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第20話 治療のお礼はネコ



 アルパスカ王都に帰還した。

 クラン『暁の刃』の人たちとは、ここでお別れだ。

 都合がつけばクランの拠点に来てほしいと、場所を教えてもらった。


 拘束した盗賊はオーガス達に任せて、俺は執事さん、ボルド共に、伯爵別邸へ帰る。


 無事侯爵様へボルドを送り届けたが、礼もなく直ぐに伯爵別邸を去っていった。

 ……後は執事さんのほうで、処理してもらえばいいや。


 少し休憩してから、気になっていたブラハード子爵様の娘、アリステラの容態を見にいくことにした。




 ブラハード子爵邸に到着し、俺の顔を見たメイドさんが走って奥の部屋へ行くのが見えた。

 そしてすぐブラハード子爵様が、出迎えてくれた。


 アリステラは、治療後も半日ほど眠り続けたらしい。

 目が覚めた途端に、食事を欲しがり、最初は流動食を与えていたが、すぐに普通の食べ物になり、猛烈に食べ続けているらしい。

 いきなりそんなに食べて大丈夫なのかね……。


 アリステラの部屋へ案内され、多分大丈夫だとは思うが、念のため診察することにした。

 部屋に入ると……おおう、まだ食ってるのか。

 こちらに気づいたのか、食べるのをやめ、声をかけてきた。


 「あなたがチェスリー様でしょうか?」


 「え、ええ」


 「座ったままで失礼いたしますね。もう少しで歩けそうなのですが、体力が足りなくて、一生懸命食べてます!」


 「お、おう」


 食べるのは必要だけど、歩いたりするには訓練して慣れる必要があるのでは……。


 「チェスリー様は命の恩人です。わたしもう限界で、二度と目覚めることはないと思ってました。せめて元気になった姿をお見せしたいと頑張ってます!」


 「そうですか……。しかし、見違えるようにお元気になりましたね」


 「はい!ありがとうございます」


 「では、念のため診察させていただきますね」


 アリステラは数日前の状態が嘘のように思えるほど回復していた。

 ガリガリだった肌が水を吸ったように膨らみ、こけていた顔の頬も目立たなくなっている。

 魔力視の頭巾で見ると、病気だった時より、さらに濃密な茶系色の魔力が、綺麗に循環していた。


 「もう大丈夫ですね。魔斑病は完治しています」


 「はい!えーっと、魔法を使ってみてもいいでしょうか?お父様からはまだ止められていて……」


 「ええ、もう魔力も正常なので問題ないと思いますよ」


 「わあ~久しぶりに使える!えいっ!」


 アリステラは、ベッドの近くに置いてあった、粘土のようなものを手に取ると、魔法を発動した。

 モデリングストーンの魔法のようだ。

 ただの土の塊がぐねぐねと動き、形が整っていく。

 ……ネコ?

 実際の造形とは全く違う、やたら目や口が大きかったり、全体的に丸っこい3頭身の猫の人形ができていた。


 「やっと作れたわ!この子の名前は……ルナにしよう!」


 「お、おう」


 何かぶっ飛んでる子だな。

 それにしても魔力制御は素晴らしい。

 人形の造形を瞬く間に作ってしまった。


 「あたしかわいい人形を作るのが好きで、病気で寝込むまでは、一生懸命練習していたの!寝ている間はず~っと、どういう人形を作ろうか想像してたの。前はこんなに綺麗にできなかったんだけど、今ならできそうな気がしたの!」


 土魔法を使った人形か……。

 冒険者をしていると、魔法の使い方といえば、いかに敵に対して使えるか、探索に有効かと考えるので、こういった使い方は新鮮に見える。

 俺なら、この造形を使って、何かの攻撃手段に……とか考えちゃうんだろうな……。

 落ち着いたら、あらためて魔法を見直すのもいいかもしれない。


 「あの……お邪魔でなければ、このお人形もらっていただけますか?あたしはこの様な事しかできないので……是非」


 「ありがたく頂きます。どうもありがとう」


 人形を受け取ると、アリステラは、ぱっと花が咲いたように笑顔になった。

 が、すぐに真顔に戻り、話を続けた。


 「……また……お会いできますでしょうか?」


 「普段はマクナルに居ますので……難しいかもしれませんね」


 「そうですか……。でも絶対会えないわけではありませんよね?」


 「ええ、また王都に来ることがあるかもしれませんし」


 「それでしたら、王都へ来た際は……無理にとは申しませんが、訪ねていただければ歓迎します!」


 「はい。またの日があれば、よろしくお願いしますね」



 ブラハード子爵様からも、再度のお礼と、また訪問してほしいと言われた。

 こちらの貴族様は本当にあったかいなぁ。

 どこかの侯爵様とは大違いだ。




 王都の滞在期間が、想定外の事態で6日ほど伸びてしまったので、早々に帰ることになった。

 エドモンダ伯爵様からの手紙によると、シルビアの転移の仕事が詰まっているらしい。




 マクナルへ帰還し、受け取った報酬は2件合わせて金貨25枚。

 もう金銭感覚がおかしくなりそうだ。

 それにしても……これ以上冒険者ギルドに金を預けるのも、マズくなってきた。

 何で入手した金かは、暗黙の了解で尋ねられることはないが、毎回金貨数十枚も預けていたら、事情を知りたくなるのが人情だ。

 ギルドマスターに治療のことを話しておきたいが、エドモンダ伯爵様との契約で話を漏らすわけにはいかない。


 魔斑病の治療ができる事がわかり、魔斑病患者の情報があれば、当然治療したいと依頼してくるだろう。

 患者の事を知れば、俺は無視することができない。

 とはいえ、それで治療に赴けば、エドモンダ伯爵様を裏切ることになりかねない。


 エドモンダ伯爵様からの依頼は、今のところ貴族関係に限られている。

 貴重な転移魔法で移動するので、その間に転移で得られる利益が減ることを思えば、治療費は高くなり、お金のある貴族しか払うことはできないだろう。


 この状況を解消するには、俺以外でも魔斑病が治療できるようにするしかない。

 アリステラを治療した方法は、前提条件だった魔力色が視えなければらないことが、条件から外れた。

 黒と白の魔力が使える人なら治療可能になったので、敷居はぐっと下がったはずだ。

 ただ魔力を視るための高額な魔道具が必要になる事は解決していない。


 独占が崩れるので、エドモンダ伯爵様が新治療方法を許可するかどうかは、聞いてみないとわからないな。


 はあ~~金が絡むと動き辛い。



 困った時のジェロビン!

 クランの件もあるし、状況を話しておかないとね。


 いつもの酒場に行ってみるが、ジェロビンの姿はなかった。

 奥の個室も空いているようで、ここにはいないようだ。

 酒場のマスターに言付けを残して酒場を去る。


 そしてヴェロニア宅へ向かう。


 「ヴェロニア~、いきてるか~?」


 扉を叩きながら呼び掛けてみると、中からどたどたと音がして、ヴェロニアが現れた。


 「また呼び方戻ってるじゃないのよ!工夫しなさいよ!」


 「いや毎回変えるのも疲れるから。できれば呼ばなくても出てきて」


 「できないわよ!さっさと入りなさい」


 「お邪魔しまーす」


 いつものネタ切れ風挨拶を交わし、ヴェロニア宅にお邪魔する。


 「それで?治療は上手くいったんでしょうね?」


 「ああ、危ないところだったけど、何とか治療できたよ」


 王都での一連の出来事を説明していく。

 子爵様の娘の治療、侯爵様の横やり、侯爵様の息子の救出、侯爵様の息子の酷さなどなど。


 「ふう~ん。結構な冒険だわね。いくつか気になる事を聞かせてね。子爵様の娘の……アリステラさんだっけ。ほんとよかったわ……。その新治療法も凄いわね。素直に関心した」


 「ありがと。あの時は追い詰められてたからなあ」


 「それにさ、魔力色が視えなくていいってのは朗報ね。あと魔力を押し込めばいいんだっけ」


 「乱暴な言い方だけど、その通りだな。それで相談なんだけど、安く魔力視の頭巾作れる方法ないかな?」


 「いやあ、安くは無理。誰か教えてくれないかしら」


 「ジェラリーさんなら改良できるんじゃないかな?」


 「そうねえ。力は貸してくれそうだけど、伯爵様に黙ってはできないと思うわよ」


 「だよな。本当は教会や魔道具クランとかに、情報を公開して任せてしまいたいぐらいなんだけど」


 「……相変わらず欲がないわね。儲からなくなるわよ?」


 「おまえに言われたくねえよ。もう金銭感覚狂い始めてんだ。わかれ」


 「はいはい。とはいえ、このままじゃどうしようもないわねえ」


 「とりあえずジェロビンの情報も聞いて判断だな」


 「あと……そのネコ人形なんなのさ?」


 「これか?アリステラさんにお礼にもらったんだ。欲しいならあげようか?」


 「ばっかね~!さっきの話だと、また会うかもしれないんでしょ?助けてくれたあんたに、せめてって贈られたのに、人にあげちゃだめでしょ!大事にしまっときなさい!」


 「お、おうわかった」


 「全く鈍いったらないわ。あとはメアリさんだっけ?そこんとこどうなのさ?」


 「ん?いや普通に会話しただけだよ。あとちょっとサービスで魔法制御教えたり」


 「いやいやいや、キャシーって人にいろいろ言われたんでしょうが!何かこう……あったんじゃないの!?」


 「メアリさんって、かなり奥手みたいなんだ。それに話した感じだと、恋愛的というより、師匠的な扱いだった」


 「ふうん。ならいいけどね」


 「……恋愛なら、まだミリアンさんのほうが可能性あるかもな」


 「え!?誰だっけ……・あーーーマルコラスさんの妹!」


 「とはいえ、距離が遠すぎてもう会うこともないかもしれないがな」


 「あんただったら転移でいけるでしょうが」


 「まあ……確かに転移の特徴がわかってきたから、いけなくはないな」


 「うらやましいわ~転移」


 「バレたら困るから、滅多な事じゃ使えないんだぞ。バレたら伯爵様に囲われちゃうかも」


 「そうね、女に目が眩んでふらふら転移しないようにね」


 「……女好きのイケメン転移使いだったら、大陸中に彼女がいるのかな?」


 「そんなの知ってるわけないじゃん」


 その後は、うだうだと雑談するだけになり、特に進展もなく話は終わった。




 そういえばシルビアと会う場所は決めたが、王都の予定が遅れたため、転移の仕事がいつ落ち着くのかわからないままだった。

 先にジェロビンと話をしておかないと。


次回は「頼れるジェロビン」でお会いしましょう。

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