表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/137

第2話 秘密のスキル効果



 わしは鬼によって連れ戻されてしまった。

 どこからともなく「鬼って誰のことよ?覚えときなさいよ」と幻聴が聞こえたが、知らないふりをした。

 恐らくあいつの指示で、連れ戻すついでに一発いれておきなさいとでも言われたのだろう。



 拠点に戻る最中に、変化の腕輪の効果が切れ始めた。

 顔のしわが消え、腕や足の筋肉が一回り太くなる。

 でぶった腹が引っ込み、髪から白髪が消える。

 すっかり見た目が20代に若返ったな。

 これで老齢の演技もやめられるから、口調も普通に戻そう。


 この変化の腕輪は変装には便利だけど、魔力を使いすぎるのが困ったものだ。

 変装といっても老齢化した姿にしかできないという微妙な効果なのも、製作者があいつだからしょうがないな。

 さらに実際の外見とかけ離れるほど、魔力消費が大きくなるという嫌なおまけ付きだ。

 こいつの魔力消費のせいで、冒険で使う魔力どころか教育で使う魔力まで気を使う始末だ。


 まあ、魔法が満足に使えないことを理由に冒険者引退して経理も担当することなった。

 おかげでクラン資金の不正流用でマックリンを怒らせ、追放されることに成功したのだ。

 いくら追放されるためとはいえ、冒険中の手抜きは命にかかわるので洒落にならない。


 ……思えば何故こんなことをしなければならなかったんだろうな。

 ……素直にクランを抜けることができなかったからなんだけど。




 冒険者を引退したときにクランを抜けたいと言ったが、クランのメンバーに引き留められた。

 俺の教育が必要だから抜けないでほしいと頼まれ、断りきれなかったのだ。

 いや、頼りにされたのが嬉しかったからじゃないからね。



 こっそり逃亡したこともあったが、クランの総力をあげて追跡してきたのである。

 クランで臨時捜索隊を複数編成し、冒険者ギルドも巻き込んで大騒ぎになってしまった。

 結果……あえなく捕まってしまった。

 それでも逃げきれる自信はあったのだが。


 「先輩の俊足にはかなわないっす。マジリスペクトっす」とか言って目をキラキラさせてたやつに捕まった時は正直驚いた。

 いつの間に俺より足速くなったんだろうな。

 それに索敵能力が高すぎる。

 俺は敵じゃないのに索敵とはこれいかに。



 適当な理由を言っても無駄だった。

 移籍したいとか田舎でゆっくりしたいとか言っても冗談としか受け取ってもらえない。

 ほんとに冗談だから、受け取り方は間違ってないんだけどね。


 現在の平均寿命が50~60歳だから、45歳ってもう年だよなあ。

 田舎でゆっくりしたいって自然な理由だと思うんだけど。

 もしかして……俺の演技ばれてた!?



 しょうがなく追放される理由を無理やり作ることにした。

 マックリンは良いやつだが、不正行為や裏切りに対して過剰に厳しい。


 冒険者は一瞬の油断で命を落とす商売だ。

 甘い考えではお話にならないが、厳しすぎるのも問題がある。

 ……以前、軽く窘めたこともあったんだがな。

 今回はその性格を利用させてもらったのだ。




 俺は人に知られないよう隠しているスキル効果がある。


 スキルは神様からの贈り物とされている。

 個人差はあるが、成人する15歳までには何らかのスキルが与えられる。

 スキルを正確に知るには能力鑑定を受ける必要があり、神の声を聴く神聖な行為として教会で行われる。

 俺も教会で鑑定してもらい、【百錬自得】が与えられたとわかった。



 スキルは様々な種類が存在するが、非常に稀なものはレアスキルと呼ばれる。

 【百錬自得】もレアスキルだ。



 一般的なスキルは効果がわかりやすい。


 例えば【剣術】スキルについて。

 これは剣の扱いに関するものだとすぐわかる。

 剣術自体はスキルの有無に関わらず、訓練すれば誰でも上達する。

 【剣術】スキルを持つものは、明らかに上達が早く高度な剣術を修得できる。


 例えば【火魔法】スキルについて。

 これも火の魔法に関するものだとすぐわかる。

 そして魔法のスキルは、武術に関するスキルよりも有利な点がある。

 火魔法スキルを得たものは、初級の火魔法を簡単に使えるようになる。

 スキルのないものは、初級すら使えない場合が多い。

 もし初球が使えたとしても、中級や上級に相当する威力の魔法を使うことは難しい。



 しかし、レアスキルは言葉の意味から効果を推測し、使い方を自覚しなければならない。


 かつて【不老不死】というレアスキルを与えられた人がいた。

 言葉通りの意味なら”老いず死なず”である。

 しかし、どのようにスキルを使えばいいかを自覚しないと全く意味がない。

 レアスキルの効果がわからないまま、老衰でなくなったということだ。


 そのため、レアスキルは神の試練とも言われている。



 自分にレアスキルが与えられたとわかったときは、嬉しさ半分恐怖半分だった。

 レアスキルを与えられた人が成功した例は多くある。


 圧倒的な力を手に入れ、高名な冒険者となった人。

 強大な魔法を手に入れ、魔物を殲滅し国王となった人。

 商売の才覚に目覚め、巨額な富を築いた人。



 逆にレアスキルのせいで不幸な運命をたどる人もいる。


 【武運長久】というレアスキルを与えられた人がいた。

 意味は、戦いにおける幸運が長く続くということだ。


 言葉の意味から、戦いが必要な騎士や冒険者として将来を期待されていた。

 その期待は周りに広く知られることとなり、悪名高い盗賊団にまで知られてしまった。

 レアスキルを欲しがった盗賊団は【武運長久】を持つ人を誘拐する暴挙にでた。

 早々に強奪行為に加担させられ、その最中に流れ矢があたり、あっけなく死んでしまったそうだ。

 本来のスキル効果は謎のままである。



 【百錬自得】とは、同じことを百回(またはそれ以上)反復して行なえば、自然に反復したことが自分の身につくという、剣の教えからくる格言らしい。



 もしかすると、【百錬自得】があれば、百回反復するだけで他のスキルを楽々修得できるのではないかと考え、剣や格闘などの武術で試してみた。

 しかし、一般的な上達と何ら変わるものではなく、スキルの効果とは思えなかった。

 魔法については、火・水・風・土というように、いろんな属性の魔法を使うことができるようになった。

 魔法スキルがない人は初級すら使えない場合が多いので、【百錬自得】は魔法に対して効果を発揮するのかと考えた。

 しかし、初級以上の魔法は使えるようにならなかった……

 複数属性の魔法を使える程度では多少器用といえるぐらいだろう。




 何故そんな【百錬自得】スキルを秘密にしたいのか。

 それは【百錬自得】の本当の効果を自覚したからだ。


 最も秘密にしたいのは、【百錬自得】を使えばレアスキルですら修得できてしまうことだ。

 ……クランメンバーには既にばれているけどね。



 スキルについて調査してみたが、過去にレアスキルを後から修得した例は存在しなかった。

 秘密が漏れたとしても、その辺の悪党程度なら返り討ちにする自信はある。

 しかし、もし王族や大貴族など、抵抗することが難しい勢力に目をつけられたとしたら。


 都合よく考えれば、貴重な人材として丁重に扱われるだろう。

 しかし、自由な行動は制限されるかもしれない。

 最悪を考えればきりがないが、どうしても悪い展開を考えてしまう。


 だからこそ、特級クランという目立つ場所からは目的が終われば去らなければならない。

 変化の腕輪を使い姿を変えているので、元の姿に戻れば同一人物と思われないだろう。


 まだ覚えたいスキルやレアスキルは山のようにある。

 レアスキルを含めたスキル修得は、俺の目標を達成するために必要なのだ。



 俺の目標は……一言で言えば、”復讐”だ。


 レアスキルの効果を自覚しなければ夢物語でしかなかった。

 だが、修行を積み様々なスキルを手に入れた今なら夢物語ではない。

 確実に”復讐”を成すために、さらなる準備をしなければならない。



 俺がどのようにして【百錬自得】の効果を理解したのか。

 きっかけは、過去に組んだパーティーとの出会いにさかのぼる。


次回は「とあるパーティーとの出会い」でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読み終わりに↓ををクリック!いただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ