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第27話 孤児院訪問

 ブラハード子爵様を訪問する。

 対応に出てきた執事さんが、俺の顔を覚えていたようで、子爵様に取り次いでくれた。

 アリステラ様もご在宅のようだ。


 「チェスリーくん、よく来てくれた。こんなに早く再会できるとは思わなかった」


 「ブラハード子爵様、お久しぶりです。王都での治療依頼がありまして、時間がとれました。せっかくですので、ご挨拶に伺いました」


 「約束を覚えていてくれてありがとう。娘も喜ぶだろう。早速会ってやってくれるかね」


 「はい、伺いましょう」


 子爵様に案内され、アリステラの部屋に案内してもらう。

 前回治療に来た時とは、違う部屋のようだ。

 あれ?違う部屋というか建物も違うんだけど。


 案内された先は、倉庫のような建物だった。


 「アリステラ、チェスリーさんがいらしてくれたぞ!」


 大きめの声でアリステラを呼ぶブラハード子爵様。

 しばらくすると、倉庫の扉があき、アリステラが顔を出した。


 「ああっ!チェスリー様!!お久しゅうございますーーーーー」


 どふっ!

 強烈なタックルに2,3歩後退させられるが、何とか受け切った。

 しかしまだ腕をきゅっと腰に回され締め付けてくる……この鯖折りに耐えねばならない。

 肩を掴んで引き離そうとするが、くうっ、凄い力だ。


 「アリステラやめなさい!チェスリーくんを締め落とす気かね!」


 「はっ、ごめんなさい。チェスリー様」


 解放された俺は、大きく深呼吸をした後、ようやくアリステラに返事をする。


 「や……やあ、お久しぶりアリステラさん」


 「す……すみません。はしたない真似をしてしまいましたわ……ホホホ」


 落ち着いたアリステラと共に、中庭に移動しする。

 野外でお茶ができるように、丸テーブルと椅子が置いてあった。


 メイドさんにお茶とお茶うけを用意してもらい、4人で円状に座る。


 「チェスリー様、お連れの方はどちら様でしょう?」


 「彼女は、ミリアン。私の助手をしてもらっています」


 「ミリアンです。初めまして、ブラハード子爵様、アリステラ様」


 そして会話がはじま……らない。

 ミリアンとアリステラが見つめ合ったまま、停止している。

 え?またこのパターンなの?


 「ちぇ、チェスリーくん。これはいったい何がおこっているのかね」


 「ブラハード様、私もよくわからないのですが、この状態になると話かけてはならないそうです」


 「そ、そうなのかね?ただ止まっているようにしか見えないのだが」


 「よくご覧ください。目の動きを」


 「…….おお。これは……」


 しばらく子爵様と共に、無言でお茶を飲む。

 何となく雰囲気が和らいだ感じがすると、女性二人が動き始めた。


 「アリステラ様、今後もよろしくお願い申し上げます」


 「ミリアンさんとお友達になりましたわ!」


 俺は2回目なので多少の慣れがあったが、ブラハード子爵様は目を見開いて驚きを隠せない。

 いや、俺も全く理解できてないのだが、こういう現象だと思うしかない。


 「そ、そうか……よかったなアリステラ」


 「はいっ!」


 ブラハード子爵様も、よくぞここで話を合わせたものだ。

 俺の中で子爵様の評価が大幅に上がった。


 「チェスリー様に病気を治していただいてから、すっごく調子が良くて。今も倉庫でお人形を作っていましたの」


 「それはいいですね。前に作っていただいたルナも、大切にしていますよ」


 収納魔法で保管していた、ネコ人形のルナを取り出す。


 「まあ、持ち歩いてくださっているとは嬉しいですわ!収納魔法もお使いになれますのね」


 「ええ、修練したら使えるようになりまして、大切な物をいれるようにしています」


 「大切な……えへへっ、ありがとうございます。あっ、今作っているものもご覧いただけますか?」


 「はい、是非」


 倉庫に戻り、中を見せてもらうことになった。

 割と広めの倉庫の中は、様々な動物の人形があり、特に目を引くのが、中央にそびえたつ、10メートル級のクマ人形だ。

 サイズは大きいが、その容姿はデフォルメされており、非常に愛くるしい見た目になっている。


 「おおお……これは凄いですね」


 「えへへっ、頑張りましたわ」


 「しかし、こんなにお人形を作ってどうするのですか?」


 「う~~ん、作るのが楽しすぎて、後のことはあまり考えてなかったわ!」


 「ええ……そ、そうでしたか」


 「あっ、でもね、小さいお人形は孤児院に持っていって、欲しい子がいたらあげようと思ってるの」


 俺はその言葉を聞いて感動していた。

 つい先日まで病気で苦しみ、命が危ない状態だったのに、もう人のためことを考えられるなんて……。


 「それなら協力させてほしいです。ミリアンいいよね?」


 「ええ、もちろんです。この辺りのものが持ち運ぶものでしょうか?」


 「はい!そうです」


 ミリアンが収納魔法で人形を収納していく。

 ミリアンの魔法を見るのは初めてだが、聞いていた通りに凄い収納だ。

 人形が消えるかのごとく、どんどん収納されていく。


 「わああ、ミリアンさん素晴らしい収納魔法ですね!」


 「ふふっ、ありがとうございます。この大きいクマさんはどうしましょうか?」


 「あっ、えーと作ってから外に出す方法がないのに気づいてしまって……」


 「大丈夫ですよ。ほら」


 ミリアンが大きなクマに触れると、一瞬で収納されてしまった。

 ここまで規格外の収納とは……知らなかったな。

 これにはさすがのアリステラも、しばし茫然としていた。


 「……はっ、ミリアン姉さま……。よろしければ今から孤児院の訪問をお手伝いしていただいてもいいでしょうか?」


 「ね、姉さま?は、はい。チェスリーさん、よろしいでしょうか?」


 「うん。まだ時間もあるし、いっしょに行こう」


 ブラハード子爵様にも了承いただき、執事さんが同行してくれることになった。



 アルパスカ王都には大きめの孤児院が2か所あるようだ。

 小さいものはもっとあるらしいが、個人で運営しているところも珍しくなく、全容を知る者はいないと思われる。

 孤児院の経営は、決して豊かなものではなく、大きなところは国や教会から補助金が支給されるが、善意の寄付がなければ資金は不足しがちらしい。

 生きていくために必要なもの以外を購入する余裕はないと思われるので、人形は喜ばれることだろう。


 大きめの孤児院の一つを訪問し、人形を寄付したいと話をすると、とても喜んでくれた。

 ミリアンが人形を取り出すと、一斉に子供たちが群がってきた。

 人形は予想以上に大人気のようだ。

 アリステラも自分の人形の人気にご満悦な様子だ。


 こんなのもあるよと、ミリアンがクマ(10メートル級)を庭に置いてみたら、さすがに少し驚いたようだ。

 しかし子供たちはすぐに順応し、クマに群がってはしゃいでいた。


 クマを置きっぱなしにはできないので、ミリアンに片づけてもらったら、子供たちが泣き始めてしまった。


 「ミリアン……やっぱり見て気にいっちゃったら欲しくなるよなあ」


 「そうですね……迂闊な真似をしてしまい、すみません」


 「もし欲しいなら、これも寄付してかまいませんわ。邪魔になれば、私が粘土に戻しますわ」


 二人して困っていると、アリステラがフォローしてくれた。

 孤児院の院長さんも、申し訳なさそうな顔をしていたが、クマをいただきたいということだ。


 「せっかくだし、一工夫してあげるのはどうかな?」


 「チェスリー様、何かお考えがあるのですか?」


 「ああ、これだけの高さがあれば、いい遊具になりそうだからね」


 実はアリステラの造形技術と、十分すぎる強度を見たときに、便利なものがいろいろ作れそうだと考えていた。

 孤児院に遊具がなかったこともあり、クマを置いておくだけでは、もったないと思ったのだ。


 アリステラに作りたいもののイメージを説明すると、すぐに成型を始めてくれる。

 材料はクマの下半分を流用し、高さは半分ぐらいになるが、すべり台を作ろうと考えた。


 クマの首を傾げさせ、肩のところに足場を作る。

 落下防止のため、肩に上がる階段と足場に高めの柵を付ける。

 下にすべる坂のところは深めの半円錐にし、横から落ちにくいようにしてみた。


 試しに何度か滑ってみるが、どうもスピードが出すぎるようだ。

 このままでは危ない。


 スピードを抑えるため、坂の角度はゆるやかに、滑る部分は少し粗目にしてもらう。

 そのまま伸ばすと長くなりすぎるので、途中から滑らかにカーブして、足場のほうに戻るようにした。

 うん、いい感じにクマさんの滑り台が完成した。 


 子供たちに開放すると、一斉に遊び始めた。

 滑り降りるのって楽しいよね。


 「チェスリー様、よくこのような遊具を、ご存じでしたね」


 「子供の頃近くにちょうどいい草の坂があってね。滑って遊んでたんだ。ただお尻が汚れてしまうので、汚れないのがあったらいいなって思ってたんだ」


 「へええ。でもこれ本当に楽しそうでいいですね」


 「初めて作ったものだし、院長さんに様子を見てもらうようにしよう。アリステラさんの作った強度なら、滅多なことでは壊れないと思うけどね」


 「わかりましたわ」



 大分人形は配ったが、まだ数は残っていたので、もう一か所の大きめの孤児院も訪ねてみることにした。

 こちらの孤児院も院長さんが歓迎してくれ、子供たちに人形を配っていく。


 持ってきた人形も全てなくなり、そろそろ帰ろうとしたところで、1人の子供が人形をもって、扉が閉じていた部屋へ入っていった。

 ベッドで寝ていた子に人形を見せているようだ。


 だが、偶然見えてしまった。

 その子の腕に赤い斑点が浮き出ているのを。


次回は「仲間がいる安心感」でお会いしましょう。


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