や槍にして飛ばすこともできるが、他属性より威力がかなり低い。
ダークカバーは、ダークウォールの応用で、壁状の闇を相手に飛ばして粘り付く性質を持たせているらしい。
魔法の速度が遅いため、素早い魔物には当てにくいそうだが、図体がでかい奴や、群れを成す敵に有効とのことだ。
その後も魔法の工夫などで、ダンジョン攻略が進むようになったとか、全体の連携が強化されたなどの話が続いていく。
その時、応接室の扉が激しい勢いで開き、1人の男が飛び込んできた。
「キャシーさん、大変です!!リーダーが大怪我を負っています!」
「なんですって!すぐ行きます」
キャシーはすぐさま部屋を出て行った。
メアリも後に続き、キャシーについていったようだ。
俺もミリアンを連れて、様子を見にいくことにした。
扉の周りを、クランのメンバー達が取り囲んでいる。
部屋の中では、オーガスの治療が行われているようだ。
しばらくして、キャシーが扉から出てきた。
少しだけ部屋の中が見えたが、治療の魔法を女性がかけ続けているようだ。
表情が暗い。
治療が上手くいっていないのだろうか。
キャシーがこちらに気付いたようで、声をかけてきた。
「ごめんなさい、せっかく訪ねてくれたのに。オーガスの容態が、あまり良くないの。……あっ、チェスリーさん、確か治療師……。お願い!オーガスのことを診ていただけないでしょうか!突然のことで申し訳ありませんが……どうか……どうかお願いします!」
キャシーが泣きながら、俺の手を取って、診察を懇願する。
誘拐事件で捜索隊に加えられたとき、確かに俺は治療師として参加した。
しかし……俺は魔斑病しか治療したことがないのだ。
6属性(火・風・土・水・光・闇)の魔法は使える。
だが、治療の魔法は聖魔法に含まれるもので、聖魔法は修練したことがなく、今の俺には使えない。
聖魔法は特殊な属性と言われており、レアスキルではないが、教会が独占しており今まで学ぶ機会がなかったのだ。
魔斑病しか治療できないことを伝えるのは簡単だ。
現在できないのだから、納得してくれるかもしれない。
でも俺にはできる事がある……俺には【百錬自得】が、様々な可能性を見せてくれた魔力視の頭巾があるのだ。
人命を前に何もせずに迷ってる暇はない。
そっとミリアンの肩を抱き、静かな声で話しかける。
「ミリアン、俺はオーガスのことを助けたい。力になれるかはわからないが、魔力視の頭巾と【百錬自得】を使い、治療を試したいと思う」
「チェスリーさん……わかりました。後の事は私も責任を持ちます。頑張ってください」
「ありがとう、迷惑をかける」
キャシーに診察することを伝え、オーガスの寝ている部屋の中へいれてもらう。
……これは酷い……打撲の跡があちこちにあり、包帯がまかれているが、血の滲みが広がっていくのがわかる。
恐らく骨折もしているだろう。
呼吸も弱く、顔も血の気が引いている。
聖魔法使いの女性が治療の魔法をかけ続けているが、あまり効果がでていないようだ。
俺は魔力視の頭巾を被り、オーガスの魔力の流れを確認する。
そうか……酷い怪我の時はこんなにも魔力の流れも乱れるのか。
魔力の状態は、魔力視の頭巾を使い始めてから、いくつもの例を見ている。
その中でもこれは……そうだ、瀕死だったアリステラの時に少し似ている。
だが、魔斑病が原因ではないので、滞留はどこにも見られない。
治療の魔法をかける女性も視る。
……これが治療の魔法の魔力色か。
確かに特殊と言われるわけだ。
他属性の魔法が1色だけ使うのに対し、治療の魔法は、薄めの青、薄めの緑と、色が交互に流れている。
小さい傷には効いているようだが、大きい傷には効果があまりないように見える。
……何か……治療するために必要な何かを考えられないか……。
再度、小さい傷と大きい傷の周りにある魔力をよく観察してみる。
傷に沿うように、魔力の流れが捻じ曲げられている……。
……ん?
小さい傷の周りの魔力が、傷を塞ぐように押し込んでいるように見える。
大きい傷は……魔力の押し込む力が弱いから、塞がらないのではないか?
再度、治療の魔力の流れをよく観察してみる。
手で直接触れたところは、魔力の流れが一瞬速くなっている。
これで魔力に押す力を与えているのだとしたら……。
先ず、通常の治療の魔法を試そう。
薄めの青、薄めの緑の魔力色を交互に作り流していく。
この魔力を交互に流す一連の方法は、魔斑病の新治療方法で慣れている。
治療の魔法自体は上手くいっているが、やはり大きな傷に効果がない。
流す魔力色を増やす?または変えてみる?
……変えるとしたら、何色がいいのだろう。
……黒と白!?
滞留した魔力を押し出し、正常な魔力に戻すための方法……一番有効だったのは白と黒だ。
これを治療の魔法と同様に押し出す方向に流せば……。
また強引な推測に頼ることになりそうだ。
レアスキルを与えられた時から、ずっと俺は推測に悩まされ、そして外し続けてきた。
確かにアリステラの時は上手くいった。
違いは何だろう?
魔力の流れを視て、推測にある程度の根拠をもったことか……。
……ああ!!
アリステラだよ!
あの時アリステラは瀕死の状態だった。
魔斑病を治療した後のアリステラは、驚くほど早く回復していた。
これは魔力の滞留を治しただけでなく、魔力を押し出すことで治療の効果を発揮していたのではないか!?
そう考えると、アリステラの食欲や体調がすぐに戻ったのも納得がいく。
俺はオーガスに黒と白の魔力を交互に流す方法を実行した。
最初に変化があったのは、包帯に滲む血の量で、段々と広がらなくなっていった。
次の変化は、今まで塞がらなかった傷が、徐々に塞がり始めたことだ。
どれほど時間が経過しただろうか。
魔力の制御に集中しすぎて、時間がどれほど経過したのかわからない。
ただただ集中し、オーガスに魔力を流し続ける。
そして決定的な変化が訪れた。
オーガスが意識を取り戻し、目を開けたのだ。
「う……あ……きゃ……キャシー」
「オーガス!!」
キャシーがオーガスの手を取り、泣きながらオーガスの名前を叫ぶ。
傷は塞がり、ある程度体力も戻った感じはあるが、傷痕は残っているようだ。
本物の聖魔法の上級が使えていれば、傷すら残らないず治るのだろうか。
俺の使った魔法は、治療効果は確かにあったようだが、いったい何なのだろう。
魔力視の頭巾で視る限りは、オーガスの魔力の流れに問題は見られない。
ふう……くたくたになったが、上手くいってよかった……。
この場に治療の魔法を使える人がいて、本当に助かった。
治療魔法を見なければ、魔斑病の新治療法に似ていることにすら、気がつかなかっただろう。
「チェス……りぃ……さん、本当に……ありが..とう」
キャシーさんに抱き着かれて、俺はどうにか逃れようと、わたわたしているが誰も助けてくれない。
しょうがない、甘んじて受けることにしよう。
う……ミリアンがちょっと睨んでる。
だったら助けてくれてもいいと思うんだけど。
次回は「お人よしの意味」でお会いしましょう。




