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第17話 自己の認識を改めよ

 今の俺にできる事はもうない……本当にそうだろうか?


 魔斑病の治療に成功し続け、転移魔法も修得することができた。

 しかし、全て自分一人の力で成し得なかったことだ。


 俺は……かつてレアスキルを与えられ、何でもできるようになると、うぬぼれていた頃と何か変わっただろうか。

 レアスキルの効果がわからず、諦めていたのは、ほんの数か月前のことだ。

 それから何か変わっただろうか。


 一つの出会いがきっかけとなり、俺はがむしゃらに努力していた時の情熱を取り戻した。


 思い返せば……自分一人でどうにかしようとし、失敗ばかりしていた。

 魔斑病の治療でさえ、患者が制御に協力してくれなければ、治療できないのだ。


 自分の力だけでは足りないのであれば……誰かの力を借りることはできないだろうか?


 アリステラの容態は深刻だ。

 悠長に今から協力者を探すなど、取れる選択肢ではない。


 そうすると……せめて誰かの意見を借りられないだろうか?


 シルビアとの会話で何かきっかけはないか?

 ヴェロニアとの会話で何かきっかけはないか?


 二人の意見をきっかけに、俺が認識を改めたことは……。


 シルビアは……【百錬自得】があるから、魔力の色が視えると言っていた。

 ……魔力の色は、アリステラに合わせて流している。


 ヴェロニアは……俺が魔力を流すことは干渉だと言っていた。

 しかし、俺が魔力を流すことで、相手に干渉しているとは未だに思えない。

 魔力の流れは、相手が自分で制御するまで変わらないのだ。




 ………………ん?

 ………………もしかして。


 もし相手の魔力と違う魔力色を流したらどうなるのだろう。

 ……いやいや、転移の魔力を流されたときの例もある。

 安全だと思っていた魔力を流すことで、あの耐えがたい痛みが発生したのだ。

 病気で弱っている相手に、あの痛みが生じると、最後のトドメを指すことになりかねない。


 だが、あれは干渉と言えるのではないか?

 転移の魔力色は透明だった。

 今まで自分の中に存在しないか、認識すらしていなかった魔力色だ。

 自分に存在しなかった魔力色が痛みの原因とすれば、それ以外の魔力色で痛みを感じることはないのではないか?

 転移の魔力を流してもらったこと以外で痛みを感じたことはない。

 透明な魔力色だけが例外ではないのか。

 俺は6属性の魔力を流してもらった経験があり、痛みを感じたことはないから、その想定で合っていると思われる。


 では、透明以外の色で他人の魔力に干渉するには……単純に考えれば正反対の色か。

 でも色の正反対とは……わからない。

 別の考え方……全てを塗りつぶす色……白か黒だ。


 ふう……何もかも推論だが、やってみる価値のある事は見つかった。


 人体実験みたいで、アリステラには申し訳ないが、試させてもらうよ。

 失敗して死なせてしまったら、いくら恨んでくれてもかまわないから。




 治療を再開することを伝え、魔力の流れを作る。

 しかし、今度は魔力色を白にして、転移の魔力を無理やり流された時のように、滞留に押し付けるようにして流す。

 白にしたのは、単に治療のイメージが黒より白の方がよさそうだったからだ。


 どうかな……あっ、マジかこれ……流れ変わって、干渉できているようだ。

 でもちょっとだけしか変わってないな……。

 今度は黒で……おおっ、こっちも魔力の流れを変えることができる。

 しかも、さっきよりずっと干渉できているのか、魔力の動きが大きい。

 じゃあ交互で……白、黒、白、黒……。


 おおおおお、本当に滞留が解消された!

 しかも魔力に干渉し始めてから、30分ほどしか経っていない。

 これ……今までの治療が、どれだけ無駄な手順を踏んでたのか……。


 えっと、他にも滞留個所あるかな……あった。

 ちょいちょいと、白、黒、白、黒……終わった。

 こっちもちょいちょいっと、ついでにそっちもちょいちょい、おまけにちょいちょいっと。


 …………すっかり魔力の流れが正常になった。

 赤い斑点は綺麗さっぱり消えているようだ。


 達成感より、思い付きで何とかなってしまった感じが強すぎて、いまさらながら軽く眩暈がした。

 ええい!何にせよ一番幸せな結果になったのだ。


 「アリステラさんの治療が終わりました。魔斑病は完治しています」


 後ろで見守っていた子爵様を初め、奥様、執事さん、メイドさんの面々が一斉に涙を流しながら、歓喜の声をあげる。

 ブラハード子爵様なんて……感極まって思いっきり抱き着いてきたよ……。

 そこはせめて奥様でお願いします。

 あ、メイドさんでもいいのですよ。


 魔斑病は完治したが、瀕死の状態だったのだ。

 治療の魔法やポーションも併用し、ゆっくり体力を回復させてくださいとお願いした。


 俺も感動に浸りたいところではあるが、侯爵様の様子も気になる。

 侯爵様の息子の治療が終わったら、また訪問することを約束し、早々に伯爵別邸に戻る。




 ほんとに上手くいってよかった……。

 治療師の人はいつもこんな緊張感をもって治療してるんだろうな。

 もし俺の治療で誰かを死なせてしまったら、立ち直ることはできるだろうか。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか伯爵別邸に到着していた。

 治療が早く終わったこともあるが、まだ侯爵様の息子は到着していないようだ。

 あら……侯爵様すごく苛ついてるご様子で……。


 結果論だけど、これならおとなしくレイアリオスで治療を待っていた方がよかっただろう。

 転移陣は持ち運べる紙に書いても使えるので、早馬などでレイアリオスに転移陣を運べば、今より早く治療できたと思う。


 ただ、こちらの都合としては悪いことばかりでもない。

 侯爵様のご機嫌をとるため、執事さんとメイドさん二人が、侯爵様のお世話にかかりっきりだ。

 今ならシルビアと二人で話ができそうだ。


 シルビアに声をかけ、お馴染みになってきた、転送陣のある倉庫へやってきた。

 この隙にシルビアと打ち合わせしておかなければ。


 「仕事以外でシルビアと会うのは難しかったよ。伯爵邸を訪ねようと思ったが、会う理由を問われたら応えられそうになかったからね」


 「ふふ、そうだろうね。契約通り、伯爵様には何も話していないさ。そうなると会う必要性がないからね」


 「いつ呼ばれるかわからないので、手短に打ち合わせよう。シルビアと外で会うことはできないか?」


 「ああ……すまないね。あの時はすっかり慌ててしまってさ……。伯爵様の仕事が終わった後は外出することもできる。お互いの居場所がわかれば会うことは可能さ」


 「そうなのか?今まで外に出ているの見たことないけど」


 「伯爵邸から堂々と出るわけにはいかないさ。地下に通路があって、私の暮らす家に繋がっているのさ」


 「そんな秘密が……。ばれたらヤバい秘密が増えていくな……」


 「君のレアスキルに比べれば軽いものさ。それで、いい場所はあるのかい?」


 「いま廃倉庫や空き家を借りて、転移の練習をしている。特に人目がない空き家で待ち合わせるのがよさそうだな」


 伯爵邸を起点に、空き家までの道を説明すると、シルビアも場所がわかったようだ。


 「あそこか……いいね。私の家からすぐのところさ」


 「シルビアの家も伯爵様が人目が少ない場所を選んでいたんだろうな」


 「そういうことだね。また依頼が終わった後に、ゆっくり話しをさせてもらうさ」


 「ああ、よろしくな」


 握手をしようと手を差し出すと、シルビアの体がびくっと震えた。


 「あ、触れちゃダメなんだよな。悪い」


 「いいい、いや……あ、あ、あ、あくしゅぐらいへいきだから~」


 「そんな無理されると、こっちが傷つくんだけど!」



 その後は普通にお茶したり、食事したりしながら待っていたが、侯爵様の息子は到着していない。

 何かトラブルがあったのことは間違いないだろうが、問題は何があったかだ。


 アルパスカ王都は、昔は小さな規模の町だった。

 その上、近くのダンジョンから魔物が溢れ、一度は壊滅状態に追いやられたこともある。


 その後、ダンジョン攻略を行うクランが、拠点として壊滅状態の町を復興し始めた。

 近辺の調査が進むと、さらにいくつものダンジョンが発見され、攻略を行うクランが増えていったのだ。

 ダンジョン攻略が進むにつれ、無計画に復興した町が手狭になったため、区画を整理しなおし、現在の王都の姿になったという。


 アルパスカ王都には、現在も多数のクランが存在し、近辺の魔物を退治するため治安がいい。


 そうなると……危ないのは魔物より人かもしれないな・。


 あくまで魔物と比較してだが、盗賊や泥棒などの犯罪のほうが軽視されている。

 王都は騎士団が警備を行っているが、ダンジョンを担当するクランのメンバーより、実力は劣るだろう。


 侯爵様の馬車なら、それなりの警護はしていると思うが……・。



 そして翌日、痺れを切らした侯爵様が、冒険者ギルドへ正式に依頼を出したようだ。

 どこかのクランが捜索を担当することになりそうだな。


 周りが慌ただしく動いてる中、俺はのんびり暇を持て余していた。

 本当なら子爵様のところへアリステラの様子を見にいきたいんだけどな……。


 お昼になった。

 そろそろご飯かな~と、暢気にしていたら、執事さんがお呼びのようだ。

 え?俺も捜索隊といっしょに行くことになったの?

 いやいやいや、治療師として来ているのに何でそうなるの。

 え?侯爵様が現地でも治療できるだろうから連れていけと……。


 ……確かに治療はできるけど……。

 アリステラの治療に成功した新らしい方法なら、時間もそれほどかからない。

 ここはついていくしかなさそうだ……。



 捜索隊が集まっている場所に連れていかれると、ざっと50人はいるようだ。

 人数が多すぎるのではと思ったが、侯爵様の息子の馬車には、熟練した冒険者が10人警護のをしていたとのことだ。

 それで対処できないトラブルだとすると、このぐらいの戦力は必要と判断したらしい。


 俺は治療目的で来たので、いつもの冒険者装備は全く持っていない。

 せめて防具ぐらい貸してくれないかな……と執事さんに相談してみた。


 すると執事さんが、捜索隊のリーダーを紹介してくれた。

 男の名はオーガス、中級に認定されたクラン『暁の刃』のリーダーだ。


次回は「侯爵様の息子を捜せ」でお会いしましょう。

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