第24話 クラン新設
再会したミリアンは、治療時からは想像できないほど、健康的な姿に変わっていた。
ガリガリだった全身がふっくらと女性らしい丸みになり、顔も……うん、ナイス美人さん。
病気というものの恐ろしさを改めて感じる。
自由を奪い、体力を奪い、時間を奪い……そして命を奪う。
特に魔斑病は魔力量が多い人がかかりやすい。
ミリアンは優秀な収納魔法の使い手だ。
本当に失うことがなくてよかった……。
衝撃でぼーっとしてたけど、クランメンバーって言ってたよな。
「ミリアンさん……。商会で働いていたのでは?」
「病気になるまではそうでしたね。もうとっくに退職してます。そうでなくても辞めていたと思います」
「ああ、休みもなく、働かせられていたとか……」
「商会の都合で働けば、そうなるのでしょうね。移動にどうしても時間がかかるので、ず~っと旅ばかりでした」
「すまない、積もる話もあるだろうが、先に話を進めてもよいかね」
エドモンダ伯爵が割り込んできた。
ちっ、せっかく精神が落ち着いてきたところだったのに。
と、伯爵様相手に心の中で悪態をつく。
「……まあ気持ちはわからんでもないが、後でゆっくり頼む」
……隠す才能0の俺は悪態をついたことを後悔した。
そこのジェロビンさん、声を押し殺して笑わないように。
「チェスリーくんが所属するのは新設のクランだ。所属するメンバーは、君が治療した患者を優先する予定だ」
「新設……治療した患者……えーと、何故でしょうか?」
「へへ、あっしが説明いたしやしょう。旦那はレアスキルの効果がばれるのを怖がってやすよね?」
「そうだ……下手に知られると、自由がなくなるかもしれない。過去のレアスキル持ちの話をいろいろ聞いたからな」
「……最悪を考えすぎの気もしやすが、確かにそうなることもありやす。しかし旦那、秘密を守るってのは、何度も言うように、目立つものは難しいでやす」
「ああ……今十分に思い知らされてるよ」
「へへ、そこで今回の新設クランでやすが、バレても大丈夫なメンバーで構成しやす」
「お……おお?」
「旦那は命を救われた恩人に感謝するでやしょ?」
「そりゃあ当たり前だろ」
「それじゃあ旦那が治療した患者はどう思いやすかね」
「まあ……感謝してくれるだろうな」
「大感謝してますよ!」 、とミリアンが声をかけてくれる。
「ではその人に秘密がばれたとしやしょう……もうわかりやすよね」
「ああ……滅多な事でもなければ、しゃべらないだろう」
「全てが上手くそうなるとは限りやせんが、いきなりどこかのクランに入るよりは遥かにマシでやす。そして魔斑病の重症患者は、優秀な魔力量を持っていやす。その人がクランメンバーになるとどうでやすかね」
「……秘密は守ってくれる、しかも優秀な魔法使いがメンバーになるってことか」
「へへ、その通りでやす」
なるほど……。
俺の秘密がバレても問題ないクランが出来上がる。
実際に動き始めると、また問題はでるかもしれないが、十分いけそうに思える。
後は俺がクランでやりたいこと……レアスキルを使う人に出会い修得する。
……あれ?この新設クランでレアスキルを持つ人に会えるのかな?
それにクランの目的って何だろう。
「あの……このクランの目的って何?」
「へへ、旦那の希望通りでやすよ。レアスキルを修得したいんでやすよね?」
「あ、ああ。その通りだが。そんな私的なことでいいのか?」
「へっへっへっ、この場にいる人らが、私的じゃないことで動いてると思いやすか?まぁそれだけって訳にもいかないでやすが、一番の目的は、旦那のレアスキル修得でやす」
「おお……本当に希望通りとは。でもレアスキルを持つ人にこのクランで出会えるのか?」
「既にレアスキルを使いこなしている人を、このクランに入れるのは難しいでやすね。その場合の方法を考えるのもクランの役割でやす。1人でやるのは無理があるでやしょ?」
「確かに……なるほど」
「チェスリーくん、わしも恩人の中の一人だ。君のやりたいことに協力させてほしい。確かにけしからん貴族は多い。わしより権力を持った貴族に狙われることがあるかもしれん。だが、わしは君の味方であり続けようと思っとる」
「エドモンダ伯爵様……ありがとうございます」
思わずうるっとしてしまった。
もう秘密バレバレだったことも気にしな……やっぱ気になるけど、すっきりした。
「もう驚きの連続で、すっかり疲れてしまいました」
「わしらから言わせてもらえば、君のサプライズのほうがよっぽど凄いのだがな……」
こうしてお互いにサプライズ合戦となった話し合いが終わった。
話し合いは終わったが、これからなんだよな。
「さきほど邪魔をしてしまったからな。ミリアンくんも話したいこともあるだろう。歓談室を貸すからゆっくりしていってくれ」
「はい、エドモンダ伯爵様、お気遣い感謝いたします。さ、チェスリー様、参りましょう」
「お、おう」
歓談室に移動し、ミリアンと向かい合わせに座る。
メイドさんがお茶とお茶菓子を置いて退室した後、ミリアンが話し始めた。
「またお会いできてうれしいです」
「ああ、俺もうれしいよ。いつマクナルへ来たんだい?」
「10日ほど前ですね。エドモンダ伯爵様の使いの方がみえて、私にお仕事を紹介してくださったの」
「あ……もしかして俺が治療したことで収納魔法の情報が漏れてしまった?……すまない、迷惑をかけて」
「いえ?収納魔法のことは何も言われませんでしたよ。単にチェスリーさんのクランへの協力依頼だけです」
「あ、そうなの?またやらかしてしまったかと思ったよ……」
「ふふふっ。ちょうど旅の準備をしていたところで、すれ違わなくてよかったです」
「旅か、どこに行くつもりだったんだい?」
「決まってるじゃないですか、マクナルです」
「え?ああ、何かのついでがあればヴェロニアにもお礼にくると……」
「もうっそこまでお惚けにならなくてもいいです。チェスリーさんに会いに行くために決まってるじゃないですか」
ここまではっきり言われると照れるな。
こないだヴェロニアとも恋愛うんぬんの話をしたばかりだし……。
「……うん、よく来てくれたね」
「はい!実はマクナルでお仕事も探そうと思ってました。そこにチェスリーさんのクランのお話だったので、即答で了承しましたね。転移で来た時に、本当はすぐ訪ねようとしたのですが、今日のお話まで待つように言われまして……」
「はあ……それで伯爵様も気をつかってくれてたわけだ」
「ええ、でもこれで同じお仕事をすることも多いですし、気軽に会えますね!」
「そうだな。あっマルコラスやご両親は?」
「はい、快く送り出してくれました。しっかり頑張りなさいって」
「そうか、またヘスポカに行ったときにはご挨拶させてもらうよ」
「……それは……娘さんをください的なものでしょうか」
「いやいやいや、普通の挨拶だから」
「ふふっ、冗談です。それにしてもチェスリーさんこんな凄い状況になってたんですね……。魔斑病のことは知っていましたが、魔道具のことは……本当に驚きました」
「ん~そこはなぁ。ヴェロニアの力が大きいと思うんだ」
「チェスリーさんがいなければ、素材の魔力の識別はできなかったのですよね?」
「まあ……そうだな」
「……私の治療の時もそうでしたが、謙虚すぎな気がします。まぁ、そういうチェスリー様だからいいのかもしれませんが……」
「う、うん。今はどうして過ごしてるんだい?」
「まだクランは準備中ということで、収納魔法で物資輸送のお手伝いをしています。シルビアさんの転移で移動するので、すっかり仲良しですよ!」
「……変な事とか言われてない?」
「え、ええ……シルビアさんなりの個性的な発言はありましたかしら……」
「かばわなくていいぞ、シルビアって口だけだし」
「まあっ、シルビアさんとも親しいのですね。お顔も綺麗ですし、お胸も……」
「かなり大きかったな……」
「え?何故ご存じですの?ひょっとして……」
ミリアンの目が鋭く光り、底知れぬプレッシャーが漂い始めた。
「いやいや、魔力視の頭巾で転移を見せてもらった時に……体の線もわかってしまうんだ」
「……もしかして私の治療の時もですか」
「あ、はい。……でも今のミリアンとは全然違うと思うし」
「ふふっ、治療の事で怒ることはありませんよ。……あの時の印象のままでは少し悔しいかも、今の私も見ていただけますか?」
「はあっ!?」
「あ、い、い、いえっ、けしてその……体を見せたいというわけではなく……スキルの修練のためにです、はい。クランの目的でもありますし」
「……いや、遠慮しておく。一応収納魔法は使えるんだ」
「まあっ、そうでしたの」
「せいぜい背負い袋3個分ぐらいだけどな。王都に治療に行ったときに覚えたんだ。練習して少し容量が増えたが、これ以上大きくなりそうにないんだ」
「大きさは魔力量によると言われてますものね。使えるだけでも便利だと思います」
「そうだな、やっぱり収納があると荷物が整理できて助かるよ」
「ええ、それでいいとして……今後女性を魔力視の頭巾で視る時は、ご注意くださいね」
「はい、わかりました」
「ヴェロニアさんにお礼にいきたいです。都合の良い時に、つきあっていただけないでしょうか?」
「さっき治療で飛び回ることになるって聞いたからな……。それにヴェロニアも魔道具開発で忙しくなるだろうし、早めに案内したほうがよさそうだな。早速今からどうだい?」
「はい、お願いします!」
ヴェロニアにミリアンを紹介することになった。
いい子だし、ヴェロニアと気は合うんじゃないかな。
次回は「女は目で語る、口はもっと語る」でお会いしましょう。




