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第19話 王都への帰還

 盗賊は投降したが、まだ隠れているものがいないか、確認が必要だ。

 【察知】の人……名前はモーナさんに、もう一頑張りしてもらおう。

 散々こき使っておいて、いつまでも【察知】の人では失礼すぎるよな。


 洞窟の外には30人以上待機しているので、逃がす心配はないだろう。


 盗賊団は見張り2人、洞窟の道中で25人、ボス、投降者5人で計31人だった。

 投降した者以外は、全員死亡している。

 こちらからの攻撃は暗闇からの一撃なので、手加減することは難しい。

 ……結構、残虐な戦術だったな。


 外に出ている仲間がいるかもしれないが、投降者から聞き出すことになるだろう。



 人質は侯爵様の息子ボルド様、馬車の御者、執事、メイド、護衛8人だった。

 残念ながら、ボルド様以外は全員殺されていた。

 やはり身代金目的だったようで、ボルド様に薬が与えられていたのは、不幸中の幸いである。


 護衛の数が2人少ないのは、2人が盗賊団の仲間で裏切り者だったからだ。


 食事に麻痺薬を仕込まれ、ほぼ無抵抗で誘拐に成功したとのことだ。

 馬車についた傷は、執事とメイドの二人が馬車の扉を抑えて抵抗したようで、脅しとして斧で切りつけたらしい。



 洞窟を離れ、王都に向けて少し移動したところで、休憩をとることになった。

 治療もこの隙に終わらせてしまおう。


 魔力視の頭巾を被り、魔力の滞留を確認する。

 …………あれ?

 ボルド様の魔力量って、普通なんだけど。


 魔班病特有の滞留は見られるが、それほど大したことなさそうだな……。

 まあ、いいか。

 治療が必要なことに変わりはない。


 それっ!白!黒!白!黒!

 もう治療が終わってしまった……。


 「ボルド様、治療が終わりました。もう病気は完治しているはずです」


 「ふん?もう治療が終わっただと!?特に何も変わっておらんではないか!」


 「ああ……はい。今はジルシス草も効いていますので、自覚がないかも知れませんが、今後はもう症状がでないはずです」


 「いいかげんな治療をしたのではないだろうな?きさまなぞいつでも追放できるのだ。心しておけ」


 うわ~、貴族様相手の治療4件目にして事案発生だよ。

 ここまでわかりやすい高飛車な奴は、さすがにいないだろうと思ってたのに。

 俺は心のブラックリストにボルドの名を深く刻んだ。



 ということで、ボルドと話すことはもう何もない。

 心で思う分には様付けもいらないや。

 ……うっかり呼び捨てにしないように注意はしておこう。


 幸いにも休憩時は、捜索隊の面々が会話しにに来てくれるので、ボルドが寄ってくることもなかった。


 負傷者はいたものの、死亡は0人。

 戦術が思った以上に成功したことで、信頼を勝ち得たようだ。


 いつも思うことだが、所詮は戦術である。

 上手くいくかどうかは時の運と、戦術を実行する人の技量にかかっている。

 今回成功したのは、やはり盗賊とクランメンバーの技量差が大きかったからだ。

 さらに相手に有利な点を潰して、味方の有利な点を押し付けたから勝てただけのこと。

 オーガスが提案した強行突入でも、問題なく勝てた可能性は高い。



 リーダーのオーガスとキャシーとは帰りも一緒の馬車だ。

 執事さんは少々お疲れのようで、荷馬車に横になれるようにして寝込んでいる。


 オーガスが今回の件について、改めてお礼がしたいと話しかけてきた。


 「チェスリーさん、戦術お見事でした。特に魔法の工夫が素晴らしいですね」


 「いやあ、あまり褒められるほどのものでは……。魔法の工夫も初級しか使えないのに、意地になった末に偶然できたものばかりなので……」


 「いえいえ、ご謙遜を。例えばあのファイヤーフロアー。実は火魔法使いのうち2人は同じような魔法を今までも使っていたのです。チェスリーさんに魔力の流れを教えていただいてから、範囲が段違いに広くなったんですよ!」


 「ほお、そうでしたか……。私は少ない魔力で工夫しているので、効率がよくなったんでしょうね」


 「あと闇魔法のダークミストも凄いですね。初級で練習用にしか使えないと言われてるダークミストなのに、戦術級にまで格上げする方法があるとは。闇魔法使いはメアリと言いますが、感動して目がキラキラしてましたよ!」


 そういえば最初の休憩でも、メアリさんが凄い勢いでお礼してくれてたな。


 「ははは……恐縮です。メアリさんの魔力量が多く、中級相当の威力になっていたおかげも大きいですね」


 「いや~チェスリーさんって、マクナルが活動場所ですよね。王都にいてくれるなら、是非クランに入っていただきたいのですが」


 「お気持ちだけありがたく頂戴します。王都に来たのは治療のためで、すぐマクナルに戻ることになりますしね」


 それに秘密を持っているから……。

 気軽にクラン入りすることもできない。


 「すぐ帰ってしまわれますの?」


 キャシーが質問してきた。 


 「そうですね。エドモンダ伯爵様からの治療依頼もこれで終わりました。子爵様の娘さんの容態を確認したら帰ることになりそうです」


 「そうですか……残念ですわ」


 「あっ、そういえば、皆さんのスキルを確認したいと言った時、何かオーガスさんと話されてましたよね?」


 「え、ええ……。知恵を借りられるなら、クランで秘密にしているスキル以外は話してかまわないと進言しました」


 「ああ、確かにそうすべきですね。その後オーガスさんの”全てではないが”のところで察するべきでした」


 「これほど工夫された戦術なら、教えてもよかったかもと後悔しました」


 「いえいえ、あの段階で信用しろというのが、無理があります。冒険者として本来スキルを聞くのはマナー違反ですから、お気になさらずに」


 「では、もう少し腹を割って話そう。チェスリーさんも普通の話し方で結構だ」


 ん……いきなりオーガスの雰囲気が変わった。


 「えっと……どういうことでしょうか?」


 「あんたを信頼できる仲間と認めるってことだ。別にクランに入れと言ってるわけじゃないから、安心していい。キャシーも話してもいいぞ」


 あれあれ?急展開についていけないぞ。


 「チェスリーさん、私の本当のスキルは【収納魔法】なの。剣術は訓練で修得したものですわ。……今更ですが、このスキルも伝えていれば、戦術は変わったかしら?」


 収納魔法か、ダンジョン攻略をするクランにとっては是非欲しいスキルだ。

 せっかく仲間と認めてもらったのだから、しゃべり方は普通にしよう。


 「いいスキルだね。でも、何か変わったかな……。ちなみにどれぐらいの容量が収納できますか?」


 「3立方メートルぐらいですわ」


 「なかなか大きいですね」


 あの状況で、容量の大きい収納の魔法……。

 何か戦術に変更すべき点はあるかな……。


 「……戦術は変わらなかったと思う。ダンジョンならともかく洞窟に持っていくものは限定できる。あの人数なら必要な荷物は十分運搬できたからね」


 「はい……支障がなくて安心しました」


 「しかし、どうして打ち明ける気になったの?」


 「……チェスリーさんが魔法を教えているところを見たからですよ。ほんの数日前に出会ったばかりの私たちに、苦労して手に入れた技術を、何のためらいもなく教えていただきましたわ。せめて私の本当のスキルぐらいは打ち明けたかったの」


 「ああ、その事なら尚更気にしないで。よくお人よしって言われるんだけど、技術を教えることは普段からよくやってるからね。それに秘密にしたいことは誰にでもある」


 俺を信頼してくれたことは素直に嬉しい。

 何かを与えたからといって、いい結果に繋がるとは限らないが、今回は良いほうに傾いたようだ。


 それに俺はレアスキルと転移を隠しているからな……。

 特に転移魔法が使えることがわかれば、いざという時の保険になる。

 念のため、馬車に転移陣は置いていたが、俺の転移では洞窟に入った22人全てを範囲に入れることはできない。

 俺の転移の事こそ、話していれば戦術は変わっただろう。



 「これで遠慮なく話が出来るわ!ねえねえチェスリーさん、メアリのことどう思う?あの目のキラッキラは、かな~り慕っている風だったけど。あの子さ、わりとかわいいと思うのよね~。どう?どう?」


 あれえ?また話の方向が変わった上、恋バナかよ!


 「キャシー……おまえそんなことが話したかった事なのか……俺に相談しにきた時は、もう少し……何か真剣な話だと思ったんだが」


 「だってさ~、何となく引っかかってることがあると、気軽に話できないじゃないの。それにね、メアリは闇魔法ってイメージが悪いの気にしてて、伸び悩んでたのよ。他の魔法のが便利で代用できることも多いじゃない?あのダークミストはかなり自信になったと思うの!」


 テンションたかっ!

 質問されてるはずなのに、返す間もなくしゃべり続けてるよ。


 「それでさ~、厚かましくって申し訳ないんだけど、メアリともっとお話ししてあげて!きっと喜ぶと思うの。あまり男の人に慣れてないから、いい機会だな~って。あとさ、魔法の練習してる時、彼女の手とかに触れてたじゃない?もう~~その時の表情の可愛さ!メアリにその気があったらさ、いっそ決めちゃってもいいかも。でもでも、無理やりは絶対ダメだからね。彼女は大事なクランの一員なんですから!結婚しないなら避妊はちゃんと……」


 「いい加減にしろ」


 「きゃふん」


 オーガスの鉄拳がキャシーの頭の天辺に突き刺さる。


 「落ち着いて話せといつも言ってるだろうが。会話にすらなってねえ」


 「はーい、失礼しました」


 俺は笑っていた。

 気のいい人達との会話は楽しいものだ。

 俺の事情がなければ、このクランに入っても楽しくやれそうだなと感じる。

 今はクランに入るのは無理だけど、再会した時に笑い合える関係でいたい。



 アルパスカ王都に帰るまでの間に、ボルドはすっかり回復していた。

 お礼にも来なかったが、もう俺も特に関わる気はない。


 キャシーに言われたように、休憩時にメアリと話したり、馬車からオーガスが追い出されて、メアリが同乗したりと、慌ただしくしている内に王都へ帰還した。


 ……メアリに手を出したりしてないからね?


次回は「治療のお礼はネコ」でお会いしましょう。

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